この町は狂っているの。  
他の誰も気付いていない。話しても信じてくれない。私だけが気付いている。  
この街に『明日』は来ない。ずっと『今日』だけが繰り返されている。  
それももう、20回以上も。  
ベットにもぐって眠って朝が来ると、また同じ『今日』が来る。  
繰り返される『今日』が、また終わろうとしている。  
だけど、また明日も、きっと『今日』。  
 
 
ミランダは、暗い路地を歩いていた。  
今日も仕事を探して街中を歩き回って、  
けれど結局雇ってくれるところは見つからないまま家路につくところだった。  
不幸女と子供たちが嘲笑うのも仕方がないと、自分でも思ってしまう。  
美人でもなく、頭がよいわけでもなく、仕事ひとつ満足に出来ない。  
不幸女には不幸がお似合い。そうしてもうすぐ、また不幸に出会う。  
前かがみに歩いていたミランダに、ふと影が落ちる。  
(ああ……やっぱり『今日』もなのね)  
顔を上げれば、柄の悪い屈強そうな男たち数人が、彼女を取り囲んでいた。  
黄色い歯を剥き出しにして、いやらしく笑っている。  
20回以上繰り返されている『今日』だから、  
このあと何がどう起こるのか、ミランダには分かっていた。  
『昨日』も『一昨日』も、その前も、ずっと同じことが繰り返されている。  
「よう、ミランダ、相変わらず辛気臭え顔してんな」  
「また仕事見つからなかったんだってな」  
「仕事もなくて、男もいなくて、カワイソウになあ」  
「代わりに俺たちがおまえと遊んでやるよ」  
男達はいつもと同じセリフを繰り返す。  
それをミランダは怯えることもなくぼんやりと聞いていた。  
 
一番はじめの『今日』に彼らに出会ってそう言われたときには、  
声も出ないほどに怯え体が震えたものだ。  
逃げようとしても足が震えてうまくいかなくて、  
叫ぼうとしても声がうまく出なくて、みっともなく失禁してしまったほどだ。  
だが今はもう怯えることもない。20回以上も繰り返されてさすがに慣れてしまったのだ。  
『今日』が永遠に繰り返される街。  
街の住人はそれに気付いていないが、ミランダだけは気付いている。  
けれど、気づいたからといって何ができるわけではなかった。  
何故かは分からないが、ミランダ自身も、  
『今日』と大きく違う行動をとることが出来ないのだ。  
たとえこの路地にこの男たちが待ち構えていると分かっていても、  
この道を通らないことも、家に篭もっていることも出来ないのだ。  
投げられた犬の糞を避けたり、些細な会話を変えたりする程度は出来ても、  
何故なのか、『今日』と大きく違った行動をとることが出来ない。  
そして、毎日同じ『今日』が繰り返されるのだ。  
大きな男の手が、栄養失調気味に細いミランダの腕を掴んだ。  
引きずるように、彼女を路地の奥の廃倉庫へと連れて行く。  
床の上に投げ出され、その上に男たちがのしかかってくる。  
「おいおい、抵抗もしないなんて、恐怖で頭がいかれちまったか?」  
「実は嬉しいんじゃねえの? 今まで男に縁がなかったのが、やってもらえるってことがな」  
男達は笑いながらミランダの服を剥ぎ取っていく。  
ミランダはわずかに腕を上げたりして、服が脱ぎやすいように協力する。  
暴れれば暴れるだけ男を喜ばせ、押さえつけるために暴力を振るわれるのだと、  
繰り返される中で学んだのだ。  
服も下着も取られ、やせ細ったミランダの体があらわになる。  
「貧相な胸だな、おい。色気もなにもねえよ」  
「幼児趣味の奴なら喜ぶかもな」  
ミランダの体を嘲笑うくせに、男達は興奮気味にその体に群がっていた。  
乳房も揉み、乳首をなめ、足を広げさせて指を突っ込んでくる。  
 
何度繰り返されても快感を得ることはないけれど、  
湿った舌のおぞましい感触にももう慣れた。  
やがて、群がっていた男たちがいったん彼女から離れると、  
おもむろにひときわ大柄な男が近づいてくる。  
おそらくは、この集団のリーダーなのだろう。  
「よかったなミランダ、処女卒業だぜ、感謝しろよ」  
男は大きく足を抱え上げると、まわりにいる男達にわざとよく見えるような体勢をとって  
ミランダの中に突っ込んだ。  
「ひいぃ……っ」  
何度繰り返されても破瓜の痛みだけには慣れることができずに、  
ミランダはちいさな悲鳴をあげてしまう。  
処女を破られるのも、これで20数回目だ。  
男はめちゃくちゃに突くと、こらえもせずに中に射精する。  
はじめは妊娠が怖くて泣いてやめてくれと頼んでいたけれど、今はもうそんなことはしない。  
言っても無駄なのだし、『今日』が永遠に繰り返されるこの街では  
『明日』など来ないのだから、妊娠する心配もないと分かったからだ。  
はじめの男が終わると、また一斉に男たちが群がってきた。  
よほど女に飢えているのか、我先にとミランダの中に突っ込もうとする。  
順番を待つ間に、あるものはミランダの口を使い、  
あるものは無理矢理手に握らせて奉仕させる。  
これがいつ終わるのか、彼女にはちゃんと分かっていた。  
胎内に6回、口内に4回、手で5回、男たちが射精して、この陵辱は終わる。  
はじめはそんなことを考える余裕もなかったけれど、  
繰り返されるうちにだんだんと分かってきたのだ。  
ミランダは、口に入れられた性器を舌を使って舐めはじめた。  
「おっ? なんだよこいつ、初めてのくせに舌使ってやがる」  
「マジかよ。おおかた1人で寂しい夜に妄想しながら練習でもしてたとか?」  
ミランダは、そんな笑い声を聞きながら、一心不乱に舐める。  
舌使いは、20数回も犯される中で覚えたものだ。  
 
男たちの射精の回数は、毎回同じなのだ。  
だったら、こうしてやったほうが早く終わる。早く解放されるのだ。  
またひとり、男が胎内に放った。  
(あと……4回)  
ミランダはぼんやりと数を数えた。  
 
 
散々欲望をぶちまけた男達は、満足したように去っていった。  
あとには精液にまみれたミランダが薄汚れた廃倉庫に取り残されているだけだ。  
けだるい体をミランダは起こした。  
はじめのころは、毎回泣き、毎回震えていたけれど、今はもうそんなことはない。  
放り出されていた服からハンカチを取り出して、体についている精液をぬぐっていく。  
(ここからの帰り道に、馬車に泥水をかけられて、  
 家で体を洗って、ベッドにもぐって寝たら、また『今日』が来る)  
今ミランダは散々犯されたけれど、寝て目が覚めればまた処女に戻っているのだ。  
犯された記憶はしっかりあるのに、その事実はなくなっている。  
そしてまた『今日』の終わりに、同じように犯されるのだろう。その、繰り返し。  
(誰か助けて)  
気が振れそうになる。  
あと何度、この『今日』を繰り返せばいいのだろう。あと何度犯されれば終わるのだろう。  
不幸女だと自分でも思っていたけれど、こんな不幸はひどすぎる。  
せめて、繰り返されるのが平穏な『今日』だったなら、まだ耐えられるのに、  
こんな『今日』を繰り返さねばならないなんて。  
けれど、ミランダにはどうする術もないのだ。  
どんなに逃げようと思っていても、また明日の『今日』には、ここへ来て男達に犯される。  
ミランダはふらふらと立ちあがって、服を身につけた。  
そうして廃倉庫を出て行く。  
泥水を引っ掛けられると分かっているのに、馬車通りのほうへ向かって。  
 
 
終  
 

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