ミランダが自室で寛いでいると、ドアの向こうから  
 
コンコンッ  
 
とノックする音が聞こえる。  
 
「今開けます」  
 
ドアを開けると小さくなった神田が立っていた。彼は今、コムイの怪しげな薬のせいで、体が小さくなっているのだ。  
 
「神田くん?」  
「入るぞ」  
 
そう言うなり、返事も聞かずにミランダの部屋の中へと入っていく。  
 
「ちょ、ちょっと待って…」  
 
我に返ったミランダが言葉を言い終わる前に、神田はすでに鏡台の前にある椅子に座っていた。床に足がつかずに、ブラブラさせている。見た目の可愛らしい姿と相反して、  
その表情は、露骨にブスッとしているので、ミランダは仕方なくドアを閉め、彼の側へと行く。  
 
「か…神田くん。どうかしたの?」  
 
機嫌が悪い時の神田に、何度も泣かされているミランダは、恐る恐る聞く。  
すると、神田はポケットから紐を取り出し  
 
「髪を結べ」  
 
と言ってくるではないか。  
ポカンとしているミランダに対して、もう一度  
 
「聞こえなかったのか、テメェは!?」  
 
と怒りながら言ってくるが、そんな姿で凄まれても怖くも何ともない  
 
そんな神田を『可愛らしい』と思い、  
 
「はい。」  
 
と笑顔で紐を受け取る。どれだけ頼んでも結わせてくれなかった髪に触れているという喜びに、ミランダはついつい笑顔になってしまう。  
 
「何ニヤついてやがる」  
 
鏡越しに見えるミランダの笑顔に、思わずチッと舌打ちしてしまう。  
 
「ご、ごめんなさい。つい嬉しくて…」  
謝りつつも、笑顔のミランダに、  
 
「仕方ねぇだろ。この姿じゃ手が届かねえんだよ」  
 
鏡越しに、顔を隠しながら言っている神田は照れているようで、  
そんな神田を見て、ますますミランダは嬉しくなってしまう。神田の髪を結び終えた頃には、神田の機嫌も少し直ったようだった。  
 
そして、神田の髪を結び終える。  
 
「はい。できました」  
「ああ」  
 
そして、鏡越しに神田の髪を梳くいながら、  
 
「アレン君も綺麗な髪だったけど、神田君の髪も、とても綺麗よね」  
 
と、ミランダは羨ましそうに呟いてしまう。  
 
 
その言葉を聞いた途端、神田はミランダに振り返り、思い切り睨みながら  
 
「テメェはもうモヤシの髪を結ぶんじゃねぇ。」  
 
と、語気を荒げてしまう。  
 
「え?ど…どうして…?」  
 
髪を結い終わって、機嫌が直りかけた神田が、またブスッと怒っているので、ミランダは驚いてしまう。  
 
まさかアレン君に失礼な事をしてしまったのではないだろうか…。  
神田がやきもちを妬いているなどとは露にも思わないミランダはネガティブ妄想で落ち込んで俯いてしまう。  
 
「ちげーよ!テメェは俺が元に戻るまで、俺の髪を結んでたらいいんだよ。分かったな!?」  
 
ネガティブ思考になったミランダに、ムスッとしながら言う。  
 
ミランダは、神田の言葉にポカンとしながら顔を上げる。  
 
「いいか!?分かったな!?」  
 
返事をしないミランダにますます語気を荒げてしまうが、当の本人は、ちょっと間を置いた後、  
くすっと笑いながら頷く。  
 
「テメェ何を笑ってやがる!」  
 
神田はいつもより高い目線で笑われている事に腹を立ててしまう。  
 
「ご…ごめんなさい。ちっちゃくなった神田君に怒られてもあまり怖くなかったから、ちょっと安心しちゃって…」  
 
笑いながら謝る彼女に、嫉妬とは別の怒りが高まる。  
 
「おいっ!!」  
 
そう叫ぶなり、神田はミランダの首筋を噛み、歯形をつける。白くて細い首筋からは、うっすらと血が滲んでいた。  
驚いたミランダが叫ぶ前に神田は滲んでいる血を舐める。  
首筋をなぞる舌と唾液のなま暖かさに、ミランダは声を発する事もできずに、顔わ真っ赤にして口をパクパクさせていた。  
 
そして、いつものミランダを怯えさせる笑顔で  
 
「安心しろ。元に戻ったら、たっぷり鳴かせてやる」  
 
そう言うと、神田は椅子から降りて部屋を出て行った。  
 
 
部屋に残されたミランダはヘナヘナと床に座り込むと、  
いつもの神田君の顔だわ…とオロオロし、泣き出してしまった。  
 
「泣かせるって…どういう意味なのぉ…」  
 
 
 
後日、神田はアレン(とマリ)に嫉妬していただけだと知り、ほっとしていたのも束の間、  
勿論、元に戻った神田に鳴かされたのは言うまでもない。  
 
END  
 

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