リナリーが目覚めた時には大概、神田は隣にいない。  
 割れた窓から朝日が差し込む頃には既に修練場に赴いている事がほとんどで、  
リナリーの方も目覚めた時に神田の顔が隣にある事を期待してはいなかった。  
 何分幼い頃からの付き合いだ、相手の性格は熟知している。  
 リナリーがそう思うのと同じように、神田の方もまた彼女の性格をしっかりと把握しているのだが――。  
「……ん……朝……。……!?」  
 瞼越しに光に刺激され、リナリーの意識が浮上する。  
 首だけを動かして左右を見回して時刻を確認しようとするが、時計なんて物は置かれていなかった。  
 ――そうか、神田の部屋だった。  
 隣にないはずの気配がある事に気が付いたのは、その直後だ。  
「神田……!?」  
「……起きたか」  
 身を起こし片膝を立てて肘を乗せた状態で隣に座っているのは、紛れもなく神田その人だ。  
 先に目覚めているにも関わらずリナリーの寝顔を眺めていただけらしく、身支度もしていなければ髪も  
下ろしたままだ。  
 驚きのあまり一気に眠気から覚めてしまい、目を丸くして神田を見つめる。  
「……なんだよ」  
 リナリーの驚きの理由を察知したのだろう、仏頂面で視線を逸らす。  
 その(付き合いの長い人間だから読み取れる)神田の気まずそうな表情に、ある事を思い出した。  
 昨晩眠りに落ちると言うか、意識を落とす手前で――  
『お前……明日の予定、どうなってんだ』  
『……あし、た……? ……明日、は……お休……み……』  
 ――ああ。  
 
「……おはよう、神田」  
「チッ」  
 丸く見開かれていたリナリーの瞳がほどけるように嬉しそうな色を宿したからか、  
気まずげな神田からは舌打ちしか返ってこない。  
 挨拶をしてまともに返された記憶なんて数える程しかないにはしても、今日のリナリーは引かなかった。  
「ユウ。……おはよ」  
「…………」  
 リナリー以外の人間ならばすくみ上がるだろう視線が返される。  
 それでも平然と微笑む少女に神田の方が根負けしたらしく、最後には「ああ」とだけ短い返答があった。  
 ささやかなリナリーの勝利だ。  
 頭のすぐ横に座っている神田の腰に腕を回し甘えるように擦り寄ると、普段の無愛想さからは考えられない程  
優しい手付きで頭を撫でられる。  
 夜を一緒に過ごすようになっても、こうして朝のわずかな時間でも共に迎えたのは多分、  
片手の指で足りるくらいだ。  
 それを寂しく思っていた事を、神田はきちんと酌んでくれた。  
 その事が何よりもリナリーを喜ばせた。  
「ありがとう、神田……」  
 黒髪を撫でられてつい甘い声で囁く。  
 直後には神田の体勢は変わり、リナリーは昨夜のように腕の下に組み敷かれる事になった。  
「か……神田?」  
「お前が調子に乗るからだろ。くだらねェ質問は口にするな」  
 言葉通り唇を塞がれて文句の言葉も返せないようになり、くぐもった悲鳴だけが神田の口の中に消えていく。  
 リナリーの身は前も留めずに神田のシャツを羽織っただけの状態で、仰向けにされると乳房さえまろび出る。  
 そこを素通りして直接下半身に手が伸ばされたのは、昨夜の名残でまだ潤っているのを知っているからだ。  
 
「はっ……んぅ……っ神、田……っ」  
 秘裂を撫で上げた指にぬめる物が付いたのを、触られた側ですら感じ取る。  
 羞恥をごまかすように神田の首に腕を絡めて赤くなる頬を視線から遮った。  
 微かに笑う気配が伝わって来たのを感じたが、どうする事もできない。  
 芯を弾かれてしなるように揺れた腰が抱き込まれると、今しがた触れられた場所に熱い物が押し当てられた。  
「っ……ぁん、あぁあぁぁっ!!」  
 一息に貫かれて、その瞬間にもう絶頂の白い光が脳裏を焼く。  
 堰を切って溢れ出したのは快感だけでなく、透明な雫が互いの腰から下を濡らしてリナリーは我に返った。  
 当然神田が気付かないはずもなく、膣内を貫いた熱塊が震える。  
「はっ……何漏らしてんだ。朝からどうしようもねェ」  
「っっ……ひぁ……! カ……神田のせ……い……ぁはぁっ!」  
 奥を突き上げるように屹立を捻じ込まれて抗議の言葉すら言わせてもらえず、たおやかな肢体が弓なりに反る。  
 肌を這う舌、指、うっすらと浮く汗までも感じ取ってどうしようもなく深い場所まで落とされていくかのようだった。  
 そこから這い上がる術は神田の腕に縋るしかなく、細身なのにたくましい体に全身を預ける。  
 何度目かに奥を掻き乱された時、頭の奥の回線が焼き切れる錯覚に全身が震えた。  
「ぁっ……んく……神、田ぁ……っん……っはぁ……ああぁぁッ……!!」  
「……リナリ……っ……!」  
 ――全身を焼き切った熱はどこへ消えていくのだろう。  
 どうでもいい事が頭の隅を過ぎった瞬間、再び絶頂を迎えた体は奥底に熱い飛沫を受け取って果てた。  
 神田の熱が気持ちいい。  
 絹糸のように流れ落ちる黒髪に頬摺りをしながら、同じように熱を放って息を荒げる青年の背を抱く。  
 休みゆえに詰めていた街へ下りる全ての予定はパァだ、腰から下に力が入らない。  
 それでも額に落とされた優しい口付け一つで悔いのない程、リナリーにとって幸福な時間となったのだった。  
 
 
(終)  
 

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