「ハル・リドナーだな?」
俺は固くて重いものをハルの頭に押し付けながら、抑揚のない声で言った。
「・・誰かしら?」
さすがというべきか、声に動揺の色は薄い。
「お前らが必死になって探してるメロだよ。まずは部屋の鍵を外し、中に入れ」
そう言うと、ハルは意外なほどあっさりと言われたとおりにした。そしてさっさと部屋の奥へと入っていく。
俺は多少驚きながらも、その後についていく。もちろん、相手の部屋へ入るのだから、あたりに充分警戒しながら。
「それで、一体私に何の用?」
「SPKの持ってる情報をよこせ」
話は至極簡単だ。もちろん、断らせるつもりはない。俺は銃をさらにハルに近づける。
「そうね、協力はするべきね、お互い同じ相手を追ってるんだから」
やや強張った笑みで、ハルはそう言った。
「協力だと?」
「そうよ、あなたも二アも、意地を張ってる場合じゃないでしょう?相手は、あなた達の尊敬するLを殺した相手なのよ」
その言葉に、つい俺は一瞬考え込んでしまう。
確かにLは俺の目標だったし、二アの目標でもあった。Lの凄さは知ってる。解決した事件の話だけじゃない。Lと実際に会話した時感じたあの衝撃は、抱いた憧れは、今でも色あせない。
だからこそ、俺はその後継者を目指したし、仇もとりたかった。
しかし同時に、俺には常に持ち続けた疑念がある。自分が、Lに及んでいないのではないか、ということだ。
あの施設で一度だけ、俺は二アにそれをたずねたことがある。二アの答えは・・
そこで回想は途切れた。銃を持っていた手に、衝撃を感じたからだ。
「うっ!」
気づけば拳銃が取り上げられ、その銃口が自分のほうに向いていた。
「くそっ!」
「動かないで!動けば撃つ!」
俺はその言葉で動きを止めた。普段の俺なら何とかしていただろうが、今は自分の馬鹿さ加減にあきれ、やる気をなくしてしまっていた。
二アの手下に銃をも奪われ、ホールドアップ?最低だ。
「くくっ、俺は何をしてるんだ・・」
いや、この建物に入る前から、俺はぬぐいきれない敗北感を感じていた。建物をつきとめられ、さらには襲撃された時点で、俺は負けたようなものだ。
キラは、俺が思う以上に強大な相手だった。そして同時に、ちょっとだけ安心していた。Lが敗れた相手が、取るに足りない相手ではなく、本当に凄い奴だと実感できたからだ。
「良いぜ、撃てよ」
俺はもう、どうでも良くなっていた。俺にはキラを倒せなかった。そしてこんな所ですら、みっともないドジを踏んだ。俺なんて、そんなもんかもしれない。
クスクスッ、とハルの笑い声が聞こえた。俺は生気の弱い目でその顔を見る。
「殺す気なんてないわよ、言ったでしょう、協力すべきだって」
「・・・俺にはそんな気はない」
「そう・・じゃあとりあえずそれはおいておいてメロ、聞きたいことがあるの。ノートで私を殺さなかった理由を教えて」
「何人か残しておくほうが便利だったからだ。いざという時のためにな」
「本当に、それだけ?」
「・・・・・」
「もう良いじゃない、私は知っているのよ」
知っている・・?まさか。いや、しかしあの事を知っているのなら、ハルが何故余裕を持って俺と対峙していたのかということに説明がつく。
「ねえ?」
ハルが妖美に笑う。その笑みに、俺は思わず息を呑んだ。そして同時に、新しい確信を持つことができた。
「やっぱり・・そうなのか」
「え・・?・・んっ・・・!」
俺はいつの間にか、ハルに近づいてその唇を奪っていた。
それは、自分でも信じられない行動だった。
自分でも信じられない行動のはずなのに、まるでそうすることが必然かのように、俺はハルの身体に触れていた。
「っ・・!メロッ・・」
ハルは唇を離し、驚いた声を出す。その手も俺の体を引き離そうとするが、俺にはどこか白々しく思えた。本当に跳ね除けたいなら、拳銃を使えば良いはずだ。
「うくっ・・」
俺は再びその唇を奪い、両手首をつかんでハルを押し倒した。
「まっ、て・・!」
ハルの小さな抗議などまったく聞かず、俺はその衣服を、下着を、引き裂くように脱がしていく。やがて現れたのは、白い肌をもった美しい裸体。
だがその姿に見とれる間も置かず、俺はその膨らみをもみしだき、乳首に唇を寄せた。
「・・ふふっ。もう、そんなに急がなくても良いのに」
その言葉に、俺はいきなり頭を殴られたような思いがした。俺のやってることなどすべて、ショックを受けるに値しない、とでも言うのだろうか。
俺は体の中の血が一気に熱くなるのを感じ、たまらずハルの身体を床へと思い切りぶつけた。
「あうっ!」
小さな叫び声。この行動はさすがに意外だったのだろう。ほんのわずかな余裕を取り戻した俺は、まだ動きが止まったままのハルの股を無理やり開き、唇を近づけた。
「・・・っ・・!」
ハルの目が見開く。初めてハルが、動揺の色を見せた。
俺はさらにペースを自分のほうへ引き寄せようと、一心不乱にその部分を貪る。考える隙を与えないつもりだった。
「うっ・・!あっ・・・・・!」
両手でしっかりと掴んでいるハルの脚が、行き場を失ったように悶え、暴れる。
やがて、その脚の動きも弱弱しくなった頃、いよいよ俺は自分のモノを取り出し、そこへあてがった。俺の唾液と、性的な分泌物により、充分過ぎるほどに濡れていた。
「ぁ・・ああああああっっっ!!!」
ハルは身体と叫び声で、一気に刺し込まれたその衝撃を表現した。俺はその衝撃を持続させてやるために、間髪いれずに腰を振り始める。
「あっ、あっ!ああっっっ・・!!」
身体を突かれるたび、ハルは悲鳴のような声を上げ、全身を震わせる。
中の熱さ、こすれ具合。
包み込み、吸いつくような、ハルの中。
それは、俺が今まで体験したどの女よりも気持ちよく、どの女よりも衝撃的だった。
「・・・っ!」
つい、俺は声に出さない叫びを上げた。信じられなかった。まだ入れてからほんのわずかな時間しか経っていないのに、すでに限界が目の前まで来ていた。
そして考える間もなく、それは一気に膨れあがった。
「!!」
次の瞬間、俺の目の前が真っ白になった。絶頂という単語を、俺は初めて信じた。
「お前は・・Lを直接知ってるな?」
俺はまだ息も整わないうちに、ハルに聞いた。
ノートに、SPK連中の名を書こうと考えたあの時。
そのメンバーの中に、確かに聞き覚えのある名があった。ハル・リドナー。記憶を辿り、なんとか思い出したのは、Lの事件についてのことだった。
あの施設では、時々Lの解決した事件について話を聞くことがあった。固有名詞などは避けて説明されることが多かったが、時々、個人名が出てくることがあった。
その中に、Lに協力した人間の一人としてハルの名があった。
「え?」
「お前はLの駒として動いていた時があったはずだ」
「・・ええ、そうね」
ハルの視線が、空中をさまいはじめる。過去を思い出しているのだろうか。
「そのLから聞いているわ、あなたたちのことを」
「なんて?」
「有望な二人だけど、それぞれ欠点を持ってるって」
「・・・・・」
その通りかもしれない、と思った。二アにあの疑問を投げかけたときのことを思い出す。
『及んでないですね。少なくとも総合力においては。私も、あなたも』
二アと、はじめて意見が合致した瞬間だった。
「ねえ、どうしても協力する気はないの?二アと」
「・・ないな」
「Lが、悲しむわよ」
ぎくりとして、俺はハルの顔を見た。ハルは相変わらず微笑を浮かべている。
「私はLがキラを追っている時、一度だけ会っているの」
ハルが、うっとりした目で語り始めた。
「久しぶりですね、L。でも素顔を見せてくれるなんて、どういう風の吹き回しですか?」
「今は色々な人に顔を見せていますよ。もちろん、私がLだということを知っているのは、本部の数人だけですが」
そこはLの指定した一室で、バックに美しい夜景が見える部屋だった。
「実は・・今キラと思わしき人間を見つけ、接触しているんです」
「さすがですね、L」
これがL以外の人間だったら見当違いをまず疑うが、Lの場合、むしろ疑うことが馬鹿らしく思えてしまう。
「しかし、恐ろしい頭脳をもった相手です。ひょっとすると、私は死ぬかもしれません」
私は耳を疑った。
「何を・・言っているんです?あなたらしくもない」
「事実は事実です。まあもちろん私は勝つつもりではいます。ですが・・死ぬ可能性もわずかにある、ということです。そこで、一つ保険をかけておきたいんです」
そう言ってLは、私の顔をじっと見つめた。その常人離れした強烈な眼のせいで、私は身体が硬直してしまう。
「私が死ねば、私の後継者候補である少年達、とくに二アとメロがキラを追うでしょう。しかし彼らは仲が悪く、協力することは恐らくない。だからあなたには、いざという時二人の橋渡しをしてほしいんです」
「私に、その二人の仲を取り持てと?」
「はい。私の解決した事件についての講義の際、あなたの名はわざと教えるように、ワイミーズハウスに伝えています。
きっとキラを追うことになれば、どちらか、あるいは両方が、あなたに接触を図ってくるはずです」
「手回しの良い事ですね。そうなると、私にはもう協力する選択肢しかないじゃないですか」
少し意地悪く言ってみると、Lは少しだけ目を伏せ、すまなそうな顔をした。
「確かに、あなたに無断でやってしまったのは悪かったと思います。すみません」
その答えを聞き、私はついクスクスと笑ってしまう。
「・・・リドナー?」
「いえ、冗談です。あなたにそれだけ信頼してもらっていることは、光栄ですし嬉しいです。喜んで協力します」
そう言うとLは、ほっとしたような顔をする。その様子につい、かわいい、と感じてしまう。
「そう言ってくれると信じてました」
「でも・・何かお礼ぐらいもらえませんか?L」
私はじりじりとLに近寄っていく。
「お礼ですか。そうですね、充分な謝礼は払い・・」
私はLに最後まで言わせないように、その唇を奪った。
「どういうつもりです?」
Lらしくもなく、ちょっと動揺したような声だった。
「お礼はこれで良いですよ、L」
私はそのままLの顔、首筋へとキスの雨を降らせ、服を脱がしていった。
Lは後ろへと体勢を崩しながら、嫌がるでもなく喜ぶでもなく、淡々と私の行為を受け入れていった。
透き通るような白い肌に指を這わせ、やがて陰茎に到達する。
最初はわずかに反応する程度だったが、舌を絡め、指で擦り続けるうちに、ついにそれはちきれんばかりの大きさになった。
「リドナー・・っ・・」
Lの呼吸が、はっきりと乱れていた。感じている証拠だ。
「ハルって呼んでください、L」
私は、Lの確かな反応に喜び、次のステップへと進むことにした。
「さあ、L、私も気持ち良くして」
私はそう言って服とブラを脱ぎ、パンツをひざのところまでずり下げた。そしてそのまま、Lの上にまたがった。
すでに私のそこは充分に濡れきっていたため、私とLは恐ろしくスムーズにつながることが出来た。
「うっ・・く・・っ!」
根元まで一気に入ってしまったがために、さすがに声が漏れた。
しかしLのものを自分の中へと飲み込んだ喜びと、単純なる情欲から、私はすぐに身体を揺らし始めた。
「あっ!うっ・・!ああっ!」
口から飛び出すのは、自分でも聞いたことのないような、あられもない嬌声だった。
私の中で脈打つLのものが、私の身体と心の両方にとめどなく快感を送りつづける。私もその感覚をもっと深く味わおうと、まるで獣のようにLを貪った。
「あっ、あっ・・!ああっ・・!!う・・くっっ!!」
絶頂はすぐにやってきた。そしてその頂は、いつもの絶頂より恐ろしく高い位置にあるように見えた。
それこそ、まさにそのまま天へと上ってしまうのではないか、というほどに。
「L、わたし、私もう・・っ!」
「・・うっ・・く!」
私の声に反応するように、Lが押し殺すような声を出し、私を抱きしめた。
Lもちゃんと感じていた事に私は胸を熱くし、そしてそのまま上り詰める。
頭からつま先まで、張り詰めていた力が一気に抜けおち、私はそのまま、Lの胸へと崩れ落ちた。
彼の本能の熱を、自分の身体の中に確かに感じながら。
朝目が覚めると、私は裸でベッドの上にいた。
「ここは・・?」
「ホテルですよ」
その声に振り返ると、そこには淹れたてのコーヒーを持ったLがいた。
「昨日の夜のこと、覚えてます?」
「昨日の・・・夜・・?・・・あ!」
「そうです。二アとメロのことは、確かに約束しましたよ、ハル」
「いや、そうじゃなくて・・セックスのほう・・」
「・・・・・」
Lはやや困ったような照れたような顔で、沈黙する。
私は昨夜の自分のかつてないほどの激しい痴態を鮮明に思い出し、少し赤面した。しかし同時に、顔が緩むのを感じた。
「ねえ・・Lは、気持ちよかったですか?」
「・・・・・・・はい」
私の言葉に、Lは躊躇いながらも確かに頷いた。
「ふふっ」
私は笑みを隠さず、差し出されたカップを受け取った。そして身体を起こして、Lにキスをした。
しばらくして。
私は来た時と同じように、きっちりとした服を着ていた。そして、ドアのノブを掴んでいる。
「ハル」
背後から、Lの声が聞こえてきた。私は振り返って、答える。
「大丈夫よL。約束は守ります。もちろん、そんな状況にならないことを祈りますけど」
「そうですね、私もそう思います」
「・・ねえL、あなたは私の事を・・・」
私はそこまで呟くと、慌てて言葉をとめた。しかしLは、私の気持ちなどお見通しだったようだ。
「ハル、私は信頼できる人間にしか正体はあかしません。そしてこんな重大な約束を交わせるのは、本当に大切な人だけです」
「L・・」
私はその暖かい言葉のおかげで、最高の笑顔を浮かべることが出来た。
そして最後に、私と彼はもう一度長いキスをした。
「Lの女、だったというわけか」
ハルの話を聞き終わって、俺は即座にそう言った。
「・・・・・」
「で、Lとの約束を果たそうと、二アの部下として二アに近づいたわけか。なら今日俺が来たのは、さぞ好都合だったろう」
俺の言葉に、ハルは何も答えなかった。
「俺に黙って抱かれたのも、約束のためか?情を移させて、説得しやすくするために?」
「あははっ」
不意にハルが笑った。
「あなたと寝たのは、あなたがLの後継者候補のひとりだからよ」
頭が、大きく揺さぶられるような言葉だった。
「わかるでしょう、Lの代わりってわけ。もちろん、あなたなんかに完全な代わりはつとまらないけど。
でもあなた、ずいぶんと早いのね。二アはもう少し、上手だったわよ」
天使が悪魔に変わる瞬間を見たような気がした。Lが信頼して寝た女が、こんな女だと!?
俺はすばやく銃をもち、ハルにつきつけた。
「!!」
さすがに、ハルの顔にも恐怖の色が走る。
その引きつった顔を見つめたまま、俺は再びハルの穴に自分のものを差し込んだ。
「はっ・・!あああっっ・・!」
たまらず、ハルがうめく。しかし俺はそんなのは意に介さず、欲望のままにハルの中を荒らす。
「二アの方が上手いだと!?ふざけるな!おいハル、俺は今日からしばらくここに居座るからな!お前が、俺のほうが良いと言うまでな!」
深夜。
ハルは、すべての力を出し尽くしたかのように眠っているメロを置いて、窓辺にたった。
二アはきっと、私にメロが接触をすると踏むだろう。
それまでは二アをここにとどめ、ニアが感づいたときに二人を会わせるのが得策だろう。
「大丈夫よ、L。どんな事をしても、必ずあの二人を・・」
美しい月を見ながら、ハルは一人、呟いた。