楔の神殿は静まりかえっていた。まるで人の気配がない。  
あちこちにはどす黒い血痕が付着し、主人を失った道具が散乱していた。  
 
いや、神殿の隅で物音が聞こえる。デーモンを殺す者と呼ばれる男が、魔女と呼ばれる女を組み伏せ、身体を貪っていた。  
「うぁ……いやぁ……いきたくない……。もう、殺して、お願い……」  
ぽろぽろと涙を流し、男に哀願する。すでに抵抗する力がないらしく、ぐったりと身体を預け、息も絶え絶えだ。  
 
「もういいの?せっかくいけるようになったんだから、もっとしようよ」  
無邪気に笑い、魔女を責める。何処が感じるかは既に知っている、もう何度も……いや、十数回いかせているからだ。  
「ひぃぃ、またいっちゃう!いや!もう、いやぁぁぁ!」  
胎内が収縮を強める。何度となく注ぎ込んだ白濁液が、結合部から断続的に漏れだす。  
「これで終わりにしようか。ありがと、最期は苦しまないようにするね……」  
 
唇を重ね腔内を蹂躙し、片手で乳房を弄る。充血し腫れあがった陰核を身体で擦り付け、あっという間に上り詰めさせる。  
「んぅ!んんっっ!!」  
一度に大量の絶頂を与えられ、大きく身体を痙攣し、打ち上げられた魚のように跳ねる。男は空いている片手で床に置いた短刀を拾い、魔女の脇腹から正確に心臓を刺し貫く。  
一呼吸後、霧のように彼女の身体が霧散し、後には衣服と身につけていた指輪が残るのみ。  
「ごめん……」  
身支度を済ませた男は呟き、魔女の帽子を持って階段を上がって行った。  
 
「終わったよ。これで全部だね」  
壁に溶け込むように寄りかかっていた人物に、魔女の帽子を投げる。放物線を描いた帽子は床に落ち、足元に転がった。  
「ふん、随分と手間取ったようだな」  
声の主は金の仮面を身につけ、表情を窺い知る事は出来ない。腕を組み、体格や声色から女であるのがかろうじてわかる程度。  
「まあね。女の子には優しくしないと……勿論、君も同じだよ」  
悪びれる事なく、近づいて行く。余裕があるのか、足取りは軽やかだ。  
「愚物が……、自分だけは特別だと思ったのか?」  
素早く武器を構え、男に襲いかかる。油断している男に渾身の一撃を振るう。  
しかし、紙一重で回避され背後を取られる。しまったと思った時には痛打を受け、意識は闇へと落ちて行った……。  
 
「……ん?もう気がついたんだ。やっぱり鍛え方が違うのかな」  
先程のダメージが残り、ずきずきと身体が強張る……違う。何かで拘束されているらしく、身体が動かない。  
「くっ、何をする気だ!」  
勇ましく男を凄むが、動くのは頭部のみ。滑稽に思われているのだろう、男はにこやかに話しかけた。  
「何って言われても、いきなり襲いかかる人に、とやかく言われたくないなあ。でも痛い事はしないから、大丈夫だよ?」  
そのまま髪を撫でられるが、不快感を露わにして顔を背ける。くすりと笑われ、無理やり猿轡をかまされた。  
「本当はこんな事したくないんだけど、暴れて怪我しても困るし、自害されてもやだから……ごめんね?」  
 
改めてメフィストフェレスは状況を確認する。  
手首と足首が一緒に左右ずつ拘束され、床に座らされている。座るといっても、壁に身を預けているだけだから、ちょっとした拍子に寝転んでしまうだろう。  
脚を開けばバランスは保たれるだろうが、あまりも酷い姿勢だ。そう、まるで……。  
「誰もこないし、たっぷりいかせてあげるね?あ、服を脱がせるの忘れた……ま、いっか」  
 
冷たい床に何枚も重ねた布が敷かれ、後ろから抱きかかえられて胸を弄られる。男の宣言通り乱暴ではなく、優しく、恋人へ愛撫するかのように丁寧だ。  
布越しの焦れったい刺激に身体がむずむずと疼く。猿轡からくぐもった声が漏れだし、慌てて奥歯を噛み締める。  
「我慢しなくて良いってば。ほら、だんだん尖ってきたのがわかるよね?」  
強めに擦られて、んぅ!と声を上げてしまう。だめだ……これ以上されたら抑えられない。  
 
不意に身を寄せ、耳朶を舐められる。大きく身体を仰け反り、身体を強張らせてしまった。  
「案外、攻められるのが弱いみたいだね。この調子ならあっという間かも」  
上機嫌で胸を弄り、耳朶は甘噛みされ執拗に刺激される。ぞくぞくと切なくなり、身体をもじもじと動かす。  
……足りないのだ。絶頂に達する程ではない快楽が心を掻き乱す。  
今だに直接触ってもらえず、喋る事も叶わない。焦燥感がじりじりと頭の中で渦巻いてきた。  
 
「気持ちいい?」  
耳元で囁かれる。それだけで吐息が零れてしまう。私は、こんなに淫乱だったのだろうか?  
口元からは唾液が伝い、切なさに耐えられず、落ち着きなく身体を揺する。酷い有様だ。秘匿者という威厳もプライドもこの男の前で打ち砕かれようとしている。  
「意地張らなくていいから、教えて?嫌なら、止めるから」  
 
……心の折れる音が、はっきりと聞こえた。  
大きく頭を左右に振る。言葉を発する事が出来ずに、くぐもった声で訴えた。  
「……もっとしたい?」  
「うぅっ!」  
もどかしい気持ちを露わに、男に身体を預ける。しなだれかかり、仮面越しに流し目を使う。  
もう、秘匿者なんてどうでもいい。ただ、楽になりたい。このままでは気が狂ってしまいそうだ。  
「素直に言ってくれてありがと。もっと気持ち良くしようね」  
ああ、所詮私はただの女という訳か……。屈辱感を感じたが、それ以上に期待に心が打ち震える。  
 
手枷は外され、猿轡も取り除かれる。だらんと肢体を横たわらせ、浅く呼吸を繰り返す。  
男が覆いかぶさり、メフィストフェレスの手首を優しく撫でる。そこにはうっすら鬱血し、痕が残っていた。  
「ごめん。痛かったよね?」  
済まなそうに謝るが、求めているのはそれではない。少し痺れている両手を首に絡ませ、唇を重ねる。  
舌を伸ばして深く交わろうと懸命に行為に没頭した。ぴちゃぴちゃと音を立て、零れる唾液を飲み込む。  
些か呼吸困難になりながらも、無心に快楽に身を委ねる。男は嬉しそうに髪を撫で、愛撫を再開した。  
 
上質の衣服を脱がし、ほんのり赤く染まった肌が露わになる。双丘の頂点は硬く尖り、下腹部は切なそうに震えていた。  
「もう、準備万端だね。本当はもっと焦らしたいけど……」  
脚を抱えて充分に潤った秘所に分身をあてがう。くちゅりと水音がして、粘膜同士がこすれ合う。  
「我慢出来なくなったから、もう挿れるよ」  
そのままゆっくりと胎内の奥深くまで突き入れる。待ちかねた襞はわななき、飲み込むように迎え入れる。  
圧迫感に息が止まるぐらいだ。思わず下腹部に力がこめられ、ぎちぎちと締め付ける。  
「ああっ、く、苦しい……。だめ、挿れただけで、もう……」  
切なそうに顔を歪め、小刻みに痙攣する。気を抜いたら、すぐにでも達してしまう。  
散々焦らされ、いつも以上に身体が反応し、視界がぼやけて耳鳴りがしてきた。  
「あ、あああああ!」  
男の身体をきつく抱きしめ、嬌声を上げる。下半身が別の生き物のようにうねり、わななく。  
暫く身体を硬直するが、糸が切れた人形のようにくたりと力尽きる。しかし、胎内は小刻みに震え、熱いそれを包み込む。  
「もういったの?随分早いね。まだまだこれからなのに、気を失わないでよ」  
 
「ひぃ!いったばかりだから、嫌だ……待って、ああ!」  
ただ前後に動かすだけで、メフィストフェレスは酸素を求めてぱくぱくと口を開ける。あまりの快感に言葉が出せずに、ひゅうひゅうと呼吸音がするだけ。  
男はだらしなく開いた腔内を容赦なく蹂躙する。舌を尖らせ、歯や歯茎をつつき唾液を流し込む。  
飲み込む余裕もなく、口元から零れ落ちた。  
 
「ん、もうすぐ出そう。奥に出すよ」  
すっかり下まで降りてきた子宮口を先端で小突き、ピストンを加速させる。男も余裕もなく、荒い息を繰り返し、己が欲望に忠実となった。  
「ぁ……」  
何度も果て、もはやされるがままの人形となり、言葉も発する事もままならない。ただ大きな波が押し寄せてくるのを、待つばかりだ。  
男が低く呻き、深く突き入れ胎内の最深部に欲望を注ぎ込む。その衝撃に身体をびくりと震わせ、肉襞が蠢く。  
小刻みに痙攣し、メフィストフェレスは深い闇の底へと意識を沈めた。  
男が自身を抜き取り、身体から離れる。栓を失った孔は少し緩み、混じり合った体液がゆっくりと零れ落ちた。  
 
 

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