その後の竜崎は意外なほど紳士的だった。  
 
そもそも、想い合ってもいない女性を、いくら24時間離れられず側にくっついているとは言っても、  
そのような目でしか見られない男は最低だ、と月は以前それであった頃から思ってきたのだ。  
もちろん今でもそう思っているし、だからLが自分に対してあんな行動に出たときは、月は正直彼を軽蔑せざるを得なかった。  
キラが月であるというLの推理理論が崩れたときも、彼のやる気の削げ方は自分勝手に過ぎていると思ったし  
(実際自分はそれに対して激昂してしまったが)、  
自分を抱いたあの日だって、不安の真っ只中にいた月を気にかけることすらしなかったし、  
大体Lという名前で請け負う仕事も自分が気に入った事件しか受け入れないらしいし。  
なんというか、もしかしたら、自分の人並み外れた頭の回転の早さを利用して、  
Lは、己の欲望のままに生きているのではないのだろうか。  
 
Lの欲情イコール自分を抱くこと、と連想させた自分の思考回路に、月はぞっとした。  
 
思えば、今自分の裸を写しているこの鏡だって、初めて見たときはショックの余り一瞬月の意識を遠のかせたのだ。  
何事にも完全を望む自分が鍛え上げた、あのしっかりとした肩幅も、そこそこだったが厚みのあった胸襟も、  
引き締まった腹筋も、無駄な肉のなかった太腿も、全てが変わってしまっていた。  
そこにあったのは、背の縮んだ自分の、小さく頼りない肩であり、小ぶりながらも形良く膨らんだ乳房であり。  
細く白い首筋も、引き締まったウエストラインも、しなやかにすらりと伸びた両足も、  
全てが、以前の自分とは掛け離れた、別個体の゛女゛となってしまっていた。  
 
余りのことに目の前の景色をふらりと失いそうになったとき、Lが言った「綺麗になりました、夜神君」という一言が今も胸に残る。  
断じて良い意味ではない、とまた思い出してしまった月は頭を振った。  
 
自分の体に指を滑らせる。  
滑らかな肌触り。  
ああ、自分は紛れもなく変わってしまった。  
 
 
「すみません、月君、もう我慢できないのですが」  
 
しばし無言を続けていた月に、カーテンの向こうのLは熱にうなされるように問い掛けた。  
 
「だめだ、まだそこにいろ」  
 
「無理です。これ以上はもう…。体が熱くてたまりません」  
 
「……!だ、駄目だ!まだ駄目だ竜崎っ!」  
 
月の言葉をものともせず、Lはお互いを仕切っていたカーテンを勢いよく開き、そこから身を乗り出した。  
 
Lの早急な動きと共に、彼が今まで浸かっていた湯が、広いバスルームの中、バシャリと跳ねる。  
月は湯船と広場を遮るカーテンを戻し、Lを再び浴槽に沈めようとしたが、  
それは湯当りで熱くなったLの大きな手によって、あっさりと遮られた。  
 
「なんでお前はすぐに……。もう!  
まだ僕は体洗っている途中なんだよ!」  
 
「もうそこまで洗えば十分ですよ。私がのぼせてしまいます」  
 
そういうと、Lは壁にかかっていたシャワーを手に取り、泡だらけの月の体に向かって盛大に湯を放出した。  
白い蒸気が立ち上る中、泡に隠されていた月の肢体が露になっていく。  
月は慌てて前を隠しLを睨んだが、真っ赤に染まった顔が月の気恥ずかしさを露呈していた。  
 
「さあ、もう出ましょう。入浴はあまり好きじゃありません」  
 
Lはそう言って、何事もないように踵を返した。  
その無防備な、しかしそれでいてなんとなく情けない、猫背の白い背中を見上げ、  
月は、自分にがっつかないLに、やはり何か違和感を感じた。  
 
あのとき―――Lにほとんど無理矢理抱かれたあの日、と、あまりにも様子が違いすぎる。  
この体になってから、入浴だけは別々にしてくれ、という月の懇願が無下に却下されたとき、  
いくら普段けじめをつけていても、お互い裸ですぐ隣にいるこの状況下では、  
間にカーテンなんて薄布一枚取り入れたところで、いつか必ず襲われる、と、そう思っていたのだ。  
なのに、まるで興味がないという態度のまま、これで5度目のこの時間。  
なんなんだ、いったいなんなんだ、よく分からない、本当に、これは、この男は。  
 
困惑した月のそれも、もし今問答無用でLをこちらに向かせることが出来たのならば、  
ただの杞憂に過ぎなかった、と即、呆れと失望に変わったことだろう。  
Lは今、その前かがみになった背中に写実されるように、なんとも情けない顔をして、  
全力で股間からの欲求を押さえつけていたのだから。  
この時間、Lはいつも月に背中しか向けないのを、月はまだ気付いていないだろうか?  
いやそれには気付いたとしてもその正なる理由には?  
 
Lはきわめて自然に写るよう、まるで、  
『あなたの体には興味はありません、あったとしてもこのような場所でそのような行為に走るわけがありません』  
と端的に示すよう、きわめてドライな態度で体に付いた水分をふき取っていった。  
本当は今すぐにでもこの昂ぶりを発散したかったが、そんなことを隣の手錠で繋がれた少女に気付かれる訳にはいかない。  
今欲望の成すままに彼女を押し倒せば、せっかくの今までの苦労が、少しずつ回復してきただろう信頼が、瞬時に崩れ去ってしまう。  
自分は、自分勝手だとは思われても、そのようなことにすぐにがっつく獣のような男には、思われたくはない。  
あくまでも私のキャラクターは「理知の下に行動を行う人間」だ。とLは思っていた。  
 
しかし、そろそろ。  
頭の回転に支障をきたす前に……せめてベッドの上でなら、とLは思った。  
これだけ日を置いたのだし、もう今夜辺りは、限界だと言ってしまっても差し支えあるまい。  
実際もう限界だ。  
そんな目で見られるのは嫌がるくせに、本人の気付いていないところで、月は妙に無防備なのだ。  
(例えば胸元が広く開いたまま風呂から出たり、(しかもブラジャーさえ付けず!)  
例えば妙に色っぽい声を上げて寝返りを打ったり、と思い出してLはまた後ろの少女を恨めしく思った)  
しかも、それに加えて月は、何もしなくとも、その、なんというか、男を誘っているとしか思えないような体つきをしているのだ。  
その瑞々しく滑らかな白い肌然り、その細い上半身然り、その小さくふっくらとした紅い唇然り。  
そんな女性と、24時間繋がれている成人男子の身にもなってみて欲しい。  
どれだけ欲情を煽られても、セックスはおろか、まともに自慰も出来ない。これじゃ溜まる一方だ。  
もう、これ以上は、無理だ………。…せめて抜かないと。  
 
Lはその無感情な声色とは全く別に、今夜ようやく開放されるであろう欲望に身を焦がしつつ、  
それに至るまでの算段を、冷静に頭の中でシミュレートし始めていた。  
もちろん月はそんなLの考えなど全く気付いていない。  
今夜自分の身にかかる事も知らずに、あのときのことはただの過ちというやつだったのかな、と、振り返っていた。  
 
部屋に戻った月とLは、それぞれお互い眠る用意をし始めた。  
ベッドの上の、朝のまま乱れていたシーツを剥ぎ取り、新しい物にかけ直す。  
日付はとっくに変わっていて、また明日の早い朝の為に、もう後は就寝するのみである。  
全ての準備を終えた月は、眠る前に、と、ベッドに腰を下ろしながら、今日の捜査をまとめた書類を頭に入れていた。  
ふいにLが自分の前に立っていたことに気付く。  
なんの用だ、と月は警戒もせずに見上げた。  
 
「月君」  
 
「ん?」  
 
「そろそろしませんか」  
 
月はなんのことだ、と僅かに首をかしげた。  
 
「何を?」  
 
「セックスです」  
 
ストレートな言葉に、すっかり油断していた月の手から、書類はばさりと落下した。  
 
「な、な、何を…!」  
 
僅かに慌てた様子の月の両肩に、Lは説得するように手を乗せた。  
そしてそのまま月の顔に自分の顔をぐいっと寄せる。  
 
「もう我慢できないと言ったでしょう」  
 
「あれは風呂場で、もうのぼせるとかそういう…!」  
 
「そんなまた月君はとぼけますね…」  
 
本当は分かっていたんでしょう、とLは何かを示唆するようににっと笑う。  
本当のところ、そのときは10分近く風呂桶に詰められていたためにその意味の方が強かったのだが。  
後から利用できるものは利用してしまえばいいと、こっそりLは都合良く意味合いをすり替えた。  
 
「今まであれだけ我慢して来たんです。私の苦労、分かりますよね?」  
 
「………それは良かったな。断る」  
 
月の冷ややかな声が、部屋に静かに響いた。  
まあそれもLには予想の範囲内のことだったのだが。  
 
「分かりました。仕方がないので」  
 
やけにあっさり引き下がったな、と月が思う暇もなく、Lは、月の腕を掴み、自分の昂ぶる半身にその手を押し当てた。  
 
「月君がして下さい」  
 
「……は?」  
 
ふざけられるのも度を過ぎていて、呆れた月の喉からは間抜けな声しか出てこなかった。  
 
「最後まではしたくないのでしょう?でもこの高ぶりはどうしようもないんです」  
 
「一人で勝手に処理しろ」  
 
月は冷たく言い放つ。  
自分のそこに手が触れているのに、月にあまり動揺が見れなくて、その点は残念だな、とLは呑気に思った。  
 
「月君が繋がっていて隣にいるんだと考えざるを得ない状況で自慰をしろ、と?  
そんなこと………まぁそれはそれでそそるものもありますが」  
 
やばい。こいつは本気でやばい。  
Lのその変態じみた発言を聞き、月は自分の顔から本気で血の気が引くのを感じた。  
 
「私は月君にして欲しいのです」  
 
Lはそう言ってじっと月の瞳を覗き込んだ。  
 
平静を装っているものの、月は内心ぎくりとしていた。  
悔しいことに今この場のペースはLが完全に握られてしまっていた。  
自分がどれだけ冷えた応対をとっても、このままだと決してLは自分のペースを崩さない。  
これではそのうちこの雰囲気に流されかねない。  
 
それに、この流れはいつかを思い出す。  
またあのときのようになし崩しにされてしまう。  
なんとか、なんとか自分の方にペースを手繰り寄せなければ……。  
 
「わ、分かった、竜崎」  
 
そう言うと、月は自分の肩に手を置くLの両腕を掴み、立ち上がった。  
そのまま今自分の座っていた場所に入れ替わるようにLを座らせる。  
床の上から足を引き上げていつもの座り方に落ち着き、親指を咥えたLを、冷たく見遣る。  
 
「そんなにして欲しいのなら」  
 
月は目の前の男の唇に咥えられていた指先を退け、代わりに自分の細くしなやかな指をそこに寄せた。  
なんのつもりだと問い掛けるようなLの底の知れない黒い瞳を、軽やかに見返す。  
 
「この指を、…舐めろ。………犬みたいに、従順に」  
 
無意識の内に妖しさを潜めた笑みを携え、月は男を見下すように命令した。  
 
これなら懲りて諦めるだろうと、月は胸の内で勝利を確信していた。  
しかし、突き出していた指の先をぱくりとくわえられ、月はびくと驚いた。  
咄嗟に手を引こうとしたが、素早く手首を竜崎に掴まえられる。  
 
「月君が舐めろって言ったんですよ…?」  
 
そう言われては指を引くことも何かを返すことも出来ない。  
指先が強張ったのを気取られるのも悔しくて、そうだな、といった表情で、月はその眼を睨みながらも、なるべく自然に見えるように、力の入った指を開放した。  
力が抜かれだらりとした月の手を手首から掲げ、竜崎は先から丁寧に舐め上げていく。  
 
Lが月の指先を口に含み、ちゅくちゅくと甘い音をたてて吸い付く。  
その様子に、内心ぞくりと粟立つものがあったが、そんな様子をおくびにもださず、月は冷たい目でLを見下し続けた。  
 
敏感な指の内側を、触れるか触れないかのぎりぎりで、Lの舌が突き出され移動していく。  
指の股に、愛撫するように、舌が這わせられる。  
倒錯的な目の前の景色と、繰り返し襲う、緩やかで耐え難い感覚に、  
見下ろしながら、月は何故か羞恥心を煽られた。  
まるで、指先から犯されていくようだ。  
上位に立っているのは自分のはずなのに、何故その僕が我慢するように耐えなければならない…?  
 
「んっ……!」  
 
Lがふっくらとした指の腹を下の歯で軽く噛んだ。  
月が窘める様にLに視線を向けると、Lはにやりと笑っていた。  
そのまま歯の先で何度もこする様に指から手の平へと愛撫を広げていく。  
 
「も、いい。止めろ…」  
 
これ以上は耐え切れない、と、声が漏れる前に月は指を離した。  
つ、とLの舌が名残惜しそうに離れる。  
いつの間にか月の息は荒くなっていた。  
 
そんな月を、Lがまるで乞うような目でじろりと見上げる。  
月はその目線から目を逸らし、無言で膝をついて、Lの折曲がった膝の間に割って入った。  
 
「や、約束は、約束だから…!」  
 
「……分かっています。では…」  
 
そう言って、Lは自分のジーンズのボタンを外し、ジッパーを下げて前を寛げた。  
そして下着から半身を取り出し、月に直に握らせた。  
 
正直同性だったときにさんざんそのモノ自体は見慣れていたので、  
そこに恥ずかしいとかそういう気持ちは全く沸かなかったが、  
他人のものを触っているということと、それに対して今から自分がすることを思って、  
月はあからさまにげんなりとした。  
 
勝手に早くイってしまえ、と、いかにも面倒臭そうに指で上下に扱く。  
月のやる気のなさはLの目にも明らかだったけれど、  
月が今自分のモノを扱いている、という事実だけで、Lの半身はすぐに質量を増していった。  
 
こんな適当で本当に感じてるのか、と月が見上げると、すぐにLと目が合った。  
いつものように真っ黒い瞳でこちらを凝視していたが、その奥に少しだけ快感の色が見えた。  
 
こいつ、と月は思った。  
普段感情というものをほとんど外に出さないLが、今は僅かだったが明らかに違った。  
しかもそれは自分の行為から引き出されたものだ。  
 
少し愉快になって、月は両手を使ってみた。  
Lは少し驚いたようだったけれど、そんなこと気にする月ではない。  
 
両指をそこに絡め合わせる。  
柔らかく掌で包みこみ、もう片方の手で袋を優しく揉む。  
その明らかに「感じさせよう」とする刺激に、Lは微かに目を細めて快感を滲ませた。  
その様子を見て、月はにやりと微笑った。  
こんな形ではあるが、この男を自分の手でいいように出来るのは面白い。  
初めは早く達するようにと作業的に事を進めていた月の心に、愉悦に似た気持ちが芽生えてきた。  
 
さらに乱れさせようと、自分が感じていたときのことを思い出してそのときのように愛撫する。  
Lのそれがかなり硬くなってそり立ったとき、Lは一度その手首を掴んで、月の動きを止めた。  
 
「ちょっと、…待ってください……」  
 
「ん、何?竜崎」  
 
「その、出来れば……、」  
 
「?」  
 
「口でも、して欲しいのですが…」  
 
そんなことは絶対にお断りだ、と否定しても良かったのだが。  
その必死なLの顔を見て、何故だか月は笑えてきた。  
 
「あ、嫌なら、いいんですが……」  
 
「……いいよ。してやるよ」  
 
そちらから言い出したくせに、月のあっさりとした承諾に、え、とLはいささか驚いたようだった。  
月はそんなLの様子も無視して、そこに顔を近づける。  
さすがにその流れのまま咥えるのは躊躇われて、月は舌を出してカリの部分をちろりと舐めてみた。  
 
「……月、君…」  
 
Lがびくりとしたのが感じられる。  
一度始めてみれば抵抗はすぐに消える。  
今度は口を大きく開け、根元かられろりと舐め上げた。  
 
指も使い、舌を這わせ、その行為は試すように、そして次第にエスカレートしていく。  
Lは軽くのけぞり、耐え切れないように月の頭を掴んだ。  
そのまま無理矢理咥えさせようとするわけでもなく、ただ月の柔らかい髪の中に指を入れる。  
 
月は、男そのものを根元から両手でしっかりと掴み、そこに口をつけたまま、Lを見上げた。  
再び、視線が交わる。  
そこに舌を這わせたままの月の鋭い上目遣いは、Lの興奮を凄い勢いで引き上げた。  
 
「そんな目で………見ないで下さい」  
 
「嘘をつけ。見てほしい癖に」  
 
指先で先端を押さえつけ、一度そこから口を離し、月は端から唾液の溢れた唇を舐めた。  
そして唇を歪ませる。  
男がどうすれば喜ぶかは分かっている。  
……更に歓ばせてやろう。  
 
月はいまや完全にそそり立ったそれの先端に、軽くちゅっと口付けた。  
 
そのまま深くまで咥え込んだ。  
 
さすがに全てを口中に収めるのは無理だったが、月はその小さめの口に、一生懸命それを頬張った。  
歯を立てないように気をつけて、舌を蠢かせる。  
吸い付くように、なぶるように。  
頭に置かれたLの指に、やりきれないように力が込められる。  
 
自分の股間に顔を埋めた月を、Lは見下ろした。  
必死に自分に快感を与えようとしている姿に、ますます煽られた。  
 
Lの乱れた呼吸音が、自分の動きに合わせて降ってくる。  
それも、もう限界か、というところで、月はきゅっと力を込めて、喉の奥まで吸い上げた。  
 
「く、……っ」  
 
絶頂を促すその感覚に、Lはとうとう欲望を吐き出した。  
びゅくびゅくと何度かに分かれて放出されるそれの勢いの良さに、月は全てを飲み込めずに口を離したが、  
口の中だけでは収まらず、最後は思い切り顔にかかってしまった。  
 
どろりとした白濁液を顔に受けて、頬を紅潮させ、息を乱したままLを見つめる月は、唇を歪ませ、笑っていた。  
その妖艶な笑みは、淫ら以外の何者でもなかった。  
 
幸い髪には飛んでいなかったので、事後処理は洗面台で顔を洗うだけで済んだ。  
部屋に戻って月がそのまま自分のベッドに潜り込むと、Lも同じベッドの中に入ってきた。  
 
「ちょ、なんでこっちに来るんだ…。あっち行けよ…!」  
 
「まさか月君があそこまでしてくれるとは思いませんでした…」  
 
そういってLは月の体を後ろから抱き寄せた。  
その言葉に、月の顔にぼっと火が灯る。  
 
どうしてまたやってしまったのか…。  
自分のペースに持っていこうとしたはずなのに、  
気付けばこれでは結局Lの手の上で踊らされてしまったのではないか…!  
冷たい水で頭が冷やされた今、思い出すさっき程までの自らの姿は滑稽にしか写らない。  
たった今まで感じていたあの感触とあの苦味を思い出して、  
自分が自らしてしまったことに、月はまた深く嫌悪した。  
 
「だいたい月君があんなことを言い出すとは………  
もともとそういう趣味がおありだったのですか?」  
 
「うるさい!もう黙れ……!」  
 
Lが、月に指を舐めさせられたことを言っているのだ、とすぐに分かり、  
それがまるで自分を笑っているように聞こえて、月は思わずむきになって言葉を跳ね返した。  
なんとか自分のペースに、と苦肉の策であんなことを言い出したのも、今思えばまるでピエロだ。  
それでも自分の言う通りに奉仕するLを見下ろしたとき、紛れもなく月はある種の高揚感を覚えていたのだが、  
もちろん月はそんなことを認める訳にはいかなかった。  
 
月の細い腰を服の上から抱き、Lは月の耳元に吐息を吹き掛ける。  
 
「お礼に月君もイかせてあげたいのですが…」  
 
そう言ってLが月の耳を甘噛みする。  
その感覚に月は背筋が震える思いをした。  
 
「はぅ………こ、ことわる……」  
 
つい条件反射のように断ってしまう。  
それは残念です、と、しかし満足したようにLは月の背中に顔を寄せた。  
前に回されたLの手にそっと掌を重ねる。  
密かに月に後悔の念が押し寄せたけれど、それは自分のプライドにかけて、絶対に表には出せない。  
 
 

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