進めども進めども出口は見えず、逆に闇は深まるばかり……  
先刻通った通路もまるで別物に思える。意味が分からない事だらけだ……断片的に浮かぶ記憶は、事故の記憶  
と朦朧とした意識の中、垣間見たリカルドと呼ばれる執事、そしてあの大男。  
ただその異彩を放つ記憶の中で鮮明に思い浮かぶ女性の姿。とても不思議な感じがした、確か名前はダニエラ。  
アレだけ綺麗な上、その物腰は頭の上から爪先まで一流………まるで非の打ち所が無い様に思えるが、  
ただ一点、時折見せる物欲しげな表情と、愁いを帯びた視線は私の中で恐怖以上に心に残った。  
 
私には足りない………足りないものが多すぎる……マスターに造られ城の雑事を長年勤め上げてきた。  
人間がどういうものかは分かる……喜怒哀楽……私には足りない。否、他の人間が見れば私の喜怒哀楽  
などは偽者に見えるのだろう。マスターは私を完璧な存在として造り上げたと仰った……だが私は不完全だ、  
私には心が無い……正確には心を振るわせる為の何かが足りない………味覚もその一つなのだろう。  
ならば不完全な私は何を残せば良いのだろう?心を振るわせる事の無い私は伝える事が出来ない、伝える術を持たない。  
 
あの方が羨ましい……フィオナ様…………あの方が見せる恐怖・驚き・安堵・喜びは決して私には出来ない。  
あの方が羨ましい……あの方は伝えられる、自分の生きた証を………言葉で、気持ちで………  
そして何より、自分の子供自身に伝える事が出来る、残す事が出来る。  
あの方が羨ましい……殺したいほどに………  
 

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