「はぁっ!」
「――っ!」
私の放った一撃が、ガルの得物を弾き飛ばした。
木製の直剣が宙を舞い、乾いた音を立てて石畳に転がる。
ガルはその場にへたりこみ、肩で息をしながら悔しげに苦笑いした。
「姉上には、かないませんね」
「その歳で追い抜かれたら、私が困りますよ」
私はそう言ってガルに微笑みかけた。本当は抜かれても構わないけれど。
実際、彼が私を追い抜くのは、時間の問題だと思う。どう考えても私が十六の時、ここまでの腕はなかった。
「立てますか?」
私がからかい半分にそう言うと
「平気ですよ」
ガルは照れ臭そうに笑って立ち上がり、軽く深呼吸して真剣な眼差しを私に向けた。
「あの……どうですか? 姉上から見て私は」
それはどういう意味で? なんて場違いな返事を返しそうになる。
私は少し鼓動が早まり、頬が赤くなるのを感じた。
「そうね……しいていうなら、真っ直ぐすぎますかね」
「そうですか……」
ガルは神妙な顔をして腕を組んだ。自覚していたというような雰囲気だ。
「でも、無理に変えない方がいいかもしれません。その辺りはゆっくり考えましょう」
「分かりました」
ガルが頷くのを見ながら考えてみたけれど、他にいうべきことは思い浮かばなかった。
「うん、今日はここまで。汗を流して休みなさい」
「はい」
ガルは自分の模擬剣を拾いあげ、私に深々と頭を下げる。
「ありがとうございました、姉上」
「ええ。お休みなさい、アンバサ」
「アンバサ」
去って行くガルの背中を眺めながら、私は溜息をついた。
「もう……」
俯いて地の一点をみつめていると、自分への嫌悪感が湧き出してきた。
体中を運動後のそれとは別の熱が満たしているのを感じる。
(また、こんなことで濡れてる……)
いつからか弟に剣の稽古をつけることに性的な興奮を覚えるようになってしまった。
特に実戦的な訓練を行うことは、なんとなく男女の交わりを想起させる。
それも最近は、殆ど毎日のように相手をしているのだから、ある意味たまったものではない。
(今日も、すごかった……)
今日行った何度かの剣戟を思い出すと、体が震えた。
誰相手にも礼節をかかさない日頃の様子と一見相反する、獣のように力強いスタイル。
ガルの根の愚直さが如実に表れている一方で、普段あまり見えない男としての一面を強烈に意識させるそれは、いつも私にあらぬ願望を抱かせる。
(あんな風にがむしゃらに犯してくれないかしら……)
そんな願望が叶うはずはないと理解してはいる。
姉であるから、というのが一番の問題、でも、そうでなくとも望みはないだろう。
聖騎士とは名ばかりにふしだらな品行の者は多いけれど、ガルは未だそれらに染まることはないし、これからもなさそう。
そうでなければここまで惹かれることもなかったという面もあるので、もどかしいジレンマだ。
「仕方、ありませんよね……」
私はまた一つ溜息をついて、疼く体を引き摺り自室へ戻ることにした。
「はぁー……」
水を浴びても、眠ろうとベッドに横たわっても、淫らな衝動はおさまらなかった。
(ガル……)
仰向けになって天井を眺めながら、陰部に手を伸ばす。
そこは先ほど洗い流したにも関わらず、再びべったりと濡れている。
裂け目を少し開くように指を動かすと、新たに溢れた体液が指に絡みついた。
(あぁ……溢れちゃう……)
それを塗りたくるように、恥丘を掌で包み込んでもみほぐす。
少しもどかしいような快感が、下半身に広がる。
「あう……ん……」
胸がじんじんと切なくなったので、あいている手をあてがう。
中央の突起はすでに硬くしこり、刺激を待ち望んでいた。
(……ガルは大きいほうが好きかしら?)
一瞬劣等感を感じたが、すぐにどうでもよくなった。
薄くとも平時よりは張りを増した乳房をこねくりまわし、乳首をこりこりと摘みあげる。
「んんっ……あっ……!」
そこと陰部で生まれた快楽に呼応するように、へその下辺りがむずむずしだした。
切なくてたまらない。体の芯まで火照り、高熱に浮かされたような感覚に陥る。
「ふぁ……あぅ……」
陰部に伸ばした手の方も、より強い快感を求めて硬く膨らんだ突起を探り、軽く挟んで擦る。
「ああぁぁ……ガルぅ……」
充血した敏感な突起を、わざと包皮ではさむようにして扱くのがたまらない。
腰が引けそうになるのを、思い切り押さえつけて摩擦しつづける。
「はうっ……くぅぅ……!」
痺れるような快楽の中で、ガルの屈託のない笑顔が浮かんだ。
こんな浅ましい欲望とは無縁そうな弟の笑顔――私は急に罪悪感にかられた。
「ガル、ごめんなさい……姉上は変態です……」
声に出して詫びると、今度は別の欲望が首をもたげた。
「だから、お仕置きして……っ!」
乳首をつねり、秘裂へ乱暴に指を二本突き入れる。
「あぁっ! だめぇ……!」
鋭い痛みが走り、涙が溢れた。
それでも、子宮の切なさは刻々と増して行く。
「姉上謝りますからっ……もう痛くしないでぇ……!」
言葉とは裏腹に、より暴力的に自身の指で自身を犯す。
倒錯的な妄想は私だけの現実となり、確かにそこへ具現化した。
ガルの幻影が冷淡な笑みを浮かべて、私を見下ろしている。
最愛の弟が失望と侮蔑を以て、欲望を吐き出すためだけに、私を貫いているのだ。
「壊れ、ちゃうっ! やめてっ……!」
拒絶の言葉を紡ぐたびに、肉の壁が生き物のように蠢くのを感じた。
ガルは無言で私の最奥をえぐるように責め立てる。
「ああっ、深いっ……!」
乱れる私を咎めるように、乳首を潰そうとしてくる。
「つっ! ごめんなさい……ごめんなさい……」
私が必死にあやまると、ガルは私の浅い谷間にキスしてくれた。
しかし、そこに愛はない。弟に欲情するような私はガルに愛してもらえない。
これは愛がなくとも悦んでしまう私に対する残酷な責め。
「酷、い……! ひどいよぉ……!」
悔しくて涙が出たが、それを拭うことも出来ない。
ガルは意に介さない様子で、吐き出すための動きを繰り返す。
陰部を異物が出入りするたびに、いやらしい水音が響く。
「ひぁっ……酷くてもいいですっ! も、もっと、もっと――」
そう、こうやって獣みたいに、
「変態の姉上をっ……めちゃめちゃに、してっ……!」
そして、そして、
「孕ませてっ……! 弟のっ、ガルの子種でっ!」
強烈な快感とともに体中が強張り、目の前が白くなった。
「ゃあうぅぅぅっ!」
現実と虚構がないまぜになり、私の膣内をガルの精が満たす。
ついに、私に禁忌の子を身籠らせようとしているのだ。
「う、あ……本当に……」
私の中に最後の一滴まで注ぎ込んで、異物は去った。
物欲しげに口をあけた膣口から、ガルの名残が流れ出るような気がした。
「あ……あ……」
背徳と悦びに、私の身体は何度か小刻みに震えた。
「ガ、ル……」
それが収まると、景色が急激に色を取り戻した。
同時に、私を脱力感が襲う。
「ふぁぁ……」
体中が重いけれど、溶けてしまいそうなほど心地いい。
そのまま眠ろうかと思ったけれど、息が整うと私の心は再び貪欲さを取り戻していた。
「え、へへ、もっといじめて……」
私は再びの白昼夢を求めて、陰部を弄った。
「んんっ……ガル……愛してる……」
翌晩。
いつものように中庭で、ガルと対峙する。
「よろしくお願いします」
ガルはそう言って礼をし、模擬剣を構えた。
私も迎え撃つべく、神経を集中する。
「どこからでも来なさい」
ガルの真っ直ぐな眼差しが、私を舐めるように観察しているのが分かる。
無論、彼としては打ち込む隙を見極めようとしているだけなのだけれど――
(ああ……そんな目で見ないで……)
私は鎧の下で、はやくも淫らな熱気が渦巻くのを感じた。
(今夜もあんまり眠れないかしら)
心の中で口の端を歪めながら、ガルと視線を絡ませる。
雲の切れ間から溢れた月の光が、私たちだけを照らしていた。