「♪〜♪♪♪〜」  
所々コンクリートがひび割れた薄汚いという言葉がよく似合う廃屋に、  
まるで不釣り合いな透き通った声の鼻歌が響く。  
メロは板チョコをかじりながら熱心にスピーカーから発せられる声に耳を傾ける。  
この場所で盗聴を始めてすでに数週間が経つ。  
アマネミサ。  
第二のキラ容疑者として初代Lに拘束された女。  
こうして盗聴をしていれば必ずいつかはその尻尾を出す瞬間が訪れるかもしれない。  
そう思い寝る間も惜しみほんの一瞬の証拠も逃すまいとスピーカーにかじりついていたものの  
尻尾を出すどころかこの女の生活を垣間見る程に  
ただの女である事を決定づける様な要素しか現れては来ない。  
やはり当にノートの所有権を放棄しキラであった頃の記憶を失っているのだろうか・・・。  
そんなメロの不安を後押しするかの様に、  
ミサに張り付いていた模木の姿が数日前から見えなくなった。  
これ以上弥からは何も得られないと踏んだという所だろう。  
しかしまだ分からない。  
弥が本当に第二のキラであり記憶を失っていないとすれば、  
第三者の前でその可能性を示唆する様な行動をするはずがない。  
まだだ。  
まだ100%とは言い切れない。  
模木がいなくなった今こそが本当のチャンスだ。  
メロは弱りそうになる気を振り払うかの様に  
新しい板チョコに手を伸ばし荒々しく銀色の包みを破る。  
その時ポケットに押し込まれていた携帯電話が振動し着信を知らせた。  
この番号を知る唯一の存在からの着信である事は明らかなので  
ウインドウに表示される番号すら確認もせずそれを耳に押し当てる。  
「マットか。そっちはどうだ?」  
「特に動きはない」  
聞き慣れた声と共に小型ゲーム機の奇怪な音楽がメロの耳に飛び込む。  
ニアといいこいつといいよくもこんなくだらない玩具に夢中になれるな、と半ば呆れる。  
「そっちこそどうなんだよ?」  
「こっちも変わりはない」  
「そうか。動きはないが、ちょっと面白い物見つけたぜ」  
マットは笑いを咬み殺す様な声でそう告げた。  
「面白い物?」  
「ああ。今からそっちに画像を送るから」  
メロは勿体ぶった様なマットの物言いに顔をしかめたが  
程なくしてパソコンに届いたメールを開いた瞬間大きな目を更に見開いた。  
「どうだ?笑えるだろ?」  
マットはメロの返答も聞かずもう待ちきれないとばかりに声を上げて笑いだした。  
しばらくディスプレイを喰い入る様に見つめていたメロの口の端に  
うっすらと笑みが浮かんだ。  
「ああ。こいつは最高だ。マット、そっちはもういいからすぐにここに来い」  
電話を切るとメロは再びディスプレイに映し出された映像に目をやると  
満足そうな顔つきでチョコレートをペロリと舐めた。  
 
 
「……サ。…ネ…サ。アマネミサ」  
突然名前を呼ばれた様な気がして、ミサは目を覚ます。  
と同時に目の前に飛び込んできた余りにも信じがたい光景に  
虚ろな意識も一瞬で去り大きく数度瞬きをする。  
誰かがベッドで眠っていた自分の体にのし掛かっている。  
頭部はヘルメットで覆われていて顔は見えないものの  
声や体つき、服装からしてその人物が男である事は辛うじて確認できる。  
しかしその人物に思い当たりは全くといってない。  
「何これ・・・。夢?」  
ミサは信じられないとばかりにキョロキョロと辺りを見渡す。  
 
「この感触が夢だとでも思うのか?」  
男は腕を伸ばすとギリギリと片手でミサの首を締め付けた。  
長い指がミサの薄い首の肉に喰い込む。  
「うっ・・・」  
必死で両手で妨害を試みるもその腕は見た目の細さに反して力強く、  
ミサの命懸けの抵抗をものともせずに締め続ける。  
「ぐぅ・・・うう・・・・・・」  
息が、でき、な・・・。  
段々と頭の中が白くなっていくのを感じながら、ぼんやりとライトの事を思い出す。  
ライト、ライト、ライト。  
ああ、自分は死ぬんだな、なんて考えた瞬間、  
首に纏わりついていた指の力がスッと抜ける。  
「げほっ!げほっ!」  
解放された途端一気に酸素を大量に取り込み過ぎた為、ミサは盛大にむせ返る。  
数秒間のうちになんとか呼吸を整えると  
これが生温い夢などではなく歴とした現在進行形で繰り広げられている現実であると  
やっとの事で認識したのか鋭い目つきでメロを睨む。  
「あなたは何者なの?ミサのストーカー?」  
予想もしていなかった言葉に今度はメロの方がぽかんと口を開く。  
この様な生命の危機に曝された場合、大抵の女は酷く脅え恐怖に体を震わせるはずだ。  
しかしこの女は怯む事なく睨みつけたまま視線を外そうともしない。  
「言っておきますけどね、ミサは目の前で両親を殺された事もあるし  
自分自身もストーカーに殺されそうになった事もあるの。  
だからこんな事をした所でミサの心を物にできるなんて思わないでよね!」  
怯むどころか説教まで垂れ始める。  
お前この状況が本当に分かっているのかと問いかけようとして口をつぐむ。  
そう言えばこの女は死神の目を持っていたはずだ。  
と言うことは少なくとも一度は自らの選択で寿命を削り取ったのだ。  
そんな女にこんな手段で恐怖心を煽らせようなんて甘い考えだった。  
いや、本題はここからだ。  
なんと言ってもこちらには彼女にとって非常に有効であると思われる『武器』がある。  
「お前何か勘違いしてねえか?  
俺はお前の体や心になんて興味はない」  
「こんないい女を目の前にして失礼な奴ね!  
じゃあ何なのよ!」  
ミサはぷりぷりと頬を膨らます。  
何かこの女苦手だ・・・。  
ため息をつきながらもメロはミサの目前に顔を近づける。  
黒々とした大きな瞳がメロを貫く。  
「お前は第二のキラだろう?」  
「はあ!?」  
「だから、お前は第二のキラとして犯罪者を裁いていた。そうだろ?」  
ミサは明から様に大きくため息をついた。  
「またそれ?  
だからミサは第二のキラなんかじゃありません!  
もう・・・竜崎さんの次はあなたなの?」  
竜崎・・・。  
初代Lが使っていた偽名だろう。  
初代Lは拘束はしたもののついに確証を掴めないままこの女を解放した。  
だけど俺は違う。  
どんな汚い手段を使おうと必ずこの女の口を割らせてみせる。  
そう、所詮俺みたいな人間が使える手法はこんな脅迫じみた事くらいしかない。  
だから何だってんだ。  
ニアや初代Lの様な温いやり方では駄目なんだ。  
必ず、この俺が、キラを捕まえてみせる。  
その為には今こそこの『武器』が役立つ時だ。  
メロはポケットから携帯電話を取り出しミサの前に突きつける。  
「これを見てもまだお前は同じ事が言えるのか?」  
大型の画面を覗き込んだ瞬間、それまで強気だったミサの顔がみるみると青冷めた。  
「嘘・・・」  
 
そこに現れた映像には男が一人。  
真っ黒な包帯の様な物で顔中をグルグルと巻かれ、  
丁度その中心部の鼻に当たる部分だけが呼吸の為に避けられている。  
体は太い柱にくくり付けられ、まるで身動きが取れそうにもない。  
顔さえは分からないが明るい栗色の髪、長身で細身の体つき、すらりと伸びた脚、  
それだけで自らが恋い焦がれている男であるとミサが認識するには十分だった。  
「ライト!ライトなの!?」  
ミサはもう我を忘れ携帯電話にすがりつこうと身を起こしかけるが  
すかさずメロに両腕の自由を奪われ柔らかなベッドに押し戻される。  
「嫌!やめて!ライトを助けて!」  
拘束している側の人間に向かって「助けて」と言葉を吐くなんて、  
余程思考回路がイカレているとしか思えない。  
しかし予想以上にミサが取り乱してくれたのには助かった。  
今ここで妙に冷静になり  
「ライトと話をさせて」なんて疑いの目を向けられたら計画は台無しだ。  
そう、画面に映る人物はミサが狂った様に名を呼び続けている「ライト」などではなく  
今現在メロが唯一のパートナーとしているマットなのだ。  
彼がメロに送った画像こそ、  
例のキラ容疑者であり現Lでもあり、  
尚且つ弥海砂の恋人である『夜神月』の写真だったのだ。  
送られてきた画像は顔や全身を写した物等数枚に渡っており、  
その姿はマットの生き写しと言っても過言ではなかった。  
その時メロは確信した。  
これは使える。  
弥海砂が夜神月に溺愛していた事は  
盗聴の最中に何度もその名がよばれていた事から明らかだったし、死神の目を所有していた場合や万が一僅かな違いにも気付かれない様に  
マットに包帯を巻き付け顔を隠した。  
携帯電話を利用した理由は画面自体がテレビやパソコンに比べて小さく画像解析度も荒いので  
細かな点に違和感を覚える心配も大幅に軽減するからだ。  
案の定ミサの蒼白の表情からは疑惑の色など見られない。  
ただもう、愛しい恋人を案ずるばかりにぶるぶると体を震わせ  
半開きの唇で何度も「ライト」と呟く。  
そんな姿に手応えを感じたメロはさらに携帯電話をミサの瞳に押しつける様に近づける。  
「もう一度だけ聞く。  
お前は第二のキラなのか?」  
「嫌・・・ミサは、ミサは・・・」  
わなわなと震える口元で何かを必死に伝えようとするも  
そう言ったきりカチカチと歯の鳴る音だけがメロの耳を横切る。  
「お前の大好きな『ライト』を助けられるのはお前だけだ」  
追い打ちをかけるべく畳みかける。  
もうすぐだ。  
もう間もなく、この女は、落ちる。  
「ミサが・・・第二のキラです」  
 
「その言葉に間違いはないか?」  
メロは念押しの為再度問いかける。  
「はい、間違いありません・・・。  
だからライトを、ライトを助けて・・・」  
すがるような目で訴えかける。  
その瞳は生気を失い、肌は薄暗い室内でも確認できる程青白く、  
まるでフランス人形でも見ている様な錯覚に陥る。  
メロはニヤリと不気味な笑いを浮かべると携帯電話に向かって話しかける。  
「マット、もういいぞ」  
画面の先の男はそれを聞くと頭を軽く揺さぶり  
口元を覆っていた包帯を僅かにずらす。  
「ったく・・・。何で俺がこんな役・・・」  
テレビ電話を通して届いた声にミサは体が硬直する。  
「ちゃんとそっちで会話の記録は取ってあるだろうな」  
「ああ。そこは抜かりはない」  
「じゃあ約束の報酬を払うからこっちに来い」  
「この拘束一人で解くの面倒なんだよな・・・。  
それまでくれぐれも女を取り逃がすなよ」  
「わかってるよ」  
会話が終わるとメロは慣れた手つきで携帯電話を元のポケットに戻す。  
「どういう事・・・?  
今の人・・・ライトじゃない・・・」  
上手く事態が飲み込めないのか  
ミサは視点が定まらず辺りをキョロキョロと目だけで追う。  
「本当に馬鹿だな、お前は。  
今のはお前の大好きな『ライト』なんかじゃなくて全くの別人だよ」  
ミサは驚愕の事実に一瞬目を大きく見開いたが、  
その直後の反応は逆にメロを驚かせた。  
「よかった・・・ライトじゃなくて・・・本当によかった・・・」  
張りつめた緊迫感から一気に解放され、  
それと同時に押し寄せる安堵に耐えきれなくなりミサの瞳から涙が溢れ出す。  
「ライト・・・ライト・・・よかった・・・・・・」  
メロに両腕を押さえつけられ拭う事も出来ず、  
涙でびしょ濡れになった顔をくしゃくしゃに歪ませながら声を上げて泣き続ける。  
この女は何だ。  
普通この状況で・・・怒るとかしないのかよ・・・。  
メロの心の奥底でピクリと何かが反応する。  
「いいのか?お前は自分が第二のキラだと自供したんだぞ?」  
メロの問いかけにも一切反応せず、ただただ涙を流す。  
声にならない嗚咽の節々に辛うじて「ライト」と呟くのが聞き取れる。  
そんなにその「ライト」が好きかよ・・・。  
メロの中で様々な感情が渦巻く。  
本当は脅迫から得た自供なんかが大した意味を持たない事くらいわかっている。  
馬鹿げたやり方だって事もどこかで気付いていた。  
それでも今まで、ニアだって、初代Lにだって  
この女を自供させる事は出来なかった。  
だから本来ならば物凄く喜ばしい事だったはずなのに、  
何でこの女は・・・さっきからライトライトって・・・。  
 
その時の事を思い返してみれば、きっと俺は「ライト」に嫉妬していたのだと思う。  
今まで俺は両親からも捨てられ、本当に心から打ち解けられる友人もいなくて、  
何をやっても一番にはなれなくて。  
そして誰かにとっての一番にもなれやしなくて。  
強がっていたけど本当は寂しくて寂しくて仕様がなかった。  
だから俺は無償の愛を注がれる「ライト」が憎かったし、  
他人をこんなにも愛せる弥海砂が憎かった。  
だけどその時の混乱した俺の頭ではその憎しみの意味すら理解できず、  
ただこの女を壊してやりたい、それだけしか考えられなかった。  
 
メロは体を浮かすと2人の体を遮っていた柔らかな羽毛布団を剥ぎ取った。  
「キャッ!」  
泣き続けていたミサだが突然の行為に思わず悲鳴を上げる。  
そこに現れたのはいかにも乙女趣味な薄手のベビードールと  
それを纏った驚く程華奢な体だった。  
日本人の体はここまで頼りない物なのか・・・。  
メロが物珍しげにじろじろと覗き込むと  
それまでほとんど抵抗もせず泣いていたミサが体をよじり暴れ出す。  
メロは革製のベルトを抜き取るとミサの両手首に巻き付け  
それをさらにシルバーのネックレスでベッドの柱に固定する。  
「イヤ!何すんのよ!」  
はあはあと大きく息をつきながら  
ついさっきまでの湿っぽさはどこへ行ったのかと思わせる程に大声で非難を浴びせる。  
「うるさい女だな。  
お前は今から俺に犯られるんだよ」  
ミサの顔に再び恐怖の色が浮かぶ。  
「イヤ・・・静かにするから・・・やめて・・・」  
「どうせ黙ってたってしばらくすればお前はマットに犯られるんだよ。  
聞いてただろ?  
さっきの報酬って奴を」  
ミサはガタガタと震え黙ったまま首を左右に振り拒絶の意を表す。  
しかしその行為は皮肉な事にさらにメロの破壊衝動に火を付けた。  
「別に初めての訳でもないだろうしいいだろ?  
それとも俺なんかより『ライト』に似てるマットとヤリたいってのか?」  
「やだ・・・ミサは・・・ライトだけの物なんだから・・・」  
「こんな時まで『ライト』かよ!」  
メロは怒りにまかせベビードールの胸元に手をかけるとそれを一気に引き裂いた。  
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  
「なんだ、色気のねえ体だな」  
メロは裂かれた間から現れた小ぶりの乳房と  
細腰を包む小さなショーツを見て吐き捨てる様に言った。  
「こんな体を見て『ライト』が欲情するとでも思ってんのか?え?」  
ミサの目からは一旦引いたはずの涙が再びこぼれ出した。  
メロは破れたベビードールを引き抜くと  
ミサの目元を覆う様にして縛り付け、自らのヘルメットを取り去った。  
視界を奪われたミサの体は先程にも増して目で見ても感じ取れる程に震えている。  
口が自由に使える様になったメロはいきなり小さな乳首に吸いつく。  
「やっ!」  
その刺激を感じまたもやじたばたともがき出す。  
「動くな。咬み切るぞ」  
ビクリと一瞬体を揺すると、それまでとはうって変わって大人しくなる。  
 
殺されそうになっても怯まなかったくせに。  
メロは訳がわからないと言った風に首を傾げたが  
女という物は大事な部分を傷つけられるくらいなら  
一思いに殺された方がマシなのかもしれない、と己を納得させた。  
その証拠に抵抗はなくなったものの未だ僅かな震えは収まらない。  
それに満足したメロは恐怖で最初からピンと張っていたた乳首に舌を這わす。  
片方は舌で転がし、もう片方は手の平で優しく揉みしだく。  
ミサはもう為す術もなくただ嗚咽を噛み殺しながらただひたすら屈辱に耐える。  
ミサの乳房は片手にすっぽりと収まる程度しかなかったが  
その感触は意外にも柔らかくメロの興奮を煽る。  
時折乳首に歯を立てるとピクリと反応を見せる。  
それにより更に気を良くしたメロは下半身に手を伸ばし  
ショーツの上から性器を撫でる。  
「いやっ!」  
新たな場所への刺激にまた一瞬体を揺するが  
メロの言葉を思い出しすぐにまた大人しくなる。  
「どうだ?お前のここ、触られるんだぞ。  
好きでもない、いや、大嫌いな奴に」  
乳首から口を離し耳元でいやらしく囁いてやると、  
急に耳に吐息がかかり驚いたのか小さく声を上げる。  
メロはミサの耳に唇を近付けたまま、指をショーツの脇から差し込む。  
「なんだ、あれだけ嫌がりながらビショビショじゃんか」  
湿りの具合を確かめる様に指を上下させると  
それに合わせてくちゅくちゅと音が漏れる。  
「ほら、目は見えなくても音はよく聞こえるだろ?」  
深夜の静まり返ったホテルの一室に水音だけが響く。  
ミサは必死に歯を食いしばり屈辱と恐怖、そして官能に耐える。  
しかし往復する指の先が敏感な部分に触れた瞬間、堪え切れずに声が漏れる。  
「あっ!」  
思わず漏れてしまった声をつぐもうと口を閉ざすも、  
その一瞬の反応を目敏く見つけたメロにそこを責め立てられ  
再びだらしなく開いてしまった口元からは快楽の悲鳴だけがこだまする。  
「んっ、あっ、あっ・・・」  
指の腹で軽くさする度にミサは従順に吐息を漏らす。  
十分過ぎる程に潤ったのを確認すると、  
メロはミサの下半身に体をずらし先程の携帯電話を取り出すと  
濡れそぼった秘部に液晶の光を照らす。  
薄い陰毛をかき分け人差し指と中指でぐいと目一杯まで広げ、  
顔を近付けまじまじと覗き込む。  
暗闇の中で照らされたそこは光を浴びてらてらと妖しく光る。  
膣口からとろりと流れ出た愛液が尻の谷間を通り  
シーツにぽとりと染みを作る。  
陰核はすでに包皮を剥き頭を出し、物欲しそうにひくひくと震えている。  
ぷっくりと膨れ上がった芽に舌を這わせ、コロコロと転がす。  
ビクンと大きく体が震え、反動で僅かに引いてしまった腰を両手で掴むと  
思い切り顔の前に引き寄せて堅く尖らせた舌で乱暴に擦り立てる。  
「いやぁっ!あっ!はぁっ!あん!」  
その都度快楽に耐えきれず逃げようとする腰を捕まえ、  
時には舐め上げ時には吸いつき、確実に少しずつ高みへと昇りつめらせる。  
 
咥内に唾液を溜め、腫れ上がった肉芽を口に含み  
クチュクチュと音を立てて吸いつく。  
「もう・・・やめて・・・んあっ!」  
乱れる呼吸の節々に拒絶を挟むものの、  
体はそれに反して更に深い快楽を求め  
メロの舌に擦り付ける様に腰を振り始める。  
体が言う事を聞かなくなっても、それでもやはり嫌悪感は拭い切れぬ様で  
きつく縛られた薄手のベビードールからはしっとりと涙が染み出してきた。  
ミサの味をたっぷりと堪能したメロは  
のパンツのジッパーを下ろし、  
窮屈そうにしていた肉棒を取り出すと  
その先端をミサの潤った場所にぐりぐりと押しつける。  
舌や指とは明らかに違う感触にその後起きるであろう事態を予想したミサは  
またもや体を捻り暴れ出す。  
「いや!それだけはやめてぇ!」  
長時間に渡る緊張のせいで喉はカラカラで、掠れた声が悲壮感を際立たせる。  
それでもなんとか動きを封じようと肩や腰を押さえつけてはみるものの、  
命を省みずに抵抗する女の力とは意外と強く  
行為が終わるまで続けるには随分と骨が折れる。  
メロは舌打ちをすると隠し持っていた小型の銃を取り出し  
銃口をミサの入り口に当てがい軽く埋め込んだ。  
先程とはまた違う冷たい物に犯される感触にミサの動きが止まる。  
何かはわからないが少なくともその温度と質感から  
異物である事だけは認識できる。  
「ひっ!な、何・・・?」  
得体の知れない物体に恐れ、身動き一つ取れない。  
「ワルサーPPKって知ってるか?  
殺傷力は大した事ないけど、この至近距離からじゃお前の大事なとこ、  
使いもんにならなくなっちゃうかもなあ」  
言い終わると同時に、ミサの体がビクリと後ずさる。  
「おっと、動くなよ。  
反動で引き金引いちゃうかもしれないだろ?」  
ハハハと大声を立て笑う。  
もはや声も出ないのか、ミサはただ口をパクパクとさせ固まる。  
「お前に選ばせてやるよ。  
こいつと俺の、どっちにぶち抜かれたい?」  
言いながら出し入れすると、ぬらりとぬめった銃口が糸を引く。  
充血しパックリと開いた陰部は、それが危険な物とも知らず  
押し込む度に貪欲にくわえ込む。  
「これは・・・イヤ・・・」  
ガタガタと震える唇から細い声が鳴る。  
「これはイヤ?じゃあ何が欲しいんだよ?」  
いやらしい笑みを浮かべたまま銃口をこねくり回す。  
ミサは唇を噛みしめたままそれ以上話そうとはしない。  
「だから何が欲しいんだよ?  
言わなきゃわかんねぇだろ。  
銃弾?」  
冗談を言ったつもりだったがミサは青い顔を小刻みに左右に降る。「あなたの・・・」  
「ん?聞こえねえな」  
意地悪く問い返すと、意を決した様に僅かに集めた唾液をゴクリと飲み干す音がした。  
「あなたの・・・お、おちんちんを・・・ください・・・」  
目元に縛り付けたベビードールは面積の半分以上が湿っていた。  
「しょうがねえな。  
また抵抗したりしたら・・・わかるな?」  
ミサが頷いたかどうかも確認せず、メロは銃を抜くと  
代わりに待ちわびる様にビクビクと青筋を立てていた自分の性器を一気に突き刺した。  
 
恐怖と冷たい風に曝されていた陰部は  
思っていたより潤いはなく、メロの進行を妨害した。  
それに加え日本人女性と交わるのは初めてだった為、  
その膣内のあまりの狭さに驚いた。  
あまり使い混んでないのか、それとも小柄な体にはこんな物なのか、  
とにかくキツくて仕様がない。  
三分の一程埋まった所で止まってしまう。  
このままでは埒があかない、そう踏んだメロは  
親指で陰核を押し潰す様に弄ぶ。  
「あっ!はあ・・・んっ・・・」  
引き裂かれる様な痛みに歯を食い縛り耐えていたミサだったが、  
弱い所を刺激されつい声が漏れる。  
メロは閉じかけていた包皮を目一杯に剥くと  
そこから顔を出した肉芽を乱暴に擦り上げる。  
「やっ、あっ、あっ、あん・・・」  
手加減の一切ない一方的な愛撫で背筋に電流が走る。  
(嫌なのに、嫌なのに。)  
そう思えば思う程体はそれに反して素直に快楽に対する反応を示す。  
淡泊な月が自分を抱いてくれる事がほとんどなかったのも災いして  
ミサの欲求不満も最高潮に達していた。  
(もうダメ!気持ちよすぎて、おかしくなる・・・)  
丁度その瞬間、潤いを取り戻した膣内にメロが一気に腰を打ちつけた。  
「んあああっ!」  
完全にミサの中に進入したメロが初めて感じたのは小刻みな痙攣だった。  
「なんだ、もうイッたのかよ」  
ピクピクと不規則に震える体を呆れた様に見下ろす。  
硬直し人形の様に動かない体を支え、更に深くへと突き刺す。  
ミサの中は入り口と同様に狭く、  
内部の襞と粘膜が絡みつき奥へ奥へと誘い込む。  
一方ミサも日本人の月よりも太くて長い肉棒の圧迫感に  
一度真っ白になった頭が再び覚醒し始める。  
既に爆発してしまいそうな己を最奥でじっくりと押さえ、  
落ち着いた所で抽送を始める。  
引きちぎられる様な窮屈感は相変わらずだったが  
絶頂に達したばかりの膣内は愛液で満ち、  
潤滑油としての役割は十分過ぎる程であった。  
抜き差しを繰り返す度にジュブジュブと結合部から溢れ出しシーツに落ちる。  
先端で上部を擦ってやるとミサは仰け反りよがり声を上げる。  
「んはあっ!うん、あんっ、あああっ!」  
目さえは見えないがそれでもよくわかる程恍惚の表情で鳴き、  
自らメロの動きに合わせ腰を振る。  
たまらなくなったメロはミサの下半身を折り  
腰を抱え込む様に覆い被さり、真上から打ち落とす。  
ベッドがギシギシと軋み、  
それに劣らぬ大きさでパンパンと交わる音が鳴る。  
それはまるで獣の交尾と呼ぶにふさわしい激しさで、  
打ちつける度にミサの小振りな乳房が波打ち  
脱色された金糸の様に美しい髪が乱れ舞う。  
青冷めていたはずの頬はいつの間にか紅に染まり、  
だらしなく開いた口元からは吐息と喘ぎが折り重なってこぼれる。  
「ああん!うっ・・・あぁっ・・・んはっ!」  
自らの体で腹部を圧迫され、息も絶え絶えながらも喘ぎは止まる事はない。  
息苦しさをも遙かに凌駕する程に溺れ、もっと欲しいとばかりに腰を突き出す。  
そんなミサの痴態と下半身を強烈に蝕む快楽に、  
メロも確実に最高潮へと上り詰めて行った。  
過去に複数の女と繰り広げた性行為と比べても  
今この瞬間の興奮を越えた事など一度もなかった。  
いつの間にかメロの唇からもはあはあと大きく呼吸が漏れ、  
全身からは汗が噴き出し通気性の悪い革製の衣服が肌に貼り付く。  
 
今にも快感の渦に巻き込まれそうになり、それを紛らわそうと  
両手をくくり付けられ剥き出しになっていたミサの脇に舌を伸ばす。  
産毛の一つもない滑らかな脇の窪みに舌を這わすと、  
そこはじっとりと汗ばみ微かに塩気を帯びていた。  
「ひゃあん!」  
予想もしていなかった部位への刺激にミサは頭を仰け反らせる。  
しかし頑丈に固定された手首の拘束を解く事も出来ず、  
時折首を左右に振りながらも為す術もなくメロの奇行に身を任せる。  
爆発しそうになる下半身の冷静を取り戻す為にした行為だったが、  
ミサの脇から立ち上る強烈な雌の匂いがメロの鼻をくすぐり、  
結果的にその目論見とは正反対に暴走に拍車をかけた。  
「ダメだ・・・出すぞ」  
限界を感じたメロはラストスパートをかけるべく腰の動きを加速した。  
「ああんっ、ダメ、ダメ、中には出さないでぇっ!」  
メロの言葉に体をくねらせ乞う。  
「いや、中はイヤ!うんっ、はあっ、あああっ!」  
ミサの哀願に答える様子もなく、ただひたすら深く深くへと打ちつける。  
結合部に目をやるとジュプジュプと卑猥な音を立て、  
淡いピンク色の陰部がぬめりを帯びた赤黒い肉棒をくわえ込んでいる。  
往復する度に透明な粘膜が泡立ち、打ちつけた反動で僅かに飛び散る。  
「っ・・・出すぞ!」  
「ひやあっ!やめてぇっ!うああっ!あっ、あっ、ああああっ!」その時、あまりの行為の激しさに  
ミサの手首を繋いだシルバーのネックレスがブチリと鈍い音を立て弾けた。  
しかし絶頂を目前に控えた2人にはそれすら大した問題にはならなかった。  
メロはミサの膣内が壊れてしまう程に掻き回し、  
一滴でもこぼしてしまわぬ様細い腰を掴み引き寄せ、  
子宮に直接注ぎ込む様に奥深くで白濁を放った。  
ビュルビュルと精を放出する度に同時にメロを包み込む膣肉がビクビクと痙攣する。  
全てを出し切った満足感と征服欲、快楽に身を委ね  
交わったままで大きく息をつく。  
狂おしいまでの余韻を噛み絞める様に目を瞑る。  
その時だった。  
「ぐすっ・・・」  
耳を刺す弱々しいすすり泣きの声に閉じていた目を見開きその顔を凝視する。  
犯されてしまった絶望、中に出された事で生じる妊娠への恐怖、  
拒んでいたとは言え愛する人を裏切ってしまった罪悪感。  
そんな負の感情をいくつも浮かべ、  
ミサは力なくだらりと転がったまましゃくり上げる。  
「うっ・・・ライト・・・」  
その言葉を聞いた時、一瞬にしてメロの中で何かが完全に崩壊した。  
そして自分でも驚くべき行動に出た。  
「その名前を・・・口にするな!」  
 
バシッ  
 
完璧に冷静さを欠いていたメロは力任せにミサの頬に平手を放った。  
「あうっ!」  
目の見えないミサは当然その手を防ぐ事も堅く歯を食い縛る事も出来ず、  
平手をまともに食らい顔を右に弾かれた。  
同時にミサの視界を奪っていたベビードールがメロの右手に引っかかり吹っ飛んだ。  
何をやってるんだ、俺は・・・。  
我を取り戻したメロだったがその事実に気付いた時はもう遅かった。  
視界を遮る物が取り去られおそるおそる目を開いたミサともろに目が合った。  
「あ・・・」  
それでも必死で顔を隠そうとするが動揺の為体が上手く動かない。  
見られた・・・顔を・・・。  
こいつがもし死神の目を持っていたら・・・。  
ダメだ、今すぐに、殺さなければ・・・。  
頭ではわかっていても依然体は硬直したまま動こうとはしない。  
 
そんなメロの思惑をわかっているのかいないのか、  
ミサは驚いた様に大きく目を開きじっと見つめたまま逃げようともしない。  
ヤバい。  
殺される。  
ノートに名を記される前に、早く、殺せ・・・。  
今ならまだ間に合う。  
力では負けるはずがない。  
早く、早く。  
思えば思う程その焦りをあざ笑うかの様に全身の力が抜け、  
混乱した頭だけがぐるぐると回る。  
死の恐怖。  
それは数ヶ月前のメロにとっては差したる問題ではなかった。  
自分が死んでも涙する人間もない。  
この世に大した未練もない。  
敢えて上げるならば一度もニアを出し抜く事が出来なかったくらいで。  
しかし今は違う。  
夜神総一郎との一戦で、爆破する建物から必死に逃げて。  
初めて目前に見据えた死はメロの想像以上の恐怖を深く刻み込んだ。  
死ぬのは怖い。  
死にたくない。  
そんなトラウマを抱え込んだ今、人間の本能とも言えるべく危険からの逃避もままならず  
敵であるミサの目を見つめたまま息を飲む。  
ああ、今の俺は生まれて間もない子鹿なんかによく似ている。  
目の前にそびえ立つ肉食獣に危機は感じてはいつつも  
逃げまどう事も攻撃をしかける事も出来ない。  
ただその物言えぬ恐怖に脅え身動き一つ取れない。  
そんなくだらない事を考えていた。  
しかし恐ろしい肉食獣のとった行動は意外な物だった。  
ミサはベルトで左右の手首を固定されたままですっと伸ばす。  
そして後ずさりも出来ないでいるメロの頬に手の平を添える。  
「可哀想に・・・」  
そう呟き、優しく頬を撫でる。  
ミサが見ていた物は、メロの人相でもなく、  
死神の目を持っていた場合に頭上に浮かぶ名前でもなく、  
メロの顔の左半分に大きく走る傷跡だった。  
それはもう固まりはしていたが、  
そのあまりの痛々しさにミサは同情を抱かずにはいられなかった。  
あんなにも酷い目に遭わされたのに、それでも白い肌に浮かぶ生々しい傷跡は  
怒りだとか絶望だとか、そんな感情すら死滅させる程の壮絶さを物語っていた。  
いや、その悲惨さはその様な簡単な言葉では到底表すことが出来ない。  
きっとこの人は、生きるか死ぬかの途轍もない恐怖と戦ってきたのだろう。  
身も心もボロボロに荒んで、それでもこうして生きる事を選んだ。  
ミサ自身も何度も死を目前にしてきて多少打たれ強くはなっていたが、  
それでもその都度垣間見てきた死はやはり恐ろしい物だった。  
いや、彼の体験した恐怖と比べるには自分は温すぎるくらいかもしれない。  
肌は焼けただれ、顔はやつれ、  
それは見た目に十代程度の人間が耐えうる限界を超えている様に見えた。  
「怖かったでしょう?痛かったでしょう?」  
メロの目を見つめながら、頬に手を添えたままで話しかける。  
「・・・」  
メロは何も言えなかった。  
何かの罠かもしれない。  
自分を油断させて、切り返すチャンスを伺っているのかもしれない。  
誰も信じられなかった。  
自分を案じてくれる人なんて一人もいなかった。  
だからこそ自分だけを映す曇りのない瞳を信じる事なんて出来なかった。  
だけどその瞳は、あまりにも慈愛に満ちていた。  
「可哀想に・・・」  
ミサが同じ事を呟いた。  
 
今までは同情なんて、糞食らえと思っていた。  
しかし思い返せば誰かに同情された事もなかった。  
生まれて初めて受けた情に、戸惑いつつも心地よさを感じずにはいられなかった。  
メロはその感情に名をつける術を持っていなかった。  
嬉しい?  
幸福?  
愛しい?  
訳も分からず、答えを求める様に  
頬に添えられた手を自分の手の平で包み込む。  
その手は小さくて、驚く程暖かい。  
ミサが笑った。  
「泣いてるよ?」  
言われて頬を伝うもう一つの暖かい物の存在に気がついた。  
俺が・・・泣いてる?  
物心がつく頃から泣いた記憶なんて一度もない。  
甘えたい年頃にはもう両親はいなくて、憎んだ事もあった。  
ニアにはいつも負け続けで、  
どんなに努力しても決して越えられぬ悔しさを背負い続けてきた。  
それでも涙した事なんて一度もなかった。  
それなのに、それなのに。  
メロは震える手でミサの頬に触れた。  
滑らかで吸いつく様な、肌の感触。  
ミサがくすぐったそうに笑った。  
ああ、多分この気持ちが「好き」なんだ。  
メロはぼんやりと靄のかかった頭で、引き寄せられる様に口づけた。  
ミサも黙ったままそれを受け入れる。  
柔らかくて、暖かくて、気持ちがいい。  
女とヤッた事は数え切れない程あったけれど、こうして唇を合わせるのは初めてだ。  
鼓動が速まり胸に手を当てずともドクドクと音を立てている事がわかる。  
この静まり返った室内ではたやすくミサの耳にも届いているのかもしれない。  
そっと唇を離しミサを見る。  
少し照れくさそうに微笑む顔が可愛くて。  
たまらず再び唇を合わせる。  
何度も、何度も。  
メロのするキスは舌を絡ませる事もなく、歯と歯がぶつかる様な激しい物でもなく、  
先程の行為とは到底結びつかない程幼い、唇が触れるだけのキスだったが  
何故かミサはそのおぼつかなさに強く捕らわれた。  
初めてメロが見せた年相応に見える行為に愛おしさを感じずにはいられず、  
自らも積極的に唇を近づけた。  
メロの唇を通して伝わるのは、少ししょっぱい涙の味。  
それと共に鼻孔をくすぐる、チョコレートの様な甘い香り。  
こみ上げてくる愛しさは月の様な異性に対する愛情とは違い、  
それは母性と呼ぶ方がふさわしい感情だったのかもしれない。  
ミサにとってはどちらが上だなんて優劣をつける事も出来ず、  
ただ目の前にいる少年の痛みを少しでも和らげられたらと、それだけだった。  
数度目のキスを終え、思い出したかの様にメロはミサの手首を握った。  
ベルトできつく締め付けられた細い手首は赤く腫れ上がっている。  
痛みを感じない様にそっとベルトを外す。  
白い肌には小さな擦り傷が浮かび、僅かに血が滲んでいる。  
「ごめん・・・ごめん・・・・・・」  
数十分前の自分の愚かさに涙がこぼれる。  
こんな小さな傷だけではない。  
体だって、心だって、ボロボロに傷つけてしまった。  
俺のこの手で。  
「うっ・・・」  
罪悪感と自己嫌悪に居たたまれなくなり、俯いて嗚咽を上げる。  
あんな酷い目に遭わせておいて、掛けてやる言葉も見つからない。  
いや、今更優しい言葉を言った所で許して貰える筈がない。  
それ所か許しを乞おうなんて思い上がる自分の神経に嫌気が差す。  
 
最低だ。  
ぽたぽたと涙がシーツに落ちる。  
「っ・・・ごめん・・・」  
震える声で呟くと同時に、暖かい手の平が両頬を覆い顔を上げる。  
ミサは相変わらず優しく微笑んでいた。  
「もう・・・いいよ」  
そう言うと親指でぐしゃぐしゃに濡れた涙を拭う。  
その笑顔は優しくて、柔らかくて、暖かくて。  
「あなたの名前は?」  
ミサが問いかける。  
顔を見られた今名前を聞くなんて、死神の目を持っていないのか?  
いや、本当は持っているけどそうと疑われない為に敢えて知らないふりをしているのか?  
でもそんな事はもうどうでもいい。  
「俺の名は・・・」  
メロ、と言いかけて口をつぐむ。  
深く深呼吸をし、ゆっくりと口を開く。  
「ミハエル=ケール」  
「ミハエル=ケール・・・」  
ミサが確かめる様に復唱する。  
一文字一文字を噛み絞める様に。  
「私は、弥海砂」  
「・・・知ってる」  
「あはっ。そっか」  
顔を見合わせて笑う。  
「ミハエル」  
「ミサ・・・」  
愛おしそうに互いの名を呼び、引かれ合う様に口づける。  
このまま時が止まってしまえばいいのに。  
メロは叶わぬ願いを祈った。  
 
ガチャリ  
 
甘ったるい、溺れる様な空気を切り裂いたのは二人のいる部屋の扉が開いた音だった。  
「うわっ!」  
扉を開けた瞬間に見えた室内の状況に奇声を発したのは、  
メロがこの部屋に進入してきた時と同様に  
フルフェイスのヘルメットで顔を隠したマットだった。  
「お前・・・何やってんだよ?顔は・・・」  
ミサの視界を封じる事もなく、  
顔を晒したままのメロの姿に如何にも戸惑いを隠せないといった所だろうか。  
意味もなく辺りをキョロキョロと見渡し少しでも状況を計ろうとしているのが伺える。  
一方メロは忘れていた現実に強引に引き戻され溜息をついた。  
もう・・・タイムオーバーだ・・・。  
固く目を瞑り意を決した様に大きく息を吐くと、もう一度ミサを見やる。  
ミサはこの不審人物が先程の電話の向こうの男だと気付くと  
『報酬』の言葉を思い出したのかブルブルと大げさな程震えてみせる。  
「・・・」  
声を出せず無言のまま助けを乞う様にメロを見上げる。  
その視線を受けながら、「ああ、俺は信頼されてるんだな」などと思えて  
嬉しい反面で心のどこかが軋んだ音を上げる。  
「ミサ・・・」  
自分でもどんな顔をしているかわからない。  
ただ口から漏れた名前はは驚く程情けない声だった。  
「さよなら」  
ぽつりと、それだけ呟くと、  
メロは入り口で固まっているマットの首根っこを掴むと一目散に駆け出した。  
「ミハエル!」  
後方から声が聞こえたが、メロは振り返らずに走り続けた。  
 
「はあっ、はあっ・・・」  
どれだけ走ったのだろうか。  
目的もなくひたすら遠くを目指して走り続け、  
気が付けば見覚えのない薄汚い建物に囲まれた裏路地へと辿り着いた。  
溢れ出す汗と乱れた呼吸が随分と長い距離を走ったと錯覚させたが、  
実際には先程のホテルからは1kmしか離れていなかった。  
極度の酸素不足に陥りぐらりと目眩に襲われ、  
ようやくマットの首を離すとその場にぐったりと崩れ落ちる。  
硬くざらついたアスファルトの感触が汗ばんだ手の平を刺激する。  
先程までのあの柔らかなシーツとは大違いだ。  
しかし本来俺にはこんな荒んだ場所がお似合いだったはずだ。  
そもそも、あんなに暖かくて柔らかい空間なんて場違いだったんだ。  
あの世界を、俺みたいな薄汚い人間が汚していい訳がない。  
メロは手の平にこびり付いた泥や砂利を払う事もせず、  
額から流れる汗を力強く拭う。  
「どういう事だ」  
声の方に顔を上げるといつの間にかヘルメットを外したマットが  
呆れとも怒りともつかない顔つきでこちらを見下ろしている。  
メロ程とはいかないが、やはり大きく肩で息を吐いている。  
数秒の間押し黙り軽く呼吸を整えると、  
ふらつきながらも立ち上がりマットの顔を睨みつける。  
どんな状況であれ、見下ろされるのは好きじゃない。  
「あの女には・・・二度と近づくな」  
「な・・・ちゃんと説明しろよ!」  
マットが声を荒げる。  
それはそうだ。  
誰だってこんな訳の分からない状況に巻き込まれたら原因を聞かずには気が済まない。  
それでもメロにはあの甘い一時を、誰にも話したくはなかった。  
身勝手かもしれないが、それは今に始まった事ではない。  
「いいから黙って俺の言う事を聞け!」  
再度マットの首根っこを掴むと怒鳴りながらコンクリートの壁に背を打ちつける。  
メロの怒声と大きく見開かれた瞳の迫力にねじ伏せられ、マットは舌打ちをする。  
「チッ・・・わかったよ。  
だけどお前、顔・・・見られただろ?」  
マットがこれ以上反抗しない事を確認すると、手を離し再びアスファルトに腰を下ろす。  
「ああ・・・」  
「いいのか?  
あの女が顔だけで殺せるキラだったら、お前・・・殺されるぞ?」  
「ああ」  
うずくまり顔を伏せたまま答える。  
ミサの事を考えると、自分がどんな表情をしているかもわからない。  
「その前に始末しておかなくていいのか?」  
「ああ」  
考える間もなく即答するメロに溜息をつく。  
こんなメロを見たのはマットも初めてだった。  
別にメロとは仕事上のパートナーというだけで必要以上の信頼だとか友情だとか、  
そう言った類の特別な感情はない。  
しかしあのメロのこんなにも情けなく痛々しい姿を前に居たたまれなくなり  
メロの隣にゆっくりと腰を下ろす。  
「あの女が言ってた『ミハエル』って、お前の本名か?」  
「ああ」  
「って事は、あの女は顔だけで殺せるキラだったって事だな?」  
「いや・・・わからない」  
「わからない?  
現にあの女はお前の名前を知ってたんだろ?」  
「・・・」  
今まで淡々と受け答えをしていたメロが初めて言葉に詰まる。  
 
しかしその反応でマットはあらかたの事情を理解した。  
俯いたままのメロを見つめて口を開く。  
「とにかくお前のとった行動は契約違反だ。  
後はもう・・・勝手にしろ」  
それだけ呟くとマットは立ち上がり裏路地のさらに奥へと消えていった。  
その気配を察するもメロは引き留める事も顔を上げる事もせず、  
再び独りぼっちになった空間で嗚咽を上げ泣いた。  
俺みたいな奴がミサの幸せを壊してはいけない。  
ミサの幸せは、俺じゃなくて『ライト』と一緒にいられる事。  
もう一度でも顔を見てしまったら、  
間違いなく俺はミサをさらってどこかに閉じ込めてしまうから。  
だから、もう会えない。  
唇を噛みしめると生暖かい鉄の味が咥内に広がった。  
 
その頃一人取り残されたミサは呆然とベッドに座り込んだままでいた。  
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。  
ベッドサイドに備え付けられた時計を確認しようとゆっくりと体を動かすと  
指に触れたシーツが乾いた衣擦れの音を上げた。  
ぼんやりとしたままの頭で無意識にそれを掴み取ると優しく抱きしめる。  
鼻腔から体中に広がる、甘くて少しほろ苦いチョコレートの香り。  
乱暴者だけど、どこか切なげで、暗い影を背負った少年。  
「ミハエル…また、会えるかな?」  
誰もいない室内で一人呟いてみる。  
ふいに弛んだ涙腺から流れ出る涙を甘い香りのシーツで押さえる。  
カーテンの隙間から覗く空はうっすらと明るく染まり始めていた。  
 

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