やけに陰茎が滾る。  
感情にまで影響を及ぼしそうなほどしつこく続く、肉体の変化をニアは持てあましていた。  
特定の女性捜査員の顔を思い浮かべると、その落ち着かない状態が始まってしまう。  
 
「リドナー・・・なぜあなたは美しさを増して、私の元を再訪したのですか」  
 
サラサラの金髪が自分に触れる事を思うだけで、頬が熱くなる。  
タロットタワーで自分の周囲を固め、近寄る事を拒絶できたからよかったものの、  
傍に寄ってこられたら、とんでもない事になってしまったかもしれない。  
 
むぎゅ。  
無意識に股間を握りしめてから、ニアは慌ててその手を離した。意味もなく振った。  
Cキラ事件もなんとなく終わったようであるし、一捜査員の幻影などに惑わされている  
よりもタロットタワー制作に集中すべき――そう思った瞬間。  
 
『ニア、少しお時間いただけないですか?』  
 
本人キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!  
鼓膜を心地よく震わせる、艶のある声。ニアの優秀な頭脳はリドナーの  
あらゆる美麗ショットを脳内で再現する。  
もともと、美しい女だった。そのうえ、愛くるしさまで加わって再び現れた。  
 
「私も男のハシクレなのですが・・・彼女にそんな事を伝えるわけにはいかない」  
 
ニアは心臓と生殖器の鼓動を押し隠し、彼女を執務室に招いた。  
 
「今度はどんな事件を持ち込むのです?」  
「いえ、今日はプライベートで・・・」  
リドナーは一瞬言いよどんだ。  
「おいしいチョコレートを見つけたので、お持ちしたのです」  
 
日付は2/14。バレンタインデー?  
アメリカの習慣では男性が女性に花などを贈る日という事になっているが、  
女性から男性へのプレゼントもないというわけではない、らしい。  
しかしなぜリドナーが?  
好意?・・・少なくても、悪意はないであろう。  
しかし好意の質が問題だ。まあ、今後もしっかり推理してくれという挨拶であろう、と  
ニアは判断する。  
 
「そのへんに置いておいてください」  
「はい。ではこれで・・・」  
リドナーの声が微かに落胆したように感じてしまい、ニアはつい言葉を付け加える。  
「タロットタワーを崩さずにここまで来られるのなら、来てみてください」  
 
リドナーはソロソロと横歩き移動し、タロットタワーの中枢を目指してくる。  
そのメリハリのある身体の稜線を横から確認するはめになり、ニアのときめきは増す。  
 
「お疲れ様でした。まさか本当にタワーを倒さず来るとは。さすがです」  
「ご褒美でも、いただけるのかしら?」  
 
冷静な捜査員らしからぬ軽口に、ニアは耳を疑った。  
 
「ご褒美・・・?」  
 
ニアは床に座ったまま、リドナーを見上げている。  
しかし、その艶やかな唇が降りてきた瞬間、膝立ちになってそれを迎えた。  
 
これはご褒美を与えているのか、与えられているのか。  
その謎は世界最高峰の頭脳をもってしても、解けなかった。  
 
ヌチュッ、と濡れた音を伴い、ニアのペニスはリドナーの奥深くへと呑み込まれた。  
「・・・うっ」  
「すみません、なんか、いきなりな感じで・・・あっ、あぁっ!ニア・・・っ」  
 
唇が触れ合った瞬間、抱きしめあい、いつしかリドナーに跨られ、騎乗位が始まっていた。  
流れるような所作というべきか、アメリカ人ならではの合理的かつ豪快な段取りというべきか。  
いずれにせよ、ニアは敏感な部分を温かい粘膜で包み込まれ、すっかり身を委ねていた。  
 
――これは気持ちがいい。今この時、リドナーを相手に体験する事ができてよかった。  
ワイミーズハウスにいる時に知ってしまっていたら、推理に集中できないところだった――  
 
22年に及ぶ清い暮らしに別れを告げる。リドナーの張りつめた太腿に食い込むほど  
指を立て、いつしか自らも激しく腰を振る。  
 
「あぁっ、ニアっ、すごい・・・熱い・・・っ」  
 
このリズムと振り幅でいいのだろうか?  
最も効率的な所作を追求したかったが、もはやそんな余裕はない。  
 
「あの、リドナー、そろそろ終わりにしていいでしょうか」  
「一緒に、いって・・・んっ、い、今ですっ・・・っ!」  
 
ガクン、と崩れ落ち、覆い被さってきたリドナーを抱きしめ、ニアは最後の一撃を放った。  
 
 
 
「3年ぶりにあった貴方は凛々しく成長していて・・・それまではこんな形で意識した事、なかったのに」  
「リドナー、あなたも以前とはまた違った雰囲気の美しさを発揮しています」  
「・・・そうですか?」  
「以前は厳しさが前面に出た美人顔でしたが、今はかわいい感じです」  
「メイクの方法を変えたからかしら」  
メイク方法で済まされるレベルの変貌ではない、とニアは鋭い鑑識眼で判断するのだったが、  
小畑の絵柄の変化はリドナーの責任ではない。追求するのをやめた。  
 
「タワー、倒れてしまいましたね。すみません」  
「ああ、最後の方で私が下から突き上げた際、崩れました。あなたのせいではありません」  
 
床に山をなすタロットタワーの残骸。  
実際にはリドナーが跨って喘いだ瞬間に全て崩れ落ちたのだが、ニアも  
それを責めるほど幼稚ではない。  
 
「別のものを築く事ができたわけですから、タワー崩壊など大した犠牲ではないです」  
「別のもの・・・」  
 
2人の視線が絡んだ。  
リドナーが瞼を閉じる。ニアは産まれて初めて、自分からキスをした。  
推理がはまった時とはまた違った、しかし脳の芯が痺れるような快感と幸福感に浸った  
 
 
                                          ――終了――  
 
 

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