地を追われた者達の嘆息や雄叫びが不気味に轟いている渓谷。
神の目も流石に届かないだろう、その仄暗い穴の底を約束の地として
聖騎士と乙女アストラエアはついに戻らないそうだ。
これの討伐に向かったのは同じく神に仕える信仰深き少女である。
名をマノンといった。事件は噂ばかりの冒涜で、霧に阻まれる
この世界ではあまりにも情報が少ない。彼女は命を受けて尚、
御仁の消息については聖ウルベインのように脱出が難しくなり、
不浄の地で今も助けを待っているのではないかという思いを抱いていた。
一刻も早く、二人を見つけなければーーーー
ふいに蛭の塊を蹴散らした時の感触が体に蘇り、大きく身震いをする。
それを見て、家柄の良さそうな長髪の青年は励ますように笑った。
先陣をきる神殿騎士が二人に向き直り、改めて拳を高々と突き上げた。
その手に握られた竿状の武器は、少女の身の丈程もありそうだ。
今回の旅では、神だけでなく仲間が共にいる。それだけで
纏わりつくように重い、この谷の瘴気が晴れていくような気がした。
崖に沿ってへばり付くように伸びる板橋は、湿気と毒をたっぷりと含んで
今にも腐り落ちそうに軋む。細く続く足場を、なるべく下を見ないように歩いた。
少し広い場所に待ち構えていた松明持ちを倒し一行が一息ついたその時、
谷特有の濃霧では無い、暗く憎悪に近いようなソウルの気配が流れ込んできた。
皆が身を固めて目を凝らしていたにも拘らず、突然、貴族の腹を黒い刃が貫いた。
背後からの一撃に青年が一つ呻き声を上げ、音も無く塵と化してしまう。
黒い来訪者に動揺が隠せない。向こう岸に建った橋は、矢を射る程度では
渡せそうにもない。マノンは咄嗟に黒ファントムの前へ立ちはだかり、後ろ手で
上がった橋を指差す。騎士はその意図を汲み、底の知れぬ沼地へ勢いよく飛込んだ。
黒いファントムの得物は、見たことの無い、禍々しく捻れた大剣だった。
盾で受ける度に腕の骨が痺れ、マノンは歯を食いしばる。
「神に仇なす者に負けるわけにはっ」
懸命に間合いを詰めていく彼女の背後に、耳障りな羽音が近づいてくる。
気が付いた時には大蚊の攻撃を許していた。勢い良く噴射された血に、
全ての視界が奪われる。がむしゃらに振るったメイスは敵に届かず、
大剣の切先が轟音と共に小さな体を吹き飛ばす。後ろは崖だ。
彼女は空中に投げ出され、遥か下の毒池が汚い飛沫を上げた。
すぐに体を起こしたはずだが、思うように動かない。腐れ谷の沼地が
これほどまでに淀んでいるとはと、彼女はよろよろと陸地を求めた。
何歩も進まぬうちに遠くで水が跳ね、黒い影が近づいてくる。
ただでさえ立ち行かぬ体に、みるみるうちに毒が染み渡りはじめた。
「大丈夫よ、この武器は神のご加護を受けているんだから…」
両手をぎゅっと握り、念の為に身に着けていた貴重な指輪にも祈りを込め、
黒ファントムに対峙した。すると、彼女の揺ぎ無い瞳を見るともなしに
男が武器を持ち替えた。それもまた、マノンが目にした事のない
巨大な銛のような大槍だった。角の生えた兜を被り、上半身を露にしている。
ふざけたような格好だが、相手の余裕とも思え、また得物の不気味さを一層
際立たせているようで、マノンは冷や汗を拭うことも出来ずに盾を構え続ける。
小さな体で機敏な立ち回りを常としている彼女には、沼地は最悪の舞台だった。
男が沈黙を破り、少女の周りを回るようにして槍を突いていく。
辛抱強く相手の疲労を待つつもりだったのだが、ものの数発の打撃で、
彼女の盾は無残に打ち砕かれた。
「なっ…」
盾を構えた時点で、削り取る槍に対して無知であることをマノンは語ってしまった。
兜の下から笑いを押し殺すような息が漏れてくる。彼女の白い頬に青みがさす。
その間にも全身に回った毒は淡々と体力を奪おうとするが、両手に握られた神の武器が
蝕んだ先から毒素を破壊していく。その速度は彼女の信仰の強さを物語っていた。
マノンは意を決して黒い影に切り掛かった。男の傷からどす黒いソウルの片鱗が漏れる。
しかし、沼地に足を取られて思ったより懐に入りすぎたのか、不意に肩を押された
マノンは大きくよろめき隙を作ってしまう。
「しまった!」
咄嗟に胸の前で構えた槌に、巨大な槍の矛先が無遠慮に飛び込んできた。
鋭い金属音と火花が闇を照らし、無惨にも折れた槌は毒沼に飲み込まれていく。
絶望に言葉の出ないマノンへ容赦はない。男は大きな一撃を彼女の体に浴びせた。
鎖で編まれた鎧は瞬く間にボロボロと溶け落ち、ついに、胸に巻かれた布と
短い下着の無防備な姿を敵の前に晒してしまった。過渡期の最中であろう肢体は、
その骨格を瑞々しい脂と適度な筋肉が覆い、ムチムチとしているのにどこか幼い。
男が冷やかす様に口笛を一筋、もはや無害な少女に浴びせた。
マノンは羞恥心に頬を染めたが、すぐに敗北を確信した表情に変わる。
こんな不浄の地で…!どうかお許しを、ウルベイン様……
窮地に追い込まれたマノンの目は、遠くの崖上に神殿騎士の姿を見付けた。
「騎士様っ!!」
黒ファントムも思わず振り返る。彼女は小さい手を精一杯振るって応援を求めた。
僅かに湧いた希望に自ずと笑顔が戻るが、その視界は、頭部の衝撃と共に暗転した。
何が起こったかわからぬまま沼に沈みかけた顔を上げると、目の前に巨大な足があった。
マノンの心音が速さを増す。目の前の巨大腐敗人が、再び大槌を彼女に振り下ろした。
避ける間も無く体を水面に叩き付けられる。完璧な丸腰の彼女にとって、
もはや切り抜けられる場面ではない。それに、自分の学習不足で神の宿る武器を
壊してしまった事が、少なからず彼女を意気消沈させていた。
するとその生き物が、沼に突っ伏したままのマノンに大きな手を伸ばす。
片腋を掴まれるままに、無抵抗な彼女は宙に浮く形になった。
大きく突出した木枝のような鼻がマノンの額を掠め、深く割れた口から
いやに熱く、悪臭のする息が否応なしに降りかかる。谷底のように深く窪んだ
二つの目に捕らわれたならば、金縛りの如く彼女の体は凍りつき、恐怖に
肩が小刻みに震えだした。獲物を巣に運ぶつもりなのか、マノンを握ったまま
腐敗人は沼をざぶざぶと歩き、その様子を窺いながら男が続く。
ほどなくして、泥を盛ったような小島が灰色の沼に浮かんでいるのが見えた。
そこには同じ体格の腐敗人と、呪術師に扮したような小人が屯している。
もう一匹の巨体が拾い犬を吟味するようにマノンを覗き込んだ。
前後を化け物に挟まれて、不快感にたまらず彼女は足をばたつかせる。
その拍子に携帯していた奇跡の宿り石が足元に転がった。小人がそれをいそいそと
拾い上げると、いきなり歪んだ奇声を漏らした。二つの大きな顔もそれを見て、
また同じように咆哮した。怒りとも動揺ともとれない興奮した声だった。
大きくはみ出した舌から粘着質の唾液を滴らせながら、わなわなと震える顎で
マノンを見据える。そして、彼女に疑問を持つ暇も与えぬままに襟元ヘ手を
のばし、その柔らかな薄布を勢い良く引き裂いた。
「えっ…?……あっ、きゃあぁああぁぁー!!」
少女の甲高い悲鳴は、いつのまにか発生していた毒霧の中で飛散する。
零れた乳房は、その肢体と幼顔では少々不釣合いなほどに大人びていた。
唯一体重を支える片腋の大きな手指がそれに食い込み、谷間を作るのが
そう見せたのかもしれない。いずれにせよ、健康的な年若い女体が
不浄の地で白く柔らかな半裸を晒しているのは、滑稽な程浮いた光景である。
後ろの腐敗人が、拘束部位をようやく変えたようだ。マノンは両の手首を
頭の上で纏め上げられ、つま先が地面に着いたり、また離れたりしていた。
無防備に開かれた腋の下か、恐怖に乱れる呼吸で上下する胸の裏か、微かに
分泌される甘ったるい女の匂いにかぶりつくかのように、目の前の巨人が
ゴフゴフと鼻を鳴らす。べとりと付着した涎が腋から胸へ糸を引いた。
「あ……あ…ぅ」
堪え様の無い恐怖と、身の危険からか、自覚のないままに溢れ出た熱い液体が
彼女の冷え切った内股を濡らした。
そんな…私…!!
腐敗人が濡れそぼったショーツと足先から滴り落ちる滴に反応し、節くれ立った
体を曲げて跪く。両手でマノンの足首を掴み開き、大きな頭を仰がせる。
そして、股布もろとも聖水を吸い出す勢いで豪快にしゃぶりだした。
「いやああぁぁ!なんで、いやっ」
精一杯抵抗しても手足を別々の力で拘束され、関節を軋ませる事しか出来ない。
弓のように沿っては後ろの巨体の腹に背中をぶつけるのを繰り返すうちに、
固い棒のような感触を覚え始める。それはちょうど、股に吸い付いた腐敗人の
鼻が腹部にコツコツと当たるような刺激が、裏側の背後でも感じられるのだった。
これは…まさか、そんな!?
神職に志願するまでの彼女は普通の俗世間で育ち、年相応の友人と、それと同じ
生活をしてきた。時にはませた話に、女同士で目を輝かせた事もあっただろう。
今自分が置かれている状況は、まるで、男の人に…
「そんなのあるわけない!!やめて!もう離してっ…」
流れ続ける涙が口に入る。ぷるんぷるんと揺れる乳房に、後ろから片手が伸ばされる。
彼女を拘束しながら、頭に中身が無い者と思えない程器用な指遣いで胸を捕らえ
小さな杏色の先端を突付く。途端にそこから迸るビリビリとした初めての感覚に、
彼女は目を見開いた。大きく広がった掌の指は、簡単に両乳首を小刻みに撫で回す。
「あぁっ!?あふっ、んんっ」
そこに心が移動したかのように、マノンの思考が途絶え途絶えになった。
残された小さな布を十分に唾液で蹂躙した腐敗人が、僅かに滲み出した新しい体液
の匂いを敏感に捉え、疎らに並んだ牙でショーツを食いちぎる。微かな痛みが
彼女の理性を呼び戻した。褐色の柔毛が、肌に影を作る程度に生えている。
「なっ、何を!!」
何をされるかはもはや分かっていたが、マノンは叫ばずにはいられなかった。
大きく長い舌が一掬い、力強く割れ目をなぞる。ただ嫌悪感だけが最初に走った。
こちらも理性が消えている狂人とは思えないような動きで、手付かずの器官を
調べるように慎重に味わっている。膣口を包む二つの白い肉は、夢のように柔らかく
また十分に厚く、張りがある。筋張った指でそこを広げると、彼女の舌と同じ色の
新鮮な肉がひくつき、仄暗い小さな穴からじわじわと透明な液体が染み出してきた。
そして一番上の、薄い皮膚に覆われても存在を隠せない程に膨らんだ部分を
わざと尖らせた舌が数回突付いた。それから、付け根を揺らすように舐った。
「んっ!あ、はァ…ああ……」
彼女の瞳が宙を探すように揺れた。脚は解放されているにも拘らず、力なく伸びている。
腐敗人の唾液の粘度が功を奏してか、不浄の愛撫はマノンに恐怖に勝る快感を与えた。
それに倣ったのかもう一匹が彼女の肩越しに涎を伝わせ、潤滑剤代わりにして固くなった
乳首を素早く扱いた。上下で与えられる刺激がさらに思考を遠ざける。
膣穴の周りを腐敗人の指が這い回り、薄皮を剥き上げられた陰核を激しく舐め回す。
巨人の顔に体重を預け、自ら股を押し付けている事に彼女は気付かない。
朦朧とした頭で、ただこの快楽の行き着く先を求めるままに、懸命に腰をゆすっていた。
「あ…あぁ、あぁぁん……あぅっ」
眉の根をよせて、彼女は大きく体を震わせた。初めて経験する絶頂だった。
しかし峠を越えた先にあるのは理性の海だ。一時的な快楽の靄が晴れ、
更なる絶望が思考の戻った裸の心に襲い掛かる。
「え…あ、あああ…私っ…なんてことを!!」
腐敗人はマノンの股下から既に離れ、息を漏らしながら彼女に対峙している。
おもむろに後ろの巨人が彼女の膝を抱え、蛙のように広げて拘束する。
「いやああぁっ!離してぇ!!」
暴れて解こうとするが、小人が絶えず作り出す毒霧のせいでもはや体に力が入らず、
手先が僅かに動く程度だった。元気に動けるのは二つの大きな瞳ぐらいだが、
その視界が一部始終を観察していた黒い影を捉え、マノンは激昂した。
「こっ…殺せ!どうしてこんなっ、殺せえぇー!!」
醜態を同じ人間に見られていたことが、羞恥と、怒りを湧き起こした。
これ以上の辱めを受けるくらいなら、ファントムの手で敗れる恥を選ぶと
少女が叫んでいるのに拘らず男は拳を何度も突き上げ、励ますような素振りをする。
そればかりか、小島の周りに鮮やかな光を放つ石を彩り良く配置して、舞台を
目立たせた。そうしながらも、もはや喚くことしか出来ない彼女の代わりに、
男は腐敗人たちがなぜ彼女を殺めずこんな行為に及んだのか考えてみる。
奴等がおかしくなったのはタリスマンを発見してからだ。やはり、自分達を追いやった
神に、その僕に対しての怒りか…いや、谷の長は紛れも無い聖乙女のはずだ、
同じ光を湛えているはずの神職の純潔をなぜ…
いや、あるいは……
「いやああああああーーー!!」
マノンの悲鳴に男は顔を上げる。彼女を抱える腐敗人がその天を仰ぐように屹立した
物を、何者の侵入を許したことの無い、神に預けられた純潔の聖域に捻じ込んでいた。
大きく広げられた股の下は、男が離れていても異種の結合をはっきりと見せた。
「あぐっ!う、うぅ……くぅっ」
破瓜の感覚はマノンにはわからない。自分の下半身が今どうなっていることすら、
毒の回った体では感じることができないのだった。ただ、大切な何かが失われたこと
だけは理解していた。大きな絶望の塊が、唯一彼女を生かしていた。
耳元で腐敗人の咆哮が響く。目の前の巨人も天を称えるように両手を突き出している。
最も不浄な地の果てで、不浄な者によって、この体から神の光を奪い尽くされるのだろう。
糸の切れた人形のように彼女の肢体が上下し、項垂れた頬から涙の滴が飛び散る。
「……ウルベイン…さま……」
腐敗人の腹に全身を預け、マノンは力無く呟いた。
彼女が意識を手放そうとした瞬間、空気中に清冽な粒子が走り、大きな光が爆ぜた。
辺りの腐れ木と共に巨大腐敗人や黒ファントムが神の怒りをまともにくらい、
不浄の者達は霧となり、消えていった。勢い良く投げ出された男がふらふらと
立ち上がったところへ容赦なくハルバードが振り下ろされる。たちまち、黒い影は
音も無く崩れ去っていった。神殿騎士が、沼に沈みかけているマノンの元へ駆け寄る。
「すまなかった、助けを呼ぶ声を聞いたが、如何せんこの霧と拾い沼ではなかなか
見つけることができなくてな、それで、輝石の光に導かれてようやく…」
肩を起こされ、一糸纏わぬ体を抱かれながら、ぼんやりと騎士の姿を見つめた。
「騎士様……」
熱い涙が頬を伝う。不浄に心身を犯された彼女を神の光が救い出してくれた事が
小さな希望となってマノンに微かな笑顔を戻した。しかし、全身を蝕んでいる毒が
既に彼女の体力を奪い尽くし、その体は、彼の腕の中で青い霧になった。
気が付くと、蛭溜りの要石の先でマノンは立ち尽くしていた。
「私…?」
我に返って体に触れると、鎧も武器も、元の通りに装備している。青く淡い光が
体を包み込んでいた。そうか、私はここで瞳の石を置いて…
「あれはすべて幻の世界のできごと?でも……」
この手に受けた武器の衝撃や、腐敗人に捕まったおぞましい感触がリアルに蘇る。
マノンは咄嗟に両腕を抱き、その場に膝をついて震えた。
「帰りたい…心が…折れそう。」
谷の先で渦巻く重苦しい空気に踵を返したくなるが、周りを見渡すと、同じような
思いを吐いたメッセージがあちこちに残されている。彼女は立ち上がって手を触れた。
【またここか…】【仲間さえいれば…】その軌跡を辿る様に、一歩一歩前へ進んだ。
「あんな思いは、これ以上誰にもして欲しくない…」
もう、震えは止まっている。祝福されたメイスを力強く握って、彼女は走り出した。
【ここからが本当のデモンズソウルだ】