おや、またあんたかい。あの子の為の沢山買っておくれよ。
……なんでこんな所で商売しているかって?今日は随分と饒舌だね……まあ、たまには昔話をしてみようか。
あれは私が若い頃……まあ、今でも若いが、それこそ年端のいかない子供だったころの話さ。
腐れ谷には不治の病があるのさ。毒で徐々に弱っでいき、衰弱して最期には……わかるだろ?
私の父も同じ病にかかってね、医者や薬なんてないから、緩やかに死を向かえていたのさ。
いくら覚悟したって、嫌な事には変わりない。それこそ、どうにかしようと必死だったのさ。
その時出会った谷の外の男が、私に協力してくれた。未だになんで手伝ってくれたかはよくわからない。……ただの気まぐれだったのかもね……。
谷に来ては高そうな薬を譲ってくれるんだ。しかも無償で。
最初の頃は怪しんださ、何か裏があるんだろうって思った。後で高額をふっかけられたり、人身売買されるだろうとね。
介護の甲斐なく父は死んだ……まあ、思ったより安らかだったよ。あの男のお陰だね。
それから数日して、あの男が谷に来た。きっと支払いだと思って覚悟したよ。
子供の私にはあの男に支払える物なんてないから、奴隷になろうとおもったさ。唯一の肉親は死んだし、頼る術はないから。
「しばらく忙しくなるから、谷には行けそうもない。今度くる時は必ず君を花嫁として迎えに行く。少し時間がかかるが、待っていてくれるかい?」
びっくりしたよ、奴隷にされると覚悟していたのに、求婚されたんだから。
流石の私だって驚いて、嬉しくて泣いたさ。……なんだい?その目は……私が嘘言っているように見えるのかい?
まぁ、結局あの男は戻って来なかったよ。私もあの子が産まれて谷から離れる事はないしね。
おあいこじゃないか?
……長話になったね。
ん?結局どうしたって?別に何もないさ。少女は男に施しを受け成長しました……ただそれだけさ。
今でも待っているのかって?……馬鹿言うんじゃないよ。夢で生きられるなら苦労しないさ。
さ、とっとと行きな。まったく、余計な話をしてしまったもんだね……。