目の前に大きな、そして存在感のある温もりを感じたとき、自分は何をやっているのだろうと我に帰っていた。  
「どこにも行かないで下さい」  
この言葉は本当だ。  
しかし、ここまでする必要があったのかは自分でも良くわからない。  
ただ、再び彼を見失うことだけは避けたかった。それだけだ。  
 
クロスの部屋に呼ばれたのは、  
後ろから彼に抱きつき側に留まるよう懇願した日の夜のことだった。昼間の自分の行動が今になって恥ずかしくなり謝ろうと思っていたため、調度いいタイミングだと、ためらうことなくクロスの部屋へと向かう。  
 
階は違うものの、一応教団の本部にも元帥達の部屋が用意されているようだ。  
 
コンコンとノックすると、「ああ?」と気だるそうなクロスの声がドア越しに届いた。  
「私です、リナリーです。入りますね元帥」  
 
部屋の中は豪華な調度品で飾られ、その中に、これまた豪華なデザインのソファーに座りワイングラスを片手に持ったクロスがいた。  
「来たか、とりあえずここに座れ」  
そう言ってソファーの自分の隣の一人分空いた席をポンと叩いた。  
いきなり隣に座るのは失礼かとためらったが、ソファーは一つしかなく、座る場所はそこしかないので、おずおずと腰掛ける。  
ふかふかだなと気を取られながらも、はっと思い出したようにリナリーが口を開いた。  
「あの…昼間はごめんなさい。元帥がまたどこかに行っちゃうんじゃないかって思ってついあんなことしちゃたって…。迷惑でしたよね、あの、ほんと忘れて下さい」  
恥ずかしさでしどろもどろになりながら話すとクロスは片手でグラスをくるくると回して中のワインを泳がせながら口元を緩めた。  
 
「俺は美人に抱きつかれるのは嫌いじゃない」  
むしろリナリーの言葉を楽しんでいる様子で相変わらずワインを口に運んでいる。  
これはある意味リナリーにとっては予想通りのことだったが。  
「そんなこと…」  
「それと、ここに留まるかまたどこかをふらつくかは、気分次第だな」  
その言葉にリナリーはきっと顔を上げた。  
「そんな、元帥!もうどこにも行かないで下さい…!」  
もう捜しに行くなんてことはしたくないのだ。  
焦って留める方法を模索していると、ふいにガラスのコン、という軽い音がした。  
クロスが目の前のテーブルにグラスを置いたのだ。  
「なら…。俺は美人を抱くのも嫌いじゃない」  
 
***  
 
口を塞がれている間に器用に団服の胸元のボタンを開けられ、大きな手が内側へと滑り込む。  
舌を入れられて軽く酔わされた頃には既にほぼ生まれたままの姿にされていて、女の扱いに慣れているんだと改めて気付かされた。  
こうやって何人の人を抱いてきたのだろう。  
ふと思った。  
リナリー自身も、初めての行為ではない。  
アレンと何度か肌を重ねたことはある。  
だがやはり違うのだ。  
触れられる度に大人の男の匂いを感じさせられる。  
そのままソファーに押し倒され、両腕を強い力で押さえつけられた。  
「初めてではないみたいだな」  
全てを見透かされたようで恥ずかしくなってリナリーは少し顔を背ける。「ど、…どうして」  
「なんとなくわかる。どーせあの馬鹿弟子だろ。ま、初めてじゃない方が俺好みだ」  
笑みを見せられ油断して力を抜いたすきに、クロスは白い胸の先を口に含んだ。空いたもう片方の胸は指先で執拗に弄る。「んぁ…んんっ!」  
突然の刺激に思わず身をよじり、片手で口元を押さえた。するとクロスはすかさずリナリーの腕を掴み、口元から剥がす。  
「我慢しないで声出せ。まぁ出さずに堪えられるのも今のうちか」  
「や…元帥…」  
いやいやをするように首を振ると、クロスはリナリーの胸の先端を強く吸い上げた。  
「ひゃぁ…んっ!や…ぁ…っ」  
「嫌じゃないだろこんなに感じてるくせに」  
「げ…元帥のせい…でしょ」  
顔をほんのり赤く染め、うるんだ目でクロスを軽く睨むが、それはかえって彼を挑発することにしかならない。  
 
「いちいち男の喜ぶポイントを心得てるよな、全く」  
その言葉になんとなく恥ずかしさと悔しさを感じて、声を押し殺そうとするも、押し寄せる快感は強くなるばかりでそうもいかない。  
アレンと違って幾多の女を抱いてきたクロスの手は、初めての相手だといえどもリナリーの感じるポイントをすぐに探り当てる。  
執拗な胸への愛撫の合間に鎖骨をつうっと舌がはい、思わず体を跳ねさせてしまう。  
弱いのだ、ここが。  
 
「あっ…ん!…ふぁ…」  
勝手に肩がびくびく奮え、押さえられなくなった声がクロスの耳元に触れた。  
身をよじろうにも、両腕を捕まれているので身動きが取れない。  
「ひゃぁ…んっ!ふぁ…げ…んすいっ…!も…だめ…ぇ…っ」  
「あぁん?止めるぞ?」  
クロスが手と口を白い体から離すと、リナリーが肩で息をしながら潤んだ目で見上げる。  
「…やだ。いじわる」  
「ふっ…だめだと言ったのは誰だ」  
ふてくされてリナリーが目を逸らしているうちに、大きな手は薄い茂みの中へ。  
 
軽く触れただけで  
くちゅ、と音をたてる程にそこは潤っていた。  
「んんっ」  
「感じやすいみたいだな」耳元で囁くのは、ここが弱いと知っていてわざとやっているのか。  
定かではないが、それだけでぞくっと電流が走る。  
「ひぁ…ん!い…わないで…っ」  
散々感じさせられて余裕など皆無のリナリーとは正反対に、クロスはいちいちリナリーの反応を見ては楽しんでいた。  
このあたりもアレンとは全く違う。  
そんな事を途切れ途切れに思っていると、  
ピンクに充血した肉芽を摘まれ、再び口を塞がれる。  
何処へも逃さないとでも言うかの様に、深く。  
どちらのとも分からない唾液が口端からつうっと零れるが、リナリーには気にする余裕などない。息もしたいし声も勝手に出てくる。  
溺れてしまいそうな感覚から思わずクロスの背中に手を回し、しがみつくので精一杯だった。  
「ふぅ…ぁ…んっ元帥…っ」  
敏感な箇所を執拗にこねられて限界は近かった。「なんだ、もういくか?」ニヤリと笑い指先の動きを速める。  
 
「ひゃ…ぁあっ!や…だめ…んん…っ!」  
白くしなやかな腰が大きく跳ね、リナリーの全身の力が抜ける。  
「はぁ…ふぁ…」  
相当な体力を使ったか  
肩で息をしながらも、  
赤く染まったほほと潤んだ目はとろんとして、眠りの世界へ落ちそうだ。「おい寝るなよ、俺がまだ楽しんでないだろ」  
そう言うのとリナリーの両足を左右に開いたのは同時。  
事態に気付いてリナリーが「えっ」と声を上げた時には既に硬くなった先端は蜜壷の中に飲み込まれていた。  
「ん…ふぁ…元帥っ!早…い」  
「平気だ、こんな美味しそうなもん見せられてこれ以上おあずけなんてできるか」  
細い腰を掴んで奥までぐっと押し入れる。  
「ひゃ…ぁ!」  
狭い壁越しにあつい熱が伝わってきた。  
 
一度ギリギリまで引き抜いて、そして思いきり奥まで突き上げる。  
「んあぁ…っ!」  
「きっついな、おい」  
 
強すぎる感覚に耐えるリナリーの目からは生理的な涙が零れる。  
アレンとする時とは比較できないほどの激しさに、リナリーはただ声をあげることしか出来ない。意識を手放さずにいるだけで精一杯だった。  
「あっ…んん!はあっ…んぅ!」  
室内に響き渡るのはぐちゅぐちゅといやらしい音とリズミカルな高い声はとどまることすら知らない。  
激しく腰を打ち付け続けていたが、ふとクロスの背に回っていたリナリーの手にぐっと力がこもった。  
「ん…んあ、げ…んすいっ!私…もう…っ!」  
「俺、も…だ」  
クロス自身も限界が近かった。  
打ち付ける速度をはやめられ、リナリーの声はますます大きくなる。  
「や…あぁぁっ!だめだめだめっ…!や…んぁっ元…帥っ」  
「リナリー…!」  
互いの名を何度となく呼び、絶頂の近いことを知る。中を出入りする肉棒が一段と大きくなり、クロスがタイミングを  
 
見計らって引き抜こうとした時、リナリーがだめ、と叫び、かたくしがみついた。  
「ちょ、おい何してんだ、離さないと…」  
意外すぎる行動に戸惑いを感じていると、上目使いで下から見上げられた。  
「元帥っイクなら中で…出して…っ」  
「あん?…知らないぞ?」  
「おねがいっ…んぁぁぁ!」  
言葉に従い自身を中から抜くことを止め、そのまま動きをさらに速めていった。  
「んんっ!やっ…あぁぁぁあっ!」  
白い喉がのけ反りビクンと小さな体が大きく跳ねたのと、その中に熱い液体がドクドクと注ぎ込まれたのは同時だった。  
よほど喘ぎ疲れ、体力も限界だったのだろう。  
クロスの下で、リナリーはやすやすと意識を落とした。  
「…何考えてるかわかんねーよな、こいつも」  
息を整えながら  
片手でリナリーの髪をくしゃくしゃと撫でる。  
すでに時計の針は日付を越えた時刻を指していた。  
 
***  
―翌朝  
「あ…れ、私…?」  
ソファーの上に毛布がかけられた状態で眠っていたことに気がつき、クロスをさがすと、彼は窓際でタバコをふかしていた。  
「やっと起きたか」  
「ごめんなさい、私あのまま寝ちゃったみたいで」  
「まぁいいさ、それより何で昨日あんなこと言ったんだ?」  
短くなったタバコを揉み消し、その煙の匂いが鼻に触れた。  
「あんなこと…?」  
昨夜の情事を思い出し軽く赤面するも、すぐに答えた。  
「あぁ、だって…もし子供ができれば元帥は絶対逃げられないんじゃないかってとっさに」  
クロスはふっと口元を緩め、残った煙を吐き出した。  
「ずいぶん体はってるんだな、その度胸は認めてやる」  
「だから元帥、逃げないでくださいね。それと昨日のことはアレン君には秘密にして下さい」  
「それはどうかな」  
「え」  
なんとなく嫌な予感を感じとると、クロスの頭に見慣れた金色のゴーレムが飛びのった。  
「や、やだまさかっ!」  
「こいつには録画機能ってやつが…」  
「てぃ、ティムっ!元帥っ!」  
それからの一人の夜を過ごすたび、クロスが記録したものを見て楽しんでいたことは彼意外の誰も知らない。  
 

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