番外編・レムの人間考察  
 
「レムはここで待っててね。」  
呼び鈴を押す前に、ミサは私に小声でそう言った。  
「それは出来ない。ここは夜神 月の家だからね。  
私が目を離している隙に、ミサを殺そうとするかもしれない。  
以前、釘を刺しておいたから大丈夫だとは思うが、念には念をいれないと。」  
「ライトはそんな事しないよ。それに、ライトになら殺されてもいいもん。」  
無邪気に笑うミサを横目に、私は骨だらけの胸に鈍い痛みを感じた。  
以前は何も痛みは無かったが、最近になってミサが夜神 月の名前を口にする度、  
私の胸は痛みを訴える様になった。  
これは夜神 月に対する嫉妬だろうか?  
いや、そんなはずはない。人間に嫉妬する程、私は呆けてもいない。  
では、この痛みは何のだろうか。  
ジェラスなら私の胸の痛みの原因が分かるのだろうが、生憎、奴は塵芥となって消えた。  
ジェラス……もしかしてお前もこの痛みをずっと感じていたのか?  
私の危惧も他所にミサは手の甲で汗を拭き、呼び鈴を押した。  
「あ……はーい!」  
玄関から出て来たのは夜神 月の妹、夜神 粧裕だ。  
ミサは粧裕との短いやり取りの後、家の中へと入って行った。  
私も後に続こうと思ったが、ミサに目で制され足を止めた。  
粧裕の話によると、まだ夜神 月は帰っていないらしい。妹だけなら安全だろう。  
私は持て余した時間を潰す為、散歩に出る事にした。  
と、言ってもあまりミサから離れる事は出来ない。精々100mと言った所だろうか。  
夜神宅から100m以内の所をうろついていると、私は目を引く建物を発見した。  
白塗りの高い壁に囲まれた真四角な古ぼけた建物。  
無数の窓はどれ一つとして開いていない。  
駐車場と思われるガレージへの入り口は、黄色い布の様なもので幕がしてあった。  
入り口近くの壁と屋上に『HOTEL TIFFANY'S』と書かれている。  
この古ぼけた建物がホテルなのか?まったくホテルには見えないが……。  
私は興味を引かれて中に入った。  
 
中は思ってた以上にこざっぱりとしていて、清潔だった。  
赤い絨毯が敷き詰められたホールも、ちゃんと掃除が行き届いているようだ。  
入り口正面にフロントがあり、その左壁に各部屋の説明が写真付きで掲載している。  
私は鍵の掛かっている棚に目を向け、105号室、302号室、305号室が宿泊中だという事を確認した。  
宿泊人が誰一人歩いていない通路を抜け、105号室の扉の前に辿り着いた。  
私は扉を抜け中に入った。  
そこはTVや冷蔵庫、バスルームなど普通のホテルとはなんら変わりがない部屋だった。  
ただ一つを除いて…。  
部屋の壁が全て鏡張りなのだ。  
部屋の真ん中には大きなベッドがあり、そこで全裸の男女が互いを貪り合っている。  
その姿が鏡に映り、まるで万華鏡のようだ。  
「どうだ、気持ちいいか?ん?ほら、言ってみろよ。」  
獣が交わる様な格好で覆いかぶさっている男が、腰を振りながら四つん這いになっている女に問うた。  
これが人間の性交なのか。獣と同じなんだな。所詮は人間か……。  
「いいっ!気持ちいいのぉ〜!!オ……オマ○コが……!!イ……イクッ!あぁぁぁぁあ!!」  
犬の遠吠えにも勝る声で女が鳴いた。  
その場に伏せ動かなくなった女の尻を持ち、なおも男は腰を動かし続けている。  
やがて一際速く動いたかと思うと、急に動きが止まった。  
どうやら果てたようだ。  
よし、では次に行くか。  
 
私は天井を2階分抜け、305号室の床から顔を覗かせた。  
ここは先ほどの部屋とは違い、鏡張りではなかった。  
その代わり、鎖や鞭などの拷問道具と思われる物が床に散らばっている。  
入り口正面の壁には貼り付け台が備え付けられており、  
そこには目隠しをされた裸体の女が張り付けられていた。  
万歳をするような格好で両手首を拘束され、足は80度に開かれている。  
その女の傍らに先が無数に分かれた鞭を持つ、これまた全裸の男が立っていた。  
私がその男の後ろに立つと、男は女に向かって鞭を振り始めた。  
鞭の先々が女の白い肌に食い込み、たちまち肌を朱に染める。  
もう何度も振り続けていたのだろう。女の肌は無数のミミズ腫れが出来ていた。  
「いやぁあああ!もう……もうやめて……。もう…叩かないで……。」  
女は涙で頬を濡らしながら哀願している。  
嫌がっているのだ。それもそのはず、拘束され鞭で打たれて喜ぶ訳がない。  
この男は何を考えているのだろうか?  
 
「何いってんだよ?嬉しいんだろ?ほら、こんなになってるじゃないか!」  
男はそう言うと指を女の性器に挿れた。  
そしてゆっくりと引き抜くと、指は何かに濡れて妖しく光を反射していた。  
「見ろよ!お前のマ○コ、グチョグチョじゃねぇか!気持ちいいんだろ!?入れて欲しいんだろ?」  
「そんなわけ……ない……。誰が貴方なんかと……。」  
女のその言葉を聞き、男はみるみる顔色が変わった。  
持っていた鞭を投げ捨ていきり立った男根を握ると、女の陰部に挿入した。  
「ああっ……んっ……嫌っ…抜い……てんっ!!」  
「畜生ッ!お高くとまりやがって!!何が清楚高田だ!  
一皮剥けばどこにでもいる、ただの淫乱な牝じゃねぇか!!  
締りのない下の口がダラダラ涎を垂らしているしよぉ!」  
「やめてッ……!そんな事言わないで!」  
女は羞恥心で顔を真っ赤にした。  
首を振りながら男の言葉を否定しているその姿は、清楚という言葉を微塵も感じられない。  
「女の否定は肯定なんだよな。じゃあ、もっと言って欲しいって事だな。」  
男はそう言うと、次々に聞くに耐えない言葉を発した。  
女の否定は肯定。  
それは私にとって、まったくの新説だった。  
そうか、人間の女は否定と肯定を逆に使っているのだな。  
男の動きが速くなった。そろそろこの男も果てるのだろうか?  
「清楚高田……イクぞ…中で……膣内でたっぷり射精してやるからな……。  
イクぞっ!うっ……ぁぁぁぁあ!!」  
「い……今井君!?膣内で射精さないでッ!!膣外でッ…………………あぁ……。」  
女は膣内で出すなと言ったが、男は膣内で出した。それは女の否定は肯定だからだ。  
なるほど。まったくその通りの結果となった。  
私は次の部屋へと移動した。  
 

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