「っ…やぁ…っ」
「我慢して…すぐに、気持ちよくなるから…」
アレンが廊下を歩いていると、ミランダの部屋から何やら声が聞こえてくる。
ラビがミランダの休息を邪魔しているのではないかと思い、アレンが注意をしようと、部屋のドアノブに手を掛けようとすると、中からまた声が聞こえてきた。
「ラ…ラビ君…。あぁ!?そこっ…そこはだめぇ!!」
「ふ〜ん。ミランダはここが感じるんさ?」
「ち…違っ!?」
「違わないさ。そんなにギュッて締め付けてるくせに嘘はいけないさ」
ミランダの艶っぽい声と、ラビの少し意地悪そうな囁き声を聞いた瞬間、アレンの手が止まった。
『な…ななな何をしているんだ!?2人は!!』
当然の反応である。初めて聞く2人の艶のある声は、15歳の少年を石化させてしまうには十分すぎる破壊力である。
アレンが硬直してドアの前で固まっている間にも、中からは2人の声が聞こえてくる。
「んっ、はぁはぁ…。あ…あの、ラビ君…」
息を弾ませながら、涙を滲ませた声でミランダはラビに話しかける。
「はぁはぁ…。何?ミランダ?」
答えるラビの声にも吐息が混ざっている。
「わ…私。その…、はは…初めて…なの。できたら…優しくしてくれたら嬉しいわ…」
「オレも初めてだから、上手くできるかわからないけど、できるだけ優しくするさ…」
「ありがとう」
ドアの前で硬直していた少年は、あまりに衝撃的な会話に我を忘れそうになっている。
『ま、まさか。これは世間で言う所の、お楽しみ中、というやつなのかぁぁ!?』
アレンが混乱して、廊下(正確にはミランダの部屋のドアの前で)で1人パニックに陥っていると、それに気がついた青年が声を掛けてきた。
「なに百面相をやっていやがるんだ、モヤシ」
「〜〜〜!?」
いきなり背後からした声に、声にならな叫びを上げてしまう。
「何をそんなに驚いてやがる?」
アレンの慌てぶりが尋常ではなかった事に疑念を感じた青年、神田が訝しげにドアの方を目にやる。
「ここは、あの女の部屋じゃねぇか…?こんな所で何をしていやがる…」
と、神田がアレンの側に近づくと、中から、またしても声が聞こえてきた。
「っあぁ!?い…痛ぁ…はぁはぁ。痛いわラビ君…!!」
「オレも…キツいさ…っ」
「なっ…!?」
部屋の中から聞こえるミランダとラビの嬌声に、神田は驚きの声を上げる。
その目には怒りのオーラが滲みでていた。
「あの兎野郎!ブッ殺してやる!!」
神田がドアノブに手を掛けようとした、寸での所でアレンがそれを阻止した。
「か、神田!?何勝手にドアを開けようとしているんですか!?今頃、2人は…!!あ、あの…その…」
後半は尻すぼみに小さくなっていったが、アレンの言いたい台詞が神田にも理解できた。
しかし、神田にはそんな事は関係なかった。ラビとミランダが部屋の中でナニをしているという事実に怒りを感じているのである。
ラビを六幻で切り刻まねば、この怒りは治まらない。
「モヤシ!!テメェはあの女と兎野郎が何をやっていても構わねえんだな。なら引っ込んでろ!!俺は、あの兎をたたっ斬る!!」
「な…っ!?構わないわけありません!!僕だって、やらなくちゃ気がすみません!!」
アレンの台詞に神田はニヤリとし、2人は思い切りドアを蹴破る。
「テメェ死にやがれ!!」
「ラビ、許しませんよ!!」
2人は臨戦態勢で中に入る。しかし、アレンと神田が目にしたのは、ベッドの上で足ツボマッサージをしているラビと、思い切りツボを押され、涙を流しているミランダの姿であった。
突然の侵入者に2人は唖然として、硬直していた。
「な、何でユウとアレンがキレてるんさ?」
「と…扉が…扉が…」
唖然としていた2人から出た台詞は何とも間の抜けたものであった。
ちなみに、ラビはミランダをマッサージをしていただけだと知ったアレンと神田は、
「で、でも『ギュッて締め付けてる』って…!!」
「あ…あの…あれは、ちょっと痛かったからシーツをギュッと握りしめていただけなの」
アレンの問いにミランダは顔を赤くして俯き気味に答える。
「『痛てぇ』とか『キツい』ってのは何だ」
「あああ…あれは、一番痛むツボを押してたからさ。オレは初めて足ツボマッサージしたから、結構キツくてしんどかったから…」
神田に六幻を突きつけられながら、ラビは冷や汗をかきながら答える。
「チッ。テメェ今度マッサージしたくなったら、俺の所に来やがれ。灸をすえてやる」
「あ〜!?神田抜け駆けはズルいですよ!ミランダさん僕の所に来て下されば、優しく丁寧にマッサージしてあげますからね」
「モヤシ…テメェ…!?」
「僕の方が良いに決まってますから」
どさくさに紛れて2人はミランダの両側で口論を始めてしまった。
そんな2人の間でミランダは、
「扉が…扉がぁ…」
と、独り言を呟いていたとか…。
END