自室にて。
アレンは顔を赤くして、寝込んでいた。
呼吸も僅かながら乱れている。
「うう…」
少し、唸る。
単純に気分が優れないのもあったが、なにより自分の迂闊さに嫌気がさしていた。
話は昨晩に遡る。
なんとか一仕事を終えて、ホームに帰ったは良いものの、やはりアクマとの戦闘は一筋縄でいくものではない、またも左腕を負傷してしまった。
その帰り道のなんと憂鬱だったことか。
アレンにとって、またあのコムイ室長の拷問ともいえる治療を受けることを考えると、身の毛のよだつ思いだった。
「んー、そんなに嫌だったら、他の方法も無いことは無いけど?」
だから、その言葉はまさしく奇跡のようだった。
「え?!あの治療しなくても済むんですか?!」
すがりつくように問いだたすアレン。
「だから、無いことは無い、かな。」
そういってコムイは錠剤が入った小瓶を取り出した。
「これを飲んで、まあ一日二日安静にしてれば傷はふさがるよ。」
是非に!と小瓶を取ろうとするをひょいとよけて言葉を続ける。
「ただ、ちょっと問題があってね。」
「問題?」
「傷が塞がるのは確かなんだけど、どうも効果が安定しなくてね。
特にエクソシストにはどんな副作用が出るか分からない。」
「……」
「まあ、飲んでくれる分にはデータが取れて嬉しいんだけど☆」
そういうコムイは少し楽しそうだ。
「――副作用は……」
「ん?」
「副作用は、別に命にかかわるものじゃないんですよね?」
その目には、何か決意のようなものが秘められていた。
「うん。今まで出た副作用にはそんなひどいのは無いよ。
ひどくて湿疹が出るとか、その程度。」
それを聞き、一拍置いてアレンは小瓶を手に取った。
「…飲みます。」
「なぁんだ、そんなにあの手術は嫌い?楽しいんだけどなぁ。」
本当に残念そうに言って、
「じゃあ、あとでデータ取らせてね〜」
と、やっぱり楽しそうにアレンを見送った。
実際、薬はよく効いた。
飲むと体に暖かいものを感じ、今にも傷が塞がっていくようだった。
昨晩は薬を飲んだらすぐに、薬に麻酔効果があったのか、それとも溜まった疲労のせいか、あっさりと眠りにつくことができた。
そうして今朝。
顔を真っ赤にして寝込んでしまっている。
皆に心配をかけないように風邪といってはおいたが、コムイ室長から薬を受け取ったことが知れていたらしく、余計心配をさせてしまったようだった。
あつい…
それでも、ただの熱だったらどんなに良かっただろう。
あの薬がもたらした、副作用はそんな生易しいものじゃなかった。
不意にノックの音が響いて、ドキリとする。
「アレンくん、入るよ?」
リナリーの声だ。
今の自分の状況で部屋に入られると非常にまずい気もしたが、怪しまれたらもっとまずいのでそのまま部屋に招きいれた。
「大丈夫?アレンくん」
そういって心配そうに顔を覗き込んでくる。
………
その、色々とまずい。
普段はどうか知らないが、兎に角今はまずかった。
薬の副作用。それは、媚薬のソレだった。
そう、今朝目覚めてから体の疼きが止まらない。
何度か自家発電してみても、全く治まる気配が無かった。
こんなことだったら素直に手術を受けておくべき……いや、断じてそれは避けたい事態だったが、それでも他に打つ手立てがあったはずだ。
つくづく自分の間抜けさを恨み、そしてまたコムイさんを甘く見ていたことを悔やんだ。
「ごめんね。兄さんが変な薬渡したせいで…」
「いえ、リナリーが謝ること無いですよ。」
あの人にも困ったものだ、と二人してため息をついた。
「で、本当に大丈夫なの?無理しちゃだめよ?」
リナリーは真剣に心配してくれる。
それなのに、部屋の中に二人きりというこの状況や、いつもは全然気にならないリナリーの体の線をはっきりと意識してしまう自分がいて、まったく、自己嫌悪に陥りそうだ。
「そうだ!アレンくん汗かいてない?拭いてあげようか?」
「ええええええ??!!」
それはダメだ。非常にまずい。
今でも現在進行形でモノはいきり立っているというのに、直接触れられたりしたら、それこそ何をするか分からない。
「いいです、いいです!」
激しく首を振る。
「恥ずかしがること無いの、私こういうことは慣れてるんだから。」
そういって、リナリーは水を汲みにいってしまった。