Lの後継者。  
 それはワイミーズハウスにいる少年・少女全ての目標。でも、自分にはそれが無理だとなんとなく分かっているし、そもそも私には、Lになることより別の目標があった。  
 その目標というのは・・とりあえずおいといて。とにかくここはそういう施設だった。  
 この施設で、トップと二番手は常に決まっていた。  
 二番手のメロは行動派で、おしゃべり。そして身体を動かすのが好きなやんちゃな少年。でも頭はとってもきれる。  
 トップの二アは、無口で、友達が全然いない。頭はまさに天才だけど、外出や身体を動かすことを好まず、内向的。  
 二人はまさに正反対だった。そして当然のごとく、仲が悪かった。といっても、メロがニアを敵視してるからそう見えてしまうだけなんだけど。  
 私は二人ともそれなりに気に入っていたので、よく喧嘩の仲裁に入ることが多かった。  
   
 私がはじめてLと会ったのは、もう何年も前の話だ。その日はまさに、感動の一言につきる日だったことを覚えている。  
 Lの容貌のある程度は事前に知っていたが、しかし目の前にするとやはりその衝撃はすごかった。  
 髪は黒髪のぼさぼさで、細身。そしてその眼は、まるで入ってきた情報を全て閉じ込めてしまうかのような大きな漆黒。  
 私の身体はそのオーラに圧され、震えた。  
 しかし何より私が感動したのは、L本人と直接会話した時だった。  
 時間にすればとても短い時間だったのに、Lの底知れない頭の良さ、勘の鋭さなどをはっきりと感じた。  
 Lはまさに、私にとってはまさに神様のような、最高の人だった。  
 
 そして今日も、Lはここにやってきた。そして、みんなの前で短い話をした。  
 今、Lが取り組んでいるのはキラ事件だという。  
 犯罪者が殺されていくキラ事件というのは確かに物凄く奇怪な事件で、この事件に挑む人間がL、というのはとてもふさわしい気がした。  
「リンダ」  
 不意に名前が呼ばれ、私はついピョンッと立ち上がってしまう。  
「はい?」  
「少し二人だけで話したいんですが、良いですか?」  
 そう言ってLは、私の顔をじいっと見つめた。  
 Lが自分を見つめているという事実に、私は緊張し、そして軽く赤面した。誰と話す時もこんなことにはならないし、どんなプレッシャーのかかる場面でもこんな風にはならないのに。  
 私にとって、Lだけは本当に特別な存在だった。  
 私は周りの視線、特に、二アとメロの強い視線に気づいてたが、気づかない振りをしたまま、Lの後についていった。  
 
 着いた先は個室だった。音もれのない、防音の部屋だ。  
「リンダ、話というのは・・」  
 二人っきりになったところで、Lはそう口火を切った。  
「はい!」  
 私は大きく返事をした後、一瞬で、次に出てくる言葉を想像した。  
『Lの後を継ぐのは君だ』とか。『実はずっと前から君が気になっていた』とか、である。  
 しかし現実は、私の妄想と大きく違った。  
「実は、二アとメロについてなんですが・・」  
 私の喜色満面の顔は、みるみる普段の状態に戻っていった。  
「二アとメロ、この二人と仲が良いのは君だけと聞きました。本当ですか?」  
 言われてみれば、そうかもしれないと思い、私は頷いた。  
「そうですか。では君に頼みがあります」  
 Lの頼み!私は再び顔を緊張させた。  
 
 
196 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2006/08/20(日) 23:22:42 ID:AIZakJqV 
 Lの頼みは、大変難しいものだった。二アとメロの仲たがいをやめさせて欲しい、というのだ。  
 どうやらLは、二アにもメロにも足りないものがあるが、二人が協力し合えば、Lを継ぐのにふさわしくなる、と思っているようだった。  
 確かにあの二人が協力すればすごいかもしれない、とは思うものの、私はそれでもLに及ぶとは思えなかった。  
「L、それはとても難しいと思います」  
「分かっています。だから少しずつで良いんです、二人を仲良くさせていってください。私の跡を継ぐのは、まだずっと先の話ですし」  
 確かに、まだ若いLが、いきなりLをやめるわけもない。  
「分かりました、L。やってみます」  
 自信などなかったものの、私は大げさに胸をはった。  
「ありがとう。・・何か欲しいものはありますか?お礼です。何でも良いですよ」  
 思わぬ言葉だった。私は見返りが欲しくて引き受けたわけではなかったが、しかし遠慮するのももったいないと思ったため、素直に欲しいものを考え始めた。  
 そして考えた末、出てきた言葉はとてもシンプルなものだった。  
「私が欲しいのはL、あなたです」  
 
 Lの表情がとまった。驚いているのだろう。そんな顔を見るのは初めてだった。  
「なんでも良いって、言いましたよね?」  
「リンダ、他のお願いにしてください」  
 冷静さをすぐにとり戻した様子のLが言う。もちろん私はそんなんで引き下がる気はない。  
「L、私のこと嫌い?私は・・ずっとLが好きだった。幼い頃からずっと」  
 私がそう言って顔を近づけると、Lは後ろにのけぞり、座っていた安物の椅子と共に倒れてしまった。意外な一面だった。Lならこういう色事にも、落ち着いた反応をすると思っていたのに。  
「リンダ、私はもちろん、ここのワイミーズハウスの子供達は、みんな好きですよ」  
 いまだ仰向けになったままのLが、かすかに上ずった声で言う。  
「ずるい答え方をしないで」  
 その時の私は、自分でも驚くほど積極的だった。倒れているLの腰の上にまたがり、両手を押さえた。そしてそのまま、唇を合わせる。  
 その瞬間、私の頭の中で何かがはじけるのを感じた。そして、強烈な衝動が湧き上がってくるのも感じていた。  
 憧れの、あるいは神のような崇拝の対象のLを、自分の中に取り込みたいという強烈な衝動だ。  
 私はLの服を破るように脱がせ、その肌にキスをした。  
 
 Lは、また驚いた顔のまま凍りついている。きっとこんな事をする女の子に見えなかったんだろう。しかしそういう女だったのだから仕方ない。  
 私はLのお腹に指を這わせ、そのまま下腹部へと腕を伸ばしていく。  
「リンダ・・」  
 そうつぶやくLの顔を、私は決して見なかった。  
 かすかに硬さを帯びているそれに触り、私の心臓は張り裂けんばかりに暴れた。  
 指に伝わってくるかすかな脈動と、熱。  
 私の身体はまるで火のように熱くなり、気づけば、私は全ての衣服を脱ぎ捨てていた。今の私は、本能に完全に支配されているようだ。  
 まだ勃起しているとはいいがたかったLを、私は自分の中に強引に取り込んだ。  
 Lが何かを言っているのが聞こえる。しかしそれは、まるではるか遠い世界の声のようだった。  
 やがて、その声も完全に聞こえなくなる。Lの唇を、私の唇でふさいだからだ。  
 まるで麻痺したように、私の下腹部からは快感どころか痛みも感じられなかった。にもかかわらず、私は突き動かされるように腰を上下させていた。  
 欲しい、もっと、もっと私の中に欲しい。  
 私は、文字通り一心不乱にLを貪り、その精を自分の中に取り込んでいった。  
 
 
 行為が終わった後、私は突然我に返った。そして、へたりこんだ。  
 服を着始めたLを見ながら、私はなんて事をLにしてしまったのだろうと後悔し、そしてそれ以上に驚愕していた。自分のした事が信じられなかった。  
 ふと、目の前に何か差し出された。私の衣服だった。  
「落ち着いてください。まずこれを着て」  
 その口調は、いつものLにもどっていた。  
「L・・私・・」  
「大丈夫です」  
 何が大丈夫なんだろうか、と思いながらも、私はシャツを羽織った。下半身はいまさらになって痛みだし、その中心からは、行為の証とも言うべき白い液体が垂れてきている。  
「なんで・・私・・こんなこと・・・」  
 私はそれ以上言葉が出なかった。頬を熱い液体が流れる。  
「リンダ、あなたの事を嫌いになったりしませんよ」  
 Lの不可思議な言葉に、私は表情を止めた。  
「・・エル・・?」  
「あなたの好意はずっと前から気づいてました。あなたがもっと大人の女性になったら、私から言おうと思っていたんですが」  
 私のぼけきった脳は、Lの言葉の意味をなかなか理解できない。  
「ほんとに嫌だったなら、乗っかられた時点であなたを跳ね飛ばしてます。まあ、順番は逆になりましたが・・」  
 そう言って、Lは私に手を差し出した。  
 信じられない思いだった。あの神様のようなLが、私に好意を?  
 混乱しきった頭のままだったが、私はなんとかその差し出された手をつかむことができた。  
 
 
 それからの数日間は、私の人生最高の時だった。  
 Lに抱かれる度、自分の心、身体の全てが満たされていくようだった。  
 やがてLが再びキラ事件のために日本へ旅立つと、私は頼まれていた事に全力を注ぎ込んだ。二アとメロの関係修復だ。  
 が、それもなかなか上手くいかなかった。そしてそのうち、二人は施設を出て行ってしまった。  
 
 それからしばらくして。私は二人がキラを追いかけていることを知った。そしてその瞬間になり、ようやく、私はLの死を知ったのだった。  
「マーマ?」  
 私の悲しい表情を心配したのか、息子は私を見上げて言った。  
 私は安心させるために、笑顔を浮かべて言う。  
「ううん、大丈夫よ・・エル」  
 そうよ、嘆かなくてもいい。エルはここに、生きているもの。  
 あの時の自分の衝動は、まさに神の意思だった。私は最近、エルの笑顔を見るたびにそう思うのだ。  
 
 
 
 
 
                           終  
 

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