恐怖のあまり狭まってゆく私の視界の中に、開け放した台所のドアが飛び込んできた。
「ヒューイ、こっち!」
咄嗟に走り込み、ヒューイと共にカウンターのうちに素早く身を潜める。
大男の重く荒い足音が次第に迫ってくる。
足音はゆっくりと台所の中へ踏み込んで来ると、唸りながらあちらこちらを歩き回った。
心臓が耳の中で破鐘のように動悸している。
ヒューイが激しく震えている私に慰めるように身を押しつけてきた。
恐ろしさに息遣いが速くなり、それが聞こえるのではないかとさらに恐怖を煽る。
やがてあの大男は怒りに一声吼えると、足音も荒く走り出ていった。
声と足音が次第に遠ざかる…。
緊張の解けた私はキッチンカウンターにずるずると背を凭せ掛け、荒い息を吐いた。
喉と口の中がからからで、唾もうまく飲み込めない。
廊下に出ればバスルームがあるのも判っているけど、恐ろしくてここから動けなかった。
何よりも少し休まなくては、身体が言うことを聞かない。
「ヒューイ、ありがとう…」
掠れた声で彼をねぎらうと、ヒューイは嬉しげに一声吼えて辺りを嗅ぎ回りはじめた。
ようやく少しクリアになった視界で回りを見回すと、カウンターの棚にいくつかビンが
並んでいる。中でもコルクで蓋をした、飲料らしい青いビンに目が引き寄せられた。。
身を乗り出して手に取ってみると、誰かが置いていったばかりらしくひんやりと冷たい。
ミネラルウォーターかジュースだと良いのに。
中でちゃぷちゃぷと揺れる液体にひどく心をそそられて、蓋を外すと臭いを嗅いでみた。
となりにあるオリーブオイルみたいに油だったりしたら笑ってしまう…。
でも、それは苺のような甘い香りを放っていた。
ストロベリージュースかしら?
匂いと好奇心、なによりも乾きに負けてそっと舐めてみると、甘酸っぱくて美味しかった。
ごめんなさい、少しだけ…。
ビンを傾けてお行儀悪くジュースを流し込む。
ひんやりした甘さはたちまち心地良く喉を潤し、乾きを静めてくれた。
少しだけと思ったのに、半分近く飲んでしまった。
罪悪感と共にビンをそっと棚に戻すと、身体の力を抜いてまた逃げ回る気力が戻ってくるのを待つ。
寛いだ様子で辺りをうろついているヒューイの様子を見れば、しばらくは安全なのが判った。
ゆっくりと呼吸を落ち着けていると、次第に身体から力が抜け、なんだか眠くなってくる。
もしかしたら、さっきのはお酒だったんじゃないかしら、
酔っぱらったような、暑いような酩酊感に襲われて、私は心のどこかが焦るのを感じた。
酔ってしまったらなにか来ても逃げられない…。でももう酔い始めた思考のほとんどは、どうなっても
いいような気がしている。
なんだかふわふわして気持ちいい……ううん、やっぱり気持ちよくない。
揺れる台所の天井を見ているうちに、身体の奥底からヘンな重苦しい衝動が湧き上がってきた。
これは焦り? だろうか。苦しいような、焦れったいような、叫びたいような…
それはどんどん勢いを増してきて、私は気分が悪くなってきた。
もしかしたら毒入りのお酒だったのかも知れない。
私は…先ほどの喉の渇きとは比べものにならないくらい、必死になにかを求めている。
胸の底を炙られるようなじっとしていられない焦燥感と苦しさに、私は身悶えした。
ああ。
身体を揺すると、胸が揺れるとたまらなく気持ちいい…。
少しだけ身を灼く苦しさが和らいで、私は夢中で身体を左右に動かした。
違う、胸が…乳首が、下着に擦れると…たまらない。
でもブラが邪魔して、思うように刺激が届かない。
追っ手のことも危険のことも私の脳裏からは消え果てて、私は夢中でブラウスを脱ぐとブラを外した。
少し大きすぎるのが悩みの白い胸がぶるん、と解放される。
やだ、乳首がこんなに尖ってる…そこを指で摘んで、さすった。
あああんっ、やだぁ…違う、嫌なんじゃなくてイイんだけど、なんでこんなに感じるの?
しばらくは息を荒げて、必死に自分で胸を刺激した。
喘ぎながら自分でメチャクチャに膨らみをこね回して、乳首を擦った。
だけど、だんだん足らないように思えてきた。
だって自分でしても、何をするか判っているから…慣れてくると全然刺激にならない。
まだ身体はこんなに苦しいのに。
欲求不満に泣きそうになりながら手を止めると、ヒューイか不思議そうにこちらを眺めていた。
ブラウスも脱ぎ捨て、スカートとブーツだけで身悶えている私が奇異に見えたのだろう。
羞恥で身体がどっと熱くなる。
それはますます身体の中で燃えているなにかを煽った。
足の間を、じゅん…と熱いものが滲み出るのが判る。しばらく置いて、またじゅん…と。
嫌だ、お漏らししているみたい…。
「…お願い…ヒューイ、助けて…。身体が熱いの…。」
無駄と知りながらも今までずっと助けてくれたパートナーに縋るように呼びかける。
ヒューイは困ったように首を傾げた。
誰でもいい、この疼きを静めてくれないと、きっと気が狂ってしまう!
今の私には、これをどうにかしてくれるなら、あの大男でも構わなかった。
焦れったさに啜り泣きが湧き上がってきたとき、ふいに元凶であるビンの隣の緑のビンが
目に飛び込んできた。『オリーブオイル』
狂おしい期待に動悸が速くなる。もしかして…!
「ヒューイ、おいで…」
先ほどよりもっと掠れた声で呼びかけると、ヒューイは従順に近寄ってきた。
もどかしく震える指先で、オリーブオイルの瓶の蓋を開けると指先に垂らし、ヒューイの鼻先に
近づけた。
ヒューイがざらざらした舌を伸ばし、嬉しそうに舐め取る。
期待に震えながら、慎重に自分の胸の上でビンを傾けた。
とろり、と金色の液体が溢れだし、白いカーブを流れてピンク色の乳首から滴る。
ヒューイは鼻先を寄せてくると、ざらりとオイルを舐め取って…
「ああああーっ!」
その瞬間背筋を駆け抜けた快感に、私は背を反らせて嬌声を上げてしまった。
驚いたようにヒューイが後ずさる。
叱られたと思ったのか、情けなさそうに伏せられた耳。
「違うの…ああ、ヒューイ、いい子ね…お願い、もっと舐めて…」
自分でも恥ずかしくなるくらい甘えた鼻声が出てしまった。
両の膨らみにオイルを落とすと、ぬるつく指先で乳首をこね回した。
宥められ、安心したヒューイが夢中になってそれをぺろぺろと舐め取る。
その度に、固く尖った胸の先から下腹にまで甘くて鈍い快感が幾筋も疾り抜けて…!
自分の身体が次に求めていることを悟った私は、スカートのホックも外すと、もどかしく脱ぎ下ろした。
下着の上からオイルにまみれた指先で疼く部分に触れると、盛り上がったその部分はやっぱり
漏らしたみたいにビショビショになっている。
やだ…恥ずかしい…。
自分の姿よりもその方が恥ずかしくて、私はぬるつく下着を急いで脱いで丸めた。
あとでバスルームで洗おう。
火照った剥き出しのお尻に、冷たい台所のリノリウムの床が気持ちいい。
私が正気だったら、素裸にブーツだけで台所に蹲っている自分の姿に耐えられなかっただろう。
でも、そのとき私の心を一杯にしているのは気が狂うほどに募る欲望だけだった。
熱く疼く部分を冷ましたくて、腿を拡げるとくちゃりと濡れた水音が立つ。
胸のオイルを舐め終わってしまったヒューイが、行儀良くお座りして期待に満ちた瞳で私を見る。
「もっとよ、ヒューイ…もっと美味しいものをあげるから…。」
浮かされたように私の手はオイルに代わる物を探して、調味料のビンを何本も探った。
見つけた1本の太い丸ビンには、蜜蜂の絵と共に「アカシア蜜」と書かれている。
これならヒューイも喜ぶはず。
広口の蓋を開けると私の二本の指は躊躇いなくそれを掬い取り、疼く部分に塗った。
もっと塗らないと、きっとヒューイがすぐ飽きてしまう。
髪より濃い金色をした薄い繊毛にべっとりと塗りつけ、もっと奥に進んで、膨らんだ下の唇を辿る。
そこはぱっくりと左右に割れて、蜜を塗る前から私自身の蜜を溢れさせていた。
たまらず甘い声を漏らしながら私はさらに蜜を掬うと、蜜にまみれた指で露わになっている溝を
上下に擦った。
ぬるついた鈍い刺激がたまらない…っ。
充血した性器の唇の先では、鞘に包まれた突起がこれ以上ないくらいに膨らんで固くなっている。
そんなになっている自分が恥ずかしくて、さらに感じてしまう。
ここを一番…舐めてもらいたい…この…ひ、ああんっ…!
ヒューイの舌の感触を想像しながらそこに蜜を絡めた指でくりっと触れると、目の眩むような快感に
腰ががくがくと跳ね上がった。
蜜と混ざり合った熱い何かが、溢れては内腿を滴り落ちていくのが判る。
抑えられない衝動に突き動かされて、私は今まで一度も触れたことのない、その浅瀬にある入口を
探った。周囲から絶え間なく液体が溢れ続けて指に絡みつく。
ゆっくり指を沈めると、これまでと違った深い快美感が湧き上がってきて、知らず知らずに腰を
振りながらその中を掻き回した。
くちゅくちゅと泡立つ水音がやけにはっきりと聞こえる。
なんか…いやらしい。
音に背筋がゾクゾクして、蜜を指に絡めては蠕動する内側を掻き回す。
そんな私を前に、ヒューイは大人しくお預けをしていた。
私はもう待ちきれなかった。
「あふっ…ヒューイ、おいで、ううん、来て…。」
立ち上がったヒューイは内腿に幾筋も滴ったそれを早速ぺちゃぺちゃと舐める。
舌の感触が少しずつ腿を這い上がってついにそこに到達したとき、私はつま先までをぴんと突っ張らせて
ようやく与えられた強烈な歓びに啜り泣いた。
「はああっ、あぁぁぁん…イイっ…気持ちいいっ…」
ヒューイに舐め続けてもらいたくて、私の濡れそぼった指は蜜のビンとヒューイの舐めているその部分とを
何度も忙しなく往復した。
膨らみきった快感の中心に、ヒューイの舌が絡みつく。
固く尖った敏感な快楽の粒は、普段だったらざらつく舌にそんなに執拗に舐められたら痛かったかも知れないが、
今はぬるつく液体でコーティングされて、舌が往復するごとに気の遠くなるような快感が突き上げる。
よがりながら泣いていた私は、さらに突き上げてくる得体のしれない感覚に飲み込まれそうになって惑乱した
悲鳴を上げた。
いつも自分でするとき…そっと下着の上から触ってると軽くイッちゃうことはある、でもこんな感覚は知らない。
「ああ、あああっ、あっあっやぁっ、ダメ、ヒューイ!ひぃ…っ…!」
腰がガクガクと痙攣して、目の前がスパークする。
これまで知らなかった強烈な絶頂感に息も出来なくなり、ぐんと突き上げられた高みから落ちてきて…
肩で喘ぎながら空気を貪る。
だが、びくびくと収縮を繰り返すその部分を再びヒューイの舌が抉った。
「あうッ…あっあ、もうダメ、もうやめてぇ…」
細い声で哀願したが、深みに溜まる蜜を汲み出そうと、夢中で舌を突っ込むヒューイの耳には届いたかどうか。
さきほど初めて自分の指を入れたばかりの、余韻にヒク付く入口の奥に容赦なく尖らせた舌が入り込んできて…
こんなに感じる秘密の場所を、犬の舌に犯されてる…そう思った途端、鈍い快美感がそこから突き上げた。
先ほどとはまた種類の異なる深い快感がたちまち高まって、また身体が攫われる。
「ひぃ…っ、ひっ…嫌っ…また、あああーーッッッ!」
一度達した私の躯は敏感になっていて、達しやすくなっているのか──次々に襲ってくる絶頂感に辛うじて
息を継ぐのが精一杯だった。
ぐっと腰を持ち上げ、あそこをひくんひくんと収縮させて私は泣き濡れた目を見開いた。
イヤっ、また、また来る――!
欲望のままにたっぷり塗り込めてしまった蜜はなかなか無くならなかった。
私の様子など知らぬげに、犬ならではの飽くなき執拗さで、ヒューイが最後の甘みを舐め取ってしまうまで
拷問のような絶頂が数え切れないくらい私を翻弄した。
まだびくんびくんと痙攣を止められないままぐったりと床に横たわった私の隣で、ヒューイは満足気に
前足を舐めている。
最後は声も出なくなるほど声を上げ続けた喉は涸れ、手足が泥のように重たかった。
元々逃げ回り、走り回って消耗していた体力を絞り尽くしてしまったかのように。
もし誰か来ても、指一本動かせない。
ああ、ヒューイが低く唸っている…。
「…お嬢様?まあ、お行儀の悪い…。」
冷静な女性の声。少なくともあの大男ではなかった。
彼女の瞳が、私の内腿を濡らす液体を見て、ぎらりと濡れた輝きを放ったのに気付かなかった私は安心すると、
するりと意識を手放してしまった。
この後、私を待ち受けることも知らずに…。