良き王に統治され、ソウルの業という力により繁栄した我が祖国ボーレタリアは、乱心した王が目覚めさせた古い獣が生み出した色の無い濃霧、そして無数のデーモン達に因って滅んだ。  
遥か南の国に渡っていた私は、ボーレタリア滅亡の報せを受け、矢も盾もたまらず祖国に舞い戻った。  
賢王と呼ばれたオーラント王が乱心したとは信じられなかったのだ。  
色の無い濃霧に閉ざされ、隔絶された我が祖国ボーレタリア。  
何者かの声に導かれ、霧の裂け目からボーレタリア内部に侵入する事に成功した私が見た物は、デーモンに因って蹂躙された王城と、ソウルを奪われ亡霊のように城を徘徊する兵士達の姿だった。  
嘗て栄華を誇ったボーレタリア王城は、夥しい屍と血に塗れ、見る影も無くなっていた。  
 
「この惨劇を本当に王が招いたと言うのか……」  
 
信じられなかった。誰よりも民の事を考えていた王が、この様な悲劇を引き起こすなど……。  
確かめなければならない……。直接、王に会って事の真相を問い質すのだ!  
私はオーラント王が見下ろしているであろう、王の間へ向かう為に歩き出した。  
途中に立ちはだかる祖国の民を斬り伏せるのは気が引けたが、引き返す訳にはいかなかった。  
だが、多勢に無勢。ソウルを奪われ、人としての意思を失った虜囚の兵とは言え、数で攻められてはどうする事もできない。  
防戦を余儀なくされた私は、ジリジリと後退し続け、気付くと、いつの間にか迷宮の様な城の行き止まりに追い込まれていた。  
絶体絶命の危機、その窮地を救ってくれたのが君だった。  
楔の神殿で灯火を守る黒衣の少女に“魔を殺す者”と呼ばれ、実際に強壮なデーモンを屠ってきた君……。  
その後も私は幾度と無く君に危機を救われた。  
私は逢う度に強さを増す君を羨望の想いで見つめ、君の中に“英雄”と呼ばれる者の資質を見た。  
我が友よ……それは私には無い力だ……。  
君に助けられながら、私は城の抜け道を利用し、遂に王城の最深部である王の間へと辿り着いた。  
王の間を閉ざす霧を抜けた奥には、瓦礫となった玉座に座り、崩れ落ちた城壁から城下を見下ろす人影が在った。  
それが……歴代の中で最も公明正大にして、賢王と称えられた、現ボーレタリア王 オーラント。  
「……謁見を求めに参りました……オーラント王よ……」  
私は薄暗い王の間を進み、王へと歩み寄った。  
オーラント王は無言で玉座から立ち上がると此方を振り返った。その背からは色の無い霧が湧き上がり、翼の様に拡がっている。鋭い眼光が射抜くように私を見据えていた。  
私は怖気を覚えた。その姿には嘗ての面影が窺えない。感じる重圧は人の物とは思えなかった。  
(王よ……貴方は一体―――!?)  
次の瞬間、私は我が目を疑った。  
一瞬腰を落とし、溜めの構えを見せた王の体が、いきなり間合いを詰めて迫って来たのだ。  
走り寄ると言った生易しい速度では無い。それはまさに飛翔と言った方が正しい表現だ。  
王の左手が、身構える事すら出来なかった私の首根を掴むと、信じられない事に、鎧を纏った私の身体を片腕で持ち上げた。右手に握られた風変わりな意匠を持つ剣の刀身がギラリと輝いている。  
(そうか、これが伝承の剣……“魔剣ソウルブランド”―――!)  
抗う事も出来ない私の身体を、ソウルブランドが一方的に貫いた。  
 
王の間へ繋がる昇降機を降り、よろよろと回廊を進み、城の外へ脱出しようと階段を下った所で私の脚は力尽き膝を付いた。  
私の身体を貫いた王の攻撃は、不思議な事に致命傷とはならなかった。  
命からがら王の下から逃げ延びる事はできたが、もはや此処までか……。  
ふと顔を上げると回廊の入り口に、逆光を背負った人影が立っていた。  
その見慣れた姿を見て、私は苦笑いを浮かべる。  
(四度目……君は私の危機に必ずやって来てくれる……でも、今度は間に合いませんでしたね……)  
私の下に駆け寄り、介抱しようとする君の手を止めて私は言った。  
「この上に王が居ます……いや、オーラント王の姿をした、ただのデーモンでしょうが……真意を問い、諌めようと、無謀な旅を続けてきましたが、独りよがりの茶番だったようです……お願いです、王を殺してください……あれはもう、人の世に仇なすものでしかありません」  
私は鎧に付けられた皮鞄から鍵を取り出し、それを君に差し出した。  
今更かもしれないが、最後にこの鍵を君に託そう……。  
これは“霊廟の鍵”  
ボーレタリア建国の祖にして、現在も生き続けていると伝えられる、古の王ドランを奉る墓所を開く鍵。  
「……ボーレタリア霊廟の鍵です。霊廟には、王の剣、ソウルブランドと対をなすデモンブランドが祀られています……」  
話しながら私は霊廟での出来事を思い出していた。  
そう、あの時……君が赤眼の槍騎士を倒し、霊廟へ向かった時……私はこっそりと君の後を追いかけていたのだ。  
霊廟を閉ざす扉に掛けられた鍵は、魔術的な作用が用いられているのか、如何な手段を用いようと開く事も破壊する事も出来ない。  
諦めて引き返す君を物陰でやり過ごし、君が去ったのを見届けてから、私はこの鍵を用い霊廟の封印を解いた。  
しかし、霊廟の中にはボーレタリア建国の開祖、ドランの姿は無かった。  
伝説はやはり伝説……。  
落胆し引き返そうとした私の耳に威厳のある男の声が響いた。  
それこそが古の王ドラン。  
ボーレタリアの伝承に伝わる、建国の王にして半神。  
姿を見せない彼に、私は力求めた。  
善意を力に変え、魔を狩るデモンブランド。  
悪意を力に変え、神と人に仇なすソウルブランド。  
ボーレタリア王家の伝承に伝わる二振りの剣の力を―――!  
ドランの声は私に語って聞かせた。  
ソウルブランドは既にオーラント王が霊廟より持ち去り、そして旧き獣の眠りを解いたのだと……。  
祖として現王の狂気を止められなかったのは自分の落ち度である。だからこそ、もう一方の聖剣デモンブランは、手にする者の実力を見定めなければならない。  
我が試練を乗り越えた者にのみ、デモンブランドは託すと。  
私は、その試練を授けてくれるようドランに請うた。  
王が魔剣を手にしたなら尚更だ。対するには、もう一方の“聖剣デモンブランド”の力が必要だ。  
 
「我が末よ……残念だが、お前にデモンブランドは使いこなせん……」  
 
だが、ドランは無慈悲に告げる。  
 
「お前は、この剣を託すに相応しい者を見定め、この場所に導くのだ……それがお前の役目だ」  
 
それが使命……非力な私には似合いの役目……私の器か……。  
私は認められなかったのだ。  
自嘲めいた笑みが浮かぶ。  
私には試練を受ける事は叶わなかったが、君なら……君ならドランの試練を乗り越え、あの剣を手にする事ができる筈だ。  
悪魔を屠る者……“英雄”の資質を持つ君にならば!  
最後に君に会えた事は運命だろう。  
古の王ドランよ……私は自分の使命を果たしました……。  
ふと、意識が遠のく……どうやら私の命ももはや此処までのようだ……。  
私は改めて君の顔を見上げた。逆光と朦朧として行く意識で君の顔が霞んで見える。  
唇は空気を求める魚のように開くだけで、言葉を発する事はもはや出来ない。  
(伝えきれませんでしたね……)  
口元に苦笑雑じりの弱弱しい笑みが浮かぶ。  
私は本当は……君が……君の力が……君の存在が……。  
 
 
―――妬ましかったのだ―――。  
 
 
気が付くと、私は暗い回廊に立っていた。  
何処かで見た事のある風景。背後には王の前と続く昇降機があり、細い回廊の脇は奈落に繋がる暗闇が広がっている。その回廊の先に光が見える。外界から入ってくる眩い陽光、その中に君が居る。  
君の腕の中で看取られ、ソウルの輝きとなって私の身体が散華して逝く。  
それが私の姿であるならば―――。  
では今、此処に存在する私は何なのだ?  
私は自らの身体を見下ろした。  
黒く染まった自分の身体を燃え上がる焔の様に緋色のソウルが覆っている。  
……ああ、そういう事か―――。  
私は妙に納得していた。  
やり残した事が有る……心残りな事が有る……だから私は踏み止まったのか。  
今なら解る。  
ドランが私にはソウルブランドを使いこなせないと言った理由が……彼は気付いていたのだ。私の魂の本質に……暗い炎を宿したソウルに……。  
私に相応しかったのは、きっとオーラント王が手にした物と同じく、魔剣ソウルブランドなのだろう。  
血脈とは怖い物だ……私の顔が暗い悦びに歪む。  
だが今は感謝しよう。  
その血のお陰で、私は再び君に見(まみ)える事が出来たのだから。  
 
散華する私のソウルは、空中を漂った後、君の身体に吸い込まれる様に消えていった。  
そうやって数多の悪魔からソウルを啜って力を得たのか……。  
 
『救世の魔人』  
 
笑わせてくれる。君の力は自らが屠ってきた悪魔その物ではないか!  
立ち上がった君は王の間へ向かう回廊に眼を向け……そして私に気付いた。  
その顔に驚きと困惑の表情が浮かんでいる。  
そうだろう、君はそういう人だ。  
悦びを押さえられずに私は哂った。  
今こそ君に刻み付けよう、伝えられなかった私の想いを!  
我が名はオストラヴァ! いや、オーラント王の寵児アリオナ!  
ボーレタリアの王子にして神と人の敵!  
君への嫉妬に燃える黒い亡霊(ファントム)!  
さあ、戦おう……勝敗等はどうでも良い。最後の一瞬まで、私の存在を君に印す為に!  
私はルーンソードを構えつつ、君に向かって駆け出した―――。  
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇  
 
この世界は悲劇なのだろうか……?  
誰かが言っていた。  
それを高らかに否定しよう。  
「否、断じて違う! この悦びが、この昂ぶりが……悲劇であろう筈が無い!」  
 
 
「貴様……! 解らないか……本当は誰も望んではいないのだ……」  
結局……悪魔になりそこない、醜い異形となってまで、オーラント王が成したかった事が何だったのか私には解らなかった。  
いや、今となっては理解したいとさえ思わない。  
そう、全ては終わったのだ……多くの犠牲、屍の山を積みあげてやっと……。  
「これで全てが終わりました……」  
聞きなれた声に振り返ると、火防女が摺り足でこちらに近付いて来ていた。  
「デーモンを殺す方、あなたは、このまま上に戻ってください。もう、楔があなたを繋ぎとめることはありません……私は、獣を再びまどろみに導きます。  
私は、獣と共に久しく眠り、私たちがあるべき姿にかえりましょう。あなたは、このまま、あなたたちの世界に戻ってください……」  
火防女はそう言って、持っていた灯火杖を投げ出すと、獣の核が放つソウルの光に手をかざした。  
私は彼女の言葉を聞き動揺していた。  
帰る……私だけが?  
要人や賢者、聖者にことごとく疎まれる哀れな少女を……。  
要石の前で私の帰還を待ってくれていた、優しい少女を見捨てて帰る?  
私は思わず火防女を後ろから抱きしめていた。  
火防女が動揺したように、短く「あ……っ」と声を漏らす。  
「な、何をなさいます……」  
戸惑い言葉を発するが、そこに拒絶の意思は無い。  
「君を置き去りにして帰る事などできるわけない! 好きなんだ……君が……」  
何時から? いや多分、初めて逢った時からずっと……私は君に恋していたのだ。  
「私は……人ではないのですよ……」  
伏し目がちに呟く火防女。  
彼女が最も古いデーモンの一つであると要人から聞いたことがある。  
だが、それでも……!  
「君を……愛している」  
私は振り返った彼女の口に唇を重ね塞いだ。  
 
唇をこじ開け、戸惑い恐れる火防女の舌を強引に絡ませると、彼女の身体から力が抜けていった。  
彼女の服越しに身体を弄っていると、火防女はもどかしそうに身を捩じらせた。  
「あの……」  
唇を離すと火防女は躊躇う様を見せる。  
「直接……私の中に触れてください……」  
そう言って彼女は恥ずかしそうに着物を解いた。  
彼女の衣がどのような構造になっているのか理解できないが、それは帯状になってスルスルと彼女の足元に解けて落ちた。  
一糸まとわぬ彼女は、恥ずかし気に股間の前で腕を組み秘所を隠しているが、見かけより豊満な身体をしていた。  
細身で引き締まった腰、その上に在る程良い大きさの乳房の頂に、彼女に似た控え目な桜色の突起がツンと上を向いている。  
「……綺麗だよ……とても……」  
自身も鎧と衣服を脱いだ私は、彼女の裸身に見惚れながら近付くと、右手で彼女の左乳房を鷲掴みにし、優しく捏ね上げた。  
空いた右の乳房に顔を近づけ、乳首に口付けると、舌先で堅くなっていく乳首を弄びながら吸い上げる。  
「あ……あぁ……ぅあ……」  
声を押し殺し小さく喘ぐ火防女が堪らなく愛しい。  
私はゆっくりと腰を落としながら、彼女の身体を這わせる舌を焦らしつつ下げて行く。毛の薄い恥丘をなぞり、陰唇に辿り着いた。  
「あ……あぅん……くんっ……!」  
火防女の嬌声は徐々に大きくなっている。  
その甘い声に満足しながら、私は右手の中指を彼女の膣口に指を埋めた。剣を使うため、ごつごつした私の指が、熱い柔肉を分け、ずぶずぶと彼女の体内に侵入していく。彼女の膣内はしとどに濡れており、私の指を抵抗する事無く受け入れている。  
「ひ……っ! あ……そこは……!」  
一瞬、彼女の腰が引けるが私はそれを許さず、左腕で彼女の腰を抱き止め膣内の愛撫を繰り返した。  
火防女は逃げられない腰を捩じらせ快感に喘ぐ。  
指の出し入れを続けながら、充血した陰核に舌を這わせ、嘗め回し、吸い上げる。  
「あ……あぁ……ん―――っ!」  
彼女の鳴き声を聞きながら、左手で自分の快楽を求め陰部を擦る。  
「お……お願いです……あ……もう、これ以上は……ぅん!」  
上気し蕩けた顔で懇願する火防女の愛らしさに微笑む。  
火防女は踝ほどまである水面に腰を下ろすと、両腕で身体を支え、細い両脚を開脚させる。  
「ちょっと……恥ずかしいです……」  
僅かに頬を赤らめる火防女に軽く口付けると、私も彼女と同じ様な姿勢を取り、脚を絡め互いの秘所を合わせた。  
どちらからともなく腰を動かすと、既に潤んでいた二つの秘所から、更に愛液が溢れ出し、擦れるほど淫靡な水音が響き渡る。  
「あ……あぁ……あ……気持ち……ぃ……!」  
動きにあわせ、火防女の口から微かな喘ぎ声が漏れる。  
互いの勃起した陰核が触れる度、快感の波が脊椎を走り抜ける。  
「う……あぁ……もう―――っ!」  
快感が激しい波のように押し寄せ、意識が白く飛びかける。  
それは彼女も同じだったようだ。  
「私も……いぃ……あ……ああぁ―――っ!」  
訪れた絶頂が意識を飛ばす。今は世界の行く末など考えず、ただ快楽がもたらす余韻に酔っていたかった。  
 
 
束の間の情事が終わり、再び黒衣を纏った少女は乱れた濡れ髪を直しながら、私に背を向け話し出す。  
「ありがとうございました。あなたのおかげで、やっと、役目を終えることができます……」  
だが、その後姿が……発する言葉が微かに震えている。  
彼女は獣を封じる使命から逃げ出す事が出来ない。  
限りない時と世界を生きる少女の悲しみ、孤独を押し殺した強さ……。  
別れが現実となった今こそ理解できる。  
愛する事の辛さを。  
愛する事の悲しさを。  
愛する事の寂しさを。  
愛する事の痛みを。  
そして、それらを内包する無上の喜びを……だから―――。  
「私も君と一緒に居るよ……」  
火防女を背後から抱きしめた私の言葉に、彼女は一瞬、身体の力を抜くが、その甘い誘いに抗って私を突き放した。  
「いけません……世界はまだあなたを必要としています……戻ってくださ―――」  
私は火防女の身体を強く抱き寄せると、強引に口付け彼女の言葉を奪った。  
舌を差し入れると、始めは抵抗していた彼女だったが、やがておずおずと舌を絡ませ激しく互いを貪った。  
名残惜しそうに唇を離し、互いに大きく吐息を吐く。  
「君と共に居るよ……永遠(いつ)までも……これは私が選んだ結末……私だけの物語だ……」  
「ここまで来たのに……あなたは愚かです……本当に……愚かな人……」  
「いいさ、それでも・・・…私は世界よりも……愛しいモノを見つけたから……」  
強く抱きしめあい、互いを確認する二人を……結して祝福されない選択をしてしまった愚かな二人を……獣が放つソウルの光が儚く照らしていた。  
 
そして、再びまどろみに付いた旧い獣の中で、火防女と魔を屠る者は共に眠りに付いた。  
愛と言う名の甘美な毒が少女を無限の孤独から救い、代わりに世界を終焉と導く。  
要を失った世界は、ゆっくりと滅びに向かおうとしているが、それは彼女達の知る事ではなかった。  
拡散する世界。  
泡立つ並列宇宙(セカイ)の中で、同じ目的の為に戦う“魔を滅する者”達の歩み……。  
これは、その中で繰り広げられた一つの物語の結末である―――。  
 

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