「ここ、すごく最高でしょ?下調べそれなりに苦労したもん」  
 
「少しでも動いたら、大声出して誰か呼んであげる」  
まるで楽しい内緒話をするように笑う少女を、Lはぼんやり見た。  
「『この人私を無理矢理こんなとこに連れ込んでイタズラしようとしたんですぅ』って、泣き真似しようかな?  
 きっと信じてくれるよね」  
流河さんって、見るからにあやしいし。  
そう呟いて笑いかける笑顔がひどくこの場に不似合いで、Lは目を伏せて息を吐いた。  
「心外ですね。ここに私を引っ張り込んだのはあなただ」  
 
サークル棟の一室。舞う埃が、暗幕の隙間から差し込む光に照らされ煌めいている。  
カビくさい空き部屋に入ってくる学生はそうそう居ないだろうが、すぐ隣にはサークルの部室が並んでいてドアの向こうには学生の気配があった。  
迂闊だったか。Lは目を細める。  
 
「兄の事で相談がある」  
そう言ってきたのは夜神月の妹である夜神粧裕だった。  
それが例え5%といえども月をキラとして疑っているLは、その話を聞いて情報を得たかった。  
なにか新たな手掛かりが掴めるかもしれない。あの妹が気づいた事。  
Lは粧裕が月に対して、普通でない愛情を持っているのを知っていた。  
モニター越しに見た、異常な兄への執着心。ただの妹としての立場を越えた行動の数々。  
あまり月の肉親に接近するのはよくない。  
考えながらも、情報という名のエサに釣られて粧裕の誘いに乗ってしまった自分はまだまだ未熟だと思った。  
 
「あんまり人が多いところはちょっと」  
そういう粧裕に連れられて、この部屋に来た。  
ドアを閉めるた瞬間、粧裕はセーラー服のスカーフをスルリと解いて、胸元をはだけ笑った。  
「ね、楽しいことしようよ、流河さん」  
 
「お兄さんの事で相談があるんじゃないですか」  
静かに問いかける。手にした赤いスカーフをLの両手に綺麗に巻き付けながら粧裕は答えた。  
「あのね、流河さんがこのまま大人しく私の言うとおりにしてくれれば解決するの」  
「お兄さんの悩みと私、一体どういう関係があるんですか」  
Lの問いかけを無視して独り言のように言う。  
「色白だね」  
 
背に回された両腕が自由を奪われていく。キュ、と布がきつく縛られて、粧裕は「出来た」と声をあげた。  
目の前にある長机に座って、椅子に座るLを眺める。  
「ふふ、良い眺め」  
「……あなたは何を望んでいるんですか」  
こんな事をされながらLの声のトーンは全く変わらない。その事が気に障ったのか一瞬粧裕は眉をしかめた。  
しかし、すぐに元の表情に戻って冷たい目で見下ろす。  
(こういう所は兄にそっくりだ)  
そう思ったが口には出さない。  
 
お互い目を逸らさずに沈黙を守っていたが、粧裕が突然面白くて堪らないというように笑い出した。  
そして履いていたローファーを一足ずつ床に脱ぎ捨てると、すらりとした足を差し出し、言った。  
「ねえ、脱がせて?」  
 
「私の両手は、この通りあなたに縛られて動かせないのですが」  
いささか困惑した声を出す。粧裕はその声に満足したようだった。  
「手が動かなくても、その口が動くじゃない」  
 
ほら、はやく。それとも、私大声だしたほうがいい?流河さんが決めていいよ。どっちにする?  
 
Lは恨めしげに粧裕を見上げるとしばらく黙っていたが、あきらめたのか舌打ちして足元に膝をついた。  
紺色のソックスを唇で挟んで、少しずつ踝まで下ろす。  
白いふくらはぎがLの唇でなぞられて、粧裕はひゅっと息を飲んだ。  
つま先の部分を歯で噛んで、顔を横に引いて靴下を全て脱がせた。  
裸足になった右足でLの頬を正面に向ける。Lは薄い下唇を噛んだ。  
「…左も」  
さっきと同じようにして、今度は左足を裸にする。  
「満足ですか。こんな遊びは…」  
「舐めて」  
露わになった足の指で唇をなぞって、言葉を封じた。  
Lの目に怒気がやどり、ますます粧裕を煽った。  
 
「…舐めて?」  
頑なに閉じているその唇に親指を押し当てる。するとLは顔を背け言った。  
「何故私がこんなことをしなければならないんですか」  
憮然とした声を聞いて、笑い出したくなるのを抑える。  
この男に屈辱を与えているという事実に、少なからず粧裕は興奮した。  
ツ、とLの顎を爪先で持ち上げて、その真っ黒な瞳をのぞき込むように見る。  
「流河さんが悪いんだよ?」  
お兄ちゃん盗るような真似するから。  
「……あなたの言っている事が理解できない」  
「だからー、流河さんは私の言うこと聞いてればいいの」  
そうすれば自分が間違ってた事に気づくよ、きっと。  
「話になりませんね」  
Lは困ったように声を吐き出す。そして、粧裕の顔を見据えていった。  
「そんな子供のような事ばかりしていると、今にお兄さんに呆れられますよ」  
 
パシ。  
 
足の甲で頬を叩かれてLはバランスを崩し倒れる。長い髪がバサリと顔にかかって表情を隠した。  
 
「流河さんに何がわかるっていうの」  
「そんなに私の言葉が気に障りましたか」  
「あたしは子供じゃない」  
 
如実に表れた怒りに、ふとLは思う。  
これは上手くいけば逆に手玉に取ることができるのではないか。子供だと挑発すればおそらくは。  
「子供ですよ。そうやってムキになるところなんて特に」  
そう冷たい声を出せば、Lの思惑通り粧裕は言い返した。  
 
「子供じゃないって教えてあげる。後悔しても知らないから」  
 
「…面白いかもしれませんね。試してみましょうか?」  
肘をついて起きあがる。Lの口元が弧を描き、粧裕の爪先に軽くキスを落とした。  
 
卑猥に湿った音が粧裕を聴覚から犯していく。Lは薄くオレンジ色に装飾された爪を舌でなぞった。  
親指を口に含んで甘く噛む。ザラリとした舌先が粧裕を刺激して背が震えた。  
「……んっ」  
思わず出してしまいそうになった声をすんでの所で止めて、口に腕をやる。そうすれば、足指を口に含んだままのLが見上げてにんまりと笑った。  
しまったと平静を装う。こんなことで感じていてはだめだ。  
粧裕の様子をジッと見つめしばらくすると、Lは目を伏せて再び舐める事に専念しはじめた。  
指一本一本、その股の部分まで丁寧に舐めあげる。時折軽く噛んでは吸い上げる行為を繰り返した。  
 
ぴちゃ、という水音に混じって、どこからか電子音が流れ出す。  
聞いたことのあるメロディーのそれに、粧裕は脇に置いてあったバッグをたぐり寄せて携帯電話を取り出した。  
画面を確認してLをちらりと見ると、通話ボタンを押して携帯を耳にあてる。  
「…もしもし?何?…うん、…うん。まだ家じゃないよ」  
受話器の向こうから、少女特有の高い声が微かに聞こえてくる。  
粧裕はLに足を舐めさせたまま話を続けた。自由な方の足を組んで居住まいを直す。  
息が上がらないように粧裕は唇を指で押さえた。  
 
「ほんと?それ受けるんだけど…。…っあ。ん、なんでもない。…明日詳しく聞かせてよ」  
話をしながら、Lは粧裕を刺激し続ける。視線を落として訴えても、ニヤリと笑むだけで行為をやめようとはしない。  
それでもなんとか粧裕は友人との会話を続けた。  
『ところでさー、粧裕今何してんの?』  
「……え、私?」  
一瞬言い淀んだが、思いついたように薄く笑ってLを見下ろす。  
「なんかね、犬がいたから遊んであげてるとこ。…そう、結構可愛いの」  
瞬間Lの動きが止まる。親指の先を歯で噛んだまま、ジロリと粧裕を見た。  
「…電話してたら機嫌悪くなっちゃったみたい。もう切るね。うん、ばいばーい」  
そう言うと粧裕は電源を落とした。  
得意げな顔で不機嫌そうなLを見遣る。  
 
「…犬ですか。言いますね」  
「んー。事実じゃない?」  
「それじゃ、犬らしくしますか?」  
言うなりLは踝に噛みついて、ついた歯形をベロリと舐めた。  
 
「は…っ」  
Lの舌が粧裕の足を侵していく。  
しばらくそのまま好きにさせておくと、唐突に唇が甲へ移動して、ちゅ、と口付けられた。  
「息があがっているようですけれど」  
そう言うLの口元が唾液で淫らに光っていて、粧裕は顔を赤らめる。  
「……そ、そんなことないもん」  
「そうですか」  
粧裕の焦った声が面白くて、さらに突っ込んだ質問をする。  
「あなた処女でしょう」  
すると、粧裕はLを睨み付けた。  
「何を根拠にそんな……やっ!」  
言い終わらないうちにLの舌がふくらはぎを舐って、つい粧裕は声を出してしまった。慌てて口を押さえるがもう遅い。  
「可愛い反応ですね。全く、処女がこんな風に男を挑発してはいけません」  
悔しさに血が上る。  
(処女処女って、うるさいのよ!あたしがどんな気持ちで、毎日毎日お兄ちゃんを想ってきたかも知らないくせに!)  
 
「おや、機嫌を損ねてしまいましたか?」  
わざとらしく首を傾げる目の前の男が無性に腹立たしい。粧裕はLの顔にもう片方の足をぐいぐいと押しつけた。  
怒りに力が籠る。痛かったのだろうか、Lは眉を寄せた。  
「やめてください。はしたない」  
するりと粧裕の攻撃をかわして粧裕の太股の間から頭を出す。両腿がLの肩に担がれた形になって、二人の顔が接近した。  
その行動の素早さに、粧裕は少し慌てる。  
「な、なに?」  
「あー、下着が見えてしまいました。まぁそれはどうでもいいんですが…」  
 
 
「そろそろあなたが子供じゃないっていう事を教えて頂きたいんですけど」  
 
 
ジジジ…とジッパーをゆっくりと下げる。手が震えないようにすることに粧裕は精一杯だった。  
 
大丈夫、雑誌で男の人はどこが感じるのか読んだことあるし。  
お兄ちゃんといつそんなことになってもいいように、どうすればいいかは練習したもん…バナナで。  
アレの写真だって…み、見たことあるし、エッチなビデオも友達の家で見たことあるし…。  
でも、私が今から舐めるの!?あれを?…だ、大丈夫。こいつは練習台よ。落ち着いてすれば大丈夫。それに最後までは…しないもん。  
 
頭の中で色々な想いが駆けめぐり、思わずジッパーを下ろす手が止まった。  
「焦らしてます?あまり焦らされるのは好きではないのですが」  
その言葉にLを睨み付けると、飄々とした声で言葉を続けた。  
「あ、無理しなくてもいいんですよ」  
 
その表情からはこの男がどんな感情を抱いているのかは読みとれない。しかしなんとなく馬鹿にされている気がして粧裕は一気にジッパーをおろした。  
ついでに下着も勢いづけて引きずり下ろす。  
「……」  
ごくりと唾液を飲み込んだまま粧裕は固まった。  
初めて見る男性のそれ。まだ勃っていないのが唯一の救いだったが、それでも、粧裕は凝視したまま瞬きも忘れていた。  
「どうかしました?」  
怖じ気づきましたか?  
その声に背を押されるかのように、粧裕は目をギュッと閉じて舌を這わせた。  
 
「…手を縛られているというのは割とやっかいですね」  
「ん……」  
「手が自由なら、あなたにもっとイタズラ出来るんですけど」  
「……」  
「っ、…ちょっと、歯を立てるのはやめて下さい」  
「だったら!…黙ってて」  
 
粧裕はLの性器から口を離して唇を舐めた。独特の苦みに眉をひそめる。  
下唇に手の甲を当てて、何かに耐えるように目を閉じ呼吸を整えた。  
そして再びLの性器に口づけを落とす。  
目を頑なに瞑って、舌を使って下から上へ舐めあげると、そこをピクリと震わせLが息を僅かに乱した。  
そのまま先端部分をくわえ込む。  
 
(お兄ちゃん……)  
粧裕は頭の中で必死に反芻する。これはお兄ちゃんだ、これはお兄ちゃんのなんだ。  
あたしが、おにいちゃんのを、くちであいしてあげてるの。  
そう考えると、今口の中にあるLのものすらも愛しく思えてきて粧裕はそれを吸い上げた。  
両手を添えて、頭を動かして愛撫する。時折舌先を窄めて裏筋の部分を刺激した。  
 
「、あ」  
小さく掠れた声が上から降ってくる。  
銜えたままで見上げると、彼はとっさに目を反らせた。青白かった頬が上気して、薄く赤に染まっている。  
無駄口を叩いていた先ほどに比べて、だいぶ余裕を失っているようだった。  
は、と息を吐いて眉間に皺を寄せている。  
 
粧裕はゾクリと背を震わせた。自分の欲望に、体が熱くなるのを抑えられない。  
粧裕の目が欲に濡れたのを見たのかLは慌てて腰を引こうとしたが、それを許さないとでも言うように粧裕の腕が胴に巻き付いてきた。  
Lの黒い髪がパサ、と音を立てる。  
 
粧裕はふと愛撫するのを止めた。  
顔を離して、濡れた唇を手で拭うとLをじっと見つめる。  
お互いいつの間にか息が上がっていて、静かな室内に、乱れた呼吸音だけが響いた。  
 
先に口を開いたのは粧裕だった。  
「初めての振りなんて簡単だよね…」  
粧裕は言うと立ち上がって下着をそろそろとおろした。脱ぎ捨てられた下着に、粧裕の愛液が染みを作っている。  
スカートのホックに手を掛けた所で、粧裕は何かに躊躇するように手を止めた。  
 
きっと初めての振りなんて簡単だよ。お兄ちゃんには天然でエッチが上手いって思わせたいもん。  
それに…あたし、もう我慢できない…。  
 
Lのそれに目をやる。粧裕の唾液に濡れ張りつめているそこを見ただけで、トロリと自分の奥が熱く溶けるのがわかった。  
 
「簡単ですよ。…初めての振りなんて」  
ポツリと呟かれた、熱を含んだその声に誘われるように、スカートのホックを外した。  
 
 

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