暗闇の中、ミサは一人月を思う。  
月はミサの好きな人。大切な人。最愛の人。  
何日も同じ体勢での拘束に、既に手足の感覚はない。  
排泄の汚れは太ももを伝い、乾いてこびり付いている。  
視界が封じられたミサには、感触だけが世界との接点であったが、既にどこか麻痺した五感は喉の渇きも汚物の垂れ流しも認識しない。  
最初の頃感じていた痛みも疲労も不快感も今はない。  
ミサの中にはもう何も無い。空っぽの心で、ただ月のことだけを考える。  
月の冷たい美貌を。険しい表情を。優雅な仕草を。甘い口づけを。  
ミサは月の姿を反芻する。空っぽのミサの中に月が充満する。  
 
『ミサ。』  
 
ミサを呼ぶ月の低い声を思い出す。ミサは月に名前を呼ばれるのが好きだ。  
それはミサにだけ投げかけられた言葉だからだ。  
その時だけは、月がミサの事だけを考えている様に思えて心地よい。  
月の綺麗な瞳に自分が映ると嬉しい。月の綺麗な手が自分に触れると楽しい。  
もっとミサの名前を呼んでほしい。  
もっとミサに触れてほしい。  
もっとミサを見てほしい。  
もっとミサに笑いかけてもっとミサに触ってもっとミサを強く抱いてキスして舐めて噛んでいじって中に挿入れてほしい。  
優しくしなくていい。乱暴で構わない。ミサを求めてくれるなら。  
月が欲しい。月だけが欲しい。月以外いらない何もいらない。  
 
「・・・ィト・・・・。」  
 
しわがれた声が耳を打つ。ミサは自分が声を出して月の名を呼んだ事に、その時初めて気がついた。  
酷い声だった。もはや嚥下する唾液もない。喉はからからだ。  
 
『・・・それはキラの名前か?弥海砂。』  
ふいにどこからか声が響く。ミサの嫌いな声だ。  
声がミサの世界を壊す。頭が朦朧とし、脳裏に思い描く月の姿がぼやける。  
声がミサの中に入ってきて、月を打ち消す。いや、奪い取ろうとする。  
 
あんたなんか嫌い嫌い嫌い嫌い私の月を取らないで盗らないで捕らないで。  
 
声はミサを現実に戻す。ミサの中の月は完全に消えうせ、その声だけがミサの中に居座って存在を主張する。  
 
『・・・もう一度聞く。・・・今呼んだのはキラの名前か?』  
 
ミサは首をふった。声が何をいっているのかわからなかった。  
キラって何だろう。聞いたことはある気はするが、よく覚えていない。  
ミサはただ、最愛の人の名前を呼んだだけだ。  
 
その時、ガタンと大きな音がした。  
 
「ミサ・・・・。」  
 
その聞き覚えのある声音に、ミサは驚愕した。  
ミサが最も聞きたいと焦がれ、でも絶対に無理だと諦めていた声だった。  
 
 
非情に簡素な部屋だった。必要最低限の家具しかない。  
四方の壁には窓が一つもなく、天井の四隅をはじめとする至る所にビデオカメラが堂々と取り付けられている。  
月の話によると、盗聴器も取り付けられているらしい。  
部屋というより、ここもまた牢屋なのだろう。  
体の拘束こそ外されたものの、ミサは今もって自由の身ではないのだ。  
あの日、ミサが監禁されている部屋に月が救出にきてから、一週間がたつ。  
その辺の記憶は曖昧で、正直ミサはよく覚えていない。気がつくとこの殺風景な部屋のベッドに横たわっていて、隣で月がミサの手を握っていた。  
月の話によると、拷問による精神、肉体の衰弱が著しかったミサは、しばらく何処かで治療を受けた後、この部屋に移されたのだそうだ。  
意識がなかったのだから、覚えていないのも無理はない、と月は言った。  
 
「お前は間違えられたんだよ、ミサ。」  
「・・・誰に?」  
「世間を騒がせている偽キラに。」  
「・・・偽キラ?」  
「ああ、だからあんな異常な方法でミサを捕まえて、拷問まがいの尋問をしたのさ。いくら凶悪犯罪者でも、二十歳そこそこの女の子に普通はあそこまでしないよ。」  
「・・・どうして私、間違えられたの・・・?」  
「連中がここまでの措置に踏み切ったのは、ミサの部屋から、偽キラの証拠品が大量に見つかったからだそうだ。」  
「・・・どうして?私知らない・・・・。」  
「・・・たぶん、ミサは誰かに嵌められたんだよ。・・・それに。」  
 
月は一旦言葉を切ると、すぐそばにあるビデオカメラに一瞬視線を走らせた。  
 
「・・・・僕の恋人だから、疑われてししまったんだ。」  
「月の恋人だと、どうして疑われるの?」  
「・・・アイツは、僕をキラだと疑っているんだよ。」  
「アイツって?」  
「・・・捜査本部の連中。」  
 
微妙に答えをはぐらかされ、ミサは眉間にしわをよせた。  
アイツ、という呼び方は、特定の誰かを想定して言ったはずだ。  
 
「月はキラなの?」  
「・・・怖いか?」  
 
月が苦笑する。ミサは首を振った。  
キラはミサの両親を殺した犯罪者を裁いてくれた。  
その事に、ミサがどれだけ救われたかわからない。  
両親の仇を討ってくれただけでなく、犯人への憎しみと、世間や警察への絶望で一杯だったミサの心をキラは救ってくれたのだ。  
怖いわけがなかった。  
 
「ちっとも。そうだったら素敵だな、と思っただけよ。」  
「・・・益々疑われるような事を言うのはやめろよ・・。」  
「ごめん。・・・でも、結局私の疑いはまだ、晴れていないのね・・・。」  
「・・・ああ。」  
 
それは部屋を見渡せばわかる事だ。ミサはこの部屋から許可なく出る事を未だ許されていない。一日に数度、月が訪れて必要なものを買ってきてくれたり、病み上がりのミサの世話をしてくれたりする。それだけが外界との接点だった。  
 
「決定的な証拠がないから、犯人とは断定できないが、それでもミサの部屋から出てきた証拠品の数々も無視は出来ない。  
・・僕は誰かの罠だと思うのだけれど、それも立証できないしね。」  
「だから、この部屋で監視?」  
「まあ、ミサは偽キラじゃないんだから、そのうち解放されるよ。それまでの我慢だ。」  
「・・・うん。」  
 
その言葉に、ミサは大人しく頷いた。  
月は慰めてくれるが、実際ミサ自身は今の環境に特別不満はなかった。  
月が頻繁に自分に会いに来てくれる。そして世話をしてくれる。  
それだけで、ミサは満足だった。  
 
でも・・・。  
 
ミサは部屋の中のビデオカメラを見渡す。  
ビデオの向こうの存在が、それだけがミサにとっては耐え難いことだった。  
 
月はまだ学生であり、家族と一緒に住んでいる身である。だから、毎日やってきてミサの世話をするが、その時間は結局限られている。  
月が居ない時を見計らって、時おりビデオから不愉快な声がわけのわからぬ質問をミサにしてくる。  
監禁拘束された際にも聞いた、感情の感じられない、あの不愉快な声だ。  
恐らくあの声の主が、月のいう『アイツ』なのだろう、と思う。  
声はキラの事でも偽キラの事でもなく、月の事ばかり聞いてくる。  
ミサはその声の質問には一切答えない。聞こえない振りして無視を決め込む。  
本能でわかる。あの声の主は月の敵だ。だからミサの敵だ。  
あんな奴に、月の事など何一つ教えたくない。  
 
「・・・月・・・。」  
「ん?」  
 
ミサは月の両肩を掴むと、体を床の上に押し倒し、その上に乗っかった。  
そのまま口で月のシャツを引っ張る。  
見下ろすと、月は呆れたような表情でミサを見上げている。  
 
「・・・猫みたいだな・・・。」  
「今日は帰っちゃ嫌。」  
「・・無茶言うなよ。」  
「嫌。」  
 
ミサは口で月のシャツを器用にめくりあげ、月の腹部に両手を滑り込ませた。  
月の素肌はひんやりと心地よい。  
下腹部から胸板までなで上げようとすると、月の手がミサの細い手首を掴んだ。  
床に押し倒された体勢のまま、険しい表情で顎で室内のビデオカメラを示す。  
 
「止せ。これも全部・・・。」  
「わかっている。見られているんでしょ。でも、いいの。」  
「いいのって・・・。」  
「月に触りたい。ずっとずっとそう思っていたの。」  
「・・・・。」  
「解放されるまで待てない。今、月に触りたい。」  
 
真剣なミサの表情を、しばらく月は呆れたように見上げていたが、やがて小さく笑った。  
 
「そうだな。・・・・するか。」  
 
月はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、その場に蹲るミサの体を、優しく抱き上げた。  
抱き上げられたミサは月の首っ玉にかじりついたまま、体をぎゅうっと強引に押し付ける。  
月はベッドまで進むと、丁寧にその上にミサを横たえた。  
そのままミサの唇に自分の唇を重ねる。  
何度も角度を変えて月はミサの唇を貪り、ミサは月の背中に手を回してその愛撫をおとなしく受け入れた。  
口内に侵入してくる月の舌。唾液。息遣い。  
自分の中に月が入ってくる、その感覚にミサは恍惚とした。  
月の手でミサは服を脱がされる。  
囚人であるミサは簡素なワンピースしか身に着けていなかった。下着も白いシンプルなものしか身につけていない。  
自分の色気のない装いが少し残念だった。  
月は素早くミサを全裸にすると、自分も上着だけ脱ぎ捨てた。  
そして横たわるミサの首に、鎖骨に、胸に、次々に唇を落としていく。  
 
「あっ・・・。」  
 
乳首を口に含まれ、ミサは思わず声を漏らす。  
月の大きな手がミサの体をまさぐり、月の唇が自分の体に触れている。  
その事実にミサに異様な興奮を覚えた。  
もっと触って欲しい。全身に触れて欲しい。  
ミサは月のものだ。  
もっと触って欲しい。  
全身に触れて欲しい。  
その所有印を体中につけて欲しい。  
体中を月で満たして、そのまま月の物にして欲しい。  
もっと強く。  
もっと深く。  
もっともっともっと奥まで。  
 
月が優しい。  
目覚めてからずっと月は自分に優しく接してくれる。  
今もこうしてなるべくミサの負担にならないように、丁寧にミサを抱いている。  
その優しさがミサには嬉しくもあり、何故か不安でもあった。  
月は以前からこんなに優しかっただろうか?  
誤認逮捕による拷問のせいだろうか。ミサの記憶は所々抜けている。月が自分の恋人であることは覚えているし、彼と交わした言葉や口付けも記憶にあるのだが、どうやって恋人になったのか、どういった過程で口付けしたのか等は記憶にないのだ。  
そのせいだろうか、こんなにも不安なのは。  
以前の月はこんなに優しくなくて、もっとぞんざいにミサを扱っていたように思う。  
優しくないぶん、月の本心は非常にわかりやすかった。  
だからミサは月の本心を探ろうと思わなかった。探る必要はなかった。  
月はまだミサを愛していないと、その態度で語っていた。  
ミサはその事に納得していた。いつか彼が自分を愛してくれればいいと、そう願っていた。  
でも今の月は優しい。  
まるでミサを愛しているかのように、優しく労わってくれる。  
ミサの今の状況に、同情と責任を感じているのだろうか。  
 
月はミサの体にキスの雨を降らし、指と唇で全身を愛撫する。  
長い指がミサの恥毛をかきわけ、ゆっくりと秘所に進入していく。  
今までの愛撫で既にミサの秘所は濡れていた。  
湿ったそこを、月の指がゆっくりとかき回す。辺りにはクチュクチュと卑猥な音が響きわたった。  
そのむず痒さにミサは思わず腰をひねらせた。甘い感覚が体を走る。  
月の指を秘所で感じて思わず悩ましい吐息が漏れた。  
 
「あっ・・・・。」  
「・・・ここか・・・?」  
 
秘所を解す月の指が次第に増えていき、ミサの蕾もまた綻んでいく。  
ミサは自分の両足を月の腰に絡みつかせると、誘うように身をうねらせた。  
 
「・・はぁ・・・あっ・・・きて、月・・・・。」  
 
ゆっくりと月は腰を進めてミサの蕾に自身を挿入する。  
指とは比べ物にならない圧迫感に、ミサは声も出なかった。  
 
「・・・・っ。はぁ・・・あっ・・・・。」  
「・・・まだ少しキツイな・・・・。」  
 
月は苦しそうに呟くと、ミサの耳にそっと顔を近づけた。  
 
「ミサ、力を抜け。」  
 
そう囁き、優しく耳たぶをそっと噛み、そのまま舌でミサの耳の中を一舐めす。  
月の吐息と舌を耳で感じて、ミサは思わず全身を震わせた。  
瞬間、月の物がズブリと奥に収まった。  
 
「・・あっあっ・・・月・・・イイ・・・あっ・・・。」  
「・・・動くぞ・・・。」  
「あっ・・・はぁ・・・ああんあんあああん。」  
 
月のモノに貫かれる快感に、ミサはあられもない声をあげて身をのけぞらせた。  
 
「・・・ミサ・・・。」  
 
名前を呼ばれ、朦朧とした意識のまま見上げると、月は美しい顔を苦しそうに顰めてミサを見下ろしている。  
その悲しげな顔に、苦しげな声音に、ミサは異様な興奮を覚えた。  
ミサの心に素直に反応した秘所は、月のモノをぎゅっと締め付ける。  
月の本心はミサにはわからない。  
月の優しさをそのまま信じることはできない。  
それでも月の真摯な表情の中に、自分への誠実な何かが垣間見れたように思え、ミサは歓喜した。  
今、ミサの中に月がいるように、月の中にもミサがいるのだ。  
自分たちは絶対断ち切れない何かで繋がっている。  
それを壊すことは誰にもできない。例え『アイツ』でも。  
ミサは勝ち誇ったようにビデオカメラに向かって微笑を投げかけると、見せ付けるように、自ら腰をふって貪欲に月を貪った。  
 

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