東京の夜景と一線を引くようにカーテンが閉められたホテルの一室。  
軋むベッド。艶めかしい女の喘ぎ声。男の吐息。擦れるシーツ。重なり合う汗ばんだ肉体。そして女の秘所から溢れ出す蜜。  
それらの奏でる卑猥な音が暗闇の部屋を満たす。  
「あ…ん、夜神く…んんっ…は」  
「高田さん…いや、清美…。可愛いよ…君がこんなに乱れてしまうなんて」  
「いや…いじめないで…っはっあ…っう…ん」  
眉をしかめ、まるで快楽に堕ちまいとするように舌唇を噛む高田。  
高田を見下ろす月、息は上がっているもののその表情には余裕が見える。  
「清美…」  
高田は優しく甘い声の呼びかけに、固く閉じていた目を開いた。  
そこには柔らかく微笑む夜神月。  
「…愛している…」  
「!!あぁっ…や…夜神くん…!!!」  
 
恍惚の顔で呆然とする高田を腕枕で抱き寄せる月。  
至福の高田の表情とは逆に、先程見せた笑顔とは別人の冷たい眼で天井の一点を見つめている。  
「…ねぇ…夜神くん。今何を考えてる…?」  
「!…君との未来だよ…いつまでもこうして幸せでいれたらいいと…」  
高田が顔を上げ、月を見る。  
「ふふ」  
「何?」  
「ちょっと心配しちゃったの。もしかしてミサさんの事を考えてるんじゃないかって」  
「…何を言ってるんだ…君らしくもない」  
月は高田を胸に引き寄せ抱き締める。  
「…そうね」  
普段の知的な『高田清美』からは想像できないような女の顔で、嬉しそうにはにかむ高田。  
一方月の瞳には急速に冷気が帯びる。  
(そろそろ限界だな…)  
 
 
「少し休息をとってもいいですか」  
月の意外な一言に、一同驚く。  
「最近ニアとのやりとりも多くて神経が磨り減ってしまって、夜は高田さんで寝不足…。少し休まないと的確な判断ができそうにない」  
「そうだよね!月くんも働きっぱなしだし、ここんところちょっと進展もないからいいんじゃない?」  
能天気な松田の後に、相沢が続く。  
「休むって…どこへ」  
「家族の顔を見に、実家に行ってきます」  
 
(正直こんなときに席を離れるのは痛い…。ニアが駒を進めてきているのも確か…。しかし僕の方の駒も配置につけている、準備はできている)  
タクシーを降り、月は家の玄関前で立ち止まる。心を静めるように目を閉じる。  
(なによりも…今後状況が激化すればそれこそ休む余裕なんてなくなる…。…いや)  
目をあける月。  
(僕には今既に余裕がないんだ…限界だ)  
「ただいま」  
玄関の扉を開ける月。  
「あら!月!!どうしたの?」  
母が出迎える。驚いたようだが、嬉しそうだ。  
「ただいま。ちょっと、休養」  
「あ、おにいちゃん!おかえり!」  
さゆは笑顔で兄の月を迎える。月はそんなさゆを見て、ほっと息をつく。  
「ただいま」  
 
さゆの部屋。さゆは椅子に座り、月の顔をじっと見ている。  
月はさゆのベッドに腰掛け、何十枚かのレポートを真剣な面持ちで読む。  
「どうかな…?」  
「…うん、いいんじゃないか。うまく書けてるよ」  
「ほんと?よかったぁ」  
安心したさゆはベッドに寝転ぶ。  
「まったく、休養に帰ったって言うのにレポートなんて読ませるなよ」  
「だってー」  
さゆの頭に分厚いレポートをポンと置き、微笑む月。  
「誤字脱字ばっかりで滅茶苦茶な文章書いてたさゆが、こんなレポート書けるようになったんだな」  
「おにいちゃん…」  
さゆはじっと月の目を見て言った。  
「…寂しそう」  
「!」  
心中言い当てられた月はさゆの目から逃れようと、顔を背けた。  
「疲れてるんだよ」  
さゆが起き上がる。月はさゆの方を見なくてもわかってしまった。  
成長した妹。華奢な腕。丸くなめらかな体のライン。胸のふくらみ。昔と違う、女の匂い。  
どくんと打つ胸に、ふいに高田との夜を思い出してしまう。  
自分を求める高田に、あの日月は、してはいけないことをした。  
「おにいちゃん?」  
月は妹の顔を見た。心配そうに自分を見つめる妹。  
月は、高田の顔にさゆを重ね、さゆを抱いているのだと幻想したのだ。  
そして、  
「…『愛している』…か」  
 
ぽつりと月はつぶやいた。さゆに聞こえない程度の小声で。その時無性に笑いがこみ上げてきた。自嘲的な笑い。なんて自分は非道なのだろう、こんな穢れない妹を慰みものにしてしまうなんて。非道−正義とはいえ殺人をしている自分が非道だと思ったのは…初めてだ。  
「くっくっく…」  
「おにいちゃん…」  
さゆから表情が見えないように、月は額に手を当て顔を隠して笑った。  
さゆはふいに月を抱き締めた。  
「さ…さゆ?」  
驚く月。  
「おにいちゃん…なんか変だよ。なんか…」  
その時、月の瞳から涙が流れた。  
「…え…?」  
月は自分でも予想しえない事態に驚いた。涙?何故?  
「…疲れてるんだね、おにいちゃん」  
月は自分のバランスが取れず、心を整理しようとするも体の制御が効かなくなってしまった。  
さゆが月を抱く力を強める。  
反射的に月はさゆをベッドに押し倒してしまう。  
月の顔を見上げるさゆは、初めて兄の涙を見た。  
月の涙を拭うさゆ。手を月の胸に当てた。  
「…そんなつらそうな顔しないで…」  
憂いを湛えたさゆの瞳に惹きつけられるように、壊れていくように、月はさゆに口付けた。  
そっと、優しく、ただ触れるような口付け。  
「…っ…さゆの顔さえ見れれば…こんな苦しみから解放されると思っていたのに…」  
驚くさゆの顔を見て、切ない笑顔の月。  
「ごめんな、さゆ」  
再び月はさゆの唇を奪った。今度は激しく、さゆの形良い唇の隙間に強引に舌を入れ、荒々しくさゆを貪った。  
「んんっ…はぁ…お、おにいちゃ…」  
月の唇は顎から首筋へ、耳へと移動していく。  
「や…おにいちゃん!や…ア!」  
さゆの白い首筋から甘く芳しい、香りが匂い立つ。それを思い切り吸い込んだ月は自分がより一層狂っていくのがわかった。  
さゆは月から逃れようともがくが、月はさゆの腕を捕らえて離さない。  
 
「さゆ…さゆ…!」  
耳元で熱く呼びかける月の声にさゆの体がびくんと跳ね、さゆの体から抵抗する力が抜けていく。  
「…ずるいよ、おにいちゃん…」  
月はさゆの胸に触れた。もどかしいようにTシャツを巻くりあげ、なめらかな肌に直接触れると、さゆが声を上げる。さゆの柔らかい胸、固くなった乳首、可愛く鳴く声…全てに反応してしまう月。  
「…ずっと…こうしたいと思ってた…」  
月の指がさゆの乳首を摘む。  
「ひゃ…あ…っ」  
乳首を弄びさゆの表情を見ながら、月は反対の手でさゆの下半身をまさぐってゆく。  
「や…まってっ…」  
「待てない」  
月の白く長い綺麗な指が、さゆの熱くなった秘所に触れる。  
「ゃアッ!!」  
「…随分待ったんだ…ずっと抑えてきた…」  
さゆの秘所はもう濡れている。月は指でそっと撫でた。  
「ひッ…あ…」  
「…そんな可愛い顔して…そんなやらしい声出されたら…待てないよ」  
ズプッ と月はさゆに指を入れる。  
「っ、ああっ…!!」  
「さゆ…」  
「や、あ、あん!」  
さゆの顔が快感に歪む。月はそんなさゆを恍惚の表情で見下ろし、さゆの熱くねっとりとした中を容赦なく指3本でかき回す。服を脱がせたさゆの華奢な裸体は目眩がしそうなほど白く、女の匂いがする。  
 
「いやらしいな…さゆ、こんなに濡らして…。腰まで振って…」  
「ひっあっあんっ…だ、だって…っ…」  
「なに?言ってごらん」  
さゆは躊躇った。月がそれを見逃すはずがなかった。  
「…や…もぅ…ちょうだい…」  
「だめだ。言わないとあげないよ、さゆ。ほら」  
月はさゆのクリトリスをぺろりと舐めた。さゆの体がびくんと跳ねる。  
「ひゃあっ…や…だめっ」  
「言って」  
「…す…好きだったの!私…おにいちゃんのこと…だから…」  
目を丸くして驚く月。耳まで真っ赤になってしまうさゆ。月はふっと笑う。  
「さゆ…可愛い」  
月はさゆの敏感になったクリトリスを、今度は優しく味わうように舐めあげた。  
「やっ…ちょ…やだ…あ、」  
びくっと波打つさゆ。  
「いっていいよ」  
「や、だめ…!いっちゃ…いっちゃうぅ…っ!!」  
 
 
びくびくと震え、いってしまって呆然とするさゆに、月は自分をそっとあてがう。  
「さゆ…」  
とろりと蜜が溢れ出したそこはまだ痙攣している。しかし月は容赦なく奥まで差し込んだ。  
「いっ…あぁぁんっ!!お…おっき…」  
「くぅ…きつ…」  
月は腰をゆっくりと動かした。ずぷっずぷっと卑猥な音が立つ。さゆの中は熱く、溶けてしまいそうな感覚を覚えた。  
「おに…ちゃ…きもちい?」  
「う、ん…気持ちいいよ…さゆは?」  
さゆの目には涙が光っていた。  
「…苦しい…けど…気持ちいい…嬉しい…。変なの…兄妹でこんなこと…罪悪感を感じるんじゃないかって思ってたのに、今は…幸せで…」  
「さゆ…」  
月の動きが激しくなる。さゆを全身で感じるように、さゆを気持ちよくさせてやれるように。またさゆも同じように思っていた。  
ふいに月にも涙が流れる。さゆがそれに気付く。月はにっこりと、優しく笑った。  
「さゆ…。愛してる…!」  
「おにいちゃ…ああ!」  
ふたりは同時に果ててしまった。  
 
 
ホテルの一室。  
高田はブラウスのボタンを外そうと手をかける。しかし月に腕をつかまれ、ベッドに押し倒される。  
「どうしたの、夜神く…!」  
月は高田を冷たい目で見つめている。射抜かれるような鋭い眼光に、高田は身じろいでしまう。  
「あ…」  
ふいに高田の顔が赤くなる。  
月が高田の秘所に触れると、既に濡れはじめていた。  
「清美…はしたないね」  
にやりと笑う月に、高田は『キラ』の存在を見たような気がした。高田はごくりと息を飲んだ。  
「…やっぱり優しいあなたはフェイクなのね…」  
高田は自分がいつもより熱くなっていくのを感じた。  
 

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