パッチから好ましくない話を聞いた。
暗殺者…沈黙の長ユルトが、裂け目からボーレタリアに入った…と。
パッチは思いのほか情報通だ。
他人を陥れるようなことしかしないと思えば、リザイアやビトー、あるいは今回のように有意義な情報を提供してくれる。
特に沈黙の長に関しては私だけでなく、神殿の人間全員が知っておくべきことだろう。
著名な暗殺者がわざわざ生存者の少ない、魔物のうろつく地へとやって来るのだ。
デーモンのソウルに魅せられたとは考えにくい。
恐らく…何者かの依頼によって、生存者の「誰か」を殺すためである可能性が高い。
私の知る限り、今のボーレタリアには生存者は非常に少なく、大多数が神殿に避難している。
ターゲットが不明である以上、各々自分の身を守しかあるまい。
私が神殿にいる時はいいが、他の地へと赴く時はどうしようもない。
身辺に気を付けるよう、皆に知らせる必要がある。
既に神の信徒達や魔術師達には知らせてある。
トマスとボールドウィン、心折れた戦士には真っ先に知らせたので、残すは神殿の二階にいる彼だけだ。
ラトリアの檻に捕らわれていた彼もまた、私と同じくデーモンの討伐を志しているという。
彼に注意を促すため、二階へと続く神殿に足をかけた。
そういえば、私は彼の名前を知らない。
同じデーモンを殺す者として名前を知らないのはあまりにも不便だろう。
彼とはいずれ、共闘することになるかもしれないのだから。
彼のいる二階の端へと向かう。
黒い鎧を身に着けた男は、三方向を壁に囲まれた閉鎖的な場所にいる。
壁に背を預け、視界は決して良くはないだろうに、兜を被ったまま本に目を落としていた。
俯いているので、兜の特徴的な角も下向き加減だ。
声を掛けるのを躊躇う雰囲気ではあるが、今回の情報は共有しなければならない。
何より、彼ほどの実力者ならば本に集中しているように見えても私の気配にはとうに気付いているだろう。
あまり待たせるのも良くない。
「こんばんは。」
「貴公か…どうかしたのか?私に用があるとは珍しい。」
前言撤回、やっぱり共闘はしてくれないかも。
彼は必要最低限すら他人と関わろうとしない。
居場所からして排他的だ。
そんな人が共闘してくれるとは到底考えにくい。
それでも、愛想が無くても人付き合いが悪くても、神殿の人間が死ぬのは避けたいことだ。
後味が悪いし、私と違って彼らは、死んでしまったら終わりなのだから。
「ちょっと情報の提供にね。
…沈黙の長ユルトが裂け目から入ってきたらしいの。
標的が誰かはわからないけど、身辺に注意した方がいいと思って。」
「ほう…?随分と物騒な情報だな。出所はどこだ。」
「秘密。とにかく、どこに隠れてるかわからないから注意してね。
一人でいるのは危険だし、下に来たらどう?」
人付き合いの悪い彼でもこの情報は気になったらしい。
わざわざ自分から質問してくるのだから。
普段は積極的に会話を終わらせて私のことを追い払う。
志を同じくする者同士、仲良くしたいとは思うけどなかなかに難儀だ。
結局黙り込んでしまった彼を少し残念に感じながらも踵を返す。
ふと、先程頭の中に浮かんだ疑問を彼にぶつけてみたくなった。
「折角だから、貴方の名前教えてよ。呼びにくいから。」
少し待ってみても返事は無く、小さく溜め息を洩らした頃にようやく望んでいない返事が返ってきた。
「時が来ればわかるさ。」
彼はそれだけを言うと、私に用は無いとでも言うかのように持っていた本に目を落としてしまった。
本当に無愛想な男だ。
その時がいつ来るのかなんて、まったく予想もつかない。
そもそも来ない可能性が非常に高いのだ。
これ以上ここにいても仕方がないので、とりあえず足を踏み出す。
頭の中は既に沈黙の長対策に切り替わった。
ひょっとしたら、要人が何かしら知っているかも知れない。
ほんの少しでもいい、何か手掛かりになるような情報が欲しい。
僅かな情報から防衛策を立てられる可能性も大いに有り得る。
期待度は低いが、要人の所へ向かおうと決心した時だった。
首に鈍い衝撃が走り、体から力が抜けていった。
制御の効かない体は膝から崩れ、神殿の床が近づいてくる。
完全に倒れ込む前に、私の意識は黒い世界へと落ちていった。
目を開けると、見慣れた床が視界に飛び込んできた。
私は…一体…。
そうだ…神殿の人々に危険を告げた後、何故か倒れてしまったんだ。
床に横たわっていては体が冷え切ってしまうので、起き上がろうと試みて異変に気付く。
――腕が、動かない。
どうやら、腕を縛られているらしく、両手首に圧迫感を感じる。
今の私は後ろ手に縛られ、床に転がされている状態だ。
どうしてこんなことに…。
不器用ではないけれど、自分の腕を縛れる程器用でもない。
もう一度、今の状況を整理してみたほうが良いかもしれない。
意識が無くなる前のことを思い出そうとする私の視界に、特徴的な足が入ってきた。
「ようやく目が覚めたか。よく寝る女だ。」
聞き覚えのある声に顔を上げれば、無愛想な男が目に入った。
嫌な予感しかしない。
先程の言葉と、この状況を見ても変わらない態度から察するに――
「貴方がやったのね…。」
「察しが良い。貴公に動かれては困るからな。少々縛らせてもらった。」
この男の目的が見当もつかない。
デーモンの討伐を目指していると言いながら、デーモンを殺す私が動いては困ると拘束する。
それも平然と。
助けられた恩を仇で返すとは、愛想だけでなく性格まで悪い男だ。
開放してやるべきではなかったのかもしれない。
私の不穏な空気を感じ取ったのか、男が口を開いた。
「私の名前はユルト…沈黙の長、ユルトだ。
ラトリアで開放してくれた事には感謝しているよ。」
愕然とした。
探していた暗殺者は既に神殿の中にいたのだ。
しかも、私自身が手を貸して。
迂闊だった。
神殿の人々を守ろうとしていたのに、逆に危険に晒していたのだ。
「…目的は私か。他の人には手を出さないで。」
体の自由すら利かない私には奴を睨みつけることしかできない。
兜で覆われた顔は当然表情を窺うことはできず、見上げる角度では瞳を見ることすら出来ない。
少しの沈黙の後ユルトは鼻で笑うと、演技じみた動作で両腕を広げた。
「確かに最終的な標的は貴公だが…。
神殿内にいる人間はもれなく殺害対象者だ。」
「な…!」
力のある私だけでなく、力も無ければ罪も無い一般人までも手に掛けようと言うのか。
これまで私を支えてくれた人達の顔が脳裏をよぎる。
デーモン討伐の為に力を貸し、あるいは私が道を外れそうな時は叱咤してくれた人達が、私の不注意な行動故に命の危機に瀕しているのだ。
武器が無ければ何一つ出来ない自分がもどかしい。
自分がこんなにも無力であると感じるのはいつ以来だろうか。
「人でなしめ…。力も罪も無い人間を殺そうとするなんて…。」
「何とでも言うがいい。少なくとも、暗殺者である私にとって先程の言葉は褒め言葉でしかない。
煩い女は嫌いでな…少し態度を改めてもらおうか。」
言いながらユルトは私の目の前に武器をちらつかせる。
暗殺者が好んで使うと言われるショーテルは、おびただしい量の血を吸ってきたであろうにも関わらず、その刃は鏡面のように光を反射している。
振り上げられたギラつく刃物に私は思わず目を閉じ、覚悟を決めた。
しかしいつまで経っても痛みは襲ってこず、かわりにビリビリという音が耳に入る。
不信に思って目を開ければ、布切れが散乱している。
慌てて自分の体を見下ろすと、一糸纏わぬ私の体がそこにはあった。
「なっ…何…」
驚きのあまり言葉すら出ない私にユルトは冷静に言葉を返した。
「言っただろう…態度を改めてもらうと。これで少しは静かになるか?」
「いたっ…!」
言い終わらないうちにユルトは私の乳房を掴んできた。
その手に容赦は無く、痛みを与えるためでしかないことがわかる。
冷たく、堅い鎧の感触に体が跳ねる。
他人に触られたことなどなく、痛みと共に嫌悪感がこみ上げる。
突然の痛みに思わず声が出てしまった。
この男の前では、弱みなんか見せたくないのに。
「ああ、鎧のままでは痛かったか。気が利かなくてすまないな。」
ゴトリ、と手甲が床に落ちると今度は温かい手に同じように掴まれる。
だが、先程と違って力は入っていない。
骨ばった男の手に胸をこねまわされる感覚に体中が粟立つ。
こんなことをしてくるのだから、奴がすることは恐らく私の予想を外れていない。
これから行われるであろう行為に怯え、体を竦ませる私を見て、兜の下の顔が口の端を上げたような気がした。
「ふぅっ…んっ……ぁっ…!」
片手で乳房を弄びながら、もう片手で自分ですら触ったことのない場所を掻き回される。
時々指を抜かれ、ある一点を触られると声が抑える事が出来ない。
知識でしか知らず、意志に反する行為は私に恐怖と屈辱を与える。
胸への刺激が止み、カチャリ、と金属音がしたと思うと、私のレイピアがユルトの手に収まっているのが見えた。
但し、本体は床に放られており、あるのは鞘だけである。
レイピアの鞘を秘部に当てると、血の気の引いた私を無視して中に挿れてきた。
「ああぁっ!い、痛いっ!やめてっ!」
指より太く、堅い鞘が私の中に入っている。
ユルトは鞘を動かし、先の行為で見つけた私の反応する場所を擦り上げてくる。
最初こそ痛みしかないものの、やがて快感に変わり、声を抑えることが出来なくなる。
早く殺して欲しい。
そうすれば、楔の神殿に捕らわれた私の魂はソウル体として蘇ることができるのに。
与えられていた感覚から突如解放され、瞑っていた目を開くと、緑色が近づいきていた。
反射的に再び目を瞑れば、布のようなものを巻かれた。
多分、私の着ていた服で目を隠されてしまったのだろう。
視界を塞がれ、通常より神経が鋭敏になった胸元に鋭い痛みが走る。
次は大腿、脇腹、首というように痛みが走る。
出血はしているだろうが、どれも傷は浅く、怪我とすら呼べない引っかき傷程度だ。
拷問でも始めるのかと思っていると、傷口に生暖かく、湿ったものがあてられる。
「ひゃっ!な、何っ!?」
傷口を動き回る物体の表面はザラザラしていて、不思議な感覚に包まれる。
これは…舌…?
「貴公の肌は白いから血が映える。」
言いながらも体に傷を付けるのは忘れない。
血を求めて体中を這い回っていた舌は、やがて口内に侵入してきた。
口の中を暴れ回る舌から逃げようとするも、生き物のように動き回られては逃げられない。
私の舌は絡め取られ、表現しようのない感覚に鳥肌が立つ。
苦い、金属の独特な味が口の中を占める。
最後に強く吸われると、ようやく解放された。
息苦しさに酸素を求めて大きく呼吸する。
空気を取り込むことに必死になっていた私は、体内から物を抜かれる感覚でようやく我に返る。
予想外の出来事に大きく声をあげてしまった。
目が見えなくてもわかる、私の体を弄んでいる男は厭らしい笑みを浮かべているに違いない。
ガチャガチャと金属のぶつかる音、重量の有るものが床に落ちる音が聞こえた後、秘部に何かがあてがわれる。
何であるかを判断するより早く、それまでとは比べものにならない程の質量が体の中に侵入してきた。
「ああぁあぁっ!?」
痛くて堪らない。
自分の体に何が起こっているのか理解出来ない。
刃物で斬りつけられるのとは全く違う鈍痛に涙が溢れる。
パァンパァンと肌がぶつかり合う音と、グチャグチャとした粘質的な音と共に体内の巨大な質量が出入りを繰り返す。
痛みを伝えても、プライドを捨てて止めるように懇願してもユルトは止めてくれない。
何度も何度も貫かれるうちに、巨大な質量がある一点を掠めた。
「ああぁっ!んっ…!」
自分の声とは思えない甲高い声が口から出る度に、重点的にそこを攻められる。
いつしか痛みは感じなくなり、与えられるのは快感だけになった。
やがて頭の中が白くなってきて、目の前に火花が散るようになる。
体の末端には痺れが走り、下腹部はズキズキと独特な感覚に満たされる。
ユルトの動きが激しくなると、ついに目の前が真っ白になった。
「ああぁあっ!!…ぁっ…あぁ…」
体に力が入らない。気だるい。
状況が全くわからない私に、言葉が落ちてきた。
「絶頂を迎えたか…犯されているというのに、大した女だ…。」
どうやら私はイってしまったらしい。
まともな思考も、体に力も戻る前に男根を抜かれてうつ伏せにされ、腰を高く上げさせられる。
間髪入れず、再び男根が挿入された。
「んあぁあっ!」
先程よりも深く、ずっと奥に。
凄い圧迫感に息が出来なくなる。
呼吸を整える暇もなく動かれてしまった。
動きは早く、ただ浅ましい声をあげることしか出来ない。
高貴な家柄の娘として生を受け、ボーレタリアに入ってからは英雄とまで呼ばれた今の私は、醜いメスでしかない。
そんな自分に感じる嫌悪感すら、快楽に打ち消されてしまう。
目を塞がれているために敏感になった体は背中を流れ落ちる汗の僅かな刺激にも感じてしまい、後ろにいるユルトの動きまで手に取るようにわかる。
「デーモンを殺す者もこの程度とは…。所詮は人間の女ということか。
今の自分の姿を見せてやりたいものだな。」
ユルトが何かを口にしているけれど理解できない、聞こえない。
視界が白さを増してくる。
先程も体験したこの感覚。
早く欲しい、でも怖い。
お願い、怖がりな私を早く導いて。
ユルトの腰の動きが一層早くなり、呻き声と共に体の一番奥に熱い何かが注ぎ込まれる。
まるでそれが合図であるかのように、視界が真っ白になった。
「もっ、だめぇっ…!…っああぁあぁああーっっ!!」
絶頂を迎えた私の意識は、混沌とした闇の中に堕ちていった。
風船から空気が抜けるような独特な音と共に、体にソウルが集まってくるのを感じる。
楔の神殿の住人のソウルは、全て私に集まってくる。
これが何度目なのかすら思い出すことが出来ない。
もはや神殿の住人のほとんどが姿を消してしまったのだろうか。
守りたかった人達を、力の無い私は守ることが出来なかったのだ。
今の私は壁から伸びる鎖に腕を拘束され、動くことが出来ない状態にある。
相変わらず目隠しをされ、同じく愛剣レイピアの鞘が中ほどまで体の中にある。
身じろぎをする度、鞘が内側を擦って息を乱す。
腰を動かせば更なる高みへと向かうことはわかっているが、そんなことはしない。
もっと良いモノが貰えるのを知っているから。
「いい子にしていたようだな。」
重厚な金属音と共に、人間の気配が近付いてくる。
私の前に片膝を着いたと思われるユルトは手甲を外すと、柔らかく私の頬に触れた。
温かな手に顔をすり寄せると、ユルトが小さく笑ったのを感じた。
「うん…大人しくしてたから…だから、早くちょうだい…?」
頬を撫でていた手が頭を撫でた後、自らの鎧に手を掛けているのを感じた。
人はこれを悲劇と呼ぶのかもしれない。
それでもいい。
私には、これが幸せなのだから。
目尻から溢れた涙は私から光を奪う布に吸い込まれ、消えた。