絶対に認めるわけにはいかなかった。  
何があっても。  
キラ。  
名前と顔がわかるだけで、人を殺せる能力を持った『人間』。  
自らを神と驕り、救世主として世間を沸かせる――殺人鬼。  
一体その能力がどのようなものであるのか、見当もつかない。  
二日前、またも嫌な知らせが入ってきた。  
日本に送られたFBI捜査官が全員殺されたという。  
――結果としてFBIはキラ事件から手を引いた。  
つまり――キラに――悪に屈したという事。  
正義が悪人を殺すこと?馬鹿馬鹿しい事この上ない。  
幼稚で自己陶酔した人間の、単なる独りよがりにすぎない。  
神である自分に盾突く者はたとえ罪の無い者でも殺す、か。  
そんな正義は、絶対に認めるわけにはいかなかった。  
何があっても。  
おそらく、キラを捕まえる事の出来る者がいるとすれば、自分――もしくは自分の後継者達だろう。  
みすみす命を捨てる気はない。  
だが命を賭ける事はしよう。  
『正義』の名に賭けて。  
 
真の『正義』とは、絶対的な『強さ』を持っているのだから。  
 
肩越しに、後ろのソファーで眠っている少女を見やる。  
気持ちよさそうに、静かな寝息を立てていた。  
 
――それは、当時10歳だった彼女が教えてくれた真実だった。  
 
 
****  
 
――久しぶりに、夢を見た。  
と、いうより、睡眠自体を随分長い間摂っていなかった気がする。  
一体彼は最後にいつ寝ただろうか。  
キラ事件の捜査を始めてから、前以上に睡眠時間が短縮されてしまった。  
今まではどれだけ多くの事件を抱えていても、ここまで眠れぬ日々を  
過ごすことは稀だった(それでも一日に二時間眠れば良い方だったが)。  
それが、事件件数自体は愕然と減ったというのに、たった一つの――  
否、一人が巻き起こす事件がこれまで以上に彼を振り回しているのだ。  
そして今、いつの間にか眠っていたのであろう彼が、自分が夢を見ていた事に気が付いた。  
少女の、夢だった。  
少女は夢の中で、何かを彼に訴えていたような気がした。  
泣きながら。あの明るい笑顔は無く。  
もう、1年近くも会っていない。  
もともと、頻繁に会っていたわけでもなかったが、それでも数ヶ月に一度は  
彼女の――いや、彼らの住む施設に足を運んでいた。  
彼女に初めて会ったのは六年前、孤児施設、ワイミーズハウス――  
彼の後継者を育てる施設で、彼女が8歳の時だった。  
彼女は一般のレベルで言うと、非常に優秀であったと思う。  
ワイミーズハウスで行うテストでは、常にトップクラスだった。  
時々ワイミーズハウスに足を運べば、そこには十数人の子供達の中の、  
ほんの一握りの子供達の名前が羅列した紙が、廊下の踊場に貼ってあった。  
目を通すと、御馴染みの子供達の名前が目に留まる。  
ワイミーズハウスでは、子供達の年齢は全く関係なかった。  
孤児院の生徒全員に、同じレベルの、極めて難易度の高いテストが一斉に行われるのだ。  
 
そしてその中で最も優秀な人間こそ、彼の――『L』のコードネームを引き継ぐことが出来る。  
もちろんそれだけが目的ではなく、『L』を継ぐことが出来ぬほとんどの子供達が個性を磨き、  
社会に出、自分なりの道を歩んでいけるように養育を施されていた。  
 
1 ニア  
2 メロ  
 
 
ニアとメロ……具体的な年齢は聞いてないが、おそらくは十歳そこそこだろう。  
いや、ニアに関して言えばそれ以下かもしれない。  
しかし驚く程の事ではない。彼もそれ位には既にアメリカの一流大学のテストで  
満点を取れる程度には物事を理解していたし、ワタリと出会ったのも8歳の時だった。  
 
もし彼の後を継げるとするならば――この二人のどちらかだろうか。  
そうなれば、3位と4位を入れ替わり立代わりしている彼女は、  
やはり『L』を継げぬ、『ほとんどの子供達の中の一人』という事になる。  
それは仕様の無い事であり、彼がどうにかしてやる事も出来ない。  
しかし、彼女は明るく、優しい性質の持ち主で、それを僻む事も、ましてや妬む事もなく。  
しかも彼女は絵を描く事に関して、非常に優れた才能を持っていた。  
彼がワイミーズハウスを訪ねると、いつも嬉しそうな笑顔を見せて。  
「最初のLの印象は最悪でした」  
「………。」  
物事をはっきり言う性格でもあった。  
彼女がワイミーズハウスに引き取られたのは8歳の時だった。  
他の孤児院でその英才ぶりを発揮していたのを見て、ワタリが引き抜いてきたらしい。  
 
「だってどう見ても変人っぽいし…」  
「………………そうですか…」  
傷つく言葉を平気で笑いながら言う彼女に、釈然としないままそう答えるのがやっとだった。  
「――でも優しいですよね、Lは」  
「――?私は別に自分を優しいとは思いませんよ」  
「いいえ、優しいです。少なくとも――私の価値観の中で。」  
「あなたの価値観とは、何でしょう?」  
「きっと、Lと同じだと思います」  
「…私と同じ…ですか」  
「わかりませんか?」  
「わかりませんね」  
彼女は――リンダは悪戯っぽい笑みを浮かべ、からかうように言った。  
「Lにも、わからない事があるんですね」  
 
 
*****  
 
 
夜の七時も回った頃。帝東ホテルの一室。  
凍てつくような空気の、暖房のついた部屋ですら、肌寒さを感じる日だった。  
年末も近づき、窓から外を見ると東京の――様々な色の、幾千ものネオンが  
暗闇の中綺麗に散りばめられて、輝いている。  
忙しなく通るたくさんの車、巨大なビル郡の一つ一つの部屋の明りが、  
彼の目に留まる。  
考える事が多すぎて、今まで気が付かなかったが、こうして見ると  
ここからの眺めも悪くはない、と思う。  
だが、やはり彼の思考は次第に事件の捜査へと傾いていく。  
『死神はりんごしかたべない』  
キラの残したメッセージ。  
残したのはこれだけなのだろうか?  
否――キラは必ず大きな手がかりを残しているはずだ。  
見落としている点は無いか。他に何か。  
何か、ひとつ――  
 
そこまで思い至ったとき、開いていたパソコンから、人の声が聞こえた。  
彼のパソコンに直接語りかけてくる人間は、今の所一人しかいない。  
 
「L――実はLに会いたいと言う者が訪ねてきております」  
「ワタリか……私に会いたい者?それは…警察の人間か?」  
「いいえ…全くの部外者です。しかし…Lもよくご存知の者です。  
その者もLをよくご存知でいらっしゃいます。通しても大丈夫かとは思いますが……  
今の状態でLに会わせてもよいものかと判断しかねます」  
まわりくどいいい方だ。ワタリらしくない。  
大体、会いたいと言う者の名前さえ明かしていない。  
彼が知っている人間。相手も彼をよく知っている人間。  
怪しい気がする。  
だが、彼が知っている人物と言う事は、ワタリもその人物をよく知っているはず。  
そのワタリが通しても大丈夫だというのなら、きっと大丈夫なのだろう。  
それだけの信頼を、彼には寄せていた。  
いいだろう。  
客人というのが誰かは知らないが、少しの間事件から離れて見るのも一興かも知れない。  
彼をLだと知った上で会いに来る者。ワタリの妙な言い回し。  
それが彼の好奇心を誘った。  
「――すぐに案内を」  
「了解しました。L」  
通信が途絶えた。  
自分を知っている者……世界中探しても自分をLと知るのは数える程しかいないはず。  
 
だが、よもやキラというわけではあるまい。  
次々と見知った顔を思い浮かべながら、熱いコーヒーを煎れ直し、  
砂糖をスプーン5杯程入れる。  
甘さは頭の回転をよくしてくれる。間もなくやってくる客人の為にも  
コーヒーを注ぎ、  
二つのコーヒーカップを持って、パソコンの前にいつもの足を抱え込む  
体勢に座りなおした。  
幾許もかからぬうちに、二つの足音が部屋の前で止まり、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。  
こちらです、とワタリの声が聞こえ、ドアが静かに開いた。  
 
 
――ああ、彼女だったのか。  
 
「…お久しぶりです。…L…」  
「貴女でしたか……全く思ってもいませんでした」  
意外だった。まさかワイミーズハウスを抜け出してまで、自分に会いにくるとは。  
「ごめんなさい…L…規則破りは承知してます。」  
「申し訳ありません、L。警察庁の外でうろついていたのをたまたま私が  
見掛けました。聞けばLに会わせて欲しい、と言うものですから…」  
一度ワイミーズハウスに入った者――『L』の姿を確認した者は、院長の許可が無い限り、  
その広い敷地内から出ることは出来ない。  
まして、自分からLに会いにくるなどという事は。  
Lの素顔を知ると言う事は、それだけ重い責任と危険を伴うと言う事なのだから。  
それを知っていての――彼女――リンダの訪問に、彼は少なからず驚いた。  
「…外にあまり出たこともないのによくこの東京まで来れましたね、リンダ。  
規則破りは褒められた事では無いですが……その行動力は認めましょう。  
――まあ立ち話もなんです。好きな所に座って下さい。」  
彼は彼女をこの部屋まで案内したスーツに身を包んだ老人――ワタリに目配せした。  
ワタリは軽く会釈し、ドアを閉める。  
残された彼女は申し訳なさそうな表情で彼を一瞥し、彼とテーブルを挟んでの  
真正面の席についた。  
周りには、少し前まで甘いものを包み込んでいたのであろう包装紙やカップ等が  
大量に散乱していた。  
とても客人を迎え入れる部屋とは思えない有様だったが、彼女は特に気にも留めず、  
俯き、何かを言い迷っているようだった。  
彼は――彼女の夢を見た理由がわかった気がした。  
予知夢というのは本当にあるのだ、と実感せずにいられなかった。  
 
 
****  
 
Lでもわからない事があるんですね。  
 
笑いながら言う彼女に、彼は答えた。  
「もちろんです。だから――考えるんですよ。ただひたすらに。」  
「ずっと何かを考えるって、疲れないの?」  
「確かに疲れますが…答えが出るまで考えずにはいられないんですよ。  
私の悪い癖みたいなものです」  
「…今も、考えてるの?」  
「何年かかっても出ない答えもあります。」  
「例えばどんな?」  
「…そうですね。今私が考えていること――いや、悩んでいることだと  
言った方が正しいでしょうか。何年も悩んでいる、と言うより……  
事件が起こる度に――事件を解決する度に思うのですよ」  
何年も………このLをそれ程に悩ます問題とは一体どんな  
難しいものなのだろう。  
それは彼女の好奇心をひどくそそられ、真剣な眼差しで、彼を見る。  
彼女の、深く碧みがかった綺麗な瞳の中に、彼が映っていた。  
「――『正義』とは、一体何なのでしょう?」  
「……え?」  
あまりに予想しなかった彼の――Lの問いに、彼女は目を丸くした。  
 
世紀の名探偵 L。  
正義の名探偵 L。  
 
そう世間で称えられる彼の、予想だにしなかった悩みに  
彼女は驚きの表情を浮かべて、まじまじと彼を見る。  
 
「…L?」  
「わからないのです。何年考えても。事件を解決しても解決しても、  
犯罪は減ることがありません。それどころか、増えていく傾向にさえある。  
しかし、だからと言って、被害者の事を考えると悪を見過ごすわけにもいきません。  
悪は許せない。それは事実です。  
ただ、時々私は自分がしている事の――正義の本当の意味が  
わからなくなるんですよ。」  
彼にこんな感情があるとは、彼女は全く思ってもいなかった。  
ずば抜けた推理力によって数々の難事件を解決してきた裏側で、  
こんな思いを抱いていたとは。  
彼の人間らしい一面を垣間見た気がして、驚きとともに嬉しさが  
込み上げてきた。  
「…意外と普通なんですね、L」  
「……そんなに私は普通に見えませんか?」  
はい、という失礼極まりない言葉を飲み込んで。  
いつも気の強い彼女が、今まで見せたことも無い優しい笑みを浮かべて。  
「私、その答え知ってます」  
「……答え、ですか…」  
「刑事だった私の父が、小さかった頃の私に教えてくれました。  
正義は何よりも強い力を持っているって。」  
「……その力、とは?」  
「…その力とは――――――」  
 
 
***  
 
 
「何か余程の事でもありましたか?わざわざイギリスから  
東京までやってきたんです。それなりの理由があっての事でしょう。  
黙ってたんではわかりませんよ…」  
彼女が部屋に入ってから、既に5分以上が経っていた。  
その間何かを言いたそうで、しかし言えずに結局固まったまま時間が  
過ぎていく。  
「……リンダ、言わなければ何も始まりません。私も時間が惜しい。  
知っているでしょう?キラ事件の捜査を…」  
「――!」  
彼女の顔が僅かに強張った。――もちろん彼も、それを見逃すはずもなく。  
「………キラに関する事ですか?」  
頷くとも、否定するともせずに。ただ彼女が口を開くきっかけ  
にはなったかもしれない。  
沈黙を守り続けた彼女が、一つ溜め息をついて、  
真っ直ぐLを見た。深い碧がかかった、綺麗な目で。  
「…Lは…ずっとキラの事件を担当するつもりですか…?」  
「……?おかしな事を聞きますね。事件はまだ解決していないのだから  
当然でしょう。」  
「殺されるかも知れない、のに?」  
「……リンダ?」  
「私、…昨日知ったんです。日本に送られてきたFBI捜査官が…  
全員殺されたって……、 Lの指示で動いてたって……」  
「………どこでそんな情報を?」  
 
Lの表情が僅かに険しくなった。  
それは現在においては全ての警察機構間のトップシークレットであり、  
インターネットの極秘サイトでしか流れていないはずだ。  
「…ごめんなさいっ、昨日の朝メロとインターネットで遊んでて…!」  
「……ハッキングですか…成る程、貴方達ならそれ位は容易いでしょうが……  
これも褒められた話ではありませんね……」  
呆れたように呟いて、温くなりかけのコーヒーをすする。  
「メロも私もLの指示でFBIが動いてたという事を信じてはいません。  
でも……キラは本物の殺人鬼だと言うのはよくわかりました!  
どんな能力で人を殺すのか……いいえ、名前と顔がわかるだけで  
殺せるなんて、普通の人間じゃないもの…!」  
「その能力を明らかにしていくのも私の仕事です。今はまだ  
何もわかってはいませんが……今回FBI捜査官達の尊い犠牲に  
よって……何かがわかりそうなのです。うまく行けば、  
可能性のある者にたどりつく事が出来るかも知れません。  
そのためには…私が動くしかないでしょうね。」  
「それって……まさか………!」  
「はい。流石に察しがいいですね。明日、私は貴方達以外では初めて  
人前に『L』として姿を見せようと思っています。」  
さぁっ――と、血の気が引いていくような感覚に襲われた。  
もしも――いや、彼にしてもその可能性が無いとは思っていないはずだ。  
それなのに。  
 
「人前に、って…それは警察の人たちにですか!?…もし、その中に  
キラがいたら……!」  
「その可能性は承知しています。今まで警察の情報はキラに筒抜けでしたからね。  
それでも――」  
かちゃり、と陶器同士が擦れる音を立てる。まだ半分以上中身が残っている  
コーヒーカップを置いて。強い口調で。彼は言う。  
「私は、負けました。――だから、最後に勝つ為に、捜査本部内の信用できる  
一握りの人間には姿を見せておく事が必要だと私は考えます。  
それに私の本当の名前を知ることはキラと言えど不可能でしょうから。」  
「で、でも!命がけの捜査になる事は間違いないじゃないですか!  
危険すぎます!もしLが殺されたりしたら…私……私……!」  
「――…わかりませんね……何故貴女はそこまで私を止めようと  
するのでしょう?今の私は自分が信じる正義に従って行動しているに過ぎません。」  
「……正義……」  
「教えてくれたのは貴女だったはず。正義とは絶対的な強さを持っている、と。  
強さとは――『優しさ』だ、と。」  
「あ……」  
確かに、記憶があった。4年前、彼とワイミーズハウスの裏庭で、たまたま  
二人きりで話した時だった。  
 
 
 あの時から、彼女は。  
 
「刑事であった貴女の父親が、貴女に遺した言葉であったはず――その貴女が、私に  
キラの捜査から手を引け、と?偽りの正義の仮面を被った『悪』に屈しろ、と?」  
涙が、零れそうになった。確かにあの時、彼女は彼に、そう告げた。  
 
 その時から、彼女は。  
 
「だって……だって……!」  
目が霞む。頬が温かい液体で、濡れてきた気がした。  
零れ落ちそうになるものを堪えるように、唇をぎゅっと噛み締めて。  
「私は……Lの事愛してるから……!」  
 
 その時から、彼女は。     恋をしてしまった。  
 
「だから……いなくなって欲しくないもの!死んでなんて欲しくない…絶対に…!  
だから……ここに来たの……」  
絞り出すように、ようやくそこまで彼に告げる。  
霞んだ視界に彼が映った。目は逸らさなかった。彼の表情からはその感情が  
読み取れない。今の自分は彼の目にどう映っているだろう?  
「…………困りましたね……」  
溜め息まじりに、呟いた。  
先に目を逸らしたのは彼の方だった。ふい、と彼女から視線をずらし、  
いつもの、親指の爪を噛む癖。何かを考えている時のシグナル。  
その言葉に、彼女は自分が言った事の重大さに気がつき、愕然とした。  
 
彼は――目の前にいる男は、あの『L』なのだ。  
世界最高の探偵、L。個人でありながら、世界の警察機構を  
全て動かすことが出来るという。  
その両肩にとてつもない数の重責を背負い――日々それらと戦う事を  
運命づけられた者。  
 
 ――彼は、自分に課せられた使命を果たそうとしているだけ――  
 
その、信念のままに。  
 
――そんな彼に、彼女は、自分の感情のままに、とんでも無いことを  
口走ってしまった。彼の使命を、止めようとした。  
感情の、ままに。  
よりにもよって、これまで秘めてきた想いまでも。  
絶対に、言うつもりなど無かったのに。  
自分の想いなど、彼の負担になるだけだろうに。  
「……そ…うですよね……L…。私勝手な事ばかり言って…!  
でも…信じて…Lを困らせるつもりなんて無かったの…ごめんなさい…!」  
言いながら、涙が零れ落ちた。  
堪えているつもりなのに。どうしようもなく、零れ落ちた。  
その場からすぐにも立ち去りたい思いに駆られ、彼女が勢いよくソファから立ち上がった時。  
「――別に貴女が勝手な事を言ったから困っているわけではありません。」  
「……え…?」  
彼は――別に困っているようにも見えなかった。しかしいつもよりも少し目を細めて。  
 
それは、4年前、正義の意味について考えていると言っていた時の  
彼の表情とよく似ていた。  
漠然とした、形の無い答えを求めて――途方に暮れていたあの時と。  
彼女の胸が――にわかに高鳴った。  
「わからないのです。私はこれまで『憧憬』・『尊敬』・『批判』・『敵意』……  
そういった類の目にはいくらでも晒されて来ました。しかし――」  
一つ呼吸を置いて。まるで言葉を選んでいるかのように。  
この、『L』が。  
「――愛された事は、ありませんでした。」  
彼の口から出てきたあまりに意外な言葉に、彼女は思わず息を呑んだ。  
涙は知らず、止まっていた。  
「私は両親というものも生まれてすぐに亡くしましたし、愛情を注いで  
くれる人間も居なかった。――だから、わからないのです。  
人の愛し方を、私を愛してくれると言う人間に、どう接したらいいのかを。  
それで私は今困っているのですよ……」  
それはあまりに飄々とした口調だった。本当に困っているのかと思わんばかりに。  
けれど。彼女には。それで、十分だった。  
「……L……」  
彼は世紀の探偵、L。  
   正義の探偵、L。  そして、あまりに孤独な人。  
 
 
いつの間にか、彼女は彼を抱きしめていた。  
「……リンダ?」  
初めて、彼の感情が伺えた気がした。僅かに驚きを孕んだ声で、彼女の名を呼ぶ。  
「…よく私のお父さんやお母さんが、小さかった私をこうやって抱いてくれました。  
こうすると、その人の気持ちがよくわかるの。ああ、愛してくれてるって。」  
「…優しいご両親だったようですね」  
「はい。すごく」  
さっきまでの泣き顔は消え失せて、その表情には以前の彼女の明るい笑みが  
浮かんでいた。――四年前、正義とは優しさだと、教えてくれた時のあの時の。  
「……今年で、いくつになりますか?」  
「?どうしたの、急に……」  
腕は彼の首に絡めたまま、顔だけ向かい合って。  
「いえ……貴女の年齢がいくつだったかが気になりまして。」  
「…?ついこの前14歳になったばっかりですけど…」  
彼の問いに、不自然さを感じながらも彼女は答えた。  
彼は、目を逸らし、14ですか、と呟いた。  
「L…?」  
「――内緒ですよ?誰にも――」  
 
「っ、――!?」  
何が起こったのか、彼女は一瞬理解出来なかった。  
目の前に――彼の顔がある。今までにない、近い距離で。  
そして、唇同士が触れている。  
胸が高鳴り、自分の顔がみるみる紅潮していくのを感じた。  
Lが、自分に――  
考えるだけで眩暈がする。きつく目を閉じ、感覚だけで彼を感じる。  
最初は触れ合っていただけだった彼の唇から、何かが自分の中に  
入り込んできた。  
「っん…!?ん、ぁ… んぅ…!」  
ざらり、とした感触と共に、口膣を嬲られるような息苦しさに襲われ、  
思わず声が上擦った。  
クチュ……ピチャ……  
唾液が混ざり合い、漏れる音。それはまだ14歳の彼女には、ひどく  
淫靡で、何かイケナイ事をしているような罪悪感に襲われた。  
彼の舌は丁寧に彼女の歯列をなぞり、彼女の舌を絡ませて。  
息が詰まる苦しさに、彼女は彼の長袖のTシャツの胸元をぎゅうっと握り締めた。  
それを合図のように、彼は彼女から唇を離した。  
唾液の糸が、つぅ…と名残惜しげに互いを繋ぎ、やがて途切れた。  
「……L……」  
はぁ、と圧迫感から解放された安堵の息が漏れる。  
彼女の碧い瞳は濡れていた。それは先程の涙とはまた別のものだった。  
「…私はこういうやり方しか知りません。他に貴女を満足させる  
愛情の示し方を知っていればよかったのですが……」  
――愛情の示し方。  
それは彼なりに、自分に答えてくれようとしているのだろうか。  
だとしたら、それはあまりに不器用なやり方のように、彼女には思えた。  
不器用で、――ひどく愛おしい。  
 
「…っ…う…… んっ…!」  
長いソファの上に、寝かされて。また息苦しいキスをされる。  
自分がこれからどうなるのか、全く分からないわけではなかった。  
テレビや本などで、思春期の少女なら誰もが知っている程度の知識はある。  
しかし、それが現実に自分の身に起こりうるとは思ってもいなかったが。  
「ぷ、は…… はぁ…」  
再びその息苦しさから解放されて、彼女は目を開いて彼を見た。  
いつもの――彼と違っている気がする。  
何を考えているか、わざとわからなくさせているのでは無いかと  
思うほど大きく開いた目を、今はすっと細め、彼女を見つめていた。  
こんな真剣な表情の彼を、彼女は初めて知った。  
「…後悔しませんか?」  
何に対しての後悔だというのか。  
彼を愛してしまった事か、それともこの行為に対しての後悔だろうか。  
確かに、罪悪感が無いわけではない。まだ14歳の自分が、  
幾つも歳の離れた男と行為に及ぼうとしているのだ。  
しかし。  
拒絶すれば、もっと後悔する気がした。  
「……L……」  
目をぎゅうっと閉じて、彼の行動を待った。心拍数が上がるのを感じた。  
このまま、心臓が止まってしまうのでは無いかと思うほどに。  
「リンダ」  
名前を呼んで。彼は彼女の首筋に口付け、舌を這わせた。  
 
「っ…!」  
びくり、と彼女の身体が強張る。彼の舌が、つ…と白く細い首筋をなぞる。  
蛍光灯に照らされて、彼の唾液の後が艶かしく光っている。  
息をすることさえ忘れて、彼の舌の感覚に神経を集中させた。  
身体が、熱くなっていく。  
彼は彼女の着てきたフード付コートのボタンを外していく。  
すると下には、薄い長袖のTシャツを一枚着ていただけだった事に気がついた。  
「……随分と薄着で来たんですね。寒かったでしょう。」  
「っ…急いで、たから……部屋に帰って厚着に着替えたら…、出かけるのが  
皆にばれちゃう…から……」  
「……いい判断です。」  
言って、彼は彼女のコートを脱がし、節くれだった指を、Tシャツの下に滑り込ませた。  
 
「っ……!!や…っ…!」  
素肌に触れられる恥ずかしさに、思わず抵抗とも取れる声が漏れる。  
しかし彼は気にも留めず、冷たい指先をゆっくりと奥へと滑り込ませていく。  
まるで彼女の肌の滑らかさを楽しんでいるかのように。  
彼女の身体は強張ったまま、声を上げること――いや、呼吸をすることさえもままならず、  
彼の指先によってもたらされる感覚に耐える。  
ゆっくりと、じらすように。  
彼女の女性的な膨らみに、下着越しに触れた。  
「っあ…!い、いやぁ、L…待って……」  
身を僅かにゆすり、両目を小さな手で覆って、泣きそうなような声で彼に訴える。  
 
彼は彼女の胸に触れたまま、ぴたりと手を止めて、何かを考え  
込むようにじっとしている。  
そのまま、どれ位の時間が経っただろう。  
三十秒――いや、もう一分位はゆうに経っている気がする。  
どうしたと言うのだろう。何をするわけでも無く、ただ黙っているだけの  
時間がひどく重苦しい。  
だが彼女自身が彼に何かを問うというのも、まるで次の行動を  
期待しているように思われそうで、嫌だった。  
まさか「待って」と言ったものの、本当に待ってくれているとでも言うのだろうか。  
いや、それよりも、何もせずにただこうして胸に触れられていると言うのも  
辛いものがある。  
彼女はおそるおそる手を除けて、真っ直ぐに彼を見上げた。  
「…L……」  
不安な気持ちで彼を呼ぶ。何かを言って欲しい――黙っていられたのでは  
不安になるばかりではないか。  
「……リンダ…」  
ようやく沈黙が破られ、僅かに安堵した次の瞬間。  
「……小さいですね」  
「…………え?」  
彼の言葉に、彼女は思わず素っ頓狂な声を上げた。  
数コンマ後、彼の視線の先を追うことで、彼女はその意味をはっきりと理解した。  
「え…Lっ…!!」  
「ぎりぎりでBというところでしょうか。もう少しあるかと思っていたのですが」  
悪びれもせずに、彼女自身が最も気にしていたことをはっきり言う。  
彼女は彼のあまりにデリカシーの無い言葉に、顔が熱くなっていくのを感じた。  
上半身を起こし、彼に抗議する。  
 
「なっ…何よっ、私はまだ14歳になったばっかりなのよっ……  
大きくなくて当たり前じゃないの!」  
もともと勝気な彼女なだけに、プライドがズタズタにされたような気分になる。  
「当たり前でしょうか……私は貴女位の女性を相手にしたことが  
なかったのでよくは分かりませんが…十四歳位になると、大きくなる人は既に  
大きくなっているような気がしますが……」  
「っ…!!わ、私はただ成長が遅いだけよっ!三年後にはきっと、  
Lだってびっくりするくらいグラマーな大人の女になってるんだからっ!」  
「…三年後、ですか」  
「そうよ…絶対、なってるんだから…!」  
何の根拠も無い自信だったが、少なくとも今よりはマシになっている  
だろうと思っての、彼女の精一杯の強がりだった。  
しかし、彼から返ってきた言葉は――彼女にとって、意外なものだった。  
「…成る程。では――」  
初めて、彼は彼女に笑顔のような表情を見せて。  
 
「――三年後を、楽しみにしていましょう。」  
 
その言葉の意味を悟り――彼女は全身がこれまでになく熱くなるのを感じた。  
絶句した彼女の胸に再び触れて、今度はその手を彼女の背中に回す。  
「っ…」  
ひやりとした感触が、彼女の神経を刺激する。  
だが、何故か先程までの身体の緊張が、少し解れているような気がした。  
片手で器用に、ブラのホックを外す。はらり、と彼女の胸を――その先端の  
彩りを隠していたものが、零れ落ちた。  
 
「あ……」  
彼女の白い小さな膨らみが露わになる。  
先端の淡い飾りは既に硬くなっていて、まるで彼を誘っているように思えた。  
「――っ!あ……!」  
甘くしびれるような快感が、彼女を襲う。  
彼の舌が、彼女の突起を嬲るように弄っていた。  
「L… っ…ぅ……っ…!」  
再びソファに仰向けにされ、彼の愛撫に身を任せる。  
彼の大きな掌は、彼女の小さな膨らみを丁寧に揉みしだき、舌先でもう片方の  
膨らみの先端をころころと転がすように舐め上げる。  
わざと、水音を立てながら。  
羞恥心が、より一層甘美な彩りを与える。  
呼吸さえもままならなかった先程までとは違い、今は気を抜くと  
甘い吐息の合間に淫らな声を上げてしまいそうになる。  
まるで、自分の声ではないかのような、甘い甘い、声。  
「ぁ…、ぅん……ふ、ぅ…!」  
閉じた唇の隙間から漏れ出る声を、必死に押さえ込む。  
す、と彼の掌が彼女の胸よりも下に降りていく。ゆっくりと、肌に滑らすように。  
「っ、……は……っ…」  
「…声、我慢しないで出したらどうです?」  
「…ぅ……や、いや…っ…」  
いやいやをするように首を揺らす彼女に、彼は耳元で囁いた。  
「何故です?気持ちいいんでしょう?」  
 
 
――くちゅ  
 
「ひっ…!や、やだっ……何っ…?」  
彼の手は、彼女のスカートの奥の――その下着の中に滑り込んでいた。  
既に何かの液体で濡れそぼったその部分は、彼の手によって容易に淫靡な水音を奏でた。  
「っ…!っふ……!」  
「……前にも言いましたが、私はかなり幼稚で負けず嫌いな性格です。」  
「…っ…な、に……?」  
「…そうやって我慢されると、――もっと苛めたくなってしまいます。」  
「っあ…?ア、やぁっ… !」  
彼は彼女の小さなショーツに手をかけ、するりとそれを剥ぎ取る。  
「L……やぁ……」  
見られている。彼に、自分の全てを。羞恥に、思わず目を覆った。  
すっかり露わになった彼女の其処はしっとりと蜜を湛え、熱を帯びていた。  
「……濡れてますね。」  
言いながら。彼女の、ひっそりと息づくクリトリスを指先でくにゅ、と押さえる。  
「あ…ぁ……っ…アっ……」  
びくん、と彼女の身体が痙攣する。  
敏感なその突起を口に咥え、舌先で嬲る。それは、彼女にとって、  
あまりにも、卑猥な光景だった。  
「ひ、ぁっ…あっ…!Lっ…、やっ…!」  
わざといやらしい音を立てて、彼女の膨張した突起を弄り続ける。  
痺れるような快感に、彼女の胸は震えた。  
その突起の下の割れ目からは艶めかしい程の蜜がとろりと垂れて、  
その情欲の程を訴えている。  
 
彼は、彼女の、まだ誰にも侵されたことの無いその泥濘を。  
指先でゆっくりと寛げていく。  
「ひぁっ……っ、んっ……だ、めぇっ……!」  
すすり泣くように喘ぎながら、彼のぼさぼさの頭を抱え込む。  
彼はその小さく震える身体を片手で抱きとめて、首へと手を回させる。  
しかしその間も、彼女への愛撫はやめようとはしなかった。  
深さを確かめるように、彼女の蜜壷の中に手を差し込む。  
「…狭いですね。貴女の中は…」  
「あああっ、いや、ああっ…!」  
彼女がダメと訴えても、彼はそこを弄り続けた。  
指での抜き差しを繰り返し、彼女の呼吸が段々と切迫したものになっていく頃には。  
冷静なようでいて――もう彼自身も自分を止める事が出来なかったのかも知れない。  
溢れる愛液に、突き入れる指を増やしても、彼女には苦痛はないように見えた。  
内壁を押し広げるように指先をくねらせて、ぬるっとした感触に、指を擦りつけた。  
一際大きな喘ぎとともに、彼女の身体がびくり、と跳ねた。  
「――リンダ」  
身体はぐったりと力を失い、彼に身に着けていた服を全て剥ぎ取られても、  
もはや何も感じなかった。  
霞がかった目で、彼が自身のTシャツを脱ぎ捨て、ズボンのジッパーを下げる様を、  
眺めていた。  
取り出された彼の猛った楔が彼女の芯を捕らえる。  
くちゃり――彼の物が、彼女の割れ目と触れ合った。  
「あ……」  
 
期待と不安が混在し、どうしようもない焦燥感に駆られた。  
伴うように内部の疼きが増し、彼自身を受け入れようと、身体を僅かにくねらせた。  
それは彼女自身の意思とは全く無関係な行動だったとしても。  
彼を誘う行為には、他ならなかった。  
 
「ひ あっ…    あ、   んァ    ああっ…!」  
「っ……!」  
ひくつく花びらを押し広げながら、彼は自らの猛ったものを、ゆっくりと彼女の中に挿し込んでいった。  
彼女の中は、狭く、熱く。  
抵抗したのは最初だけで。  
入口の、複雑な肉の合わせ目を少し強引に解きほぐすと、後はずっとそれを待っていたかのように、  
彼を容易に迎え入れた。  
内部の熱い潤みは、身体が痺れるほどに甘美で。  
奥まで全てを収めたとき、いつもは冷静な彼の額から、つ…と一筋の汗が流れた。  
「あ、ぁ……L…っ!」  
彼女の瞳からぽろぽろと真珠のような涙が零れ落ちる。  
思っていたほどの痛みは無かったものの、内部への圧迫感と、  
破瓜による鈍い痛みに、荒い呼吸を幾度も繰り返した。  
同時に、膣内で脈打つ彼の鼓動に、彼の熱さに、狂おしい程の切なさが湧き上がり。  
どうしようもなく。 彼に必死にしがみついた。  
「…痛いですか?すいません……少し強引だったようです」  
「っ……、L……」  
いつも人に謝るときも、どこまで本気で謝っているのかが理解しにくい彼なのに、  
今回ばかりは彼女を本気で気遣っていたように思えた。  
 
泣きながらしがみつく彼女の金色の髪の毛を、まるで子供をあやすように  
撫ぜ上げ、彼女の腰を抱える。  
繋がった部分からは、溢れる蜜とともに、ほんのりと紅い血が微かに流れ、  
彼はそれを指先でぬぐった。  
「L………L…っ…」  
「っ…!リンダ……」  
きゅう、と彼自身を締め上げる。  
彼女の苦痛が和らぐのを待っていようとも思っていたが、 もう彼自身が限界だった。  
 
動きたい――と。  
 
彼を呼ぶ彼女の唇をそっと塞ぐ。  
今度は、彼女の方から貪欲に彼の唇を吸ってきた。  
まるで、子供が甘えるようなキスだった。  
それに応えながら、彼は、彼女の腰を揺すった。  
「んぁ、あっ!」  
「……っ…!」  
自分でも、呆れる位。余裕なんてどこにも無かった。  
一度動いてしまえば、後はもうめちゃくちゃで。  
「あっ…あ、ああっ…!いぁっ…え、るっ……!」  
彼女の小さな身体を揺さぶり続け、彼女の奥に、何度も自身を送り込む。  
彼女の一番奥深くまでねじ込んで、また引き抜いて、また根元まで沈める。  
段々と彼自身に絡む蜜の量が、艶めいたものへと変化した。  
「やっ…?な、に…っ?ふぁ、ん……ぁ…」  
彼女の声に甘い色が帯びる。初めての、快感だった。  
零れる涙は、もはや苦痛によるものでは無く。  
彼女の変化を見て取った彼は、抜き差しのスピードを僅かに緩めた。  
絡みつくような彼女の膣内の動きに、気を抜けば負けそうになる。  
 
「…は…っ…すごい、ですね……、もう、こんなに……聞こえる、でしょう?」  
「あ、やだ……あっ ああっ……!」  
 
――じゅぷっ…くちゅ… くちゅっ、…ぬぷ……  
 
彼が動くたび、互いの性器が擦れる音が、部屋中に響いた。  
その淫靡な水音は、否応無しに彼女の耳にも届き、羞恥心を掻き立てられる。  
しかし、それをも凌駕する快感に、ともすれば意識を奪われそうになる。  
男のものをきゅう、と締め上げる胎内の動きが、自分でもわかった。  
ハナシタクナイ――身体も、心も、そう訴えている。  
内部で脈打つ彼自身も、首筋にかかる熱い吐息も。  
しっとりと汗ばむ彼の身体も。常には見せぬ余裕の無い表情も。  
何もかもが。  
 
切なくて、甘くて、狂おしくて、愛しい。  
 
「あっ、あぁ…っ…ん、あっ…ああっ!」  
熱に浮かされたように、ひたすらに、甘い啼き声を上げ続ける。  
その声が、もっと聞きたくて。  
彼女の愛液に濡れて光る怒張を、膨張したクリトリスに擦り付けるように角度を  
変えて突き入れると、断続的な喘ぎ声が漏れる。  
結合部は互いの液体が絡まり、白く粘い糸を引いて、  
くちゃくちゃといやらしい音を奏でている。  
 
「っ、はっ…や、やぁっ……!何、や、やぁぁっ……」  
彼女の内部がせり上がってくるのを感じた。肉襞が彼自身を貪るように  
締め上げて、彼女の絶頂が近い事を教えていた。  
「…リンダ……」  
彼ももう限界だった。身体の奥から熱いものが込み上げ、  
最後の理性で以って、彼女から身体を離そうとした。  
そんな彼に、彼女はぴったりとくっついて、それを阻む。  
「ダメ、です……リンダ、離れないと……」  
「や……離れ、っ…ないで…っ…おねがい…っぁ…!」  
彼にしがみつき、漏れる喘ぎの間に、彼に懇願する。  
―― 一瞬、彼は惑った。それでもいつもの彼ならば、冷静に、無感情に、  
何の抵抗も無く、理性の行動をとっただろう。  
しかし、彼女の言葉に、彼は理性ではなく、自身の衝動に身を任せた。  
彼女の小さい体を抱いて、彼女の一番奥深くに、幾度も自身を穿った。  
「んぁぁっ……、っ…、Lっ…あああっっ……っ!」  
「っ…!リン…っ…!」  
一際大きな啼き声と共に、背を大きく引き攣らせ、彼をキツク締め付ける。  
崩れ落ちそうになる華奢な身体を最後の力で支えてやると、同時に彼にも限界が訪れた。  
 
 
 
              …………どく …っ……!  
 
 
――彼の肉茎が大きく脈打ち、堪えていたものを吐き出す解放感に、  
眩暈さえも感じながら。  
彼は。びくびくと痙攣を繰り返す彼女の胎内に、長く長く生を放った。  
何度も、何度も。  
 
 
注ぎ込まれる彼の熱を愛おしく思いながら、意識を失う寸前、彼女は彼の耳元で、囁いた。  
「……いなくならないで……お願い…」  
――それは、まるで、彼自身の未来を暗示しているようで。  
霞がかった頭の中で、縁起でもないと思いながら。  
力を失い、ぐったりとした彼女をソファに、まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に横たえた。  
先程まで彼女と触れ合っていた部分に、ひやりとした空気がかすめる。  
呼吸を整えながら、彼女の胎内から自身を引き抜く。  
たちまち彼が放った白濁が、彼女の透明な液体と混ざり合い、零れ落ちていった。  
 
それが何故か、妙に虚しくて。物悲しくて。  
 
――そんな感情は、とっくの昔に無くしたと思っていたのに。  
 
寝息を立て始めた彼女から離れ、ベッドの上の毛布を引き剥がして彼女に被せた。  
先程までは、服を着ていても肌寒かったはずなのに。  
今は、そのひやりとした感覚が、篭った熱をさますのに丁度いい。  
すっかり冷たくなっていたコーヒーを一気に飲み干し、  
快楽の後にくる体の虚脱感から、どうにか抜け出そうと試みた。  
 
――まだ、考えるべき事は山ほど残っている。  
 
しかし、僅かに残る後悔が――彼の思考を妨げた。  
 
――後悔をすることになったのは自分自身だったのか。  
 
自嘲気味に溜め息をついて、パソコンに触れる。  
たちまちワタリへと通信が繋がり、彼に幾つかの指示を出した。  
自分の気も知らないで幸せそうに眠っている彼女を少し恨めしく思いながら。  
 
 
***  
 
どれ位時間が経ったのだろうか。  
目を覚ますと、そこはいつも自分が眠っているワイミーズハウスの一室ではなかった。  
 
覚めぬ眠気に、もう一度目を瞑ると、数時間前までの事がフラッシュバックの  
ように頭を掠めて――  
 
「!!え、Lっ…?」  
「――やっと目が覚めましたか。後一時間眠っていたら無理矢理起こす所でした。」  
がばっと身体を起こすと、毛布がはらりと落ちる。自分が全裸だという事に  
気がついて、急いで毛布を被りなおした。  
――夢じゃなかった。本当に、彼に――Lに、抱かれていたのだ。  
その行為の始終を思い出し、顔が熱くなる。  
彼は自分が眠るソファのすぐ側の床に直に座り、パソコンと睨めっこしていた。  
画面には、よくわからないメッセージ性のある――暗号だろうか?  
ぱっと見だったが、そこには上の行に『えるしっているか』と書かれているように見えた。  
しかし、自分に背を向けるように座っているため、その表情は伺えない。  
「L…私…ごめんなさいっ…ずっと眠って…!」  
時計を見れば、時間はもう午前五時を回っていた。  
眠った時間は具体的にはわからないが、七時間以上眠っていた事は間違いない。  
彼の大事な時間を潰してしまった挙句、事件に追われ、  
眠る時間さえ無い彼の側で、事もあろうに完全に熟睡していたのだから、  
性質が悪い事この上ない。  
「別にそれは構いません。事件のことは貴女には関係ないですから。  
――ただ、出来たらもう少し早く目を覚まして、服くらいは着て欲しかったですけどね。」  
 
……構わないと言いながらも、皮肉を付け足すのも彼らしい。  
そう心の中で思いながら、彼の横に脱ぎ捨ててあった服に手を伸ばした。  
服を着ながら、思った。もう、これで、彼と先程のような時間を共有することは無いかも知れない、と。  
それは彼の立場上の都合と、自分の都合とで。  
 
彼女はまだ十四歳――しかし裏を返して見れば、もう十四歳なのだ。  
ワイミーズハウスでは十五歳、通常の義務教育が終わる頃には、人生の選択を余儀なくされる。  
ワイミーズハウスにそのまま十八歳までは残る事も出来る。――だが、Lを継げないほとんどの  
院生達が、十五歳を境に新しい人生を歩み始めるのだ。  
彼女も、Lの後継者としての夢は、とうに捨てていた。  
努力しても、無理な事はある。いくら頑張っても、彼らには敵わなかった。  
しかし彼女には、他に夢があった。大好きなものがあった。  
後、一年。後一年経てば、その夢を叶える為に孤児院を出なければいけない。  
――同時に、二度と、彼に会う事は出来ないだろう。  
一度ワイミーズハウスを出た者は、その時点で『L』との繋がりを断ち切られる事になる。  
それは『L』を守る為であり、Lについての情報が外部へ漏れるのを防ぐ為でもある。  
 
それがワイミーズハウスを出る際の、たった一つの条件であり、義務でもあった。  
胸が苦しくなる。もう、これで最後かも知れない。  
思いっきり、泣きたい衝動に駆られた時。  
「…朝九時の便でイギリス行きの飛行機を取ってあります。それに乗って  
ワイミーズハウスへ帰ればいい。  
ロジャーへも連絡してあります。貴女はあくまで、私が直に貴女を呼び出し、  
捜査協力してもらったという事になっています。よってお咎めはないでしょうし、  
捜査については何も聞かないように言ってあります。他の院生達には  
別の理由を話してくれているはずですから、安心して下さい。」  
「――……」  
 
自分が眠っている間に、そこまで手を回してくれていたなんて。  
感謝と共に、申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。  
そして再び、彼との繋がりが断ち切られる切なさに、心が引き裂かれてしまいそうだ。  
 
「ありがとう、ございます……L……私……」  
「――リンダ。」  
消え入りそうな彼女の言葉をさえぎるように、名前を呼ぶ。  
突然名前を呼ばれて、彼女は次の言葉を失った。  
彼の続く言葉を待ったが、なかなか口に出してくれない。  
また沈黙が訪れ、不安が湧き上がってきた時。  
彼は肩越しに振り向いて、――笑顔のような表情で。  
 
「――三年後を、楽しみにしています」  
 
「――――……!」  
 
三年後。――その言葉の意味を悟る。  
ああ、そうだった。約束と言うほど強くはないけれど。  
でも、きっと。  
――Lと、私は、まだ繋がっている。  
「……私も…楽しみにしています……L……」  
嬉しくて。嬉しくて。目一杯の笑顔をしているはずなのに。  
何故か涙が、零れ落ちた。まるで天気雨の空模様みたいに。  
 
願わくば。彼が無事でありますように。  
 
――そう思わずには、居られなかった。  
 
END  
 

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