聖女討伐の知らせを聞き、神の僕は打ち震えながら祈りの声を搾り出した。  
そして、今までどおり立ち尽くしていた。供していた聖騎士が彼女の楯となり  
先に散っていった事を知り、以前自分が荒廃した暗闇に聖司教を残して  
逃げた事を再び苛んだが、今もなお彼にできるのは神へ祈ることのみであった。  
 
その姿を見て、討伐者である神職の少女は心に淀みを感じていた。  
神殿で初めてこの棒立ち男の独白を聞いた頃を思い出す。  
戦いの中で信仰に重きを置く彼女は、率先してウルベインを救出し  
希少な奇跡に触れることを許され、その祝福を支えに細腕で槌を振るったものだ。  
 
しかし、腐れ谷で出くわした腐敗人のソウルへの異常なまでの執着や、  
独特の瘴気、そこに蔓延る異形の生き物に、年端もいかぬ少女はつい  
【帰りたい…】と独りごちた。何度か自然に体が癒えたのは神の慈悲だろうか?  
疲弊した体でたどり着いた谷底で、青白い精神体はより深い戦慄に染められる。  
 
毒沼に浸かり、死体や汚物を押し流し続ける滝のしぶきを浴びながら微笑む聖女。  
その神々しいまでの母性を求めるままに湧き出す赤子のようなもの。  
池溜りを囲む崖に所狭しと押し寄せ、ソウルを捧げようとする腐敗人。  
これ以上無いような背徳に憎悪さえ覚えたが、騎士の静かで悲痛なる言葉と、  
一心不乱にソウルを捧げる腐敗人の背に刃を向けた時に  
一体何が清く何が追われるべきものなのか、自分は何の名の下に  
この輝かしいデーモンの長を手にかけんとしているのか、靄のような疑問は  
葛藤と名を付けられるほどに少女の意識に広がり始めた。  
ブーツを飲み込む毒沼によって疫病に侵されるのが先か、メイスを握る手が  
下がるのが先か、その短い時間に揺らぐ彼女の心を見透かしているような  
乙女アストラエアの瞳は純粋な悲しみと、許しを湛えていた。次の瞬間、  
まるで伴侶を追うように、自らソウルを解き放ち、光の粒の中に溶けていった。  
 
我に返った少女の手に収まったデモンのソウルは、久々に生身に戻ったせいか  
重量がないのにひどく体にのしかかるように感じた。  
 
 
 
それからの彼女は未だ立ち寄った事の無い神殿の反対側、魔術師共が屯する  
場所に少しずつ足を運び、話を聞き、知識を得た。ソウルの使いどころが  
違うだけで、彼等は同じ人間であり、デーモンが無秩序に奪ったソウルを  
取り戻し昇華させてやりたいという志は神職も魔道師も変わらないのだ。  
神の名の下に、慈悲に溢れた聖女を手にかけた後悔が、彼女の視野を広げたのかもしれない。  
 
神殿内の移動の折に、先日救ったビヨールの姿を見つけた少女は少し彼と話をした。  
城に幽閉されているらしい魔女の娘の安否をひどく気遣っているようだ。  
以前の自分であれば自業自得と気にも留めなかったであろうが、少女の目は  
ビヨールと同じく翳り、そして強い正義感を伴って、王城の要石を映した。  
 
 
当の魔女、ユーリアという娘は牢と呼ぶには些か開放的な部屋で、  
公使以外通るはずも無い階下をぼんやりと見て過ごしていた。  
王城で顔のわからない断罪人に敗北した彼女は、その特殊なソウルと  
魔女という珍しい出所によって、とどめを刺されなかった代わりに  
王にその身を直接捧げんとされた。それを聞いた彼女が心のどこかで  
安堵したのは耳元で囁かれたミラルダの美声のせいではない。  
ローラント王の手にかかれば、この体もろとも、今まで背負ってきた  
ソウルの業も、忌まわしい魔女の血も全て消し去られるのだろう。  
物心付いた時から投げられる石や汚物、罵声から身を隠すように育ち、  
魔術を分かち合う仲間が少しずつ消えていく寂しさも、全て失って  
狂って、終わってしまいたい。彼女はおとなしく縛についた。  
 
彼女に伴われて城内の通路を歩いている途中、ぼってりと太った公使が  
立ちはだかり、ニヤニヤと下品な笑みをこぼしながらミラルダに耳打ちをする。  
その布の下で彼女もまた薄っすらと口元を歪めたような気がして、  
ユーリアはたまらず目を固く閉じた。  
 
 
 
そうして、彼女は希少な魔女の魔法を公使達に伝授するという任に就かされた。  
半端なソウルではこの執拗な発火魔法を使いこなすことは出来ない。  
大方公使達は王の討伐に訪れる戦士を返り討って、そのソウルを溜め込んで  
くるのだろう。血なまぐさいソウルを練り上げて、忌々しいこの魔術が  
次の討伐者の始末に使われるのだ。彼女の業は深くなるばかりだった。  
自らを手にかけたところで、未練がソウル体となってここに留まってしまう。  
彼女がどうすることも出来ないのを知っている公使達は無遠慮だった。  
 
梯子が下ろされる音でユーリアは我に返る。  
上って来るのは王子様などではない。見張りと同じように汚らしい笑みを漏らす  
太った公使が、膝を崩して座る彼女の前に仁王立ちした。  
 
ソウルと魔法の交換は、ユーリアの体内で行われる。彼女の体の中心で  
受け止められたソウルは、まるで胎児のごとく魔法へと変貌し、摘出される。  
小さい頃は、魔女であることを隠さなければいけない理由がわからなかった。  
汚らわしいと、友人だった娘に吐き捨てるように言われた事を、昨日の事の  
ように覚えている。汚らわしい。正気を失ったこの国も、魔女も、私も。  
しかし一族の分も生き抜いてきたユーリアはあくまでも強気だった。  
 
「随分と需要が増えてきたな。この痩せた体に縋る程、城は窮しているのか?」  
公使は肩を強ばらせた気配を見せたが、もう一度エヘ、と笑みをこぼしただけだ。  
 
「ボーレタリアも落ちたものだ。その立派な斧は飾りか?尤も、その重い体では  
 正気の人間相手に立ち回るのもかなわないだろうが」  
 
彼女が卑屈な笑いを漏らそうとした時、公使の拳が小さな頬を躊躇いもなく打った。  
意外にも肉を張る音がしないのは、手に握られていた鍵束の輪が当たったからだろう。  
突然の打撃に手をついて転倒をこらえたユーリアの顎を、その指が絞るように掴んだ。  
唇から滴る血が鍵にポタリ、と落ちた。睨み返す先にある瞳は、狂気で満たされている。  
公使の手を大げさに振り払い、ユーリアは体を起こした。ボロ布のローブの下、華奢な  
足の間から思い出したように生暖かい液体が伝い、床に敷かれた粗末な敷物にしみを作った。  
今朝のソウルの名残だ。敷物には同じようなしみがいくつも出来ている。  
 
「……好きにしろ」  
相変わらず歪な笑いを浮かべながら、公使は今一度ユーリアを突き飛ばした。  
 
四つん這いのユーリアの後ろに屈み、膝の裏までかかったローブを上品につまむと  
公使はまるで花嫁のベールを上げるように、うやうやしい動作でめくりあげた。  
露になった尻は小さく肉が薄いが、瑞々しく、透き通るように白い。  
公使は満足げに呻いて足の付け根に親指を食い込ませた。  
 
魔術を乞われれば、魔女の体はいつでも開かれる。心の抵抗など無意味だと、  
利口なユーリアは既に割り切っていた。狂人といえど、客に変わりはない。  
口と目を閉じ、秘部を大胆に晒す姿は堂に入った、蠱惑的な一人の魔女だった。  
幾度もソウルを奪っていったそこからは、先の者に放たれた精が涎のように漏れていた。  
公使は太い指を一本ねじ込み、白い粘着物をほじくるように色々な角度から抜き差しする。  
唇を合わせたままのユーリアは小さく喉を鳴らし、床についた拳を握り締めた。  
ひとしきり膣内を玩んだあと、引き抜いた指を味見して、舌鼓を打ったかと思うと  
公使は乱暴に両方の尻を掴み、その間のぷっくりした肉の丘にむしゃぶりついた。  
 
「あぁ…く…っ」  
獣のように鼻から顎まで割れ目に押し付けて蜜をむさぼる動きに、堪らず声を出す。  
口を目一杯開けて大きな舌を突き出し、下でひくついている突起を捉え、細かく  
左右に弾いたかと思えば、そこから一気に尻の小さなくぼみの所までねぶり上げる。  
さっさと素直に欲望のまま貫けばいいものを、丁寧にユーリアにも高みを  
味合わせるのだから、たちが悪い。だが、それこそ公使らしい。  
 
ほどなく彼女の頬は赤らみ、歯の間から舌がのぞき、掌は汗でぬるついていた。  
公使は顔の半分を体液で濡らしながらも拭う様子も無く立ち上がり、履物を下ろす。  
怒張し大斧のように攻撃的なそれに手を沿え、先走りの精をぶるぶると振るうと  
一層下品に笑って、仁王立ちした。手篭めにしても変わらず気の強い娘に  
挿入を懇願させるのが、いつのまにか公使達の間で定着していたのだろう。  
本来魔法を伝授する側のユーリアが、依頼者の一物をねだるような真似を  
しなければいけない理由はないが、青黒く禍々しいそこから尋常でない量の  
先走りの液が滴り、それに含まれている新鮮なソウルの光を目にしてしまえば  
私は、いや魔女は、無駄に抗おうなんて、思えない。  
彼女は上半身を床に預け、より高く腰を掲げた。公使の満足げな声が背中を撫でた。  
 
 
 
エヘッ、エヘッという笑い声、その合間を縫って粘りをおびた水音が石壁に反響する。  
公使が柔らかい肉壁を擦る度に、根元と入り口がぶつかる度に少しずつ漏れる  
ソウルをユーリアの体は敏感に感じ取り、甘い痺れを否応無く彼女に与えた。  
「あ…ふっ……。…はぁ……んぅ…!」  
三角帽子か敷布かなにかを握り締めながら、体に置いていかれる恐怖と戦う。  
彼女の何倍もありそうな体躯を一心不乱に打ち付ける公使の襟は、したたる  
大量の汗でその立派なプリーツを歪ませる。それを気に留めるはずもなく、公使は  
ユーリアの狭く、全身が吸い込まれそうなほどの蜜道を味わっていた。  
 
 
一連の儀式の流れを最初から見ていたもう一人の公使が、おもむろに  
つながっている二人に近づき、ユーリアの前に腰を下ろした。  
これの存在をすっかり忘れていた彼女は潤んだ瞳をハッと開き、不審そうに見上げる。  
後ろの公使と同じ薄笑いを浮かべて、樽のような腹の下で首をもたげる一物を露にした。  
「なっ…」  
不気味な色で脈打つそれは、ソウルの輝きを含んではいない。  
慌てて拒絶しようとしたが、顔を背けるよりも公使が唇をこじ開けて侵入する方が早かった。  
 
「んむぅ!!」  
 
噛もうにも顎を動かすことが出来ないほど怒張した物がユーリアの口内を容赦なく犯し、  
両の手は公使の膝で押さえつけられて、蹂躙を許すほかなかった。  
 
畜生…!こんな…汚らわしいことが…私をこんな…!!  
 
強く瞑った目蓋から涙が溢れる。魔女の自分を認めたくない僅かな心が、体を抵抗に導く。  
しかし下半身で絶え間なく与えられる快感が津波のように寄せて、無慈悲に葛藤を攫った。  
心と体の分離に耐えようとするユーリアの苦悩を知ってか知らずか、前の公使が  
ボロ布の首元に太い腕を無理やり捻じ込み、ユーリアの痩せた胸元を探り始める。  
未熟な果実のような乳房で遊び、種のように固くなった乳首を弾いて擦る。  
むせながらも、その吐息に甘いものが混じって、彼女の瞳が一層悩ましげに揺れた。  
黒い髪は頭の後ろで左右に分かれ、涙や唾液や公使の体液で濡れた頬に張り付いたり  
後ろから響く律動に合わせてユーリアの顔の横で踊っている。公使は反対の手を  
露出している細いうなじに伸ばし、その下の、点々と浮き出る小さな骨の感触を  
楽しむように、軍用犬を愛でるがごとく撫でた。その動作があまりに優しくて、  
ユーリアの背中はソウルの矢を放たれたかのように痺れ、ゾクゾク、と震えた。  
上半身への愛撫のせいか、膣内は収縮の度合いを増し、後ろの公使が既に笑い声と  
呼べないほどの、歓喜した獣のような咆哮をあげ始める。  
 
ああぁ、だめ…も…う……いやだ…ちく、しょう…  
 
ユーリアが縋る理性の糸が千切れようとしたその時、目の前の公使が狂ったように笑い、  
ぶよぶよの腹を目一杯小さな顔に押し付けながら、欲望の塊を放出した。  
鼻まで肉に塞がれたユーリアは、無遠慮に注がれる体液を喉奥で受け止めるほかない。  
焼け付くような感触が喉を通り過ぎ、奇妙な満腹感に思わず血の気が引いてしまう。  
永遠に続くような射精の後、名残惜しげに公使がゆっくりと下がると、  
流れ込む新鮮な空気とともに、気を失ってしまいそうなほどの腐臭が胃と口内から  
湧きあがり、ユーリアはえずいて、口に残る汚物を唾液で取り除こうとした。  
 
色々な液体で着衣のようにボロボロになった彼女の顔を見て、公使はひとつ頷き、  
鼻歌を鳴らしながら服を正しはじめた。恨めしげにその様子を眺めながらも  
ユーリアは息を整える間もなく、後ろからの蹂躙に二本の細い腕で耐える。  
後ろの公使はおもむろに乱れた黒髪を掴むと、ねじるように引いて彼女を振り向かせた。  
痛みに顔を歪めながらもその眼差しは攻撃的に公使を捉えている。  
強気な瞳よりも、小さく開かれ幾筋も白いものを垂らす唇の、その扇情的な様子に  
興味をそそられるようだ。腰を打ち付ける強さが急激に増し、ユーリアの下腹部まで  
届きそうなほどの睾丸はリズミカルに陰核を叩き、開放された口から喘ぎ声が漏れる。  
 
「んんっ!やめろ、それ…はっ!ああっ」  
片手を後ろに突き出し公使に僅かな抵抗を試みたが、逆に両手を掴まれ肩から床に倒れた。  
公使はここぞとばかりにユーリアの腕をこちらへ引き、限界まで結合部を密着させる。  
「あああぁんっ!!」  
パァン、パァン、と肉を打つ音に合わせて、ユーリアは猫のように大きくしなった。  
彼女の秘所から泡立つ蜜がとめどなく溢れ、公使の睾丸を伝い二人の性器を  
ナメクジの腹のように光らせる。腫れ上がった陰核には舐められるような刺激が絶えず  
与えられ、体の奥では熱い絶望的な快感が渦を巻いてソウルの放出を待っている。  
 
「ああん、もう、いいからぁっ!おねがいっ、もっ、うぅん!」  
全身に汗を掻いた公使が、壊れた玩具のようにめちゃくちゃな前後運動を続ける。  
 
「くれるならぁっ、私の、あっ、あげるから、はや、くっ」  
 
それは途中から笑い声に変わっていたが、公使のものではなかった。  
 
悦びが、魔女を、私を、飲み込んでしまう。  
私には、もうこれしか、ないのだから…  
 
 
「アハッ!あはははぁ!!」  
 
ひときわ高い嬌声を上げて、一足先にユーリアが達した。  
ビクビクと波打つ膣内に絞られると堪らず公使は歯茎を剥きだしにして身震いする。  
勢いあまって公使が足を踏ん張り直すほど、ソウルの放出は力強かった。  
流星のように子宮に衝突した精が、みるみるうちにユーリアの胎内を満たし  
秘められた魔力と融合する。抗いがたい恍惚と二度目の絶頂が彼女の意識を飲み込んだ。  
 
ほどなくして、繋がったままの竿を伝い、電流のようなものが公使の体を突き抜ける。  
公使がよろけて尻餅をついた。ユーリアは肢体を震わせながら、ぽっかりと口を開ける  
膣口を突き出したまま動かない。溢れた精が、敷物にまた新しい染みを作った。  
 
魔女の魔法を記憶した公使は、肩を揺らしながら揚々と出口へ歩いていく。  
元の場所に座り、ユーリアは気怠げに公使の背中を見送った。  
行為の度に肩を抱いて泣くような真似はもうしない。  
生まれた時から私の業は始まっていたのだ。  
この体もまた、おぞましい量のソウルを浴びた魔女の胎内で作られたのだから…  
 
 
 
甘く痺れるような疲労が軽い眠気に変わろうとしていた時に、耳障りな声が横でする。  
見張りの公使がいそいそと梯子を下ろした。ちらりと薄汚い公使の帽子が視界に入る。  
馬鹿な、今日は多すぎる。さすがのユーリアも思わずたじろいだが、  
すぐに自分の膝元に視線を落とし、愛想のない魔女を取り繕った。  
「なんだ?…また替りか?」  
三角帽子の鍔は広く、下を向けば公使の姿はすっかり遮られる。見たくもないのだ。  
向こうに何の反応もないのを訝しんだが、ユーリアも微動だにしなかった。  
 
しばらくして公使が踵を返し、足音が遠のいたかと思うと、隣の公使の笑い声が  
断末魔に変わった。驚いて悲鳴の先を見ると、一人が見張りの背中に足をかけ、  
深々と刺さった槌を乱暴に引き抜いているところだった。  
一度床で跳ねた公使は、風船のように階下へ転がり落ちる。ユーリアは口を  
ぽっかり開けて武器の主を見た。バックスタブの反動で帽子が外れると、  
眩しいほどに金色で、ユーリアよりも少し短めの髪がこぼれてなびく。  
同じ歳か、一つか二つほど幼いような少女がこちらへ駆け寄ってきた。  
「もう、大丈夫ですからね。」  
 
一瞬で起こった信じ難い出来事に呆気に取られていたユーリアはハッとした。  
 
「あ、貴方は…?」  
 
体躯こそ頼りないが、その得物が祝福を帯び、信仰深い二つの瞳を見たとき  
神職の者だとすぐに分かった。神の使いが、何故この私を?  
ユーリアの唇に付着した体液こそ乾いていたものの、血の跡はうっすらと  
残り、少女は何かを受け取ったようにゆっくり瞬きをして、優しく言葉を続ける。  
 
「鍵の入手に少し手間取ってしまって…すみません。  
 ビヨールがあなたの事を心配していました。さ、神殿へ行きましょう。」  
 
「あの王属の騎士が?蔑むのならまだしも、心配なんて!?」  
今のユーリアは完全に、魔女の業に自我が敗北している事を受け入れている。  
汚らわしいこの身を、その後の行く末を、連行される時にすれ違った彼は、  
全て悟った上で冷たい視線を向けていたんじゃないのか。  
 
ユーリアの内なる疑念を知ってか知らずか、少女はちょっと苦笑して、  
聖司教の洗礼を受けたであろうその手を、ユーリアに差し出した。  
 
「あなたを縛るものはもう何も、ないんです。大丈夫ですよ。」  
 
おずおずと見上げる先の澄んだ瞳には、軽蔑も嫌悪もなく、ただ、ユーリアの  
不安げな顔をくっきりと映すばかりだ。その無条件な優しさに、彼女の胸は  
張裂けそうに熱くなり、今にも嗚咽が体全体を軋ませようとしていた。  
 
慌てて首を振り、照れたようにその手を取ろうとしたが、ちょっと考えて  
すぐに引っ込めた。やはり、神職者の手を借りるのは畏れ多い。  
 
「あ、ありがとう。私は大丈夫だ。」  
 
きょとんとする少女に、ユーリアは控えめだが晴れやかな笑顔を見せる。  
禍々しい術式をこなす彼女とて、歳相応の表情になれば、ただの娘だ。  
 
「まだ捕らわれの正気な者がいるかもしれない。先に行ってくれ、  
 私は少し休めば自分の足で神殿に逃げることができるから…」  
 
精一杯の笑顔で付き添いを辞退した。実際にまだまともに走れそうもないし、  
今立てば、残っている先程のソウルがまた足の間からこぼれてしまうかもしれない。  
神の使途の前でそんな穢れを晒すわけにはいかないのだ。  
少女はいくらか渋っていたが、やがてユーリアの顔色が最初に会った時より  
ずっと晴れているのに気づくと、要石の欠片を一つ置いて去って行った。  
 
ユーリアは未だ高鳴る鼓動に耳を澄ませながら、ゆっくりと支度をした。  
私は、魔女の業に徹していたのではなかった。共に堕ちていただけだったのだ。  
自分に残されたのが魔術だけならば、その魔術もまた己以外には成し得ない。  
 
別れ際に少女が言ってくれた、この先あなたの力を借りるかもしれないと。  
もう少しだけ、この血筋と共に歩こう。  
本当の意味でソウルの業が失われる、その日までーーー  
 
 
 

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