「お?今日は足ブラだ。ちょっと修理が終わったらレベルアップ頼むわ」  
楔の神殿、ここで私はデーモンを殺す者に力を与えている。私の中には古き獣と同じくらいのデーモンを宿し、死する事なく終わりを待ち望んでいた。  
「……はい。お待ちしております」  
颯爽と過ぎ去ったのは要人が導いた戦士。今はソウルを多く身体に蓄え、人以上の能力を身につけている。  
声の調子から察すると、上手くいったみたい。  
 
よく通る声が少し離れた私のところにも聞こえてきた。あの声は……ボールドウィンさんだ、ボーレタリアが色のない濃霧に包まれた後、要の神殿に身を寄せている。  
彼は武具修理や物品の販売をしているらしい……私は目が見えないので、よくはわからない。ただ、腕の立つ職人であるのはリズミカルな金槌の音でわかる。  
気難しく思えるが、とても彼を心配している。傷付いた武具を修理する度に毒づいても、要石に向かっていく姿を目で追っているらしい。  
これは隣のトマスさんの話で、時折独り言のように「死ぬんじゃないぞ……」とそっと呟くそうです。  
 
「お待たせー、んじゃ、よろしく」  
気がつくと彼が私に声をかけ、かしゃりと鎧が音を立てる。膝をつき、片手を差し出す、いつものように私は詠唱する。  
「Soul of the mind key to life's ether …」  
溢れるソウルを力に変え、彼は人ならざる道へと進んでいく。きっと、今度こそ終わると信じて。  
「よしっ、また行ってくるわ。またな」  
お礼?を言って何処かに歩き、彼の気配がなくなった。要石に触れて移動したみたいで、しんとあたりは静まり返っていた。  
 
「彼は凄いですね。さながらボーレタリアを救う英雄という感じでしょうか」  
少し離れた場所から私に話しかけた人がいた。……あの声は、たしかオストラヴァさんでしょうか。  
「そう、ですね。あの人ならこの世界を救えるかもしれません」  
地面を擦り、足の裏の感覚で声の元まで歩みを進ませる。目が見えずとも、神殿の全てを把握しているのだから造作もない。  
「隣、座ってもいいでしょうか?」  
「ええ、どうぞ。しかし、貴方は一体?」  
戸惑いの声が聞こえる。ああ、この方は彼に助けられて間もない。私の事をよく知らないのだろう。  
「私は……要の神殿にいる者です。そう、随分と昔から。要人は私の事を黒衣の火防女と呼んでいます」  
「では貴方は、あの古き獣を知っているのですか?あれは一体……」  
声が上ずり、緊張しているのがよくわかる。また、悲劇に向かってしまうのでしょうか。  
「ええ、知っています。あれをまどろみの眠りに導くのが私の務め。彼が全てのデーモンを滅すれば、それが叶うのです」  
 
しばらく沈黙が続く。私は待つのは慣れている、今までどれだけ時を過ごしたのかわからないほどに。  
「ただいまー。おおっ、今日は足ブラが連続なんてついてるな。ん、オストラヴァと一緒だと?なんというミラクル」  
彼が上機嫌でこちらに近づく。鼻歌交じりに隣に座っていたオストラヴァさんをからかった。  
「オストラヴァ、いくら健全な男子だからって、見せつけないでくれよ。俺が居ない隙に仲良くなって」  
「な!なんですかっ!私は、ただ、その……決してそういう気持はありません!」  
お互いのやりとりが頭の上で展開する。思わずくすりと笑ってしまった。  
彼が戻ると神殿は賑やかで、最初は戸惑ったが今では心地が良い。  
 
「そうだ、ラトリアの牢に監禁されていた人を助けたんだ。神殿に連れて来たんだけど、いいかな?」  
ふと我に帰った彼は私に伺いを立てる。普段は陽気ではあるが、根は真面目なのかもしれない。  
「はい。何もありませんが、どうぞお好きな場所で寛いでください」  
もう一つの気配に向かって私は話しかける。衣擦れから考えると、戦士というより聖職者や魔術師なのかもしれない。  
「心遣い感謝する。ではデーモンを殺す者、儂は待っておるからな」  
老齢の男性?が、要石のある階段を降りていく。  
 
「さて、デモンズソウルを手に入れたから少し休もうかなー」  
「お疲れ様です。まだ先は長いですから、ゆっくり休んでください」  
かしゃりと音を立て、彼はその場を離れる。音が遠くなるまで私は耳を澄ませて見送った。  
 
 
彼を見送り、私はオストラヴァさんに向き合う。  
「あの、もし良ければ会いますか?要人に。私が説明するよりも、深く理解出来るかもしれません」  
重い鎧の軋む音が聞こえる、こんな提案に戸惑っているのかもしれない。本来なら会わす筋はないのだけど。  
「……わかりました、お願いします。その、要人という方はどちらに?」  
「上になりますが……一緒に行った方が良いでしょうか?」  
 
以前、彼に会うようにお願いしたら、しばらくして戻ってきた。捜したけれど、場所がわからない、そう言われてしまった。  
なんでも、通路奥にある階段が分からず、何度もぐるぐる回っていたらしい。不慣れな土地だから方向感覚が狂ってしまうのかもしれない。  
「そうですね、お願いします。あの、立てますか?もしよろしければ手伝いますよ」  
見えない私に優しい言葉をかけてくれる。別段不自由はないのだけれど、お言葉に甘えてお願いしてしまった。  
 
少し硬く頑丈そうな手袋が、手を包む。人に触れられるなんて、あまりないので少し緊張してしまい鼓動が早まる。  
すみません、と謝るつもりがバランスを崩して転倒しそうになる。咄嗟に支えてくれたオストラヴァさんに、強くぶつかってしまう。  
「だ、大丈夫ですか?」  
慌てた声が凄く近くで聞こえる。金属鎧に頬を打った私は、痛みを堪えながら努めて冷静に声をかける。  
「ええ、すみません。大丈夫です……あの、案内しますから……離してもらってもいいですか?」  
「うわぁ、失礼しました!」  
ぐいと身体を引き剥がし、がちゃがちゃと鎧を鳴らして気配が遠のく。気を取り直し、私は足を擦りながら階段へ案内した。  
 
幾重にも続く階段を上り、狭い階段踊り場で足を止める。歩調を合わせて後ろについて来たオストラヴァさんに、ゆっくりと振り返った。  
「この階段を上がれば要人に会えます。ただ、求めていた答えかは、わかりません……」  
「ありがとうございます。あ!あの……痛くないですか?」  
突然の問いかけに驚く、痛い?あ、ぶつかった時の事を心配してくれていると、ようやく気がついた。  
なんて答えればいいのか分からず、困惑していると、ごそごそと何かを探す音、それから水音が聞こえる。  
「失礼します。たいした処置ではないのですが、冷やした方が良いかと」  
頬に冷たい物が当てられる。思わず小さく声を上げて、自身の頬に触れようと手を伸ばす。  
そこには暖かい手があり、その手は水?で濡れた布が私の頬に置かれている。その状況に面食らい、呆然としてしまう。  
「あ、ありがとうございます。その、私は大丈夫ですから、どうぞ行ってください」  
オストラヴァさんの手が離れる。少し寂しい気持ちがしたが、また戻ってくるのだから……私は何を考えているのだろう。  
程なく鎧の擦れる音が遠のき、気配が消えていった。  
 
しばらく私は頬に布を当てたまま、ぼんやりと夢想する。どうしてあの人たちは優しいのだろう。  
私はデーモンで、滅びゆく世界を繋ぎとめるように使役させているのに……本当によくわからない。  
布の冷たさが肌の暖かさに勝つ頃、金属の擦れる音が近づいてきた。  
「ああ、戻られたのですね。……オストラヴァさん?」  
声をかけるが、反応がない。じっと動かず、言葉も発しない。要人に何を言われたのだろうか?  
「……火防女さん、ありがとうございました。あまりにも突拍子もないから、まだ受け入れそうにはないです」  
ショックだったらしく、声は震えていた。無理もない、受け入れるには時間がかかるし、受け入れないかもしれない。  
「そうですか……すみません、これ、お返しします。でも、洗って返した方がいいですか?  
頬に当てた布を丁寧に折りたたんで、オストラヴァさんの声の方向に差し出す。死なない身体なので、手当ても本当は意味がない。  
でも好意を無にするのは申し訳ない、彼らから私も少し学んだ。  
「まだ赤いですね。痛みはありますか?」  
無造作に頬を撫でる、痛みは……気にならない。首を横に振り、平気です、と答える。  
 
「気になっていたのですが、どうして優しいのですか?トマスさんも、彼も、オストラヴァさんも。  
私には、よくわからないのです」  
少し向こうで、うーんと唸る。難しい質問なのだろうか?それすら私にはわからない。  
「……人は、お互いを支え合って生きています。先人を敬い、親が子を慈しみ、伴侶と共に生きる。  
理論的ではなく、心から湧き起こるものかと」  
やはりよくわからない。でも、その好意は気持ちがいい。気遣いも、人の温もりも。  
擦り足で近づき、触れてみる。金属の冷たさを感じ、手を這わせて温もりを探す。  
剥き出しの手のひらを感じ、両手でそっと包み込む。私とは違い、大きくて暖かい手。  
「……暖かいです。これが、人、ですね。もっと、触れてもいいですか?」  
「わかりました。あの、どうして?」  
戸惑い、訝しげな声で質問される。確かに、私はおかしいと思われても仕方がない。  
「何故でしょうか……こんなに温もりが心地が良いなんて、初めてです」  
暖かさをもっと感じていたくて、頬ずりする。温度が伝わるように、たくさん感じたくて。  
 
「その、申し上げにくいのですが、あまりそういう事をされると……苦しいです」  
言いにくそうに、もごもごと口の中で歯切れ悪く呟く。苦しい?鎧が締めつけているのだろうか?  
「苦しいのは私が原因ですか?どうすれば治りますか?」  
手を離さずに質問するが、言葉が返ってこない。ごくりと喉を鳴らす音が聞こえ、身体が鎧に押しつけられた。  
「すみません、決してそういうつもりではなかったのですが……いいですか?」  
小首を傾げて考えるが、わからない。でも、治るのであればと思い、頷く。  
身体を離して、オストラヴァさんは鎧を鳴らして外していくらしい。金属が床に落ち、鈍い音がする。  
 
どうすればいいのかわからずに立っていると、気配が近づき抱きすくめられる。びっくりしたけど、暖かい。  
がっしりとした身体と、荒い呼吸、鼓動も早く、本当に苦しそうで心配してしまう。  
顔を埋めていると、髪を撫でられる。身じろぎをすると、太ももに何か固い物?がぶつかる。  
それどころか、ぐいぐいと押しつけられてしまう。とても熱い、火傷しそうな程の熱が伝わる。  
頭の上ではあはあと苦しそうに呼吸し、辛い声を漏らす。これが原因かもしれない。  
押しつけられたそれを恐る恐る触れてみる。びくりと身体が跳ね、動きが止まった。  
「触ってください……」  
切実な声に頷き、両手でそれを触る。手のひらで高温を感じ、熱さに堪えつつ撫でてみる。  
「ぅ、直接触って、上下に動かしてください」  
ごそごそと衣擦れがあり、固い何かも露わになったらしい。直接触るとびくびくと脈打ち、先端部からじわりと溢れてきた。  
両手を合わせてゆっくりと上下に動かす。くちゅくちゅと音が鳴り、うめき声が零れ落ちた。  
動かす度にぬるぬるとした何かが絡みつき、滑らかになっていく。  
ようやく私は何をしているのか気がついた。オストラヴァさんは私に欲情していたなんて、鈍い自分が恥ずかしい。  
それとは別に私の中の何かが疼く。こんな気持ちは、いつ以来だろうか。  
 
緩急をつけて擦り上げ、先端部に親指を這わせて、少し抉ってみる。押し殺した喘ぎ声が頭の上で聞こえ、びくりと震えた。  
「……あの、やはり、口でした方がいいですよね……」  
顔を上げ、おずおずと聞いてみた。答えは返ってこず、柔らかい何かが口を塞ぐ。  
んぅ、と声を上げて口を開けば、ぬるりと舌が腔内を掻き回し、むさぼるように蹂躙する。私は流れ込んだ唾液を嚥下し、舌を突き出し、絡ませた。  
 
むぎゅりと乳房を鷲掴みされ、塞がれた口から嬌声が溢れる。熱い手のひらがぐねぐねと揉みしだき、緩んだ布がずれて敏感な突起に擦れてしまう。  
絶え間ない刺激に、手を動かすのが雑になっていく。頬、首筋、鎖骨を啄むようにキスをされ、胸に強く吸いつけられる。  
「あぁ、だめです……手が、動かせなくなってしまいます……」  
自分の声とは思えないぐらい、鼻にかかった甘い声。切なくて、身体が震えてしまう。  
巻きつけた布が乱れ、隙間から手が入れられる。耳を塞いでも聞こえるぐらい、はっきりと水音が聞こえ、恥ずかしい。  
指先が巧みに動き、ぐちゅぐちゅと捏ねまわされ、快感に堪える事しかできない。頭の奥がじんじんと熱を帯び、耳鳴りがし始める。  
「ひぁ、すみませんっ。いってしまいます……あ、あぁぁあっ!!」  
身体を強張らせ、ぶるぶると痙攣する。呼吸をする事もままならない。浅く挿入された指の感覚だけが、強く私の意識を保つ。  
 
壁に背中を預け、呼吸を整えようと、息を大きく吸い込む。が、油断しきった私の口は再び塞がれ、舌を吸われてしまう。  
抵抗する力も残っておらず、呼吸困難になりながらも受け入れる。解放されたと思ったら、耳元で囁かれてしまった。  
「もう、我慢出来ません。中にいれます」  
言葉を理解する間もなく、片足を大きく上げられ、熱い何かが私のひくつくそこにあてがわれ、押し広げられる。  
「ふぁぁっ。だめです……あ、熱いぃ」  
ゆっくりとした圧迫感に、首をいやいやと振り乱す。大きすぎて裂けてしまいそうな恐怖を感じる。  
「くっ、きつい……力を抜いて」  
意識をしても、身体がいう事を聞かない。肌が粟立ち、下腹部がひくひくと蠢くのがわかるが、どうする事もできない。  
 
オストラヴァさんの身体にしがみつき、子供のように嗚咽を漏らす。いく事が恐怖ではない。  
胎内の熱が私の身を焦がすのではないのだろうか?そんな恐怖が渦巻く。  
いやらしい水音と私の声が響く。奥まで当たり、痺れる感覚に堪えられずにつま先を伸ばして少しでも逃げようとする。  
でも何度も突かれる度に、片足で支えられずによろめいてしまう。それが深く抉られるなんてわからずに悶え、すがりつく。  
「ああ、もう、でそうです……」  
切ない声が耳元で聞こえる。それだけではしたない私は、胎内を締め上げてしまう。  
「中に、ください……直接、感じたい……」  
息も絶え絶えに懇願し、口づけをする。しっとりと汗ばんだ肌が心地が良い。  
身体を押し付け、動きに合わせて腰を振る。私もそろそろいってしまいそう……。  
両足を持ち上げられ、身体が完全に浮いてしまう。それと同時に深く突き上げられ、あっという間に高みに登りつめる。  
「ひいっ、いっちゃいます!あああああ!!」  
ぎちぎちと締めると、胎内で大きく震え、熱い何かを感じる。あまりの熱さに私は声も発せず、天を仰ぎ見た。  
 
気がつくと、私はオストラヴァさんに跨り、座って抱きしめられていた。すでに胎内からは抜かれ、暖かい温もりが少しずつ薄れていく。  
ちょっとだけ寂しく感じたが、抱きしめてくれたこの温もりがあるから構わない。  
「……ありがとうございます。少しだけ、わかった気がします」  
疲れて眠ってしまったのだろうか?胸に顔を埋めて反応がない。  
私はオストラヴァさんの髪を撫で、いつまでもこの時が続くようにと願ってしまった。  
 
 

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