『んっ……ライ…トぉぉぉ……あっ、あんっ!』
女を抱いた後必ず感じる虚無感。
男である自分にとってただの『性欲処理』でしかない行為は、
女にとっては『愛情の確認』だという。
『身体もそうだけど、何か心がつながったってカンジ♪』
初めてユリとつうじあった後の彼女の言葉を思い出す。
身体と心のつながり、その両方を感じるから、
行為後の女はなによりも満たされた顔をするのか…
そんな表情を見ていると、何だか取り残されたような気分になる。
同時に生まれたのは羨む気持ち…
恍惚の内に眠りへと誘われ、隣で寝息をたてている彼女の
横顔を見ながらそんな事を考えた。
…のが一ヵ月程前の事。
今日の日付は2月28日。
誕生日の朝を迎えた月は、目を覚ますと同時に
胸の辺りに違和感を覚えた。
…重い。
『……っ!』
ボタンをはずしパジャマをはだけさせる。
そこにあったのは胸だった。
いつもの胸板ではない。
ふくよかな胸。
そして、下着の中は確認しなくてもわかる…無い。
先程ボタンをはずした指も、いつもより細くしなやかで、
まさに女のそれだった。
(何が…何がおこってるんだ……?)
ベッドで半身を起こした状態で呆然としている月に
黒い影が話掛ける。
『クククっ…ハッピーバースデー月、オレからのプレゼントだ。
気にいったか?』
月の周りを小踊りしながら、黒い影−リュークは言った。
『……お前の仕業か…リューク』
視線は自分の身体を見つめたまま、月はなんとか声を絞りだした。
『面白だろ?アドバンスのお礼も兼ねてるぞ』
『っっ今すぐもとに戻せ…!』
自分の声は普段より数段高い。
違和感はあるが今はこの死神の悪ふざけをやめさせるのが先だった。
『?なんでだ??女になってみたかったんだろ?』
『そんな事を言った覚えはない!』
『ちょっと前に思っただろ、女は心がつながるからいいなーとか』
『今すぐもとに戻せ…戻さないかぎり……林檎は無しだ』
悪怯れる様子のないリュークに月は切り札を出す。
『っっっオ、オレは林檎がないとダメなの知ってるだろっ!?!?』
途端にあわてた表情になり、リュークは月に詰め寄った。
『嫌ならもとに戻すんだ、リューク…!』
美しい瞳が死神を捕らえる。
形勢は逆転。
身体は女になっても天性の『見下し気質』は変わらなかった。
凍てつくような視線をうけながら、何とかリュークは
耳までさけた口をひらく。
『う…あ……戻せない…』
『…何?』
『戻せない。月の望みが叶うまで戻せない。
そういう決まりなんだ』
『…………』
…今、この死神は何といった?
戻れない?
望みがかなうまで?
…望み?
『女になってセックスしてみたいという
月の望みが叶うまでもとには戻せない…』
(何を言っているんだ…?)
月はしばらくの間、逆立ちやでんぐり返りを繰り返す死神を
ただ呆然と見つめていたが、
現状を理解していくにつれ目の前が
真っ白になっていくのを感じた。