断罪者ミラルダは歓喜していた。  
賎しくもソウルに引き寄せられ、このポーレタリアに踏み込んだ魔女をこの手  
でつかまえたのだ。それはポーレタリアに集まりしソウルを護り、ひいては王  
の為になることだとこの狂信的な断罪者は信じて疑わなかった。  
彼女がポーレタリアに居ながら、その姿を保っていられたのもその王への忠誠  
心があるからであった。ただ、未だ見たこともない王に絶対の忠誠を誓う時点  
で人間性を失っていると魔女は言った。ミラルダはその言を許せなかった。  
ミラルダにとってポーレタリア王とは、権力者であり唯一神であった。一辺の  
侮辱も許してはならなかった。  
「ぐっ…」  
「どうだ?苦しいか?」  
王に逆らいし愚か者はいま、ミラルダの足元に背を丸めて倒れている。銀で出  
来た触媒は、魔女が吹き飛ばされたときに一緒に壁にたたき付けられひしゃげ  
てしまった。使い物にはならないだろう。魔女は無力な女であった。  
「愚か者が!王に盾突きし愚物めが!」  
「!?っひぎいぃ!!」  
地に伏す様を酷く汚いと感じ、ミラルダは魔女の背を思い切り蹴った。先程打  
った場所を狙って何度も踏んだ。魔女は顔を真っ赤にさせながらも必死に声を  
抑え、耐えつづける。端正な顔を涙と洟で汚しながら必死に耐えた。  
「ふんっ…!さすがは魔女か。どんな修業をしてきた?どうせ人の風上にも置  
けぬような事をしてきたのだろう?淫猥な下衆め」  
「…」  
「くくく…おい、貴様名前は」  
「……」  
「まだ分からんか!この売女が!!」  
ミラルダは、魔女の髪を乱暴に掴んで顔を向けさせると、それを容赦なく拳打  
した。左右の頬を七回づつ殴ったところでついに魔女の心が折れた。  
「……許…して…」  
「名を聞いている」  
「ひっ!ユ、ユーリア!ユーリアだ!!だからもう殴らないでくれ…!!」  
自分よりも一回り年上の気丈な女が、泣きながら懇願してくる。その姿はミラ  
ルダの嗜虐的な心を揺さぶった。  
「そうかユーリア、貴様生きたいか?」  
「生き…たい…」  
(これは…堪らんな)  
覆面の下でミラルダが笑みを浮かべていこたを、怯えきったユーリアが知る由  
もなかった。  
 
 
心の中でなにかが崩れた。この呪われたポーレタリアに踏み込んだとき、ユー  
リアはこのような事態に陥るなど露とも思わなかった。  
疲労か慢心か−  
敗因が何であったのかなど、今のユーリアには考える余裕もなかった。  
「ついて来い」  
みずみずしい声をした女は長く続く階段に連れて来させた。逆らう事も出来な  
い。恐怖で逃げ出すことも出来なかった。  
「おい、ユーリア。ここにひざまづけ」  
言われるがままにユーリアは石の床に座り込んだ。座り込むと、ミラルダが覆  
面を脱いだ。ショートヘアの野性的な美女がそこにいた。釣り上がった眼、細  
くすっきりとした顎、高い鼻と我の強そうな口許。酷く恐ろしかった。  
「愉しませろよ。ほら」  
「えっ?」  
「このかまととが!」  
「あがっ!?」  
恐ろしく冷たい目をした女は、ユーリアの肩を得物の横腹で殴った。かなりの  
重さがある物なので、ユーリアは骨が軋む音を悶絶しながら聞いた。息をする  
ことすらままならず、湿気で黴た床にはいつくばりながら、体を震わせた。  
「さっさと起きろ!」  
「ひっ…がは……っうげえ……」  
「舐めろ。生きたかったら私を満足させてみろ」  
 
 
「くくく…良いぞ…!犬のようにだ!」  
ユーリアが自分の股間に頭を入れ、必死になって秘所を舐めている。ミラルダ  
はその事実にこそ興奮していた。  
「知れ!自分は惰弱な愚か者であると!!ソウルに魅せられ人から堕ち、あま  
つさえ王に背いた矮小な存在であると!!!」  
濡れそぼち始めた秘所を舐める音の中に、涙を啜る音が混じっていた。罵倒に  
よるものか現状を嘆いてなのか、そんなことはミラルダにとってどうでもよか  
った。自分の股で魔女が泣いている。これほと彼女を愉しませるシチュエーシ  
ョンはそうないだろう。  
ユーリアの黒髪を掴み、自分の秘所に押し付けた。ユーリアは恐怖のなかで訳  
も分からぬままただ舐めつづけた。  
「っあぁ!きひひひ!!…いい!いいぞ!!そうだ!豚のように夢中で貪れ!」  
果てるその時まで、ユーリアの頭を密着させ続けた。ユーリアの好みなどしる  
つもりもない。ただミラルダが自分の愛液を零すことを許さなかった。ユーリ  
アに汚れきった床を舐めさせてまで飲みこませたのはただの嗜好だった。  
「ひひひひ…淫売め。喜べ。今度は貴様を愉しませてやる」  
 
「今日からここがお前の室だ」  
突き飛ばされ、顔を上げると下品でいやらしい笑みの張り付いた公使が、帽子  
の下で品定めをするような目で見ていた。  
「魔女は男を絶つと三日も持たぬのだろう?喜べ、これからいつでも可愛がっ  
てもらえるぞ…ひひひひ」  
ユーリアは全身に力が入らなくなっていた。この女は最悪だ。分かりきってい  
た事を今改めて悟った。  
「早速か?後はたっぷり楽しみな…」  
「待っ…」  
立ち去る女を追おうとしたが、公使ががっちりとユーリアの体を掴んでいた。  
「は、離せ…!離せぇ!!」  
驚くほど力強い腕は、ユーリアを組み敷き、覆いかぶさる公使は絶望を与えた。  
魔女の張り裂けるような絶叫を、と城を繋ぐ道で聞いた断罪者はケタケタと美  
しい笑い声をあげた。  
純潔なる魔女ユーリアはこの時死んだ。身も心も汚れきるまで。光など届くは  
ずもないのだから………  
……………………  
…………  
「っ…!!」  
(また…私は……)  
光が射したのは、二月後の事だった。いまユーリアには愛する人がいる。すべ  
てを受け入れ抱きしめてくれる男がいる。目が合うと優しく口づけをしてくれ  
た。  
「うなされてたな」  
「すまない…」  
「良いさ。落ち着くまでずっと見ててやっから」  
いまは抱擁と口づけが何よりの処方箋。消し去りたい過去を、僅かに、しかし  
確実に薄れさせてくれた。  
「今日はもう一度……したい」  
「あぁ、いいぞ…はっむ……」  
「あっ!…んっ……!」  
汚れたなら洗えばいい、傷ついたなら癒せばいい。男はそう言ってくれた。  
「ねぇ…」  
「ん?」  
「ありがとう…」  
汚れた傷だらけの自分を愛していると言ってくれる。ユーリアは一度キスをせ  
がむと、離れないようしっかりと腕を背に回した。  
 
 

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