東応大のティーラウンジ。
休憩時間に友人と雑談している京子の声が聞こえた。
「夏休みになったら免許を取りたい」
京子の友人が恋人とドライブに行ったことから話が広がったらしい。
きゃいきゃいとはしゃぐ女子二人の近くでケーキを貪っていた竜崎が言った。
「作りましょうか?」
いきなり話に入ってきたその声に二人は振り向く。
友人はきょとんとした顔で、何を作るの?と聞くが、京子は的確に理解して顔をゆがめた。
「免許は作るものじゃなくて取得するものよ、竜崎君」
生真面目な京子に竜崎は黙りこむ。
二人が話題を変えたので、免許の話はそこで終わった。かと思われた。
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「わ…、何これ!?」
数日後。
京子は、見せたいものがあると言う竜崎に連れてこられたビルの中のある階を見て、目を丸くしていた。
そこには坂道や駐車場、踏切からカーブまでもが、ビルのワンフロアに存在していた。
「教習所です。夏休みは学生で混みますしね」
「ありがとう竜崎君。…じゃなくて!一体何なのよこれは!?」
「そこらへんはあまり気にしないように」
竜崎は京子の手を引きながら、用意された高級車に歩み寄った。
「学科のほうは一人でできるでしょうけど、実技は教えたほうが良いと思いまして」
「竜崎君が教えてくれるの?あなた運転できるの?」
「免許なんかなくてもカンでどこをどうすればいいかわかります」
「いや、それじゃだめだから」
「嘘ですよ、運転できます」
竜崎は運転席側に京子を誘導すると、車のキーを渡した。
たしか教習所に習いに行かなくても、実技と学科の試験だけで免許は取れたはず。
いまいち不安だったが、京子は時間の短縮ができることを素直に喜ぶことにした。
竜崎がレクチャーを始める。
「ドアを開けるときは、人や周りの車に注意して、よく後方を確認して開けてください」
「はい」
言われたとおりに後方を確認してドアを開けると、竜崎も助手席側に移動して乗りこんだ。
「ミラーとシートの位置、背もたれの角度を調節してください」
京子は真剣な顔で指示に従った。
「ん、これでいいと思う」
「次に自分の体を拘束してください」
「は?…シートベルトを締めろってこと?」
「そうです。自分でベルトを締め、体の自由を奪ってください」
「……変なこと考えてないよね」
「失礼な。教えませんよ」
竜崎の言葉にムスっとしながらも京子はシートベルトを締めた。
助手席で膝を抱える竜崎はシートベルトなどする気配もなかったが、京子はつっこむのも面倒なので放っておく。
「右がもっとっ、左がもうだめっ、です」
「右がアクセル、左がブレーキね」
「最初はだめをしてください」
「…踏みました」
「穴に突き刺して回転させると反応します」
「キーを入れてエンジンをかける、と言って」
さっそく始まった竜崎のセクハラにため息をついた。
過剰に反応すると喜ぶだけ、という露出系痴漢に似た竜崎の思考に、京子は冷静に対処することにした。
キーを回すとぶるんっという音がして車のエンジンがかかる。
「自動で動きますので、だめをやめてください」
「オートマかぁ。せっかくだからミッションで取りたかったんだけど」
「棒をいじるあなたを見て、私が冷静でいられると思いますか?」
竜崎の言葉を無視してブレーキから足を離すと、車はクリープ現象で前に進みだした。
「まず慣すため、ゆっくりでいいので円を描くように動かしてください」
「ん、周回ね」
初めてなのに京子は器用に運転してみせた。うれしそうにぐるぐる周回する京子に竜崎は言う。
「さすが京子さん、お上手ですね。気持ちいいならもっと動かしてもいいんですよ」
「…別に気持ちよくないから」
「恥ずかしがらなくてもいいです、体は正直に動いてます」
「動いてるのは車!」
コースを外れるように指示を出す。上り坂の途中で車を止め、エンジンを切らせた。
「気持ちよさそうなところ止めてすみません。でもじらすと京子さんの性感はアップします」
「坂道発進ね。どうやるの?」
「…ノリが悪いですね。でも私はこのくらいじゃ負けません」
「坂道発進はどうやるのかって聞いてるんだけど」
「だめをしてまた回転させます。だめをやめると後ろに下がっていくと思います」
「あ、ほんとだ」
「私が後背位で腰を引くと、京子さんもねだるように後ろに下がってきます」
ねだらない!と反論しそうになって京子は言葉を飲みこむ。
冷静に冷静に。反応すれば、この人を喜ばせるだけ。
「で、どうすればいいの」
「もっとぉ!とか、やめないでぇ!とか言ってもらえれば」
「坂道発進の話なんだけど」
「同じことですよ、すぐもっとをしてください」
京子はブレーキを離してアクセルを踏む。
が、強く踏みすぎて車は勢いよく前に進み、驚いた京子は急ブレーキをかけた。
一気に坂のてっぺんまで登ってしまった車が急停止し、ガクンッと前のめる。
京子はドキドキと心臓を鳴らしながらハンドルに顔をうずめ、はぁっと息を吐いた。
シートベルトをしていなかった竜崎が手をついて体を支えているのを見て、あわてて謝る。
「ご、ごめんっ、竜崎君だいじょうぶ!?」
「京子のいやらしいもっとに私の理性が切れて勢いよく腰を進めると、京子の体は頂点に達し、大きく揺れた」
「何のナレーションだ!!」
「京子は腕に顔をうずめ、悩ましげな息を吐く」
「うるさい!いやらしくないし悩ましげでもない!変なこと言わないで!!」
「これでわかりましたね、もっとはほどほどに」
竜崎がしれっとした顔で注意してくる。
京子は怒りに震えながら深呼吸をした。冷静に冷静に…。
だけど、この人の言動に最後まで冷静でいられたことはない。
「下りは後背位で突き入れたときと同じです。京子さんはねだるくせに、私が腰を押しつけると逃げようとします」
無視!無視しろ、あたし!京子は唇を噛んでセクハラに耐える。
露出系と共に、無抵抗でいるとつけあがる接触系痴漢の性質をもあわせ持つ竜崎が、うきうきとセクハラを続ける。
「そういうときは腰をつかんで抑えつけます。素直じゃない京子さんはやめてぇ!と言います。ま、私はやめませんけど」
「やめてよっ!」
「ほら、素直じゃない」
「素直に嫌がってるのよ!都合のいいようにとらないで!」
思わず反応してしまい、京子は心の中で悔しがった。とにかく無視するしかない。
下りはブレーキを離すと下がるってことでしょ、で、やめてぇ!だからだめってことでブレーキを踏む…っと。
竜崎語を頭の中で変換しながら車を動かす。車はのろのろと下まで降りた。
「次は止める練習をしましょうか。ま、私を止められるとは思いませんけど」
「駐車ね。あそこ?」
さわやかに竜崎の言葉を流し、京子は車庫らしき場所へと向かう。
「本当は間に入るのもやったほうがいいんですが、私は好きではないです」
「縦列?したほうがいいでしょ」
「嫌です。京子さんは興味あるんですか?」
「やったほうがいいんじゃない?」
返事をすると竜崎は驚いたように京子を見た。
「私は京子さんと二人きりがいいです」
「…何の話……?」
「二人に挟まれたいなんて淫らですね。私のクローンでもいれば、前後から愛してあげられるんですが…」
「気持ち悪いこと言わないで」
「でもそうですね、京子さんが複数プレイに興味あるなら私、二人分がんばります!」
「まったくない!絶対やめて!」
京子はおそろしい計画を阻止しながら、車庫の前で車を止めた。
竜崎が車庫を指差しながら指示を出す。
「まず正常位で奥まで入れてみましょうか」
「前から駐車ね」
京子は竜崎の言葉をかわしながら車を動かす。
車の軌道をイメージしながら運転すると、一回で駐車を成功させた。
「入ったっ!」
「京子さんは本当に入れるの好きですねぇ」
「いいかげんにして。で?」
「一度全部抜きましょう。いえ、私は先端までしか抜きませんし、またすぐ入れるんで安心してください」
「黙れ」
京子はそろそろと車をバックさせた。
サイドミラーやバックミラーを見ながら、慎重に後退して車庫から車を出す。
「バックは怖いな…」
ハンドルさばきが逆になるし、後ろも見なくてはならない。
なにげなくつぶやいた京子の言葉に、竜崎はガタガタと震えだした。
「え…?どうしたの竜崎君」
「お、おそろしい…っ、かよわい子羊ちゃんアピールですか…?なんて技を覚えたんですか京子さん…!」
竜崎はどこぞの演劇漫画のように白目で、京子…おそろしい子…!とつぶやいている。
あなたの顔のほうがおそろしいよ、と京子は心の中でつっこむ。
「もうしわけありませんが、次はバックでお願いします。顔が見えないから怖いんですか?」
京子は無視してバックで駐車にとりかかった。
「怖いとか言われるとよけい興奮するんですけど。もう今夜はずっとバックですね」
「うるさいっ!絶対させないから!…あっ…危なかった……、お願いだからもう静かにしてよ…」
危うくハンドルを切り間違え、車庫にぶつけそうになる。
ふうっと息を吐き、運転を再開させようとすると竜崎が言った。
「イキそうになったんですか?」
「誰が!なんで!もう黙ってってば!!」
真っ赤になってうろたえる京子に竜崎は、早く入れてください、とそっけなく言った。
動揺を抑えつつバックでの駐車を再開する。京子は集中して運転をした。
車輪止めに当たった軽い衝撃を感じ、竜崎の指示を待つ。
「一度エンジンを切ってください」
「はい」
「次にシートを一番後ろまで下げて」
「ん、…下げた」
まっとうな会話による竜崎の指示に、疑うことなく従っていく。
「シートベルトを外し、頭の上で両手で持ってください」
「こう?何の練習?」
竜崎は助手席から身を乗り出し、京子の頭上のシートベルトに手を伸ばした。
「カーセックスです」
言うが早いか、竜崎はシートベルトで京子の両手を拘束し、素早く金具に止める。
とっさのことに反応できないでいる京子に、竜崎はシートを倒して覆いかぶさった。
「や…、ちょ、やめ…っ!」
「天井も低く、狭い車内での行為にはコツがいりますので、練習が必要です」
「そんな練習はいらない!」
拘束を外そうと暴れるが、シートベルトは強く引くとロックされる。
両足の上に竜崎がまたがっているので思うように抵抗できない。
そうこうしているうちに竜崎は手際よく京子の服をはだけさせ、練習の準備を進めていく。
「大丈夫です、バックはしません。…最初は」
「最初は!?最初はって何!?」
「最終的には結合したまま運転ができるようにがんばりましょう」
「無理だから!…あっ…やっ、やだっ!」
京子の必死の抵抗もむなしく、竜崎はここへきてやっとまともなレクチャーを始めた。
「まず、凹凸物に注意」
「あんっ」
「濡れだしたらスリップ注意」
「や…っ」
「カーブに注意」
「んっ…」
「穴があいてたら慎重に」
「だ、め…っ…」
のけぞった白い首筋に舌を這わせつつ、竜崎は穴をふさいでいく。
京子の体にぶるぶるとエンジンがかかり始めた。
「あぁ、京子さん、だめですよ。スピード違反しそうです、コレ」
「やぁ…っ」
「こんなに濡れてスピード上げてたら事故りますよ」
「ふ、ぅ…ぁ、あ…」
「接触したりこすったり追突されたり」
「くっ…、もっ…んぁっ、もう…っ」
「車の危険性を身をもって感じてください。まず正面衝突から」
「アァーーッ!!」
前から勢いよくぶつけられ、京子は激しい衝撃に悲鳴をあげた。
竜崎は教官のくせに荒々しい運転をしながら京子に囁く。
「この調子なら免許なんかすぐに取得できますよ」
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いろいろあり、晴れて自由の身になった京子は、竜崎の言ったとおりスムーズに免許を取得できた。
それが竜崎のレッスンの成果なのか、京子の頭脳の結果なのかは不明である。