これはLを継いだ夜神月とNことニアがイケズ合戦を繰り広げていた頃の話である。
珍しく月はニアに世間話を仕掛けた。
「そうだN、キルシュ・ワイミーはどんな人物だったんだ?どんな物を発明してたんだっけ」
ニアはつまらなさそうに答えた。
「そーですね。普段はセバスちゃんって感じです。彼の最も有名な発明品は毛生え薬です」
ガタガタッ。
月は衝撃のあまり転び、頭がずれないように手で押さえていたため後ろに一回転していた。
「ライト!大丈夫?」
月にミサが駆け寄った。
ニアは薄笑いを浮かべてL文字の画面を見ていた。
「どうしたんですか。驚きましたか?凄い発明ですからね」
「大丈夫だ・・・驚いてなんか無い。・・・凄い発明だね。本当なのか?」
「ええ。本当です。Jという部下に試してみましたが、心労のわりにフサフサですし。ソーブ22どころじゃありませんね。私も使ってみました」
ニアはフワフワの髪の毛を指に巻き付け、月は生唾を飲み込んだ。
「効果があるんだ。すごい」
「ですが、私には不要な代物でした。フ サ フ サ で す か ら 」
(・・・嫌味な)
月は不快感も露わに顔を歪めた。
「それで光頭会の方は大丈夫なのか?」
「コウトウカイ?それは何ですか?」
「Lが・・・過激派が・・・毛生え薬を発明したと知れると危ないと・・・」
一瞬の沈黙の後、ニアは鼻でいかにもバカにしたように笑った。
「担がれましたね」
ニアの返事に夜神少年は心中ぎゃふんと言っていたが持ちこたえた。
「うぐ・・う・・・売れば大金を稼げるのではないか?資金は必要だろう」
「ぶぅー……ぎゅっぎゅーん……失礼、ビジネスには興味はありませんね。世間話はこれくらいにしましょう、私も忙しい」
「・・・ああ」
カチッと旧式の扇風機を思わせるスイッチを押すと月は通信を切った。
「あんな事を言って大丈夫ですか、ニア」
ニアは尋ねた捜査官に向かうと飛行機を掲げた。
「大丈夫です。あれを送ってあげて下さい。セカンドLが喜ぶはずです」
ジェバンニは不必要にフサフサの黒髪を翻すと、ゆうパックを抱えた。
レスターが不安そうにしているのを見てニアは言葉を継いだ。
「大丈夫です。彼がフサフサになることはかえって周囲の不信を招くはずです」
ニアのポケットにLからの暑中見舞い「夜神月のいぢめ方」が入っていた事は誰も知らなかった。
そして夜神月は真実のフサフサを手に入れた。
毎日が楽しくて仕方がない。
そんな彼の元へ海砂が訪れた。
「ライトー。はい郵便。ダイレクト・メールに成人式の案内。何これヒカリアタマ会だって!」
甲高い声で海砂が笑い出した。
「な・・・光頭会?」
奪うようにして見ると確かに光☆頭☆会とある。
海砂を追い払うと、急いで封を切った。
封筒の中には便箋が入っていた。
『キラに対する要求。
キラは人類の禿げ人口比率に対し高い頻度でフサフサの犯罪者を苛烈に葬ってきた。
しかし昨今、その比率が逆転した。
キラはフサフサに甘くなった!
これは憂うべき事態である!
世界を光り輝くものにすべく光頭会はキラに要求する。
フサフサ男には苛烈な処断を求めるミ☆
アンド。キラ様も光頭会に入りませんか。永久名誉会員としてお迎え致しますミャハ☆』
月は手紙を握りつぶした。
「ライトォー何て書いてあったの?」
「……ただのダイレクトメールだ」
夜神月は心中決心していた。
キラの処断の偏りを知り、キラの所在を知っている光頭会は危険すぎる。
(光頭会は葬る。僕になら・・・出来る)
光頭会は過激派だけが不審な死を遂げた。
新聞の紙面には「光頭会過激派キラによる処断か?」の文字が踊る。
それを見てニアが夜神月がキラとの確信を深めたかどうかは、定かでは無い。