学校では習わないこと。
何でも知っている兄にも教わらなかったこと。
息衝くものには必ず備わっている機能…本能…それが今の粧裕を突き動かしているもの。
お風呂上り、省エネを気取って窓を開けたままで火照る身体を解放していた。
風で戦ぐレースのカーテンが障壁となって外からは室内の様子は一切見えない。
ごく当たり前のことだが、それは粧裕の全てを解き放つ条件に都合が良かった。
暑いから、その理由だけで湯上りにバスタオルを巻いたままで自室へと戻ってきた。
母親は友人との長電話に夢中で背中を向けている。兄は自室から出て来る気配すら無く、粧裕は羞恥を
感じる前に自室へと戻れた。それが開放感に拍車を掛けていたのかもしれない。
ある程度の火照りが取れた頃、惚ける頭でバスタオルの戒めを解き出す。外側に巻かれたそれはやはり
きつく、力の入らない指にはもどかしさすら感じるくらいのものだった。
それが面倒になったのか、片足を上げてタオルを捲らせ、そのまま前を肌蹴させて。
自然の風に触れる感触は心地良く、ふぅと小さく息を吐いた。
まだ幼さを残す肢体は滑らかで、入浴剤の効果で肌が滑々しているように感じられた。その滑らかさを
自然に楽しみ、肌蹴た前を這っていき。
申し訳程度に膨らむ胸に手が着いたら大きさを確かめるように撫で出して。
力の戻った手は今度は容易に戒めを解き、ベッドに寝転ぶ姿態は煌々と照らす照明の下に曝け出された。
「せめて85は欲しいなぁ…」
ぽつりと呟いた言葉は未来への憧れを示すもの。
放っておけば成長するだろうが、夢を見るのは乙女ならば当然のことで。
さわさわと何となく撫でていた手が胸の頂点に座する小さな果実に触れた。瞬間ぴくりと肩が跳ねる。
人差し指の腹でくにくにと潰すように弄ってみればジーンとした痺れを感じて。その感覚が何なのか分から
ないまま続けていればピンと立つ桃色の突起。
片手で触っているだけでは足りなくなったのか、両手で片方ずつの突起を弄り出す。
落ち着きかけていた鼓動が再び加速をし始めたが、それを認識することは出来ずに。
弄っているのは両方の胸の筈なのに、粧裕は別の場所がむず痒くなっているのに気付く。それがどこなのか
分からず、探るようにして右手がそろそろと下りていく。
夕食後のデザートも平らげた腹を過ぎ、臍に着くがまだ遠い気がして。もっと下へと下りる手がなだらかな
丘を撫でる。すべらかな肌には初毛すら無く。
…と、割れ目に指が滑り込んだ途端、全身が跳ねた。何故そうなったのか、単なる興味が後押しをして
再び指は割れ目に沿って下りていく。
柔らかな谷間の奥が痺れているような感覚。そんな場所には触れたこと無いので、何がどうなって痺れて
いるのかは分からない。
ただ保健体育で習ったことが思い出される。触ってはいけない訳ではないが、秘密の場所には変わりなく。
禁忌感すら思わせることが少女としての興味を加速させ、人差し指と中指を使って左右に拡げてみた。
初めて空気に晒すような感覚。当然と言えば当然で、初めてという感覚は粧裕を昂揚させるには十分な
切欠でもあった。
最初は広げているだけで満足だと思った。なのにまた痺れを感じてしまう。身体が次の何かを求めている
ような。
どうすればいいのか分からなかったが、取り敢えず触れればどうしたいのかが答えとして出るだろうと
単純に考えて。
人差し指はそのままに、薬指を中指の代わりにして左右に広げる役目を渡し、自由になった中指で小さ
過ぎる花弁の奥へと割り込ませた。
「どこ、かな……ここ?うん、ここかも…ふっん」
中指の腹に小さな突起が触れる。触った瞬間ビリッとした電気のような感覚がそこから走り、刹那の恐怖を
感じた。
もうそこで止めても良かった。だが恐怖よりも好奇心が先行し、中指は容赦無く包皮を剥き幼い淫核を突付
きだす。
自分の身体なのだから容赦などしないのだろうが、粧裕の場合は未熟な故の暴挙だろう。
だがその行動は粧裕に強い感覚を与える結果となる。
指先に感じる突起が乳首のそれと似ていることから同じように弄り出せば、ビリビリとした感覚が続け様に
襲う。その感覚がどう意味なのか分からないが、指を止めることは出来なくて。
くにくにと弄っていれば鼓動は加速し、息遣いは段々と乱れてくる。それはとてもいけないことをしているような
思いに駆られる一歩だったが、動きはやはり止められず。
上下に擦り続けていたがつるんと弾かれ、その直ぐ下の部分に指が触れる。そうなってみて初めて自分が
濡れていることに気付いた。
性行為をする際に身体を防御する役目を担っている粘液が分泌される…授業で聞いたことがリフレイン
され、これがそうなのか、と思った。
ぬるぬるとする感触が嫌悪には感じず、遊ぶようにして塗り拡げてみれば淫核にまでそれは着き、新たな
感覚を粧裕に齎した。
乾いた指で弄っていた時はビリビリとした感覚。
濡れた指で触れれば痺れに近いそれに確実な快感が上乗せされる。
こうなってしまえば指はもう止められなくなっていた。
両足を左右に開き、右足のみ膝を立てて。左足は曲げたままでだらしなくベットに横たえる姿勢を取った。
解放された身体に同調するように粧裕の幼い性も花開いていく。
乱れる呼吸に小さな声が混じっているが、今の粧裕にそれを認識できるだけの余裕は無く、指の動きに
合わせて紡ぎ出されていくだけになってしまう。
擦り続けていれば摩擦で蜜は乾いてしまうが、粧裕は本能でその度に入り口へと指をやり、新たな愛液を
補充しては再び淫核の愛撫を続けていた。
段々と激しくなる指に合わせてくちゅくちゅとしたいやらしい水音が静かな室内に谺し、それが更に粧裕の
未熟な情欲を刺激する。
自ら奏でる淫猥な旋律に素直な快感の声を重ね、加速的に絶頂への階段を登っていく。
「あっあん…やぁ、どうし、よぅ…止まら、なぃ…お、兄…ちゃ。…んっう、あっ…ひゃうんっ」
頭が真っ白になり快感に従順に従っていると不意に兄を呼んでしまった。
いつも頼りになる大好きな兄…月。自慢でもある兄に家族に向けるものとは違う感情を抱いているのに最近
気付いたばかりで、それを自らに突き付けるようにして再び震える声で兄へと発して。
名前を呼べば自然と脳裏にその姿が浮かび出す。穏やかに微笑みかけてくる秀麗な兄は、粧裕の頭の中で
優しく名を囁いてくれた。
その瞬間、何か大きな波が粧裕を襲い、激しい衝撃という名の悦楽が全身を包み込んだ。ビクビクと跳ねる
身体は初めての絶頂を迎えた証。
「んっん、あっ…やああっ!お兄、ちゃ…あぁん」
快感の波に咆げた声は再び兄を呼ぶ言葉。もしかしたら隣室で受験勉強をしているだろう月に聞こえて
しまいそうなくらいで。
頭ではそれを分かっているのに、止めるだけの技量も余裕も粧裕は持ち合わせていない。
もし後で部屋に尋ねてきたら、虫が出たとでも誤魔化そう。
余韻で惚ける頭でそれだけをやっと浮かべると大きく息を吐いた。まだまだ整わない呼吸だが、自然の流れに
任せ霞む瞳を虚へと向けた。
春の芽吹きにゆっくりと溶け出す雪のように、なだらかな感覚で昂揚は落ち着いてきて。
意識して呼吸を整えようと深呼吸をすればくしゃみが口を突く。いくら7月になったとはいえ、全裸で夜風を
浴びていれば当然のこと。
未だ気怠さの名残を感じていたが風邪を引いては困るので、肘を支えにしてゆらりと半身を起こした。
一度そこで息をついてからベッドの上に胡坐を掻くようにして座り、天井を仰ぐ。
少し冷え始めた太腿を撫で、視線がそれを追いかける。先程まで散々弄っていた秘処に指を伸ばして。
果てた直後の淫核は驚くくらいに敏感になっていて、触れることすら恐怖を感じた。
そこを避けて入り口に触れた時、まるでおもらしでもしたのかと疑うくらいにぐしょぐしょに濡れていて。
指先に纏う滑りを意識すると急に羞恥と罪悪感が包み込む。
無意識にしていたとはいえ名前も知らない行為をし、世界が至純に染まるような果てる感覚に耽ってしまった。
いけないことなのかもしれない。きっとクラスでこんなことをしたのは自分だけだろう。誰にも言えない秘密を
持ったことが怖かったが、とても心地良かったのは事実。相反する感覚に戸惑いながらも、粧裕は一つの
確信を抱いていた。
心に灯る幼い恋心。それは先程した自慰よりも許されないものだと無意識に解っていたが、それこそ
止める気の無い感情だった。兄、月に向ける未熟な恋は伝えることなど出来ないかもしれない、それでも
大切に育みたいもので。
幼い心で決意した想いとは裏腹に、自信無さげな声が小さく呟いた。
「…いけないこと、しちゃった…」
呟かれた音が夜風に乗り部屋の出入り口へと吹き抜ける。
粧裕は気付いていなかったが扉は僅かだけ開いており、暗い廊下に光が投げ出されていた。
その先に、佇み一部始終を見ていた兄が居たなど、知る由も無いままで……
…終了…