声が聴こえる――
何も見えない暗闇。
しかし瞼の裏に焼き付いた光景は消えない。
色の無い霧の裂け目、荒れ狂う亡者達、己の身を薙ぎ倒した鉄塊。
そして、朱く照らされた巨大な絶望。
声が聴こえる――
不思議なほど透き通った、美しい旋律の声が。
何故俺はあの死地に赴いたのだろう。
世界を救う為?強大な力を求めて?
いや、どうでもいい。もう何もかも終わったのだ
そう、俺は死んだのだ。
あの絶望が放った拳に打たれ、なす術もなく殺された。
俺は死んだ。ならばここはあの世か?
鉛のように身体が重い。
どうやら人は死んでも楽にはなれないようだ。
「ここは楔の神殿」
美しい声が語り掛ける――
誰だ?
霞んだ視界に映る姿。
土に塗れた素足、全身を黒い衣で覆った女性。
天使にしてはみすぼらしく、死神にしては生々しい。
黒衣の乙女(Maidein in Black)。
顔が見えない。きっと声と同じように美しいのだろう。
「ここを出ることはできません」
そうかい。
死んで尚囚われの身か。
「ただ、今は5つの要石が、要の片割れへ導くだけです」
その先に何があるって言うんだ?
いや、何だっていい。とにかく疲れた……。
心地よい声に耳を傾けながら、そのまま身体を地面へ投げ出す。
永久にここへとどまる。
それもいい。
彼女と一緒なら――
まどろむ意識の中で。
なんとなく、そう思った。
to be continued....