「あっ、お兄、ちゃーん、お帰、りー」  
 
句読点のおかしな粧裕に、不思議に思いながらリビングに入ってきた月の眉が更に顰められる。  
「…何やってんだ」  
「え?知らないのー?ロデオボーイ。お兄ちゃん遅れてる〜」  
その言い回しが遅れてないか、とは突っ込まず。  
「知ってるよ、ロデオボーイくらい。どうしたんだ、それ?」  
「お母さんが買ってきたんだよー。ダイエットしたいんだって」  
月が険しい顔をする。  
「そんな高い物買わなくたってジョギングでもしたらいいだろうに」  
「きっと恥ずかしいんだよ。それにロデオボーイはウエストがくびれて、お尻の形が良くなるんだよ?」  
「………」  
中学生に、くびれた腰と形のいい尻が必要なのか、と問おうとして、その問いが母に対しても当てはまる事に気付いて月は微妙な気分になった。  
「で、母さんは?」  
「さっきまでコレしてて今さっき買い物行ったよ。あ〜たーのし〜」  
ゆらゆらと揺れている粧裕を馬鹿らしそうに見つめていた月だったが、ロデオボーイ特有の動きに一瞬息が止まる。  
女性は知らないがあの器具に女が乗ると、男にやすやすと、ある想像を抱かせるのだ。  
中学生の妹のソレは正直、兄にはきついものがある。  
「おりろよ、馬鹿粧裕」  
「えっ!?な、何でバカなの〜?」  
「わからないから馬鹿って云ってるんだ」  
「う〜…」  
納得いかない粧裕であったが、兄の尋常でない不機嫌な顔に大人しくロデオボーイのスイッチを止めた。  
意味もわからず怒られ、しょんぼりした粧裕に流石にバツが悪い月。  
「成長期にそんなもので遊んでると腰椎にも悪いし内臓にも良くないぞ」  
「あ…そうなんだ!じゃ、もっと大人になってからやるね!」  
とって付けた月の方便を粧裕はいつも素直に信じる。可愛い妹である。  
「そうだな…大人になったら、な」  
月の呟きに粧裕は特別深い意味は感じない。  
「ただいまー」  
「あ、お帰りーお母さん」  
ぱたぱたと粧裕が玄関に駈けていく。  
月は溜め息をついてロデオボーイを見やる。  
先刻の粧裕の姿が浮かんで慌ててかき消したが、ついでに彼女の前にソレに興じていた人物の姿まで浮かんできて憂鬱な気分になった。  
 
「なぁ、明日アレやっていい?」  
何もない天井をギロリと睨んだ月を粧裕は不思議そうに見つめていたのであった。 終  
 

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