それとなく、俺の気持ちが彼女に届くようになった。  
 彼女の気持ちもそれとなく俺に届くようになった。  
 
 心だけじゃなく、体も1つになれた。  
 それから俺たちは離れ離れになってしまって、彼女の気持ちも届かなくなってしまい。  
 俺の気持ちも届かない。  
 
 でも、同じ宇宙で生きている間は、体が離れていたとしても、心は1つだと信じてる。  
=========================  
【0・赴任1年後】  
――ここは、惑星ツカ。  
「明日、また違う星へ別の任務に移るから、今日は早めに休むように」  
「ロジャー!」  
上司、というか指揮官であるギョクさんからやっと今日の任務終了を告げられ、皆次々と  
「お疲れー」  
「また明日なー」  
と言って部屋へ戻るのを見届けて、残ったのはギョクさんと俺だけ。  
 まあ、何言われるのはわかっていたけど。  
「……おい、伴番。お前も早く部屋に戻らないか」  
予想通りの答え。  
「はーい……って、あのー?」  
「何だ?」  
「今度、本部で会議があるんでしょ?」  
「……そうだが」  
「ボ……じゃなくて、地球署の署長も来るんですよね?」  
 ボスと言いかけそうになったけど、すぐに辞めた。1度ボスのことをボスと言った時、  
”お前のボスはもういないんだ”と怒られちまったからなあ。また怒られるか?  
「当たり前じゃないか。署長会議なんだから」  
「じゃあ、ひとーつだけ、お願いがあるんですけど……」  
「お前を本部に行かせるのは無理だぞ?さっさと言ってみろ」  
そんなの行くつもりもない。ただ……ある人にお礼したくて。こんな滅多なチャンスはそうそうないからな。  
「あの――」  
 
******************  
「はー、疲っかれたー!」  
 部屋に戻ってどさっとベッドに倒れるように飛び込む。  
 
 部屋と言っても、緊急用に作られたプレハブみたいな宿舎。  
(もう、この星ともおさらばか)  
 相手は人質を連れた立てこもり犯。当たり前だけど、人質がいるから無用に手が出せない。  
 かといって、犯人からの要求もなく、どうしようもない状態。犯行直後から1週間。  
 膠着状態が続いて、スワットモードを取得していなかったツカ署長からの要請で、  
俺たちファイヤースクワッドが召還され、現場に乗り込み無事人質を救出して、犯人逮捕に踏み切った。  
 
 それが俺のファイヤースクワッドでの76回目の任務。  
 俺たちの仕事は、所轄で手に負えない、危険なテロ組織や立てこもり犯のアジトや現場に一斉突入して検挙すること。  
 あいつらにずっと”無茶”だと言われ続けてたから、あいつらが見たら絶対ぴったりだと言うだろうな。  
 今まで地球署でやってきた以上にハード、そして”生と死の綱渡り”の連続だ。  
 
 地球署から本部に着いて最初にギョクさんに言われた一言。  
   
 『生きて帰れると思うな。――死ぬ気で悪と戦え』  
   
 ああ、俺えらいところに来ちまったと思ったさ。ずっといつも俺は死ぬ気だけど絶対に生きてやるって思いながら戦っていた。  
それなのに、”生きて帰れると思うな”だなんて……。  
 
 そう思いながら、枕元に置いてある”白い”SPライセンスに手を伸ばして、Phoneモードを押しながら、カバーを開いてみる。  
 
『――そうは問屋がおろさない!』  
 そう叫んでからニヤリと笑って、ホログラムの小さなジャスミンは消えた。  
 お前、これ、本当にホログラムなのか?俺が思ってることに答えてくれるのように、都合よく出てきやがって……。  
 
「――そうだよな」  
 そう1人呟いて、SPライセンスのカバーを閉じた。  
 特殊任務の都合上、外部との連絡・接触を切り離されても、手紙すら送れなくても、  
ギョクさん、これだけはどうしても譲れません。   
 死ぬ気で悪と戦うけど、俺は絶対生きてやる。あいつらに……ジャスミンにもう1度、会う為にな。  
 明日も朝早いだろう。どうせまた他の星へ移るんだろうな。  
 そう思いながら、そのまま俺は風呂にも入らずにライセンスを握り締めながら眠りに就いた。  
   
 眠りに就く前に”白い”SPライセンスで”彼女”と会うこと。これが俺の日課。  
=========================  
【1・その頃の地球署】  
――窓から流れ星を見かけると、いつもすぐに窓を開けて彼だと思いながら願い事を3回呟く。  
 でも、どう早く呟いても2回目の途中で流れ星は消えてしまう。  
 本当に、バンみたいにスピードが速すぎる――  
 
 
「――あれ?ジャスミン、珍しい本読んでるね」  
ウメコはいつもファッションや流行雑誌だもんね。私も借りてるけど。  
「天文雑誌じゃないですかー、俺もよく本部で読んでましたよ!」  
「やっぱり地球の写真ばかり見てたんだ?」  
「……そうですね。チーフにばれないようにこっそりとね」  
そうくすりと笑いながら話す”2代目火の玉”君。  
 
「ジャスミン、ちょっと見せて?」  
そう言ってはいどうぞと雑誌を渡してあげた。  
「うわー、綺麗!」  
と写真のページをぱらぱらと捲り、最後の文字のページになると無言。  
「……ありがとう」  
そう言って、私に返してきた。なんか、ウメコらしいね。  
 
 今日は○○座流星群の日。夜明け直前、1時間に50個を越える流星が流れるとその雑誌には載っていた。  
多分そのページはウメコは見ていないだろうけど……。  
(今日だったら、願い事1回くらいは成功するはず)  
 そう思いながら私はこっそりと朝起きてから目覚ましを深夜3時にセットしてデカルームに出勤してきた。  
 
「それにしても……バンは今、どこにいるのかなあ」  
 
 もう、これでウメコの口から何回この台詞を聞いただろう。ウメコの素直な質問に、私たちは当たり前だけど答えられなかった。  
 何故なら、彼が今何処で、何をしているのか私たちにはまったくといっていいほど情報が流れてこなかったから。  
「せめて連絡くらい出来るといいのになあ……ボス、駄目なんですか?」  
「……ファイヤースクワッドは赤い特凶と言われる程だ。基本的に特凶と大差はない。チームプレイか、単独行動か。  
ただそれだけの違いだ。……隠密に事を進めなきゃならないからそうそう連絡は取れないんだろう」  
ボスもやっぱり連絡、取れてないんですね。ギョクさんとでも。  
「でも、俺チーフと連絡取ってますよ?」  
「そりゃチーフがほっとけないからでしょ?ずっとあんたの面倒見てきたのに、心配でたまらないのよ」  
「そうですよね……」  
ウメコにそう言われて納得したか、しないか。彼は自分のブレスロットルをじっと見つめる。  
 
「機密情報をむやみに流されるのが怖いからあえてそうしてるんじゃないか?……ギョクさんもきちんと考えてるはずさ」  
ホージーは、”相棒”と連絡取れなくても”離れていても思いは1つ”だと叫んだ彼を信じているんだろう。  
最初は”相棒”と呼ばれるのをあんなに嫌がってたのに、いつの間にか彼のペースに巻き込まれた何なのか。  
「……そうだな。ホージーの言うとおりだ。」  
「でも……なんか、あの子がいないと寂しいわね。やっぱり」  
 
「「「「「……」」」」」  
 
 スワンさんの一言で更に沈黙がデカルームを包む。彼がいた頃のデカルームには沈黙が流れるようなことは殆ど無かった。  
 こういうとき、事件があるなしとは別に、彼の存在がこれほど大きかったということを改めて思い知らされる。……でも。  
 
「――また、戻ってきますよ。待った分だけ今度バンが戻ってきた時に喜び倍増になるでしょ?」  
「そうだね、ジャスミンの言うとおり。きっと遊びに来るかもしれないし!」  
「ウメコさん、そんなに特凶って甘くないですよ?」  
「……勝手に地球署に居座ってそのまま銀バッチになった人はどこの誰だっけ?」  
「……俺です」  
「ま、いいじゃないか。こいつだって、やっと地球に帰ってこれて自分の星を守りたいって思ってるんだから」  
「”相棒”さん……」  
「……悪いが、相棒は”あいつ1人”だけだ。あと、ホージーさんならまだしも、”相棒さん”は辞めてくれ。気持ち悪いから」  
「テツが相棒なんて言うのは100年早いの」  
「ナンセンス。ウメコさんだってリーダーなんてあと200年経っても無理でしょうね」  
「なによー!」  
ウメコがテツの頭をぽかぽかと殴る。  
「ああっ、後輩いじめなんて酷いですよ!」  
 
 そしてまたいつものデカルームへと戻った。テツとウメコの掛け合いは、今のデカルームの清涼剤。  
******************  
 テツとウメコは相変わらずだね。まあ、この2人がいなかったら、デカベースは静かなまんまだっただろうから、  
ある意味いいコンビかもしれない。  
 そう思いながらコーヒーを飲もうとしたその時。  
プルルルルルルルル……  
 
 マスターライセンスの通信音が鳴る。俺たちは会話を止めて、ボスの方をじっと見つめた。  
「――俺だ……ああ、そういえば明日だったな。今日中には出発すると言ってくれ」  
たった5秒で回線を切った。  
「事件、ではなさそうですね」  
「ああ、明日本部の方で緊急に署長会議があるのを忘れてたんだ」  
俺の問いにボスが答えてくれた。  
「緊急って珍しいですね」  
「まあこの広い宇宙の何処かで必ず事件はあるからな。――それでだな、セン」  
「なんでしょうか」  
「お前も一緒に会議に行ってくれないか?」  
「――俺、ですか?」  
 
 皆驚いたような顔をしている。当の俺だって驚いてるんだから無理はない。  
そして、どうも納得の行かない顔をしながらボスに真っ先に質問したのは予想通りウメコ。  
 
「ボスー?センさんじゃなくてこういう時はホージーさんじゃないんですかぁ?」  
「そうですよボス。センさんはここでお茶飲んでるほうが似合いますよ?」  
テツは相変わらず酷いことを言うなあ……図星だけどさ、後で覚えておきなよ?  
 
「……俺の勘だ。セン、構わないな?」  
「ボスがそう言うなら、別にいいですけど……」  
「じゃあ、決まりだな。ホージー。俺がいない間の代わりを頼むぞ」  
「ロジャー」  
そして他の3人に向かって、  
「何かあったらお前たちは、明日ホージーの指示に従え、わかったな?」  
「「「ロジャー」」」  
 やっぱりボスはホージーを信用してるんだねぇ。俺が信用されてるとかは置いといて。  
こりゃ署長の椅子もそう遠くはなさそうだな。  
******************  
 マシンルーム。  
はいどうぞとスワンからコーヒーを手渡されて、そのまま一口。  
「――会議、行くの?」  
「ああ、明日な。結局センも連れて行くことになった」  
「センちゃんもよく行く気になったわね。珍しいわぁ」  
「まあ、あいつも変な顔していたが、”俺の勘だ”って言ったらなんか納得してたぞ」  
「あなたの勘を信用してる証拠じゃないの、もっと喜びなさいよ、ドゥギー」  
「今回は、勘じゃないんだが……」  
「ギョクちゃんから頼まれちゃ、断れない?」  
「一応後輩だしな。それに、直接頼んできたのはギョクだが、本当はバンが依頼人だからな」  
「バンもけっこう気が利くのよね……ああ見えて」  
「けっこう酷い事言うな。そういえば、……ウメコに聞かれたとき、バンが今いる場所ついつい答えそうになりそうだった」  
 
そう言いながらコーヒーを飲む。  
「結構大変みたいね。あの子大丈夫かしら?」  
「ホージーに言わせると”ラッキーマン”だから大丈夫だと信じてる。ただ……」  
「ジャスミンの事?」  
「全然元気がない素振りも見せない。逆に無理してるんじゃないかと思ってな」  
「……しょうがないわよ。今は大変な時期なんだから。任務が一段落ついたら、  
あたしがギョクちゃんにバンの休暇あげるように頼んであげるわ」  
「昔からギョクはお前には弱かったからな……それより、スワンも例の依頼、出来てるか?  
科捜研からの”あれ”……」  
「もう、ばっちし!でも……アブレラの発明が元なんだけど、利用できるものは利用しないとね。  
という訳で本部に報告宜しくね」  
「ああ」  
そう言って、俺はコーヒーを飲み干した。  
******************  
――深夜4時。  
 
デカルームの屋上に来てみる。空を見てため息1つ。  
「――やっぱりここじゃ星はあんまり見えないかぁ」  
それだけ、メガロポリスの夜は明るい。  
 
 昼間のボスの署長会議って何だろう。アブレラを倒しても、悪は滅びる事はない。重々承知のこと。  
 だからバンたちファイヤースクワッドや白い特凶が宇宙中を駆け回っているのだから。  
 彼が去った後の地球署は、殆どといっていいほど怪重機も現れない。最近じゃ、滅多にデカスーツを  
着ることもなくなってしまった。まるで彼が赴任するちょうど1年前までの頃のよう。――それだけ、平和だってことか。  
 そう思いながら空を改めて見上げると。一筋の光がキラリと流れた。  
「――バン?」  
 
 バン……何処で今、何やってるんだろう。仕事の内容も特殊な組織だからこっちには全然話は流れてこない。  
任務の報告データも、探しても見つからない。  
 
 ”流れ星を見たら俺だと思え”  
 そう言われて、そのまま別れてしまったけど。それでもやっぱり寂しいものは、寂しい。  
(バンに、会いたい)  
 次々に流れる流星。そんな中で”いけそう”な星がキラリと光ったのを私は見逃さなかった。  
 「早く戻ってこれますように」  
 「早く戻ってこれますように」  
 「早く戻ってこれますように」  
   
――やっと言えた。これまでも流星群はやって来ていたけど、ちょうど私が夜勤とか夜勤じゃなくても  
曇り空で見れる機会がなかったから、これが初めての”願い事3回”。  
   
 そっとポケットの中からペンダントを取り出す。  
(宇宙一のスペシャルポリスのチームの一員の癖に、甘えたらいけないよね。お仕事ですから)  
 ぎゅっとそれを握り締め、次々に流れてくる流星を見ながら、彼との思い出に浸り続ける。  
 
 でも、それが大事件への始まりだなんて、誰も予想なんてしていなかった……。  
=========================  
【2・本部署長会議】  
「……こういうの、苦手でしょ」  
あくびをしながら俺は前の席に座っているボスに尋ねる。かなりかちこちしてるのが見ただけでわかるから。  
「お前も人のこと言えないじゃないか……まだ会議前だから許せるが、会議始まってもそんな調子だとお前も本部から目をつけられるぞ?」  
「あっ、それだけは勘弁。俺、一生地球署でいいですから」  
「……やっぱりお前を連れてこないほうがよかったかもしれん……というのは冗談だが」  
たははと頭を掻いて笑ったものの、どうして俺が本部に連れてこられた理由がいまいちよく自分でも……わからないんだよねぇ。  
 
「……そろそろ時間ですね」  
「ああ」  
まだ結構席が空いてる。空いてる分は本部のお偉いさん方かな?そう思っていながら、会議室に入ってきたのは。  
 
――ギョクさん。  
 
 席は遠かったけど、向こうからボスに向かって目礼しているのはわかった。  
「……なんで、ギョクさんが来るんですかね?」  
「まあ、あいつだって”一応”特凶のリーダーだからな」  
”一応”というところでボスがギョクさんに対して少し対抗意識でもあるのかと思ったけど、まあ、気のせいかな。  
再び、ギョクさんの方を見ると。予想通り目が合った。  
『ナンデオマエガイルンダ』  
と指差して口パクしている。  
『……俺?』  
 と自分を指差して見るとギョクさんは頷いた。……別にいたっていいじゃないですか?  
一応”署長の秘書”なんだから。そう思っていた矢先に。  
 
バタン。  
 
 ドアの音が聞こえて、入ってきたのは、ヌマ長官だった。会議の始まりかな。  
俺たちはすぐに起立して敬礼のポーズを取る。―― 一応、一番偉い人だからね。  
 長官は俺たちを手振りで座らせて。  
『わざわざ急に呼び出して申し訳ない。早速だが、用件から……』  
******************  
「――疲れますね。こういうの」  
「……まあ、お前は特にそう思うだろうな……」  
会議は約1時間くらいで終わった。俺とボスは今本部に設置ある食堂で遅い昼ごはん。  
なーんか味気ないんだよ、ここの食事って。  
「……どう思います?」  
「何がだ」  
「”レッドレボリューション”」  
「ああいう奴らは周期的に出てくるからな。しょうがないとは言え、関係のない人たちまで巻き込むのは許せん」  
「地球にもアジトがある可能性って、ありますかね」  
「ないとは言えないな。それに……」  
「また、”匂い”ますか?」  
「かすかにな」  
 
――会議の内容はこうだった。  
 半年前から、ありとあらゆる星で武器強奪、現金強奪事件が起こっていた。  
 地球も言うに及ばず。  
 ただ、逮捕されても口を割らず、結局そのまま監獄衛星アルカポに収監していた。  
 特凶の捜査報告によれば殆どの事件には全宇宙的反革命組織”レッドレボリューション”が  
絡んでいることが判明したらしい。  
 ”レッドレボリューション”の目的は、宇宙警察本部、宇宙最高裁判所等の現宇宙組織体制の殲滅。  
そしてとうとうこないだ宇宙最高評議会に爆弾が打ち込まれたらしい。  
 敵の正体・本アジトは不明。特徴としては、その星の住人の姿に変身して、普通の住人のように過ごしているとのこと。  
 大半の惑星にアジトを作っているらしく、150の星で検挙されたという。……そのうちの半分を検挙したのが、  
ギョクさんのところの”ファイヤー・スクワッド”。  
 
 もし、武器強奪、現金強奪事件が起こったら、デリートせずに犯人の口を何がなんでも割らせて  
本アジトへの手がかりを掴んでくれという命令で会議は終わった。  
 そして、腹が空いたから、今、昼食の最中――  
 
「どうして、デリートしないんですか?」  
「……昔もこういう事件はあったんだが、元々潜在的にいる反体制派への”見せしめ”ってところだ。  
それに、奴らにとっては”死”、イコール”名誉ある殉死”……。これじゃ奴らの思い通りになってしまうからな」  
「そうですか……」  
「あいつらには、また一仕事してもらわないといけないな……」  
とボスが呟いた直後。  
「――ここ、空いてますか?」  
トレーを持って立っていたのは、  
「ギョクさん?」  
「ギョク……」  
 
「1年ぶりですかね、先輩たちに会うのは」  
「そうだったな。会議もなかったしな」  
「で、何でセンがいるんですか?とうとう先輩も隠きょ……」  
「バカモン!……俺はまだ現役だ」  
あーあ、一喝されちゃった。たまに余計な事言うところ、誰かさんと一緒だ。  
「――気分害した。セン、ちょっと席外すから、終わったら連絡してくれ」  
「ああああっ、ちょっと待ってくださいよ〜」  
 
 ギョクさんの呼びかけにも答えず、ボスは席を立ち上がって食堂からさっさと出て行った。  
 そして俺は”元”相棒さんと2人きり。  
「――相変わらずですね。ギョクさん。いっつも昔から隠居とかすぐ疲れを見せるとともう年ですよねとか」  
「悪気があって言ってるわけじゃないんだけどな」  
そう、この人にとっては”ちょっかい”なんだけど、どうもボスにはそれが通用しないらしい。  
 
「しっかし、お前はなーんも変わらんな。会議中もこそっとあくびばっかしてただろ?」  
話がコロリと切り替わった。なんだ、あくびバレてたのか。  
「俺、こういうの苦手なんですよ」  
「俺だって好きじゃないさ……ただ」  
「ただ?」  
「これから俺のところも忙しくなりそうだし、聞いていて損はなかったけどな」  
「ファイヤースクワッドって、そんなに忙しいんですか?」  
うっ、と一瞬唸ったのを俺は見逃さなかった。  
「まあ、いろいろあるんだよ。これ以上はぽろっと言ってしまいそうで機密情報流してしまいそうだから  
言うの辞めておく。会議で出た話だけにしておいてほしい」  
「そうですか……。じゃあ、バンの事も聞けないですよね。何やってるのかって」  
 こりゃジャスミンの話は無理そうだな。この調子だとバンも彼女の事はギョクさんに言ってない……言える余裕もなさそうだ。  
 ギョクさんは自分に厳しい。本人が、結構お調子者だと自分で自覚しているから、その分仕事になると自制が働く。  
まあ、仕事じゃないとさっきのボスみたいに怒らせたりするけど。  
「……”相棒”でも、さすがに言えない。セン、ごめん」  
そうボソッと呟く。  
 
「別に気にしてないですよ。ここで会えるなんて思ってなかったですから感謝……」  
「それは伴番に言ってくれ……」  
「え?」  
「……俺が会議に出る前に、あいつがどうしてもセンと会ってやれって言ってくるから、  
先輩にお前を連れてきてもらうように頼んだんだ」  
「バンが?」  
 ボスの勘な訳がないとは思ってたけど、意外なところから俺が此処に連れてこられた理由がわかって、少し驚いた。  
「1年前にせっかく会えたのに、どたばたしてたからすぐに帰っちまったのを見てたから、  
たまには”相棒”とゆっくり話してあげてくれって言われたからさ」  
「……」  
 バンがそんなこと気にしてたのか。確かに俺もギョクさんとゆっくり話したかった。でも赤い特凶の  
事情だともう無理だろうって思ってたから。……バンもなかなか粋なことをしてくれるねぇ。1年前のお礼かな?  
 
 そのまま俺とギョクさんの話は30分くらい続いた。ボスが呼びに来なかったらもっと話していただろうか。  
でも、それからもバンや赤い特凶の話を持ち出すと、やっぱりギョクさんは「ごめん」の一言だけで何も言わなかった。  
=========================  
【3・久々の事件】  
 翌日。朝から早速会議が始まった。こういうのは久しぶりだ。  
 昨日は署長代理だと言いながらも、ウメコには「報告書チェックお願いしまーす」と言われてチェックしたら、  
読みづらい……丸文字で「やり直せ」。  
 テツはテツで「署長さーん」と付きまとってくるし。俺を何だと思ってるんだ。おちょくってるのか。  
 ジャスミンは……相変わらずだったな。ウメコの報告書を一緒に書いていたり、まあ、いつも通りってところか。  
ただ、どことなく寂しそうな表情をたまに見せるのは、やっぱり”あいつ”がいないからか……。  
 
「――えー?全宇宙的反革命組織……ですか?」  
「そうだ。地球ではまだアジトは見つかっていないが、まあ、アブレラがあれだけ大盤振る舞いしたところだから、  
ないとは言えない」  
「とりあえず、現金確保・武器確保が目的ですよね。……もしかしたら、追いつめられると食料確保にも走るでしょうし……」  
 
「”レッドレボリューション”のことは市民には非公開だ。公開なんぞしたら逆切れして何するかわからない。  
……奴らは目的のためなら人の命なんて虫けらのように扱うからな」  
「宇宙警察もターゲットになるんでしょうか?」  
ずっと話を聞いていて、気になっていたことをボスに直接聞いてみる。  
「ありえるな。全宇宙を統括している組織を殲滅するのが目的だからな……というわけで、これから事件が  
増えるかもしれないが、犯人逮捕後の事情聴取は怠らないように」  
「「「「「「ロジャー!」」」」」」  
 
 
「――先輩、凄いですよね。75の星のアジトを検挙するなんて」  
まるで自分のお手柄のように喜ぶんだな。お前は本当に楽天家というか、何ていうか……。  
「あのな、テツ。相手だって武器やアリエナイザー特有の攻撃で対抗するんだぞ?検挙なんてそんなに  
簡単なもんじゃないこと、お前だってわかってるだろ?」  
「……すいません」  
「まあ、いいさ。それだけあいつもいろんなところで頑張っているっていうのが分かっただけでも安心しただろ?」  
「そうですね……俺たちも頑張りましょう!”相棒”さん!」  
「……だから、相棒っていうのは辞めろ。さん付けしたかったら前のようにホージーさんにしてくれ……」  
 テツは、どうしてもあいつの真似をしたがるらしい、ここでの会話は昔と変わらないが、犯人をとっ捕まえるときとか、  
”待て!この○○ヤロー”初め、あいつの口調に似てきた。嫌、真似てると言った方がいいのか?俺にだっ  
 
て”相棒”さんと呼ぶし。……俺の相棒は、あいつだけなんだ。悪いな。テツ……。  
 それにしても、バンは前線で大暴れしてるのか。……無駄に命を落とさなきゃいいんだが……。  
=========================  
【4・地球回帰】  
 これで100個目の検挙かと思ってた。やっと奴らのアジトを追いつめたと思ってたのに。  
「――このやろー!とっととお縄に繋がれってんだよ!」  
そう叫んだものの、無言無表情で奴らは自分で自分の胸を持っていた銃で打ち抜いて、絶命。俺たちに捕まって、口を割るのがそんなにいやなのか、怖いのか、わからない。  
   
 検挙できず、そのまま自殺されるのは一番後味が悪い。  
 
「――ご苦労だったな、また明日から移動になるが、またゆっくり休んでくれ。  
また落ち着いたら休暇はくさるほどやるから」  
「ロジャー」  
そう言って俺たちは解散する。俺が部屋に戻ろうとすると。  
 
「――伴番」  
後ろからギョクさんに呼ばれて、立ち止まった。  
「何ですか?ギョクさん……」  
「ちょっとお前に話があってな……あっちで」  
そう言って指差したところは、宿舎の隣に置いてあった、覆面パトカー。  
 
「――話って、何ですか?」  
「実はな。本部から連絡が入って、本アジトの場所がわかった」  
「どこですか」  
「地球」  
「……本当ですか!? じゃあ、次の移動先って、まさか」  
「その、まさかだ」  
「……ぃやったー!……っ痛って!」  
 地球。もう1年以上も離れてる。やっと俺帰れるんだ。そう思って喜びの余り飛び上がったけど、  
車の中で頭がぶつかることに全く気付かなくて、天井に頭直撃しちまった。……候補生の頃に地球行きを告げられた時以来だ。  
 
 痛い頭を抱えている俺に、ギョクさんは  
「本当におもしろい奴だな……。センがお前のことを認めるのも無理はないな」  
そう呟いた。  
「センちゃんに、会議で会ったんですか?」  
「先輩の後ろであくびしてたがな」  
「うわー、相変わらずだ……」  
よかった。俺の頼みごとギョクさん聞いてくれたんだ。  
「――センちゃん、喜んでました?」  
「お前に感謝してるって言ってたぞ」  
センちゃんから感謝だなんて。珍しいけど、まあいろいろ世話になったしな。  
 
「いろいろと無茶な頼み聞いてくれてすいませんでした」  
「まあ、いいさ。……でな、伴番。地球生まれのお前だからこそ、念押ししておこうと思ってな」  
大体何言われるのかわかってたけど。  
「任務終了まで、地球署の奴らとは接触するな」  
……やっぱりな。  
「口も聞いたら駄目ってことですよね」  
「問題外だ」  
「会うだけでも駄目ってことですよね」  
「それが接触というものだろ」  
「連絡取るって言うのも駄目ってことですよね」  
「それも接触の内だ。……とにかく、どこで情報が流れるかわからない。機密情報が流れたりしたら奴らの思う壺だ。  
本アジトの場所はまだよく見つかっていないが、地球署には反革命組織にありえそうな事件が起こったら  
 
絶対に口を割らせろという命令が降りてる。俺たちは地球署からの情報を基にまず本アジトの場所密かにを探す、  
そして見つけ次第タイミングを見て、突入。そして検挙。……そういう段取りだ。地球署のほうには先輩……署長には連絡してあるがな」  
   
 ”口を割らせろ”……それが無理だったら、また”あいつ”の出番か……。本人も仕事だと割り切るだろうけど、本当は嫌だろうに。  
それまでに俺たちでアジトの場所、見つけないと。  
「そうですか……」  
「悪いが、これも仕事なんだ。わかってくれ」  
「ロジャー」  
「じゃ、悪かったな。長話して」  
「別にいいっすよ……じゃ、おやすみなさい」  
そう言って俺は車から降りた。  
 ……しょうがないよな。ギョクさんだってセンちゃんと会えたの、すげー時間経っていた訳だし。  
 でも、せっかく帰れるというのに、あいつと同じ星に行けるというのに、なんか複雑だ。事件が終わったら、  
また次の仕事に移ってどうせすぐに移動になるだろうし。挨拶できりゃ、いいってところか……。  
 
 いつの間にか、天井に打ち付けた頭の痛みが消えていたのにまったく気付かなかった――。  
 
=========================  
【4・取調べ】  
「――おい、名前は?」  
「……」  
 何も言わない。のっけからこんな調子だと相当落とすのに時間がかかりそうだな。  
 
 目の前にいるのは、昨日取り押さえた武器強盗犯。  
「どこから来たんだ?」  
 質問を切り替える。人間の姿をしているが逮捕直前の抵抗時は人外の姿をしていたからだ。  
「……」   
 何も言わない。抵抗は逮捕時だけ。あとは言われるまま拘置所に入り、言われるまま取調室に入り、  
行動は従順だが問題は一言も口にしないこと。  
 これだったら抵抗しながら攻撃してくるアリエナイザーの方がまだましか?とりあえず聞いてみるか。  
「お前、”レッドレボリューション”の奴か?」  
「……」  
 それでも何も言わない。はあとため息をついて椅子にもたれかかると。  
「――ホージー、私に任せてくれない?」  
隣にいたジャスミンに声をかけられた。  
「いいのか」  
「これぐらい大丈夫」  
「悪いな……」  
いくら犯人だからと言って、本当はこんなことしたくないだろうに……仕事だからしょうがない。ジャスミンは  
右手の黒い手袋を脱ぎ、犯人の肩をぽんと触った。  
 
――3分経過。黙って肩から手を外す。  
 
「……どうだ?」  
 彼女は首を黙って横に振るだけ。……駄目だったか。自分の気持ちを読まれないようにガードする  
アリエナイザーもいるから仕方がないとはわかっているが、これじゃ何も手がかりは掴めないな……。  
 
=========================  
【5・真夜中】  
 ――半年後。  
 ボスからの報告を受けて以降、予想通りというか何と言うか、事件が増発していた。  
 犯人は、性質が悪い。何も言わない。黙り込んだまま。私のエスパー能力も、効かない。まるで監獄衛星アルカポにいたニワンデのよう。  
 夜勤もバンがいなくなってから1人体制だったのを、3人体制に切り替えた。いつ事件の報告があるかわからない。もしかしたら、地球にアジト、あるのではないかと勘違いしてしまうくらいだ。  
 
「――そろそろ、パトロール行ってくるね」  
「ジャスミン、1人で大丈夫?」  
「うん。また何かあったら連絡頂戴ね」  
「わかった」  
 そう言って私はマシンドーベルマンの駐車場へと向かった。1年以上経っても、私の隣は空席。彼が帰ってくるのを待ち続けるのみ。  
******************  
 バンがいなくなってから、彼女の涙を見たことがない。  
バンの話を出すと、「いつか帰ってくるから」そう言っていつも笑いながら答えるだけ。  
 でも……いつも1人でパトロールに向かう彼女の背中は、どことなく寂しそうに見えるのは私だけ?  
 後に残された私とテツ。  
「ジャスミンさん、いつも1人でパトロール行って……大丈夫なんですかね?」  
「1人だと、危ないって言ってるのにね。女の子だし、あんな事件もあったから危ないっていうのに」  
「俺たちが乗せてって頼んだりしても絶対後ろの座席ですもんね……」  
「それだけ大切な場所なんだよ」  
「やっぱり、先輩のことが……」  
 いくら私たちでもジャスミンの寂しさは取り除けないってことだよね……。  
 バン、お願いだから早く帰ってきて……。  
******************  
 今日も今日とて、1人でパトロール。車に乗り込み、エンジンを唸らせ、発進。  
 彼が来る前は1人で運転するのがあんなに楽しかったのに。  
 今度彼はいつこの助手席、もしくは運転席に座るのか。それだけが凄く楽しみでもあり、そして不安。  
 そう思いながら、車通りのない道をひたすら安全運転していたその時。  
 
 ドン!  
 
――銃声が鳴り響いた。   
 車を降りて、辺りを見渡すと。通りの一角にあるコンビニから1人の男が現れて、そのまま逃げるように走っていく。  
 
「待ちなさい!」  
そう言っても、逃げる足は止まりそうにない。また、強盗か……。  
走りながらSPライセンスを空けて、  
「ウメコ?ポイント156のコンビニ○○店で銃声。犯人は逃走中。犯人を今から追跡するから、後で援護お願い」  
「――わかった。今からテツとそっちへ向かうから」  
そう言われて通信を切って、犯人を追いかけるため、殆ど誰もいない通りを駆け抜ける。  
   
 一気に、行くべし。   
******************  
「ありがとーございましたー」  
 地球に帰ってきて2日目。真夜中じゃないと歩けないのが哀しい。久しぶりに帰ってきたから、  
ウメコが好きだった店のシュークリームを買おうと思っても、今の時間じゃやってねーしなあ。  
……コンビニのシュークリームで我慢するか……。  
 そう思って、さっき銀行から給料の一部を換金してもらって出たばかり。  
 せっかく地球に帰ってきたのに、実家はおろかデカベースにも行けない。昼間は昼間で、デカベースで  
情報収集した結果をもらってアジト探し。聞き込みもしなきゃいけない。  
 やっぱ特凶ってすげーんだな。なんでもありだもんな。……こういうとき、改めて地球署のあいつらと  
今の俺は”違う”ってことを思い知らされる。  
「コンビニ寄って、帰ろっか」  
 
 そのまま殆ど人のいない通りを歩く。昼間の通り歩いてみてーな……。そう思いながら歩いていると、  
何かしら追われてるような男が俺に向かって。  
 
どん!  
 ほとんど体当たり同然。俺はそのままぶつかったついでに尻をついてしまった。  
「っ痛ってーな!どこほっつき走ってんだよ!」  
そう叫んだけど、そいつは何も言わずに走り去っていった。  
「――なんだあれ」  
ちったあぐらい謝れってんだ。立ち上がって尻についた埃をぱんぱんと払っていたら。  
「……!」  
 もう1人、俺の横を颯爽と走り過ぎていった。もしかして……  
後ろを振り返ってそいつを見ると。黒に黄色の”SPD”マークが入った、ミニスカートの女。  
 
 ジャスミンだ。  
(まさか、あいつ1人で……)  
 
******************  
「――もう逃げられないわよ!大人しくお縄につきなさい!」  
ビルに囲まれた路地裏へ犯人を追い詰めた。  
「……」  
拍子抜け。あんなに抵抗してたのに。しかも、おずおずと黙って自分の両手を差し出す。  
「……強盗の罪で、逮捕するから」  
そう言って、右手にSPシューターを持ち左手にD−ワッパーを取り出して、彼に近付こうとしたその瞬間――  
「バカな女だ」  
「!」  
 しまった!差し出した両手がいきなり私の首を掴んだ。それと同時に持っていたシューターとワッパーをカシャンと落としてしまった。  
 
「……くっ……」  
苦しい……やっぱり、ウメコとテツを待ってからにすればよかった。  
「とっとと消えな」  
段々首を掴む力が強くなってくる。息が……できない……。  
 
――わたし、このまま死ぬの?そんなの、嫌……まだ死にたくない。  
死んだら、”彼”と一生会えなくなってしまう……最後に1度くらい会いたかったな……。  
 
(――死なせてたまるか!)  
 
突然。  
薄れいく意識の中で聞こえて来た、懐かしい声と共に。  
「うっ……」  
犯人が呻く。それと同時に私の首を掴んでいた犯人の手の力が緩まって、私はそのまま下に座り込むようにして、解放された。  
ずっと息ができなかった為、ごほごほと咳をしていたら、犯人の後ろから、ウメコとテツが駆けつけてくれた。  
「ジャスミン!」  
「――灼熱拳ファイヤーフィスト!」  
「うわあああっ!」  
犯人の背中が燃える。  
「テツ!デリートは……!」  
「わかってますって。……噴射拳インパルスフィスト!」  
 
「うわあああっ!」  
犯人の背中が燃える。  
「テツ!デリートは……!」  
「わかってますって。……噴射拳インパルスフィスト!」  
 
 一瞬燃え上がった犯人の背中が、インパルスフィストの水圧で消え去り、そのまま犯人は気絶したらしくその場に倒れた。  
「これにて、一件コンプリート、ですかね?間一髪でしたね、ジャスミンさん」  
テツはD-ワッパーで犯人の手首を固定して起き上がらせた。ウメコは私に駈け寄って  
「ジャスミン、大丈夫だった?」  
「うん、2人が来てくれたから。ありがとう」  
そう答えたものの、――違う……”2人が来てくれた”からじゃない。あの”声”……。  
 犯人をちらりと見ると、左腕には微かに血が流れている。  
 
「――ごめん、先に帰ってて!」  
「ジャスミン?」  
「ジャスミンさん!」  
 驚く2人を現場に置き去りにして、私は走り出した。――犯人の腕の傷。あの傷からすると私の後ろから”撃った”はず。  
”撃った”のは、多分”彼”。  
******************  
 誰もいない、電気もないビルの隙間に駆け込んで、俺は息をきらしながら壁にもたれかかった。  
「やっちまったな……」  
 俺も”あいつ”も懲罰もんだろうな。あの傷を調べたらすぐに俺が撃ったって、わかるだろうし。  
 でも、あいつがあのままやられるの、黙って見てられなかった。せっかく地球に帰ってきたってのに、  
いきなり”あいつ”が殺されそうになる場面を見て、見てるだけなんて出来るわけねーだろが。  
 
 それにしても……あのまま宿舎に帰ればよかったのに、何でこんなところに逃げ込んできたんだ?  
……バカか俺。自問自答したってすぐに答えなんて出てくるのに。  
 
 ジャスミンがここへ来ることを望んでいる、俺がいる。  
******************  
 なんとなく感じる、懐かしい”彼”の気配。  
 それに引き寄せられるかのように、私はいつのまにか電気も何もない街外れの路地裏に辿り着いていた。  
(ここかな)  
 通りには誰もいない。まさかと思ってビルの隙間を1つずつ覗いてみる。  
1つ……  
2つ……  
そして3つ目。――見つけた。月明かりに微かに移る人影。背を向けてはいるけど、華奢な体に長い手足。  
そして、トレードマークのツンツン頭。間違いない……。  
 
「バン?」  
そっと声をかける。私の声に反応して、その人影はゆっくりと私の方を向いて。  
「来てくれると思ってたぜ……」  
 
 やっぱりバンだった……。  
(あの流れ星の願い事、叶ったんだ)  
 そう思いながら、私は彼に駈け寄ろうとしたその時。  
 無機質な通信音が鳴り響いて……私はそのまま立ち止まったまま彼の応答を聞いていた。  
******************   
 やっぱり来てくれたんだな。駈け寄って来るジャスミンを抱き締めようと、そう思った矢先に突然鳴り響く俺のライセンス。  
「――はい」  
『伴番、お前どこほっつき歩いてるんだ?』  
やっぱりギョクさんか。タイミング悪いな、相変わらず。  
「ちょっと、腹減っちゃって……」  
『食べ物くらい、宿舎にもあるだろう?まだ任務が終わってないというのに、ちょろちょろと出歩くんじゃない。すぐに戻って来い』  
「……ロジャー」  
 そう答えて、俺は通信を切って、ライセンスをポケットに入れた。  
 せっかくジャスミンに会えたって言うのに……。でも、これも「仕事」だからしょうがない。  
 
「ごめん……俺、もう帰らないと」  
 俯きながら……いつもなら真っ直ぐジャスミンの顔を見て話す癖に、なぜかこの時に限って顔を見て話せなかった。  
 ジャスミンに、触れたい。抱き締めたい……そう思ってもどうしても頭をよぎるのは。  
 
 『任務が終わるまで地球署の奴らとは接触するな』  
 
 ギョクさんに何度も言われたあの言葉……でも……。  
******************  
 せっかく会えたのにもう帰るだなんて、言わないで。  
 本当はそう言いたかった。でも彼にだって事情があるのはわかってる。赤い特凶。特殊任務……。  
 
「わかった」  
そう一言だけ答えた。そしてそのまま彼は私を見ないまま通り過ぎようとしたその瞬間。  
 
「……やっぱ我慢できねえよ」  
そう言った瞬間、彼はぐっと私の腕を引き寄せて、そのまま私を抱き締めた。  
 
 流れてくるあったかいバンの心。1年前と一緒のまま。  
(もしかしたらお前も、ど叱られるかもしれないぜ……)  
(助けてくれたから別にいい。さっきはありがとう……いつも足引っ張ってるね)  
(油断してただろ?もうちょっと気をつけろよな。)  
(ごめん……)  
(……)  
(バン?)  
(久しぶりなのに、こんなんでごめんな。)  
バンから聞こえてくる声に、  
(会えただけでも、十分世は満足じゃ)  
(お前、ほんっと相変わらずだな……安心するぜ)  
 
 暫しの抱擁。そしてたった1分足らずの会話だけど、本当に十分。そのまま体を離して、  
彼はビルの隙間から出て行く。それを見送る私は彼に向かって。  
「また、会える?」  
「……多分な」  
 そう言って、手をひらひらさせながらポケットから取り出したのは、”白い”SPライセンス。  
そして、突然颯爽と走り出して、彼の姿は闇の雑踏へと消えた。  
(よかった)  
 彼との間に”立場の違い”を感じたけれど、それでもバンはあの頃とちっとも変わってない。バンは、バンのままだ。  
******************  
(やっぱ、ギョクさんに怒られるよな……)  
でも、ジャスミンを守れただけでも俺はそれだけでも満足だ。怒られたって別に構やしねえよ。  
始末書だって、懲罰だって何でも受けてやる。  
 後は、任務を早く終わらせて、あいつらに早く会いたい。  
相棒、また相棒って呼んでくれるだろうか。  
センちゃん、こないだのお礼してくれるだろうか。  
ウメコ、またシュークリームおごってくれるだろうか。  
テツ……お前の火の玉的行動が見たくてたまんねえ。  
 
「一気に、片付けるぜー!」  
そう叫びながら俺は宿舎へと走り続けた。そのすぐ後に彼女の危険を知ることもなく。  
******************  
(さて、そろそろ帰らないと)  
ドーベルマン、現場に置きっぱなしだったっけ。けっこう歩かなきゃ……。そう思いながら、現場に戻ろうとしたその時。  
 
「――!」  
 不意打ち。後ろから顔と口を塞がれた。睡眠薬の匂いがする……。  
「ちょっとあんたを利用させてもらうからな」  
 犯人の仲間?もしかして”レッドレボリューション”……?駄目、意識が薄れてく……。  
「おい、連れてけ。あとこれも」  
ばさっと自分の体全体に布が被せられた。  
「……どうやらこいつ、エスパーらしいからな。”あらゆる通信手段”は断っておかないと」  
その言葉を聞いた直後、私はそのまま意識を失った……。  
 
******************  
「ジャスミンさん、遅いですね……」  
「もう、あれから1時間も経ってるのに、何やってるんだろう」  
 私とテツを置き去りにして、ジャスミンは何処かへ走り去っていってしまった。  
デカルームにあたしたちは帰ってきたけど、それでもジャスミンは戻ってこない。  
定期的にSPライセンスに呼びかけてるけど、それでも返事は帰ってこない。  
 
「そういえば、ウメコさん気付いてましたか?」  
「え?何を」  
「なんか……俺が犯人にファイヤーフィストかける前に、銃声が聞こえたような感じがしたんです」  
「そういえば、犯人の手に銃で撃たれたっぽい傷があったね」  
犯人を護送したものの、気絶と火傷で今はメディカルルームで治療中。もちろんD-ワッパー付きだけど。  
 
「ジャスミンさんの手にはSPシューターがなかったし……」  
「変な話だよね」  
「もしかしたら……先輩かな?」  
「えー?バンが此処に戻ってきてるってこと?」  
「でもジャスミンさんを助ける人って行ったら、ボスか先輩ぐらいしかいませんよ?」  
「言われてみたら、そうだけど……」  
 もしそうだったら、バン、めちゃくちゃ美味しいかも。映画に出てくる人みたい……と思いながら  
「それよりジャスミンに連絡取らなきゃ」  
そう言ってSPライセンスをもう1度手にとって、再度ジャスミンと通信を取ろうとしたけど、それでもジャスミンからの返事は返って来ない。  
 
「――これって、なんかヤバクない?」  
「ボスに、連絡取りましょう」  
 
(続く)  
 

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