またやってきた、王城に。ここに足を踏み入れるのは何度目だろう。考えて、くすりと笑う。おかしいからじゃない。すっかり麻痺してしまった自分の感覚に半ば驚き、半ば呆れていた。
私はボーレタリアの王女、アリオナ。国を統べる立場の私がこのようなことは言ってはいけないのだけれど、これ以外にどう言い表せばいいのかわからない。
ここは確かに私が愛した国。けれど、私の知らない国。
あの出来事以来、全てが変わってしまった。民衆は正気を失い、日々繰り返される小競り合い。
生まれ持った肉体や精神を失い、デーモンとなった騎士達。ここにはもう私の知る人も、私を知る人もいなくなってしまった。
城は私の家だった。生まれてから成人の儀を迎える日までずっとそこで育ってきた。幼少の頃、冒険と称しては隅々を回ってよく父上や騎士団長に叱られていたっけ。
部屋毎に色々な役割の人がいて、いつも笑って庇ってくれた。たくさんの場所にそのまま置いてきた思い出。今となっては拾い集めることすらできない。
「懐かしいな……」
あの頃に戻れたら、と思い溜息を吐く。望んだところで、どうにもならないのはわかっているけど。
亡くなった母上は今の自分を見て何とお思いになるだろう。
ドレスの代わりに甲冑を纏い、花束で塞がっていた両手には剣と盾。
挨拶は「御機嫌よう」でなくて、剣の一振り。腰まで伸ばしていた髪もばっさり切ってしまった。戦闘に媚びなんて、必要ないから。
今までの異常が、今や正常に定着しつつある。戸惑いながらもそれを受け入れている自分が怖かった。
ふと、足音が近づいていることに気づく。また敵なのか。できるならば、もう誰も傷つけたくない。こんな形の戦など誰も望んでいないのだから。
剣を抜く時は必ず視界が歪む。愛すべき民をこの手にかけるのはつらい。横たわる亡骸を見る度に無力感と悔しさに苛まれた。
更にこちらに近づいてくる足音。ひょっとしてという希望と、まさかという否定。私は常にその二つの間で揺れていた。
希望が叶えられた例は一度もなかったけれど、それでも信じてみたかった。生き残った人がいる、と。
「そこにいるのは誰ですか?」
恐る恐る声をかけてみる。返ってきた声を聞いた途端溜まった涙が流れ、止まらなくなった。
足音の正体、それは以前私をよく可愛がってくれた公使だった。
その地位の者は民衆を虐げるという話をよく聞くけれど、彼は違う。
いつも王城にいて、私の世話をしてくれた。父上よりも接す時間が長かったし、母上も信頼を置いていた。
そんな彼が非道な公使と同等だとは思えない。
彼は私よりも大分年が上だったけれど、ずっと好意を抱いていた。それは親しみよりも深い……許されざるもの。
公使という立場にそぐわない誠実さと優しい人柄に惹かれた。
政略結婚を迫られ、相手がどんなに自分をよく見せようとしても、私の気持ちは彼から離れることはなかった。
しかし結婚を間近に控え王国全体が浮き足立っていたから、思い切った行動には移れない。私達は抑圧されながらも仕方がないと耐え忍んできた。
「ご無事でなによりです。アリオナ王女」
「あなたも……あなたも、よく生きていてくれました」
「不安で堪りませんでした。ですが、もしかしたらと思って毎日王城を探しまわっていたんです」
「ごめんなさい、心配をかけてしまって。でもこうして会えて、私……」
再会の喜びに再び涙が溢れ出す。人前で泣くなどみっともない、そう父上に何度も叱咤されてきた。
一人きりなら……そう思っても、抑えられ続けた涙は流れることを知らず、感情の中に留まるだけだった。
それなのに。どうして私はこの人の前だと素直になれるのだろう。物心ついてからは誰にも見せたことのない涙。
泣いているのは私。なのに自分で戸惑ってる。
「アリオナ様……」
ああ、涙が止まらない。これは甘えなのだろうか。私は何をやっているんだ。こんな時こそ私がしっかりしないといけないのに。
「しばらくこのままでいさせてください……」
義務を自覚しながらも、今の自分には気丈に振舞う余裕がなかった。
無力感、そこから来る自責、疑念、寂しさ。色々なものが頭の中にあって、整理することができない。
考えることにも疲れてしまった。現実に立ち向かわなくてはいけないと思う反面、投げやりな気持ちもあった。
流れに身を任せられたらいいのに。抗うことなんて、無駄ではないかしら。
世界が変わってしまっても、彼は以前のままだった。それが、それだけが嬉しくて抱き締める腕に力を込める。
そう、もう誰にも邪魔されない。この状況でこんなことを考えるべきではないのだけれど。
でも、もしこれが最後の機会になったら。もう一度離れたらそれきりになってしまったら。はしたないと思われるよりも、そちらの方が余程苦痛だった。
「あの、もう周りを気にすることありませんから……。ね……?」
その方面に疎い私は、どうしても回りくどい言い方しかできない。遠回しでも慣れないから顔が熱くなるのがわかる。
自分から誘うのがこれほど恥ずかしいなんて、頬をおさえてしまいたい。
鎧が取り外され、肌着だけになる。ひとしきり撫でた後は直に触れられて、くすぐったさに身体をくねらせてしまう。
今までにも愛撫されたことはあったけれどいずれも服の上からで、掌の温度を素肌で感じたことはなかった。
薄く色づいた胸の突起を何度も吸われ、その度に身体の中心が熱くなる。くすぐったいのに気持ちがよくて、自分から舌を求めてしまう。
唾液で濡れた部分は次第に硬くなって、つんと上を向いている。
「あっ……いい……っ」
片手が下腹部に潜り込む。そこはもう愛液で濡れていて、いやらしい音を立てながら指をくわえた。
まだ誰も受け入れたことがないけれど、指一本ならすんなりと入る。ゆっくり抜き差しする度に子宮の奥が疼くのを感じた。
「どうですか、アリオナ様。気持ちがいいですか?」
「あの……あの、もっと奥が……。奥が熱いんです」
「私を受け入れる覚悟がおありですか?」
「はい……。あなただけを想っています」
「アリオナ様、私も同じ気持ちです。貴女が好きだ」
近くにあったベッドに寝そべり、言われるままに脚を開く。恥ずかしいのに熱い視線が心地良いような気がした。
誰にも晒したことのない部分だからこそ、好きな人には見てもらいたいのかもしれない。
「綺麗ですね。ここも、剥いてあげますよ」
「剥くって? え……あっ……!」
割れ目の上の部分を摘まれ、引き下げられる。
どうしたのだろうと起き上がって覗き込んでみるとそこには、自分でも初めて見る赤く膨れたものがあった。
愛液を指ですくっては円を描くようにそこに塗りつけ、擦られる。細かな指づかいで摩り上げたり扱かれたりもした。
「やっ、やめて……! そこ……そこっ……」
「もっと強く触ってほしいのですか? アリオナ様から押し付けなさっているようですが」
「お願い、もう限界なの……。身体が熱くて堪らないんです」
「それなら一度達すると良いでしょう」
指よりも幅広のものが肉芽にあてがわれる。
湿ってざらついたそれが核を這い回る度に身体が跳ねる。軽く歯を立てられ、唇で挟み込まれると呼吸さえも苦しくなった。
そんな所を舐めるのは汚いと言おうとしたけれど、もはや呂律も回らない。
何度根元から先端に向かって舐め上げられただろう。剥き身になって無防備なそこを、ちろちろと舌が掠める。
愛液がどくどくと溢れるのが、朧な意識でもわかった。お腹の奥が熱い。反射的に膣が締まるのを感じる。それは何かを必死に求めているようで……。
「さあ、アリオナ様。私がしっかりと見ておりますので」
声と同時に、そこに鋭い快感が走る。目を瞑っていたから何をされたのかはわからない。
けれど急に頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。身体の熱が一点に集中して、爆ぜる感覚だけが長く残っていた。
硬くなったものが壁を掻き分け、ゆっくりと侵入してくる。そこは初めて他人に踏み込まれたことで、ぎちぎちと悲鳴を上げた。
時間をかけて慣らしてくれたけれど、まだ馴染めない。安心するようで不安でもあり、奇妙な感覚に混乱する。
誰かと一つになるとはこのような感覚なのか。
押し広げられる苦痛がなくなると、彼はそれを更に奥に進めていった。熱を持った部分同士が合わさって気持ちがいい。
奥から出て行く時もやはりそこが擦れて、自然と声が漏れてしまう。
引き抜かれてまた奥まで突き上げられる度にそれがほしくて堪らなくなった。
脚を絡みつかせて身体を密着させる。彼も察してくれたのか、腰の動きが次第に激しくなっていく。
再び意識を失いかけたその時、身体が裂けるような感覚で我に返った。
「い、痛い! 待って……」
うっすらと涙で濡れた目をそこにやる。腰を浮かせて見ると、白いシーツに鮮やかな赤が点々と散っている。破瓜の証がそこにはあった。
「すみません。つい夢中になってしまって、配慮が足りませんでした。どうかお許しを」
「許しだなんて……」
元々、近いうちに私は人と繋がらなければならなかった。だから純潔を失うことの痛みは覚悟していた。
それがこのような形で破られたことに、少なからず安心感を抱く。一度は諦めていた望みが叶ったのだから。
「いいんです。これでもう、誰にも奪われることはないのですから」
「アリオナ様……」
慈しむように撫でてくれる。彼はいつもそう。子供みたいで恥ずかしいと断っても、笑って私の髪を梳く。
長年世話をしてきたものだから、大人になってもつい子供のように扱ってしまう、と以前誰かに話していた。
このように乱れる姿を見ても、彼の中での私はまだ子供でいるのだろうか。もう無垢ではいられないのに。私は女になったのに。
「名前で呼んでください。あなたと対等でいたいのです」
「本当に宜しいのですか? 尊い方と思って、堪えたものも沢山ございますが」
「ええ。うまくは言えませんが……あなたの本当が知りたくて……」
心臓が暴れて胸が痛い。面と向かって本心を打ち明けたのは初めてだった。
ぎこちない風にしか言えなかったけれど、きっと彼ならわかってくれる。楽しい時もつらい時も傍にいてくれた彼なら。
「ああ、アリオナ……。教えてあげましょう、何もかも」
再び粘膜に熱さを感じた。そしてそれは中で徐々に硬度を増してくる。
きっと、これからの行為に言葉はいらない。全てを解放して、あるがままを受け入れたい。
そう、欲に忠実に――
何度胎内に精を感じただろう。呼吸をする度に内腿を伝って流れ出ていくのがわかった。
彼の目はそこに釘付けになっている。恥ずかしくて足を閉じようと思っても、股関節が痛んで動かせない。
「そんな格好でまだ私を苦しめるおつもりですか?」
「そ、そんなこと……」
「本当にいい身体をしていらっしゃる。小ぶりな乳房もなんとも……」
同年代の娘と比べて胸が小さいのはコンプレックスだった。彼の手にすっぽりと収まってしまうくらい発育が悪い。
それなのに感度だけは一人前で、この頃は布が擦れるだけでも中心が硬くなってしまう。
彼の手つきはいやらしかった。乳を搾り出すかのように、強弱をつけてそれらを弄る。
先を摘まれたり甘噛みされたりする度に下半身に熱が集まってきた。
「おお、美しい。真っ白な肌に乳首だけが薄く色づいて……そして繊細な産毛。肌触りはまるで白桃のようです」
「あ……それ以上されたら……」
「また達してしまいますか? 構いませんよ。私も別の方法で致しますので」
初めは彼が何を言っているのかわからなかった。挿入する気配が全くなかったからだ。
男の人が性交以外でどのようにして快感を得るのか、私は知らない。
「ほら、こうするんですよ」
熱くたぎったそれが胸に押し付けられる。そしてそのまま彼は腰を揺らし始めた。
先の穴から溢れる透明なものはぬるぬるしていて、それで乳首を擦られると先ほどとは違った快感が生じた。
「や、やめてください! じんじんします!」
「私のこれで感じてくれているなんて、嬉しいです」
「やっあ……身体が変に……」
「これだけあれば、なんとか大丈夫そうですね」
質量のない果実で、谷間の雄を挟むようにする。腰の運動は更に早くなって、流れる体液の量も増してきた。
見上げると彼は息も荒く、苦しそうにしている。
乳首への愛撫は男の人のそれではなくて、指で弾かれるものに変わった。粘液が残っているから指も滑ってしまう。
胸に直接伝わる彼の焼け付くような体温と先端の痺れ。それらの刺激は私を狂わせるには充分過ぎるものだった。
「く……アリオナ……っ!」
胸に達した証拠が広がる。未だに勢いが衰えないそれは顔にまで飛んできて、濡れた箇所の深層を疼かせた。
これほど身体が熱く、苦しくなったのは初めてで。耐えられなくなった私は、彼に包まれる感覚に身を任せて目を瞑った。
あなたのおかげで自覚が持てた。私はこの国の王女。惨憺たる状況から目を背け、逃げてはいけない。
私を必要としてくれる人がいた。それだけで充分だった。
王国は失われてしまったかもしれないけれど、まだ完全にではない。少しの希望がここに残っている。
これから対峙する者がどのような存在に成り果てていても、私は屈しない。もしそれが、闇と欲望に生きるデーモンだとしても。
父を超えることはない、一部の人間にそう思われていることは知っていた。私自身も、父上を超えようなどとは一度も考えたことがなかった。
けれど、今抱いている感情はまさにそれなのかもしれない。超えるというよりも、力を示す、と言った方が正しいように思えるけれど。
ここに来るまでに、私は多くのことを学んだ。世界に対する認識の甘さも、この状況での王族の地位の脆弱さも。
これは平和な時では知る機会などなかった。
数々の苦難を乗り越えた今ならば向き合える気がした。世界に仇成す者に。
「行ってしまうのですか、アリオナ」
「ええ。いつまでもこうしてはいられませんので」
「これが終わったら、どうされるおつもりですか?」
「私は……」
絶対に生きて帰ってくる。
ここは私の知らない国。けれど私の大好きな、故郷だから。