自分よりも随分年上のくせに、自分の前ではまるで少年のように振舞うのだ。  
「じゃあ、行くねー」  
「ハーイ!!」  
そういって二人は出発した。  
 
◆◆◆◆  
 
「あっ」  
 
新宿を走っている途中、突然、粧裕が声をあげた。  
「ん?どした?」  
「電話だ。だれだろ・・・・あ、お父さんだ」  
粧裕はバイブ設定にしていた携帯を取り出す。  
「もしもし、お父さん?」  
『粧裕?松田と一緒か?』  
「うん、今車だよ」  
『そうか。あのな、着替えだが、持ってこなくてもいいぞ。』  
「はっ?なんで?もうちょっとで着くよ?」  
『ああ・・・すまん。まだ替えのシャツもあるし、今からちょっと出かけるんだ。』  
「えー、せっかく松田お兄ちゃんが迎えにきてくれたのに」  
『だから、松田にどこか連れて行ってもらいなさい。松田も暇だといっていたから』  
「あっほんと?やったー!じゃぁそうしてもらおっと!・・・うん、うん!わかった!はーい、じゃあね!」  
パチンと携帯を閉じると、嬉しそうに松田のほうに向き直る。  
「あのね、松田お兄ちゃ・・」  
「じゃ、どこに行きましょうか?粧裕お嬢様?」  
総一郎との会話を聞いていた松田はそう言ってニッコリと粧裕に微笑む。  
「あは、聞こえてたんだ?えーとね、そうだなぁ・・・湘南に行きたいなー!!!」  
「はっ!?湘南?」  
てっきりディズニーランドとか、遊園地とか言ってくるだろうと予想していた松田は思わず粧裕の顔を見る。  
「うん、夜の海がみたいな。」  
「そ、そうか・・・」  
意外にもませた回答に松田は自分のほうが随分子供っぽいこと考えてたな、と恥ずかしく思った。  
 
「ここからだど一時間半くらいだけど、大丈夫?」  
「うん!わーい海うみ〜♪」  
「てっきりさ、買い物とか遊園地とかって言うと思ったんだけど」  
苦笑しながら松田がウインカーを出し、新宿出入り口から首都高4号新宿線にのる。  
「うーん、ほとんどお兄ちゃんと行ったからなぁ・・・。」  
「そうなんだー。他の男の子とデートとかは?」  
「ないよぉ〜女友達以外ならお兄ちゃんとしか行ったことないなー」  
「・・・・・・。そっかー。」  
粧裕が他の男と遊んだりはしないことに安心しながらも、なんだか松田は複雑だった。  
(そんなに月くんがいいのかな)  
確かに、頭もいいし、ルックスも文句なし、スポーツだってできる、そんな兄は粧裕にとって自慢だろう。  
でも、何かひっかかる。  
(・・・・ま、いっか。)  
深く考えることは苦手だ。松田はアクセルを踏みスピードをあげた。  
 
◆◆◆◆◆◆◆  
 
ミサと、ある程度今後の計画について話を終えた月は、大きくため息をついた。  
「どうしたの?ライト〜。なんか心ここにあらずってカンジ。」  
「べつに・・・ちょっと考えごとさ。」  
「私たちの計画は完璧だし、そんなに心配しなくても」  
ねーっ?とミサがレムを見上げる。  
レムは黙ってライトを見つめている。  
『ククク・・・・』  
二人のやりとりを今まで静かに見ていたリュークが突然笑いだした。  
「どしたの?リューク」  
きょとんと、ミサが目を丸くする。  
『クク・・・ライトが心配してるのは、妹のことだろう・・・?』  
「・・・・・・・・。」  
何もいわず、ギロリと月はリュークを一瞥する。  
 
「まぁねーっ。お兄ちゃんだし、妹の心配をするのは当然だよ〜」  
ライトは優しいから、と言って月のほうをうっとりと見つめるミサ。  
 
突然、月の携帯が鳴る。  
 
「・・・・。父さんからだ。ミサ、だまっててくれ」  
「はーい!」  
 
『もしもし、月か。』  
「ああ・・。どうしたの、何かあったの?」  
『いや・・・今家にいるのか?一人か?』  
総一郎の問いかけに、チラリとミサのほうを見た。ミサは両手で息をとめるようなポーズをしている。  
(別に、息までとめることないんじゃない)  
そういわんばかりにレムがミサを呆れたようにみていた。  
「・・・・・ああ、一人でいるよ。母さんも出てるしね。粧裕、そっち行ったみたいだけど、会った?」  
『・・いや、着替えを頼んで持ってきてもらうよう言ってたんだがな、私が用で外にでることになったから、断ったんだ。』  
「それじゃあ、粧裕はもうすぐ帰ってくるの?」  
『そのことだが、せっかくなんで松田に粧裕をどこか遊びにつれていくよう頼んだんだ。』  
「なっ・・・・!そんな・・」  
『粧裕も母さんに勉強勉強と口うるさく言われて最近遊びに出てなかったろう、息抜きにと思ってな』  
「・・・・・そう・・。」  
『まぁ、相手は松田だしちゃんと面倒みてくれるだろう、心配ない。』  
(何言ってるんだよ・・あいつが粧裕に気があるの、ミエミエだったじゃないか・・何をしでかすか・・)  
 
『ライト、今日はそっちに帰れそうなんだ。久々に二人でメシでも・・』  
「えっ?父さん帰ってくるの?」  
月が思わず声を上ずらせる。  
『・・・なんだ、帰ったら悪いか?』  
「い、いや、そんなことは・・・。そうだね、久しぶりに父さんと二人で夕飯食べようか。ハハ・・」  
(おかしい、おかしいぞ。今日帰ってくるならどうして粧裕に着替えを頼んだりしたんだ?  
 しかも松田に迎えにこさせときながら、急に持ってこなくてもいいと言ったり・・。)  
『とにかく、今から帰る。うまい寿司屋を見つけたから、そこのを買って帰るよ』  
「ああ・・・うん。楽しみにしてるよ・・・じゃあ・・」  
 
電話をきると、月は顔をしかめた。  
「なになに、お父様帰ってきちゃう!?」  
「ああ・・・そうみたいだ・・すまないがミサとは会わせるわけにはいかないから、今日のところは・・」  
「うん、ミサも夜から撮影だしっ☆ん?ライト誰にかけるの?」  
月はまだ携帯をいじっている。  
「粧裕だよ。アイツと二人でどっか行ってるみたいだから・・」  
「え?お父様のとこに行ってるんじゃないんだ。ほんとにデートになったのね!  
 キャーっ☆車で二人きり・・やだ、なんかエッチ〜★あのお兄さん、ウブっぽいけどやるときゃヤりそうだs・・」  
「ミサ!!」  
勝手に妄想して騒ぎたてるミサを制止するように睨む。  
それにも構わずミサは妄想の世界へと入っているようで一人うっとりと宙を見上げていた。  
(そんなこと、許さないぞ・・・)  
そう思いながら粧裕へと電話をかけている。  
トゥルルル・・と呼び出し音はすでに10回以上は鳴っている。  
(何をしてるんだ、粧裕!早くでろよ・・)  
イライラと月は足をゆする。  
 
 
『もしもしぃ〜?お兄ちゃ・・』  
「さっ粧裕か!!!無事か!!!!!」  
『えっ?無事って?』  
「あ・・・・いや・・なんでもない。それより、粧裕、どこにいる?」  
『海にいるよー』  
「う、うみ?」  
『うん、さっきついたから車から眺めてるの〜夕日がきれいでさー。人も全然いないし・・』  
「キャー!夕暮れの海〜しかも車でふたりっきり〜」  
いつの間にか月のそばで聞き耳をたてていたミサが発狂しだす。  
「うるさいぞっミサ!!」  
こうなると、ミサはとまらない。  
「やだやだやだ、ミサの粧裕ちゃんがお兄さんに食われちゃう〜っ★」  
 
『ミッミサさん!?食われるって???』  
ミサの甲高い声は粧裕にも松田にもはっきり聞こえる。  
ミサが何を興奮してるのかわけのわからない粧裕はポカンとしていた。松田は口を開けて真っ赤になっていた。  
「粧裕ちゃんを取られちゃうのはくやしいけど・・でもでも車の中でエッチってのもミサ、アリだと思うから〜っ」  
『はぁっ!?』  
『ゲフッ』  
「何を言ってるんだよミサ!!バカ!!!」  
月は思わず拳をあげそうになる。  
粧裕もミサの言葉に思わず真っ赤になった。隣の松田は、食べていたものをつまらせたようでむせている。  
 
「さ、さゆ、とにかくだ。父さんは今日帰ってこられるみたいだから早く帰って来いよ?」  
『えっお父さん帰ってくるんだ!?じゃあ、もう少し海で遊んでから帰るから』  
「いや・・もう帰ってこい。松田さんにも迷惑だろう。せっかくの休みを・・・」  
『いやいや、僕は、大丈夫ですよー久々に楽しくすごさせてもらってます』  
むせていたせいか息をきらしながらも、松田が能天気に横から口を出す。  
(っ!!!このアホ!!!マジでいっぺん死んでこい・・・)  
腹の底から沸いてでるような殺意を月は必死に抑えようとしていた。  
『とにかく、帰るのは夜になるからーっ』  
「お、おい粧裕?海って一体どこの海・・」  
月があわてて問い詰めようとすると、ピーッピーッっという音が耳に響いた。  
『ぎゃっ!充電がヤバイみたい!!!あたしはねー今・・』  
「なっ何だって?きこえな・・・」  
 
ツーツーツー・・・  
 
「くそっ!!!!」  
電話を放り投げ、ドカッと腰をおろす。  
(・・・どこだ?どこにいるんだ・・さっき着いたって言ってた・・。出かけてから二時間くらいか?  
 海・・・・。どこの海だよ・・・クソッ!粧裕に手を出したら絶対殺してやる!!!!!)  
月は頭を抱え込み、机に伏した。  
 
「充電きれちゃった・・・・。」  
あーあ、と携帯を見つめる粧裕。  
「あ、僕の携帯でかけなおす?」  
「んー、いいよ、たいした用事もないみたいだし・・」  
そういって粧裕は携帯をカバンにしまう。  
(・・・ずっと二人っきりだったんだよね、お兄ちゃんとミサさん・・。)  
ミサの来るときはたいてい幸子か粧裕がいる。二人っきりというのは初めてだったはずだ。  
(なにもないわけ、ないよね・・・・)  
はぁっと吐いた大きなため息には、もはやあきらめの色さえうかがえる。  
 
ピピピピ、と今度は松田の携帯が鳴った。  
「・・・・あ、相沢さんからだ。」  
そう呟いて松田は通話ボタンを押す。  
「ハイ、松田です。・・・はい、あ、一緒ですよ」  
そういってチラと粧裕のほうを見る。  
「あー、ちょっと待ってください・・」  
急に真面目な顔つきになり、ドアをあけて外にでる。  
(・・・・なんだろ・・仕事のことかな・・?)  
粧裕の前ではいつもニコニコと笑顔だったので、外で相沢と話している松田の姿が妙に大人っぽく見えた。  
(やっぱ、刑事さんなんだなぁ・・)  
今更のように、そう実感した。なんとなく、今の松田は、事件の話をしているときの月と被ってしまって、魅力的に感じる。  
月も粧裕と二人のときと、人前での顔が違うのだ。  
キラ事件のことを追うようになってからは、外で見せる顔つきは別人のように凛々しい。  
「あ、ごめんね、粧裕ちゃん。」  
電話を終えたのか、松田が車に戻ってくる。  
「何かあったの?」  
「ううん、大丈夫だよ」  
そういいながらも、松田は座席にすわるなり、じっと前に見える海を眺めた。  
何か考えているのか、その姿はさっきまでの松田とは違っていて、粧裕はドキリとした。  
(そういえば、ミサさんたら変なこと言ってたなぁ・・・)  
ミサの言っていたことを思い出し、ボッっと赤くなる。  
(よーく考えれば、雰囲気アリアリだしね・・・。夕暮れの海に、車で二人・・・しかもしかも周りには誰もいないし・・)  
 
海に着いても、松田とバカな話ばかりしていたせいか、ミサに言われるまでまったく気にしていなかった。  
改めて言われると、急に意識してしまう。粧裕はドキドキする自分の胸をおさえる。  
(やだ・・何ドキドキしてんだろ・・相手は松田お兄ちゃんなのに)  
そう思って松田を見ると、まだ何かを考えているのか、遠くを見つめていた。  
その横顔を、粧裕はすいこまれるように見つめる。  
 
「・・・・・どした?」  
「あっ・・」  
急にこっちをむかれて、粧裕と松田の目が合う。  
「いや、な、なんでもないの・・。何考えてるのかなーって・・・」  
あわてて目をそらし、赤くなりながら粧裕が答える。  
「あっっ、ゴメン」  
松田は今気づいたというふうにハッとすると、いつものようにくしゃっと笑った。  
「ねぇ、考えてたの、・・・・キラ事件のこと?」  
「ん・・・」  
粧裕の問いに曖昧に答えると、また、海を見つめた。  
しばらくして、ゆっくりと松田が口を開く。  
「また、犯罪者が殺されたんだ・・最近では犯罪者だけじゃない、僕の同僚だって・・」  
そう言って松田はくやしそうに唇を噛む。潤んだ松田の黒い瞳が、夕日に照らされてきらきら光った。  
「松田お兄ちゃん・・・・・」  
「・・・・僕は粧裕ちゃんを守るから。」  
「え・・・・」  
松田はそういうと粧裕を見つめた。  
月より低い声で、そう告げる松田に粧裕は初めて「男」を感じた。  
「早く、キラをつかまえないとね。粧裕ちゃんが安心して暮らせるように・・・僕の、命にかえても。」  
やわらかく微笑むと、松田は粧裕の頭をなでた。  
それが、すごく切なくて。  
「だめだよ・・・」  
「え?」  
「松田お兄ちゃんが死んだら、意味ないよ」  
「あ・・・」  
ポロポロと涙をながす粧裕を見て、松田は申し訳なさそうに笑った。  
 
「死ぬなんて、絶対、許さないから・・・」  
粧裕はそう言うと、ひっくひっくとしゃくりあげだす。  
「あ・・・ご、ゴメン!!大丈夫だよ、絶対、死なないから!!」  
「・・・・ホント?約束だよ?」  
「ホントホント。・・・だって、僕をお婿さんにしてくれるんでしょ?」  
だから絶対死にたくないなぁと、いたずらっぽく笑いながら言うと、松田は粧裕の涙を優しく拭った。  
なんだかひどく安心して、粧裕はさっき以上に涙をこぼす。  
ずっと、不安だった。父や、松田や、月が、いつかキラに殺されるんじゃないかって。  
自分を残して死なれるくらいなら、いっそ自分が殺されたほうがいい。  
「誰も死なないから。ね?泣かないで。」  
そういうと、松田は、粧裕を優しく抱き寄せ、頭をなでる。  
死なないなんて保障はないのに、なぜか安心できた。  
ふわっと、甘い香りがする。  
(この匂い・・・お兄ちゃんの。)  
胸が、キュンとして痛い。  
ミサも今頃、この匂いにつつまれているだろうか。  
兄の匂いは、今はもうミサの香水の匂いと混じってしまっていて。  
この、甘い香りが懐かしかった。  
もっと感じていたくて、松田の背に腕を回しぎゅうっと抱きしめる。  
抱きしめた体は、兄よりももっと広かった。  
トクントクンと響く鼓動に耳を澄ます。  
松田も、粧裕の華奢な体をすっぽり包むように抱きしめた。  
力をいれると折れてしまいそうな気がして、松田は壊れ物のように優しく抱く。  
粧裕の髪から、ふわりとせっけんのような香りがこぼれた。  
少しだけ、抱きしめる腕に力が入る。  
(このまま、ずっとこうしていたい。)  
時が、とまってくれたらいいのに。そう松田は願った。  
 
「あのね」  
耳元で、松田の低い声がして、粧裕はどきっとした。  
 
「・・・僕、粧裕ちゃんが好きだよ。」  
 
 

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