「おにぃちゃ〜ん!」
ほとんどわざとらしいが、彼女はブライジがいるであろう場所に向かって声をかけ、手を振った。
普段は仏頂面なブライジだが、お兄ちゃんの一言で目じりを下げ、彼女に手を振り返した。
「青いサインの事、教えてくれてありがとう。お陰で嵐の王。やっつけたよ!」
「おぉ〜っ!それはすごい!」
自慢げに話す彼女にブライジは両手を広げて喜んだ。まさに、お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで状態だ。
もちろん、そんなアホに付き合うほど彼女もヒマではなく、彼女はふと疑問に思っていたことをブライジに言った。
「そういえば、どうして知ってたの?青サインの事」
彼女の問いに、ブライジはう〜んと唸って言った。
「知るも何も、闇儀式について知りたくて此処に来ただけさ。だが、すぐ捕まっちまって。あの時はお迎えが来たかと思ったぜ」
ブライジの言う闇儀式に、彼女の疑問は吹っ飛んだ。彼女は思い出したくない場面を思い出してしまい、顔をしかめた。
祭祀場奥の骸骨の壁や壁に繋がれた遺体。数え切れないほどの人骨。それは見るに耐え難き物であった。
「おお、そうだ。お嬢ちゃん。嬢ちゃんが奥に行った後だ。胡散臭い野郎が武器を探しに来た。父親の形見が何とか言ってたな」
ブライジも何かを思い出したようだ。彼女を見下ろし、目を細めて言う。
「まっとうな奴が武器を欲しがるとは思えないな。まだ入り口付近にいるかもしれねぇから、気をつけな」
彼女はブライジの言う“武器”に思い当たる所があった。彼女はブライジにありがとうと言うと手を振り、奥へと進んだ。
「やっぱり、落っこちてる」
彼女は盗人に蹴り落とされた岩下を覗いた。遺体が何かの武器を持っている。何故かは分からないが、嵐の王の影響だろうか。
その遺体の本人らしき暗いソウルのファントムが、聖者の動きを止めていた事を思い出す彼女。
「浮かばれなかったんだ…きっと…。もし父親の形見っていうのが本当なら、せめて武器だけでも子供の所に行きたいよね」
胡散臭い奴というブライジの言葉を、彼女はしっかり聞いていたはずである。だが、生来の優しさがそれを一時的に忘れさせた。
だから彼女は安易に、呪われた武器を手にしてしまうのだ。
彼女は再度祭祀場入り口付近へと赴いた。確かに、居た。胡散臭いとブライジが言った通りの、中年男性だ。
名前はサツキ。知った名でも顔でもない。しかも、デモンズソウルを交換条件に持ちかけてきた。明らかにおかしい。怪しい。
そう思えるはずだが、暗いソウルのファントムが彼の父親ではないかという思考が、正常な彼女の思考を鈍らせていた。
「くくく…。やはり、人を切ってみないと、分からないだろうなぁ…」
本来なら礼の一言でも貰うはずの相手から刃を向けられ、彼女は一瞬目を疑った。
「どういうこと?」
そう言うと同時に、胸元に熱い痛みが走る。それでも意味が分からなかった彼女だが、男の薄気味悪い笑みに身の危険を感じた。
「どういうことか、身を持って分かればそれでいい」
男は刃を彼女に向かって振り続けた。彼女の体は無意識に反応し、男の攻撃をかわしていく。だが、最初の不意打ちとも言える
一撃が、彼女が思う以上にダメージを与えていた。ただ、それだけなら彼女の負担にはならない。
デーモンとの戦いを重ねた、人ならぬ力を手にしたデーモンを殺す者である。所詮、人間相手に遅れを取るような戦士ではない。
だが、彼女にとってこれ以上の無い苦痛であった。たとえ自身を殺そうとする悪人であったとしても、相手は『人間』である。
彼女の腕は、どんどんと重くなっていった。足取りも、おぼつかなくなる。
“このまま、殺されればいい。どうせ、死ねない体なんだから…”
彼女は半ば、死を望んだ。人の死を目の当たりにするくらいだったら、自身の死を受け入れた方が、どんなに楽だろうか…。
彼女はとうとう、ブラムドを置いた。肩で大きく息をしながら、彼女は呪われた相手を見上げる。
「何だ。無抵抗か…。それもそれでつまらないな」
相手はつまらないと言った言葉とは正反対に、楽しそうに彼女を見下ろしている。
「ふふふ…。ガキ…だが、女か…。ただ殺すには惜しい、かな…」
その笑みは不気味さを帯びる。男は刃を止め、切っ先を彼女の鼻先に向けた。
「脱げ」
相手が言う事は分かる。あの時の黒がしようとした事と同じ事。気味悪いのは黒の方が上であろうが、気持ち悪さは同じだ。
だが、自身は死ねぬ体。相手は自分を殺そうとした者。ならば自身の抵抗が意味することは、相手の死に繋がる。
「意味が分からぬか。そうか、それだけガキか…ふふ…」
彼女の鼻先に当てられた刃は、そのまま勢いよく下方へ下げられた。再び彼女の胸元に熱い痛みが走る。
だが、死ぬほどの痛みではない。死ぬ事ができれば、彼女の痛みは体のみで済んでいた。だが不運にもまだ、死ねぬのだ。
「幼いが…悪い顔じゃないな。イイ…。十年、いや、五年後に会いたかったくらいだ」
男の腕は彼女のアゴを掴み、自身に引き寄せる。薄気味悪い男の笑みが、彼女の目の前を覆った。
彼女は悲鳴をあげたが、その声はかき消される。男の唇が彼女の口を多い、悲鳴を上げ損ねた彼女の舌を、男の舌が吸い上げる。
口を閉ざそうにも顎を掴む男の力が強すぎて、閉じることはできない。逃げようともがくが、びくともしない。
それどころか、相手の空いた手が引き裂かれたぼろ布の服をさらに引き裂いていく。
「ふぐぅっ。ふむむぐぐうっ!」
自身ができることと言えば、情けない声を漏らすだけだ。上半身があらわになったところで、男は彼女の口を解放した。
「その、恐怖に凍てつく顔がもっとも美しい。お前はイイ女だな」
男のくぐもった声が脳内に響く。その声はデーモンの断末魔以上に、彼女を凍えさせた。
「いやあぁぁっ!!」
自由を奪った男の身体に覆いかぶされ、背中を地面に激しく打ち付ける。その痛みに反射的に声を上げる事ができた。
背中の次は腕に強い痛みが走る。男を振りどけようと無意識につっぱねた両腕を捉えられ、岩だらけの地面に押し付けられた。
「全く胸が無いわけじゃないか。ガキをヤる趣味は無いが…。どうやら、思ったほどガキじゃないようだな」
あらわになった彼女の胸を見下ろしながら、男は薄い笑みを湛えた。男は彼女の腕を押さえつけたまま、顔を近づける。
なだらかではあるが、ふっくらとした乳房が眼に見えて分かる。その中央で小さくもつんと立つ乳首が、より男を駆り立てた。
「いやぁあっ!!」
彼女は悲鳴を上げ抵抗するが相手の力が上回り、たいした抵抗ができない。彼女は気持ち悪さと恐怖で、顔を横に背けた。
男は彼女の首筋に吸い付く。首筋を這い回る男の舌の感触が、彼女の全身に虫が這うような気色の悪い感覚を走らせた。
「離してぇっ!!」
彼女は両足をバタつかせるが男の体が股の間にあるので、相手を蹴り上げて逃げることもできない。
「まったく、自分が置かれた状況が分かっていないようだな」
男は一度顔をあげ、薄い笑みを彼女に送る。
「仕方ない、分からせるか」
男はさも楽しそうに彼女を見下ろすと、押さえつけていた彼女の手を握り締めて自身に引き寄せた。一瞬だった。
「きゃあぁぁっ!!」
再度男が彼女の腕を地面に押し付ける。いや、叩きつけた。それと同時に、彼女の口から悲鳴があがる。
彼女の泣き叫ぶ声を楽しげに聞きながら、何度も、何度も、男はそれを繰り返した。彼女の手が血に染まるときには、彼女の体
から力は抜け、抵抗らしい事はできなくなっていた。おそらくは、両腕の骨を折られているだろう。
「物分かりは良いようだな」
くぐもった笑いを湛え、男は彼女の体を物色していく。首筋に吸い付き、噛み付く。首筋に飽いたら彼女の乳房へと舌を這わす。
未発達な彼女の乳房を無理矢理掴み、先端に吸い付く。そのまま噛み付き歯跡ににじむ鮮血を舐め取り、吸い上げる。
体中に痣と歯跡をつけられ、小さい痛みと激痛で、彼女の意識は朦朧とし始めた。だが、デーモンを殺す者。そう易々と意識を
手放せないでいた。あげ続けた悲鳴も枯れ、かすれてくる。男の手は尚も執拗に、彼女を辱めていく。
下腹部を撫でる男の手が下方へ下り、下着を剥ぎ取った。朦朧とした意識でも、これから何をされるかは嫌でも理解した。
「あああっ…ん。あっ…」
男の手が彼女の秘部に触れた時、悲鳴とは違う甲高い声が上がった。枯れかけた涙が、溢れ出す。男は楽しげに笑った。
「なるほど。やはり、女か…。そうでなければ、おもしろくない」
男の手は彼女の秘部から離れ彼女の太ももを握り、上へ押し上げた。力の入らない彼女の両足は簡単に押し上げられ開脚される。
「ふふ、肉ヒダがある…か…。初潮は迎えているな?しょんべん臭いガキかと思ったが、どうやら大人のようだ」
男はギラついた瞳で視線だけ上に向け、彼女の顔を見た。彼女の幼い顔が、余計に男を駆り立てた。
「ははは。処女だ…。久しぶりの、女…」
男の荒い息が彼女の敏感な部分に当る。彼女は抵抗を試みようとした。だが、それ以上に体が反応していく。
男の舌が彼女のヒダをつつき、捲るように舐め廻す。男はさらに舌を出し、小さく痙攣する彼女の肉芽をつつくように舐め回す。
「い、やぁっ。あ、あ、あんっ」
感じたことの無い感覚が電流のように流れ、彼女の全身を蝕んでいく。男は更に執拗に、彼女の秘部を攻め立てた。
舐め上げ、吸い付き、歯をあてがい噛み付く。彼女の全身は痙攣を起こしたように、震えていく。
激痛を伴う両腕さえも、強い感覚に耐えかね震えた。その刺激が、つと途絶える。彼女は震える瞳で、視線を下方へ落とした。
「はぁ、…。いい、匂いだ…。女の、匂い」
朦朧としたような男の声と目が、狂ったように映る。彼女は直視できず、瞳を強く閉じた。再び彼女に、強い刺激が襲った。
男の舌が彼女のヒダを割り、中に押し込まれていく。男は息荒く、舌を彼女の奥へとねじ込ませていく。
彼女の両足を抑えていた男の右手が、彼女の中心を撫でる。意識と反して主張する彼女の肉芽をつまみ、擦り上げていく。
「あああぁぁっ。だ、だめぇっ。いやぁあっ!」
絶え間なく襲い掛かる強い刺激に、彼女の全身の小さい痙攣が次第に大きくなり、彼女の上半身が大きくバウンドした。
直後全身が脱力するが、強い刺激は途絶える事無く彼女を襲い続ける。
「ははは。ガキを犯る奴の気が分かるというものだな。こんなうまい蜜、初めてだ。匂いもきつくない」
男が時折つぶやく言葉の意味が分からない。だが、これ以上はもう、彼女の限界を越える。
彼女は後悔した。だがそれ以上に、悲しみがこみ上げる。もし抵抗していたなら、必然と男と戦う事になっていた。
それでも尚、相手との抵抗を試みたなら、それは相手を殺すことに繋がるのではないか。最悪の状態が、彼女の脳裏を蝕む。
相手の刃に己の血が滴ると同時に、己の武器も相手の血飛沫によって赤く染まるであろう。それは想像するに容易い。
彼女はただ、泣き続けた。意思に反した刺激に対して、自身のどうにもならぬ状況に対して。
肉芽を撫でていた男の右手指が下方へ下り、彼女のヒダを割り奥へと侵入する。それと同時に男の舌が再び肉芽をついばんだ。
「人差し指でこれだけきついとは…。楽しみだな…」
男はくぐもった声でつぶやくと、彼女の奥を犯す指を激しく上下させた。
「ああっ、い、いたいぃ。や、やめてぇっ!」
彼女の悲鳴が叫びに変わるほど、それは強い刺激を彼女に与えた。じゅぶじゅぶと粘着質な音を立て、男の指は彼女を襲う。
彼女の甲高い悲鳴と新鮮な女の秘部を楽しんだ男は、彼女の足を抑えていた左手を己の股に持ってくる。
「はあ、もう、限界だ…」
男は深くため息を吐き、己自身を取り出す。瞳を閉じた彼女には何かが分からない。だが、理解する。耐え難き激痛と供に。
「ぎゃあぁあぁっ!!」
彼女は悲鳴をあげた。それは死を直視した断末魔のようにも聞き取れるほどであった。彼女の全身に、有り得ない痛みが走る。
「あああっ、ああああっ。あーっ!!」
その声は彼女の意思に無い。無意識に、強制的に、その声は上がる。何度も、何度も。
「くうっっ。さい、こうだ…。お前のその顔も声も、ま××も…。くくくくく…」
その声を楽しげに聞く男は、ため息と供に呪文のように言葉を吐く。それは、狂気の沙汰。
男の一物が彼女の奥を貫く。引き裂かれた肉ヒダからは、大量の血が滴った。ねじ込まれた秘部は赤く染まり、男を受け入れる
には早すぎた女性器が悲鳴を上げ、下腹部は膨れ上がった。彼女は、否彼女の体は痛みから逃れようと全身を跳ねさせた。
男の両腕が彼女の腰を掴み上げ、地面に押さえつけている。彼女を襲う痛みは、増した。抵抗すら、できない。
男は狂ったように腰を打ちつけ、彼女の最奥を何度も犯していく。その振動は、彼女の未発達な乳房さえも激しく揺らした。
ひどい痛みに悲鳴を上げ続ける中、彼女の意識は悲しくもはっきりとしていく。
“どうして。どうして私は今、こんな奴に…大切なものを奪われなくては、ならないの…”
彼女の声は言葉を成さない。この言葉は脳が唱えるもの。視覚は男を映しているのに、脳に浮かぶは力なく朽ち果てた銀の鎧。
“アストラエア様…。あなたをお守りできずに…すみません…”
「やめてぇぇえええ!!」
“私の抵抗など無意味でしょう…”
「いやああぁぁっ!!」
悲鳴と供に涙を流す。それだけは、彼女の意思に従うもの。
体の痛みなど、関係ないだろう。もはや死ぬことのできぬ体である。それ以上に彼女を苦しめるは、心の痛み。
“今までの罪が罰として帰ってきただけ。それなら、いい。それだったら、いい。そうであって欲しい”
それを忘れさせてくれるには、この程度の痛みなど物足りぬのか。その痛みは、彼女を必然と冷静にさせた。
体の痛みが次第にしびれに変わっていた時、彼女の思考に若干の余裕が出始めていた。
“あいつなら、どう思うだろう。今の私を汚らわしいって、思うかな。それとも、慰めてくれるかな…”
上げ続けた悲鳴に声も枯れ、乾いた息が男の動作に合わせて吐き出される。
“青なら、分かってくれるかな。ううん。分からなくていい。同情でいい。あの嵐の王の時のように、抱きしめてくれたら…“
もはや出す声も無くなった時、ふと、思い出す。それは、彼女ではなく彼女の体。
体は己以上に危険に敏感である。彼女の体が彼女の無意識に脳裏を駆け巡り、青という単語によって一つの答えを引き出す。
自決用にと青から貰った、一本の短刀。その短刀が、彼女の背中に忍ばせてあることを。
「はあ、はあ、はあぁっ」
男の息が大きく荒くなっていく。それとともに、男の動きも早まった。おそらくは、射精が近いのだろう。
彼女の体が行動を起こす。まだ、男を、オスを受け入れるには早かった彼女の体が、拒絶を行う。
彼女の動かぬはずの右腕が、彼女の背中に回る。それは、一瞬だった。
「なっ!き、きさまっ!!」
男が言葉らしい声をあげた時には、彼女の体は霧のように蒸発していた。男が見た彼女の形は、彼女自身が握り締めた短刀が、
彼女の喉を貫いていたものだった。男は慌てて彼女から飛び退いたが、その時にはすでに彼女の体は無くなっていた。
「ほほぉ。もしかして、死ななずの体か?初めて見た。やはりこのボーレタリアには、何かある」
男はイキそこねた自身を晒しながらも、彼女が残した血痕を興味深く見つめた。
「しばらくは此処に居座るか。誠の切れ味も楽しみたいからな」
男は意味深な言葉を吐き捨てると、己の武器を仕舞った。そして嵐の門へと向かい姿を消した。
彼女の体は自由を取り戻していた。肉体はソウルとなり、繋ぎ留められた要石の付近へと引き寄せられている。
まだ男は彼女の存在に気付いていない。ただ、彼女が居た地面を見下ろしているだけだ。またいつ気付かれるか分からない。
だが楔の神殿に戻れば、ビヨールも居ればウルベインも居る。彼らに助けを求める事ができる。
彼女の体は無意識に、要石に触れていた。
楔の神殿に戻ってきた彼女は、身の安全を確保したとともに、安堵した。その安堵がようやく自身を正気に戻す。
その直後、今の状況を改めて思いだす。全身を引き裂かれ、ぼろぼろになった我が身を。
“ヤバイ!!超ヤバイ!”
今まで、やせ我慢とまではいかないにしろ、皆に心配かけぬと心がけてきたのだ。
悲しみにくれた時でさえ、涙を見せはしなかった。だが、今は一刻を争った。だから己を隠す事になど、気付けなかった。
“ふ、服どうしよ。着替えはトマスが持ってる…。でも、こんな格好見せたらトマス気絶するよっ。それだけはちょっと…!”
今更ながら、あせる。激しくあせる。そのあせりが、より彼女の行動を遅らせていた。
挙動不審な自身を隠そうとしたはずが、ばれてしまっていた事に気付くのが遅れていたのだ。
とっさに彼女は己の体を抱きしめるような仕草をしたが、直後、後方から上がった声に反射的に振り向いてしまった。
「コレを持って!コレで前を隠して!」
小さくも強い声が彼女の耳に入った時には、彼女の胸に見慣れた鈍い金色をした盾が押し付けられていた。
「何も言わないで。石碑の後ろに早く隠れて!すぐに、何か着られる物を持って来ますから!」
その声の主を知った時、彼女は一瞬ほど硬直した。見慣れた鎧が、彼女を見下ろしている。それもそうだろう。
嵐の要石から出てきたのだ。そこを通る一本の通路にいつも座っているオストラヴァが、いち早く彼女を見つけたのだ。
今、一番知られたくない相手に、真っ先に見られた己の姿。それは直視に耐えがたい、全裸に近い半裸。
彼女は涙がこみ上げる衝動に駆られたが、彼女が取った行動は、それとは真逆のものだった。
「私に、近づかないで!」
そう言ったと同時に彼女は、力いっぱい盾を押し返していた。彼女の力はオストラヴァの上を行く。押し返された盾に押されて、
オストラヴァは一瞬後方へよろめいた。その隙に彼女は踵を返し、嵐の要石の隣にあった腐れ谷の要石に触れていた。
オストラヴァが彼女を追った時にはもう、彼女の姿は腐れ谷へと吸い込まれていた。
オストラヴァは腐れ谷の要石の石碑の前で、呆然と立ち尽くした。押し返された自身の盾を、抱きしめて。追うこともできずに。
否、追うことができようか。非力な自分が、彼女を追って何になるというのか。彼女を追い詰める事にしか、ならないだろうに。
自身が彼女を追い詰めた、王族の一人だというのに。この国の災厄の一つだというのに。