偶然同じエレベーターに乗り合わせるのは久しぶりだった。  
エレベーターの箱の中にいたハルを見て、ついジェバンニの頬に笑みが浮かんだが、  
ドアが閉まりきる迄リドナーはそっぽを向いたままだった。  
「リドナー?元気?」  
「元気よ」  
「……閉まったよ」  
胸に抱えた書類鞄を挟んでハルとジェバンニはごく軽いキスを交わした。  
 
 FBI捜査官である二人は顔見知りであったもののチームを組んだのは二代目Lのもとが初めてだった。  
その頃は忙しさに紛れて休憩中に理不尽な上司をネタにコーヒーをすするのがせいぜいだったが、  
FBIの方へ復帰してからもその習慣は続き、やっと関係がコーヒーからキスへ進展した所だ。  
ハルの降りる階はジェバンニの降りる上階よりも早く着く事は承知だった。  
彼は宿題はさっさと済ませる方だった。  
 
「今日晩来ない?」  
何度目かの誘いだったのでジェバンニは今日も軽く受け流されるものと予想していた。  
が、ハルは即答した。  
「いいわよ」  
鉄の壁から背を起こして彼女はジェバンニのびっくりした顔を真似て薄青い目を見開いた。  
「びっくりしてる?うちに来ても良いけど。徒歩圏内だし」  
「ああ……そうだね。細かいことは又メールに。いい?」  
「いいわ」  
ジェバンニがもう一度キスをしようと顔を近づけるとハルは金色の睫毛を伏せたが、  
彼の唇にハルの薔薇色に塗られた唇は接触することは出来なかった。  
キスに至る寸前、ハルは彼の唇に人差し指を当てて制すると、年下の青年を見上げた。  
彼の当惑は目の色に表れていたがハルは静かに言い放った。  
「ルージュは拭ってから出るのよ」  
 目の端に彼女の降りる階のランプが灯ったのが見えた。  
 
 やや旧式な音がしてエレベーターのドアが開いた。  
「じゃ、又」  
鞄を抱いたハルはやや視線を残したままスーツ姿も凛々しい後ろ姿を見せ、立ち去る。  
ハンカチで唇を拭う最中に流し目を食らったジェバンニは、ドアが閉まると火照る頬を掌でぴしゃんと叩いた。  
しかしごく軽いものだったはずのキスの感触は一日中消えてはくれなかった。  
 
タイム・リミットおわり  
 

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