本日、6月18日は夜神 粧裕、16歳の誕生日。  
一生懸命受験勉強に取り組み、なんとか補欠合格ながらも憧れの兄・月の母校  
私立大国学園高等学校に入学することが出来、そろそろ学園生活にも慣れてきた頃である。  
彼女が肘辺りまで伸びた髪を高い位置で一つに結び、ポニーテールにしているのは  
梅雨の時期だというのに晴れが続いてとても暑いからだ。  
膝上のプリーツスカートを翻し、歩いてきたのは幼い頃に月と遊んだ二人だけの  
秘密の場所・木々に囲まれて鬱蒼としている所。  
「う〜ん、お兄ちゃんと一緒の時は何とも思わなかったけど…一人だとちょっと怖い」  
大きな木は枝を広げていて、太陽の光を遮断している。  
ここだけは別世界かのような雰囲気で温度も少しだけ低い。  
その恐ろしさを半減させるために粧裕は、気持ち大きな声で呟いた。  
 
 幼い頃、いつも一緒に遊んでくれた優しい兄は、今でも同じように接してくれるが  
父親と共に『キラ事件』の捜査に加わってからあまり家に帰って来なくなったのだ。  
折角、主席で合格した大学を休学してしまっているが、頭脳明晰・品行方正・容姿端麗といった  
誉め言葉を全て当てはめられる彼には、たいしたことではないと妹の粧裕にはわかっていた。  
家に帰ってこない=会えないことが寂しい。  
 
 今日、思い出のこの場に訪れたのは、その寂しさを紛らわすためだけではなく  
二人だけの秘密の約束を守るため。  
入口の木に右手を置き、数を数えながら進む。  
「や・が・み・ら・い・と・さ・ゆ っと8本目のこの木だー」  
木の根本に座り込み、予め用意していた園芸用のスコップで掘り起こしていく。  
 
 随分と昔、女の子は16歳で結婚できると初めて知った頃、粧裕はお祭りの出店で  
月に玩具の指輪を買って貰ってここに埋めたのだ。  
「「16歳になったらお兄ちゃんのお嫁さんにしてね」って…結婚なんて兄妹じゃ  
出来ないってこと、あの頃は知らなかったからなー」  
小さな小さな指輪をそのまま埋めたのだから、十年以上たった今  
見つかるはずがないことぐらいわかっていた。  
見つからなくていい。  
この行為は、兄である月を異性として意識してしまっている気持ちに区切りをつけるために  
行っているのだ。  
 粧裕だってお年頃、アイドルの流河 ヒデキや学校の先輩に憧れたりもするが、ビジュアルや  
笑い方などが月と似ているから好みなのだ。  
男性を見るとどうしても月と比較してしまう。諦めなければいけないとわかっているのに。  
 
 ぼんやりと手を動かしているとスコップの先に手応えを感じた。  
慌てて掘り起こしてみると透明なゴミ袋の中に、ビニール袋に入ったノートと小さなケースが…  
 
 
 ポケットに入れて置いた携帯を取り出すと短縮一番のボタンを押す。  
少しの待ち時間の後、愛しい人の声が聞こえてきた。  
『粧裕?どうしたんだ』  
「お兄ちゃん、今どこにいるの?」  
『家に着替えを取りに来てるけど』  
「会いたいの!すぐに帰るから待ってて!」  
それだけ伝えると通話を切り、荷物を抱えて走り出した。  
 
 毎朝キレイにセットしている髪が乱れるのも構わず、夏用のセーラー服は汗でぐっしょりと濡れ始めた。  
だが、そんなことに気が回らないほど急いで自宅を目指した。  
 
「ただいま!」  
玄関に駆け込み、靴を揃えて上がると階段を一気に駆け上がる。  
ノックもせずに月の部屋に飛び込んだ。  
「お帰り、粧裕。走って来たのか?そんなに急がなくても待ってるのに」  
 
 笑顔で迎える月を見て泣きそうになりながら、粧裕は両手で掘り出した物を突きだした。  
戸惑いながらもそれを受け取り、中身を確認しようとゴミ袋の中からをノートを取り出し  
コーティングされているビニール袋を破り、ノートに直接触れる月。  
「…こっこれ…お、兄ちゃんの…だよね?」  
息切れしながらも語りかけるが、下を向いていたため月の表情をみることなどできなかった。  
それが良かったのか、悪かったのか。  
 
 彼は今、死神 リュークと再開を果たしていたのだ。  
悪魔のような笑みを浮かべた後、月は袋の中から小さなケースを取り出し、袋に戻した  
ノートは机の上に置いた。  
漸くして、息の整ってきた粧裕の頬に片手を添えて上を向かせると何も言わず彼女の唇を塞ぐ。  
目を見開いた少女には、何が起こったのか理解できていなかった。  
目の前には端正な兄の顔、唇には温かな感触。  
 
温もりが消えても呆然としたまま、唇に手を当てている粧裕。  
「粧裕、これは僕のじゃない。お前のものだよ」  
月はケースを開け、中から指輪を取りだした。  
プラチナ台で大きなムーンストーン(六月の誕生石)と左右に小さなダイヤが付いた指輪を  
粧裕の左手薬指にはめるとジャストフィット。  
「これは僕が18になったときに埋めておいたんだ。お前ならきっと見つけてくれると思っていたよ」  
信じられないと己の左手を見つめる彼女を抱きしめながら耳元で囁く。  
「粧裕が僕のお嫁さんになる…そう誓っただろ?」  
 
 耳に掛かる吐息にビクリと反応しながら、戸惑いつつも月の胸に顔を埋める少女には  
表情が見えないのをいいことに邪悪な笑みを深くしている男の目線は、「よくやるぜ」と  
呆れる死神に向けられていた。  
 
「愛しているよ、粧裕」  
 
 
「愛しているよ、粧裕」  
その言葉を少女はどんなにか待ち望んでいただろう。  
粧裕は、月と違って平凡な女の子でいつも立派な兄と比べられていた。  
現在、通っている高校でも入学当初はあの夜神 月の妹としてかなり期待されたものだが  
特別優秀とは言えない彼女には、勝手に盛り上がっていた教師達から冷たい視線が  
向けられるようになった。だが、粧裕はそれでも構わなかった。  
大好きな兄が過ごした学園に通うことが喜びだったのだ。  
 
 そんな何もかも普通の少女が、月に女性として好かれているとは粧裕自身、全く  
想像していなかっただろう。  
今まで、色々な女性と付き合ったであろうモテる兄。それは想像だけでなく、女から電話が  
掛かってきたり、実際に可愛いモデルの彼女を家へ連れて来たことからもわかっていた。  
粧裕はその時、必死に何でもないふりをしたが、実際のところは嫉妬のあまり心が  
千々に乱れて大変だったのだ。  
そこでふと疑問が過ぎった。そういえば彼女はどうしたのだろうか?確か弥 海砂は、と。  
「でも、お兄ちゃんにはミサさんがいるよね?可愛い顔で、足だってスラッとしてて  
すっごいキレイだった…もしかしてあたしのことは、妹としては愛してるってこと?」  
 
 突然、粧裕から出た『ミサ』の名に心の中で激しく舌打ちする月。  
DEATH NOTEの一件で仕方がなく彼氏のフリをしてやったが、家に押し掛けられたのは  
痛手だったと考えていた。  
今まで付き合った女達の存在は、危機感を持たせるためにワザと何となくは匂わせていても  
実際に粧裕に見せたことはなかったというのに。  
 
「ごめん。あの子は、お前の反応を見たくて【彼女】の役をやって貰っていたんだ。僕に  
彼女が出来れば、お前は妬いてくれると思っていたのに逆に冷やかされて落ち込んだよ。  
だから、弥 海砂と本当に付き合っているわけではないんだ。  
僕にとって大切なのは、ずっとお前だけだよ」  
高い位置で纏められている黒髪を弄びながら、その一房に口付けると月は真剣な眼差しを向ける。  
その眼光に逆らえる粧裕ではない。あっさりと好きな人の言葉を信じてしまっていた。  
「お兄ちゃん、夢みたいだよ…」  
 
 うっとりと粧裕が瞳を閉じるとゆっくりと月の影が降りてくる。  
重なった唇は角度を変え、啄まれて段々と深くなり、息継ぎが上手くできない粧裕は  
意識が朦朧となってしまう。それに気付いた月は、唇を離して彼女が息を整える間  
顔中にキスすると顎から耳の下辺りに掛けて口付けたときに、粧裕の体がビクリと大きな反応を示した。  
「やっ…変…くすぐったい…?」  
「はは、気持ち良いんだろ?粧裕。キスするときは、口じゃなくて鼻で息をするものだよ」  
 
 優しく教えられたとおりに鼻で息をしようとしても、つい口を開けてしまうのだが  
それを狙い澄ましたかのように月は舌を侵入させてくる。  
差し込んだ舌で口内を掻き回し、驚いて固まっていた粧裕の舌にまで絡ませ始めた。  
初心者の都合などまったくお構いなしだ。  
「ふっ…っん!?はぁっ…ふぁん、はふっ…… 」  
苦しさと与えられる慣れない刺激に対して、意図せずに自然と漏れてしまう声。  
それは普段の声音と違って羞恥心をかき立て、頬や首までがうっすらと朱に染まっていく。  
 
 ポニーテールにしているせいで、露わになっている首筋に月の唇があてられると  
彼はワザと痕を付けるようにきつく吸い付いた。  
「ヤダッ!痛い。…あー、アト付けたの〜。外、歩けないじゃん」  
服で隠れない場所にキスマークを付けられ、急に現実的に悩んでしまう粧裕。  
そんな彼女のほっぺたにキスしながら、髪飾りをパチンと外して艶やかな髪を下ろすと  
鼻孔を擽る甘い花の匂い―粧裕は香水をつけないので、シャンプーの香り―と彼女自身の  
匂いがフワッと広がった。  
 
 先程と同じように一房に口付けながら、月は無邪気そうに微笑んで見せた。  
「これなら隠れるだろ?髪を結っているのもいいけど、僕はこっちの方が好きなんだ」  
月のそんな台詞を真に受け、少女はキスマーク云々の件など頭からすっぽりと抜け落ち  
もっと髪の手入れに時間を掛けようと心に決めていた。  
 
 慣れないことの連続でそれについていけない粧裕、徐々に体の力が抜けてきてズルズルと  
床に座り込んでしまっていた。  
短いスカートは捲れ上がっており、スベスベの太股を惜しげもなく晒している。  
そんな彼女を抱き上げて、ベットの上へ運んだ月は、まったく抵抗がないのを良いことに  
セーラー服の脇にあるファスナーを開け、ゆっくりと手を忍ばせてブラジャーのホックを外すと  
それに気付いた粧裕の体がびくっと震えた。  
「やっん…お兄、ちゃん 待って…」  
フルフルと首を横に振る粧裕。しかし、「待てないよ」とばかりに更に侵入を深めて発展途上ではあるが  
すでに十分な大きさの膨らみへと到達すると下から持ち上げるように胸全体を緩やかに揉み始めた。  
「はっんっ…ほ、本当に…待って欲しっ…の!」  
入らない力を振り絞って両手で月の胸を押し返すようにしていることから、本気の拒絶だと悟った月は  
彼女を解放した。  
 
「いきなりで嫌だったのか?やっぱり…」  
押しても駄目なら引いてみる月。その態度に嫌われてしまったかと慌てて否定を入れる。  
「ちっ違うの!あたし、お兄ちゃんに会いたくて走ってきたから、その…汗くさくて…」  
意外な申し出に少し目を丸くする月。  
「なんだ、そんなことなら僕は全然気にしないよ」  
「ヤダ!あたしが気になるんだモン!」  
正直、この状態でお預けは男として辛いものがあったが、先程から月の視界には  
両手で顔を隠しながらも指の間からしっかりと覗き見して、「うほっ!」とか言っている死神が  
ちらついていたのだ。はっきりと言って普段の遊び相手なら兎も角、本命の今では邪魔者である。  
ここはきちんと集中して事を運ぶために、何とかしなければいけない。  
 
「…分かった。粧裕、シャワー浴びて来いよ…」  
「うん!」  
 
(続く)  
 
 

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