扉を閉めると同時に振り向いた彼女を引き寄せて唇を重ねる。すぐに熱い舌が忍び込み激しく口内をまさぐった。
情熱的に動く彼女に押されまいと、こちらも顔を傾けてその紅い唇を貪る。
リドナーがつけているシャープなコロンが香り、一瞬本国に残った白い子供の姿が頭をよぎったが、今は何も考えたくなかった。
硬質なスーツに隠された豊満な肉体を下からなで上げて上着を引きはがすと、彼女が私のネクタイに手をかける。
抜くとみるや、逆に一気に引き絞られ、私は苦しさに身体を離し非難するようにリドナーを見た。
妖しい微笑みを浮かべた彼女はその隙に慣れた調子でネクタイを外してしまい、その手際の良さに感心をしている私のシャツのボタンを一つ
二つ外すとすき間から差し入れた手で胸を撫で満足そうに言った。
「さすがアカデミー出身ね」
「もう3年も前だよ」
仲間内で、一番歳が若いと言う事を暗に揶揄された気がして、思わず、すぐに言い返してしまう。
気を取り直し再び唇を重ねようとすると、腕の中のしなやかな身体はするりと私から離れ薄闇へ溶け込むように部屋の奥に消えた。
追いかけた私の目前に、彼女のシルエットが浮かぶ。
「こっちよ」
光に引き寄せられる虫のようにその姿に近づくと、私達はもつれるようにベッドへ倒れ込んだ。
身体は鍛えられ引き締まっていたが、乳房はさすがに柔らかかった。掌に収まらない程の肉を掴んで
押しつぶすように揉みしだき、興奮に立ち上がった乳首の周りを指先なぞりながら首筋へ這わせていた舌を肩を伝って下ろしてゆく。
仰向いても形の崩れない白い山を下から軽く噛むようにして頂上を目指し最後に赤いそれを口に含んだ。
「ああ」
艶めいた吐息がリドナーから漏れ、私の興奮に拍車をかける。
豊満な腰から足を使って彼女のズボンを降ろしてしまうと現れた総レースの下着に手を這わせ肌に張り付くそれを撫で
バスト同様ボリュームのある尻を掴んで私自身へ押しつけるように強く抱え込んだ。
高ぶっているのは彼女も同じだった。
私の背を撫でていたリドナーの手がわき腹から腰のベルトへと降り、軽い金属音の後に勢いをつけて革が引き抜かれる。
勝手にチャックを降ろしズボンを下げたリドナーが長い足を絡めて淫らに腰をくねらせた。
目の前で揺れる赤い唇を確かめたく、顔を寄せる私の髪を滅茶苦茶にかき混ぜながら彼女が唇を吸ってくる。
その間も私の掌はまるで磁石に吸い付けられた鉄のように彼女の乳房から離れようとせず、
リドナーのキスを受けながら、手の中の肉を揺すり立てるように揉み上げた。
半端に引き下ろされたズボンを抜いてしまうと、すぐにリドナーの手が私に這わされねっとりとした手つきで形をなぞってゆく。
その仕草にすでに熱く充填していた私のペニスがより一層力を持って反るのを感じた。
「立派ね」
私は無言でリドナーに向かい口元を引き上げてみせる。
ひたりと手を添えてひとしきり触れた後、腰骨をくすぐった彼女の手は股上の浅いフィットボクサーをずり下げ
露出させた先端を指先でなで回し、漏れだした先走りを鈴口にそって塗り拡げる。
その刺激に私は思わず呻き、照れ隠しに言った。
「いたずらは止してくれるかな」
「可愛いわ」
微笑みを浮かべ余裕を見せるリドナーに、この女をなかせてやりたいと男の本能が訴えるが
同時に眼下のたわわな胸へ顔を埋めて甘えてみたいと言う気持ちも沸いてくる。
「脱がせてくれよ」
ねだる私に焦れったい仕草で下着を下ろすと、女性にしてはやや大きい掌が私自身を包み込み、
しっとりとした感触に握りこまれた。熱い息を漏らし、余裕のない私を見てリドナーが艶やかに笑う。
まるで大人の女にリードされている少年の様で情けないが、不思議と彼女にはそれを許してしまう雰囲気がある。
下から掴み扱き上げる様な彼女の手つきに、暫く禁欲が続いていたせいもあり早くも白旗を揚げる事になった。
「だめだリドナー、たまらない」
「いいわ、来て」
腰を浮かせて彼女は自らの下着を抜き去ると肉付きのいい腿をひらきその間に私を誘い込む。
整えられた金の茂みの奥、紅く裂けたそこに私は滾る自らを沈めていった。
まだ潤みの少ない膣の抵抗感が刺激となり背骨を上がってくる。
かき分けてゆく引きつるような痛みすらこの行為のスパイスとなって脳へ快感を伝え
張りのある腿を抱え上げると、私はすぐにピストンを開始した。
肌がうちあう音とベッドの軋みが室内に響きお互いの荒い息づかいが熱の篭もった部屋をさらに熱くしていく。
「ふっ…はぁ…あ、ンッ」
上擦ったリドナーの喘ぎが耳に心地よく私は調子に乗って身体を大きく前後させる。
乳房の大きさに対し小さな乳首が動きと共に上下に波打ち目を楽しませ、誘われるように顔を伏せて口に含むとそれを強く吸った。
「ん、うん…ジェバンニ…」
リドナーの手が胸に伏せる私の髪をかき回し、片足が胴に絡みついて腰が浮き上がりくねってゆく。
彼女に捕まった腰を変則的に動かすと、リドナーがひときわ大きく喘いだ。
「あぁ…いい…っ」
行為が進むに連れ彼女の内部が愛液で満たされてゆき、二人を繋ぐ場所が激しい抽挿に泡立ち私たちの股間を濡らす。
動かし易くなったそれの角度を変えて中を抉り、先端をこすりつけるよう動かすと性器から沸き上がる快感に私たちは声を上げた。
蠢く腰を押さえつけて更に打ち込むと、両足が私の腰に力強く巻き付きリドナーの身体が弓なりに反っていく。
「ッん…ん、…ぁ、あ…ッ!」
首が反り身体を震わせたリドナーの腰がせり上って私へと押しつけられ
女の肢体が蠱惑的な曲線を描いて捩られてゆくのを私は熱に浮かされたように見つめた。
「うおっ?!」
突如ぼうっとしていた私に力が加えられ身体が無様にシーツへと転がる。驚き声を上げる私の視界に至近距離で微笑むリドナーが映った。
胴に絡みついたまま彼女の足によって横に引き倒されたのだ。目の前の挑戦的なリドナーの視線を受け彼女の腰を掴むと、そのまま上に抱え上げた。
さすがに大柄な彼女は重かったが、下から仰ぎ見る女の体は圧巻だった。
乱れた髪をかき上げ整えながら妖艶な笑みを向けられて、女豹という言葉がぴったりな彼女に図らずも震えが走る。
全く下垂を見せない乳房に誘われるように手を伸ばし下から乱暴に揉みあげると
圧倒的な質感の肉が左右アンバランスに歪んで実に卑猥だった。
白い肉を絞るように掴み際だたせた乳頭を指先で玩ぶ私の上でリドナーの身体が上下し始める。
大きく開いた股間の、金の体毛のすき間から赤い肉が見え、腰の動きと共に吸い込まれてゆくいやらしい景観に目を奪われた。
「ああ、リドナー」
意図して行われる締め付けに私は堪えきれずに胸に触れていた手を下ろし、肉感的な腰を掴んで突き上げる。
彼女は左手を私の腹に添えて身体を支えると、自らの片手で大きな胸を掬い上げるように揉み始めた。
「はっ…あっ…んッ、すごい…ッ」
奔放に身悶えるリドナーは美しく淫らだった。
大きく腰をグラインドさせて私を責めてくる彼女にどちらが抱かれているのか判らなくなってくる。
「ジェバンニ…いい、あぁ…ッ…もっとよ!」
リドナーが更なる快楽を強請る。
体力には自信があったが私はそろそろ我慢の限界だった。腰を掴みなおし突き上げる速度を速めてゆくと
リドナーがしゃがみ込むような形になり、淫猥な動きを見せ喘ぐ。
「ああ、そこ…いいっ、いいわ…ジェバンニ…」
「リドナー…もう、出そうだ…ッ」
とたん、身体を伏せたリドナーが無茶苦茶に唇を吸ってくる。体重を掛けられ口をふさがれた私は酸欠により快感が高まっていく。
キスに応じながら抱えた腰を突き上げると彼女の身体が大きく震えだした。
「ああ…ッくるわ、くる、まって…ん、だめ…っあ…あ!」
「お…ぅ、くっ…ああ!」
同時に獣じみた声を上げると私は彼女の中へと鼓動とともに欲望を吐き出す。
リドナーは激しい呼吸のまま身体の上へと崩れ落ち、私は彼女の重みを心地よく受けながら、急激に冷めてくる意識に自分の
置かれた状況を反芻した。
抱き合っていた時間は一時間にも満たない。
私たちは不安で仕方がなかった。
見えない物と戦う恐怖に均衡が崩れそうになる精神を叱咤しここまでやってきた。
誇りとしていた国の後ろ盾もない、背を預けられる友も自由に動かせる兵もない。
敵の陣地へ丸裸で放り出されたような気分だった。
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スーツを着た瞬間、スイッチが切り替わる女のしたたかさに少しだけ尊敬の念を抱きつつ
私は、闇を映す高層ホテルの窓を鏡に見立てて服装を直した。
「無精しないで」
リドナーが笑いながらクローゼットを開ける。扉の裏に付いている姿見が現れ私はそれに片目を瞑ってみせた。
「OK、元通りだ」
もう一度リドナーが笑い私もつられるように笑みを返す。彼女がこんなに笑う女だったとは意外な発見だった。
一緒に働きだしてもう一年になるが、実を言うとこんな風に会話をした事は初めてだった。あれが居る本部内ではそんな気分にもなるまいが
責任のある立場に置かれた私たちには、多少行き過ぎとも思える節度も必要なルールと言える。
お互い引きずるつもりは微塵も無いが、もしかすると不安に押しつぶされそうだったのは私だけで、リドナーは胸を貸してくれたに過ぎな
かったのかもしれないと苦笑する。
凛とした表情のリドナーもいいが、ころころと笑う彼女も魅力的だ。
「連絡は」
「空港でレスター指揮官に。向こうからは、まだ」
今やたった3人になってしまったメンバーの、コードネームを呼び合う私たちは、お互いの本名を知らない。
任務の性質上それは当然であり、知る必要も無いと理解している。
私は、現在の上司がつけたこの偽名を気に入ってはいないが、それに不満を漏らすほど素人ではなかった。
机に機材を広げるとラップトップの電源を入れ、ホテルに常設されたLANに繋げてネットワークを開通する作業に入る。
居場所からその姿に至るまでがトップシークレットの少年に連絡を取るには少々手間のかかる作業が必要だった。
通信もこちらの映像は向こうへと配信されるが、あちらからはスクランブルのかかった音声のみとなっている。
私はアクセスをチェックをしてからあの子供からの連絡がこのまま無ければいい、などと考えた。
「日本にキラが居るのは間違いないわ」
「ニアはこのまま動かないつもりかしら」
リドナーが私たち3人がここの所抱いている懸念を口にした。
今、一番聞きたくなかった名前を出され、わずかに沈む気分を自覚する。
「どうかな。あのアームチェア・ディテクティブは椅子ではなく床へ根が張ってしまった様だからね」
「ニアはプロファイラーよ。頻繁に外へと赴く必要は無いわ」
「確かに子供に現場をちょろちょろと動かれるよりは、顎でこき使われた方がまだマシなのかもしれないな」
斜め横にデスクを構えたリドナーが困った顔をするのが見えた。
「そんな風に言わないで」
「何か問題でも?」
自分の不満を少しも隠さない私に仕方ない、と言った感じに笑うと、リドナーが言った。
「ニアが気になる?」
「気になるって?」
「質問を変えるわ。ニアが嫌い?」
何を思ってこんな事を聞いてくるのか理解に苦しんだが、私は社会人として至って真当と思える感想を述べた。
「好きも嫌いもない」
「そう?」
「別にボスだとも思っちゃいない。私はアメリカの為に動いているだけだ」
「ビューローにいた頃からそれは変わっていない」
畳みかける私にリドナーは一言だけ返す。
「若いのね」
「それだけが取り柄だから」
そんなことは全く思っていないが、私はわざと自嘲的に即答した。
「いいえ、大事な事よ」
「それはどうも」
全くを以て年上のものの言い方をする彼女に反論する気も潰えた私は、椅子を引き向き直って聞き返す。
「君は違うのか」
「ええ」
一呼吸の後にリドナーは言った。
「言うならば、私怨かしら」
なんでもないことの様な彼女にむしろ言葉が詰まり、思わずヘーゼルの瞳を凝視してしまった私に、リドナーが続ける。
「ニアが一番キラに近い。それが私の、ここにいる理由」
真っ直ぐな視線にリドナーの揺るぎない覚悟が見えるようだった。
私たちは彼女が依然メロと通じている事実も把握している。
しかしそれらは全てキラを倒すという信念の元に置いて行われているが故に黙認されていた。
見つめる私に、リドナーは聞いてくれるなと言う表情をする。
もとより、聞くつもりはなかった。もし私が彼女にその理由を尋ねるとしたら、それは事件が終わりお互いが元の名に戻った時なのだろう。
もっともそれは命があれば、の話だ。
あれが何を考えているのか判らないが、
FBIに入局する際に求められる、提出書類に書き出した資格や技能、テロ対策は専門外だった、突飛とも思える私の配属
金融犯罪課に所属していた経歴、事件につきまとう紙媒体の存在…
それら全てを鑑みるに何をさせようとしているのかは大方の予想を付けることが出来た。同時に、その日が来ない事を心から願っている。
私たちはあの子供が遊ぶ盤の上の持ち駒だ。所詮、補充の効く道具に過ぎない。
SPKのメンバーが目の前で殺された時も顔色一つ変わらなかった。
動揺したのは一瞬のことで、長官達の亡骸を処理する私たちの横で平然と転がったダイスを積み直している様は、
目の前の死体よりも恐ろしく背筋が凍る思いだった。
そんな人間性の低さに、理性では判っていても感情的に反感を覚えてしまう。
私たちには素性はおろか年齢すら知らされていない。
恐らくは13,4程度の、意志の疎通もままならないそんな子供をどうやって信頼し、命を預けろと言うのか。
思わず流れた沈黙に私はおどけて言葉を足した。
「私怨なら私にも生まれそうだ。今すぐにもね」
「ただし内側の方向かもしれないが」
そう言って人差し指をモニターに向け、銃を撃つような仕草をした。リドナーが笑う。
その笑みを見て私も笑顔を作った。彼女を困らせたくて愚痴を言っている訳ではない。多少反省して冗談を続ける。
「フロアが狭くなって、足下に寝ころんでいるものだから、この間、踏みそうになったよ」
「踏んだら三倍返しよ」
「違いない」
私たちは互いに顔を見合わせ笑う。
彼女も、もちろんこの私も今、この瞬間に命が突然失われても何らおかしくはない。
世界はそんな異常な状況に陥っていた。
たった一人の人間に地球上の全ての命が握られている、そんな世界は決して許されるものではない。
私たちの、いや、今や世界の命運を担っているのは、「ニアと呼ばれる正体の知れない子供」なのだ。
今は個人的感情などと 些細な事を言っている場合ではないという思いだけが私の支えである。
本国に一人残り、山と積まれた玩具の中心に座する小さな姿を思った。
辛辣な言葉を紡ぐ唇を引き結び 膝を抱え細い身体を丸めている様子は、自分以外の世界を拒絶する少女のようにもみえる。
まだ幼さの残るふっくらとした頬に緩く巻くプラチナブロンド、大きな瞳はどこまでも黒く、底の見えない穴のようだ。
その奥にニアが隠す炎を 私は、まだ知らない。
「ジェバンニ?」
リドナーの声で我に返った私は、意外なほど鮮明に浮かべることのできたその姿を振り払うべく前髪を掻き上げた。
動揺をごまかすように言葉を繋ぐ。
「まぁ、あの物の言い方は大概にして貰いたいね」
「少し大人に叱られた方が良いんじゃないか」
そう言ってから、自分ではそれを実行することが叶わない事実を認めてしまったようで、すぐに後悔する。
私の渋い表情を見てリドナーが笑みを浮かべるのが気に入らない。
「話をしてみたら案外気が合うかもしれないわ」
「そんな暇も必要もないよ」
言ってから、彼女の嗜好を思いだし、振り返ると我ながら嫌みったらしく付け加えた。
「ああ、君はずいぶんご執心みたいだけど」
すると含んだ笑みと同時に意味深な言葉が返ってくる。
「判ってないのね」
「何が?」
リドナーはいつの間に引き直したのか赤い唇を引き上げて曖昧に笑った。
私は少年のように椅子を斜めに倒して聞き返す。
「私が何を判っていないって?」
「危ないわよ、ジェバンニ」
彼女は姉のようにそうたしなめると、私の前でひらひらと手を振りその話を終わりにしたがった。
納得はいかなかったが、何時までもこうしていても仕方がないので、私も漸く、仕事に意識を戻す事にする。
しかしモニターへ向き直りいったんはキーボードへと両手を向けたが
どうしても堪えきれなくなり一言だけ足した。
「子供っぽいと思っているんだろう」
見えはしないが後ろでリドナーが笑うのが判った。
「意外と普通なので安心したわ」
「どういう意味かな」
私はもう応戦を放棄して背もたれへ身体を預ける。モニターにいくつか開かれたウインドウには迂回した衛星の回線が繋がったことを示す
リモートエコーが返ってきていた。
「気に入らない?」
「ああ気に入らないね、ハイヒールを履くと身長が同じになる君も」
リドナーは、じゃあ次はもっと高いヒールを履くわ、と笑った。