『ほんとうにするの?』
高田清美は、ペンを取り、そう綴った。
夜神月――キラ――は、唇を歪め、素早くペンを走らせる。
『当然だろう?僕と君は、恋人同士なんだから。朝まで二人でいて、何もしないというほうがおかしい。』
でも、と清美はかぶりを振る。
『盗聴されているのに、そんなことできません』
清美の手は震えていた。それを見つけ、月はクスっと笑う。
『君はそれを知らないはずだよ、』
「――高田さん」
そこで初めて声を出す。高田さん、そんな他人行儀な呼び方は嫌。あの盗聴器さえなければ、彼は自分を紙上でするように清美と呼ぶだろうに。
「私……、ンッ?」
唇を奪われ、清美の思考は停止する。握っていた万年筆がガラステーブルに触れ、カタカタと僅かに音を立てるのを、月の手が止めた。
「やっ、夜神くん……」
激しく舌を絡み合わせるキスに、ハァハァと荒い息を上げながら、清美は必死に名前を呼ぶ。だめよ、と言うつもりだった。でも睫が触れるほどの至近距離で見る夜神月の瞳は鋭く、まるで氷のようで、彼女のあらゆる言葉を奪ってゆく。
呑みこまれるようにキスに酔って行く清美の目の前に、走り書きされたメモが示される。
『おねだりするんだよ』
キヨミ、と口の動きだけで月は告げる。
確かに盗聴を前提として操作をしている夜神月が、自分からセックスを求めるのは行き過ぎている。
あくまで清美の要求に、自然な対応を取った、というのがベターだろう。
捜査本部にはあくまで、「夜神月は高田清美を騙している」と見えなければならない。それも、良心の呵責を憶えながら、という設定で。
(でも実際騙されているのは彼ら。欺かれているのは世界。
でも夜神君はそんな状況でも、私を愛そうとしてくれるんだわ。
私は彼の役に立ちたい。彼が選んだのは、ほかでもない、私なのだから……)
清美は意を決して、月にしがみつくと、耳元で囁いた。
「私を抱いて、夜神くん……昔みたいに」
「高田さん――でも今はそんな」
掠れた声を出して見せながら、月は満足そうに頷き、背中を撫で上げてくる。
「ひっ…んん!」
「高田さん?」
「お願い、私のことを本当に愛しているなら、抱いてください」
今度は叫ぶ。何人もの見知らぬ男達が、この言葉を聞いているのだ。そう思うと、清美の顔は羞恥に赤く染まっていく。
(よくできたね、清美)
月の顔はそう言っているようだった。バシッ、とシャツを捲り上げられる。
ライトブルーのレースに包まれた、清美の豊満な胸が露わになる。
「わかったよ、高田さん――」
そう囁くと、月は清美の耳朶を噛んだ。
(もう、好きなだけ声を出していいんだよ。普通のことなんだから)
とても聞き取れないほど小さな声で、月はそう告げる。清美は月を見上げると、瞳に涙を滲ませて、懇願した。
「清美って呼んで、夜神くん――」
「――清美」
雑音をマイクは拾い続ける。それは、ライトのシャツが肌蹴る、衣擦れの音だった。