「この娘、ジャパニーズだよな。なかなかカワイイじゃねーか」
「お嬢さん、オレ達といい遊びしよーか?」
ガラの悪い男たちに囲まれ、粧裕は恐怖で声も出せない状態だった。
こういう経験は全く無い粧裕にも、これから自分がされるであろう事くらいはわかる。
(嫌…嫌っ!)
粧裕は、自分の置かれている状況を否定するように首を振った。
(夢…これは悪い夢……!)
「ハハハ、怯えてんのか?」
「安心しろよ。オレ達紳士だからさ」
「何言ってんだオメー?」
男たちの声がアジトに鳴り響く。
「うるさいぞ。静かにしろ」
金髪の青年が、ギロリと男達を睨んだ。粧裕と同じくらいの年に見える。
「あ、メロ…す、すまねえな。」
「ホラ、さっさと行くぞっ!」
腕を引っ張られる。
「嫌…」
粧裕はすがるような目でメロと呼ばれた青年を見上げた。
「助けて…助けて…!」
「………」
メロは粧裕を一瞥したが、すぐにまたパソコンに向き直った。
そんな彼を見て、粧裕は絶望に苛まれた。
(私…犯されちゃうんだ…。初めてなのに…こんな人たちに…)
「嫌ぁぁぁっ!」
粧裕は泣き崩れた。
「チッ、このガキ!おとなしくしろ!」
「さっさと来い!」
「お兄ちゃん…お兄ちゃぁぁぁん!!」
「こ、このガキ…ぶっ殺されたくなければ大人しく…」
「うるさいと言ってるだろ。」
男たちは驚いて後ろを振り向いた。
メロは鋭い眼光で男達を睨んだ。
「お前たちもこのノートに書かれて消されたいか?」
「な、なんだよメロ…この女が…」
「消 さ れ た い の か ?」
「うっ…」
メロの三白眼に睨まれた男たちは石のように動かなくなった。
粧裕も、その目の光の恐ろしさに驚いていた。
「わ、わかったよ…」
男たちはバラバラと散っていった。
その場に取り残された粧裕は、一人呆然とその場に座り込んでいた。
(私…助かった…?)
一気に体の力が抜けた粧裕は、ヘナヘナと倒れこんだ。
ずっと粧裕を見つめ続けていたメロは、倒れこんだ粧裕をそっと起こした。
「ヤガミサユ、すまないな。怖かったか?」
「………」
メロに声をかけられても、粧裕は呆然として反応しない。
(まあ仕方ないか…。よほど怖かったんだな。)
メロは目の前の少女を見て、不思議な気持ちになっていた。
マフィアに入って以来、こういうか弱い存在を見たのは久しぶりだった。
最も、普通なのはこの少女の方で、異常なのは自分のほうなのだが。
それに、自分と同じくらいの年の少女に話しかけたのも久しぶりだ。
アジトに居る女なんて、ロッド・ロスの愛人達くらいだからだ。
そんなことを考えていると、マフィアの男が話しかけてきた。
「メロ、ちょっといいか。ミサイルのことなんだが――」
「ああ。今行く」
メロは立ち上がり、粧裕の手を取った。
「おい、いつまでそこに座ってる。こっちへ来い」
「…………」
「耳がついてないのか?早く立て」
「メロ、その娘腰が抜けてるみたいだぞ。」
「え……?」
メロは改めて粧裕を見た。確かに、腰に力が入っていないようだ。
それに、いつの間にか目を閉じている。どうやら気を失ったらしい。
「チッ…」
メロはめんどくさそうに舌打ちすると、粧裕を背中に乗せた。
「ちょっとこの女をどこかに寝かせてくる」
「……!」
「何驚いてんだ?」
「いや、お前でも人をおぶったりするんだな。
電話さえ人に持たせるほどのお前が。」
「…仕方ないだろ。こいつは大事な人質だからな」
「まあそうだが……。」
「じゃあ少し待っててくれ」
メロは粧裕の足を両腕で抱えると、ベッドのある部屋へと向かった。
「………ん……。」
目を覚ました粧裕は、部屋を見回した。
見なれた部屋でないことを不思議に思い一瞬目を見張ったが、すぐに自分が
誘拐されたこと、襲われそうになったことを思い出した。
ハッとして跳ね起きると、頭がズキズキと痛み、目眩がした。
「う……。」
「気がついたか?」
「!」
驚いて声のした方を見ると、見覚えのある金髪の青年が椅子に座ってこちらを見ていた。
彼は手に持っていた黒いノートを机に置くと粧裕に近づいた。
(この人…ずっと寝てる私を見てたの?)
おびえた目でメロを見る粧裕。
「気分はどうだ」
「………」
「まあ、大丈夫そうだな。これ食べるか?」
メロはポケットからチョコレートを取り出し、粧裕に差し出した。
しかし粧裕は首を振った。とてもそんなものを食べる気にはならない。
「なんだ、こんな美味しいものを食べないなんて変わった女だな。ハハッ」
メロは高笑いをし、チョコの包装を乱暴に剥がし始めた。
(この人って何者なんだろう……。)
粧裕は目の前の男を警戒した目で眺めた。
(さっきは私が襲われそうになっても無視してたから、酷い人なんだよね。
でも、だったら何でこんな風に…あれ?そういえば何で私助かったんだっけ…)
「おい」
「?」
「お前は大切な人質だからな、何かあっては困る。
だからここで一日中大人しくしていろ。いいな」
「………」
「返事は?」
「は、はい…………」
「じゃあ俺は行くからな。」
メロは粧裕の布団をかけ直すと、部屋を出て行った。