静まりかえった楔の神殿
要石の前に腰掛け、ひたすらに待ち続ける女がいた。漆黒の闇夜のような黒髪、衣服も同様で異彩を放つ。
粗末な布切れを身体に巻きつけ、黒衣の外套を身に纏う。背丈以上の杖を両手で持ち、女性らしい装飾品が揺れる度に涼やかな音を立てる。
異彩を放っていても、わからないだろう。なぜなら彼女の両目には、蝋のようなものが覆われているから。
「……気配が感じられない」
誰に話しかける訳でもなく、ポツリと呟く。少し前から、拡散した世界のデーモンスレイヤー達の気配がぷつりと消えたのだ。
普段であれば、楔の神殿に血痕や文字かあるのだが、現在はまったくない。
まるで時が止まったかのように、沈黙を保ち続けている。
待つしかない。火防女は杖を握り直し、要石の前に座り続けた。