手が届きそうで届かない彼女。  
そんなもどかしい思いで今日も仕事に勤しむ真面目な彼。  
思いの女性は向かいのデスクでパソコンと睨めっこしながら密かにデスクの下に隠した  
携帯でメールをしている。  
――誰とメールしているんだろう?まさか……  
大体予想はつく。  
普段は堂々としている彼女があんなにコソコソと人目を気にしているのは。  
あいつに違いない……  
しかし聞くに聞けない。  
予想している人物が的中してしまった時の自分の動揺を考える。  
やっぱり聞きづらい。  
あぁ、自分はなんてチキンな男なのだろう……もっと積極性があれば、とジェバンニは肩を落とし  
溜息をつきながら思った。  
 
彼は元FBI所属の優秀な捜査官だった。  
まだ若くてハンサムなそのルックスと紳士的な性格の彼を周りの女性が  
放っておくはずも無かった。  
ハイスクール時代はバスケットボールもやっていてスポーツに関しても万能だった。  
また趣味はボトルシップで手先も驚くほど器用だ。  
家柄も良い。頭も良い。おまけに容姿端麗。  
そんなジェバンニに周囲は羨望の眼差しを向け、また彼を尊敬した。  
しかし彼自身は飾らない性格でその事を周囲に誇示し傲慢な態度を  
見せる事などは全く無かった。  
能力の高さの割りにいたって平凡な好青年で同性の友人達からの人望も篤かった。  
 
だがそんなジェバンニにも悩みの種がある。  
「なんで僕は恋に対してこんなにも積極性がないんだろう」  
そう、ジェバンニは自他共に認めるチキン野郎の上、アメリカ人にしては珍しく  
恋に関してはかなりの奥手なのだ。  
普段は行動力もありそれなりに頼りになる男性ではある。  
しかし本気で人を好きになってしまうと、好きになってしまった女性の前では  
緊張して身体がつい強張ってしまう悪い癖が彼にはある。  
その為好きな女性に対しても中々積極的な行動を取れないでいた。  
彼は告白される事は多くても、自分から相手の女性にアプローチして恋愛に発展した  
ケースはほとんど無い。  
その上ジェバンニはかなりの硬派な上鈍感で一目惚れや同じ環境に居る女性を  
好きになる事事態あまり無い事であった。  
ジェバンニの恋人になった女性のほとんどは女性からのアプローチで成るもので、  
その女性の必死の努力で彼自身も徐々にその女性にひかれていく……と言うケースが多かった。  
 
そんな中意中の女性――ハル=リドナーと出会った。  
彼女は元CIAに所属していたと言う非常に優秀な女性捜査官であった。  
ブロンドの髪の毛に端整な顔立ち。  
おまけにモデル顔負けの抜群のスタイルも兼ね備えた誰もが羨む  
そのルックスを持ち合わせ、性格も社交的である。  
また困難な状況下でも柔軟な発想が出来る上、女性ならではの気配りや  
細かな配慮も出来る正に完璧な女性だ。  
 
しかし先日そのハルがSPKに対する裏切りのような行動を取っていた。  
SPKメンバー殺害の主犯とされていたメロと繋がりを持っていた上  
情報まで渡していたと言うのだ。  
この件はメロが直接SPK本部に彼女を人質に連れて来た事で判明した。  
結果的にニアの計画通りの遂行でハルはこの件について深くは追求されなかったが、  
ニアの信頼を著しく欠くものになってしまった。  
しかしジェバンニにとって何よりも許せないのは結果はどうであれ  
裏切った行為をしていたハルでは無くメロの方であった。  
仲間を殺し愛する彼女を銃で脅した上、彼女と一週間も同棲していたと言う事実を後に聞かされ、  
怒りと共にメロに対する深い羨望の念にジェバンニは駆られていた。  
その上ハルは未だにメロとの連絡を断ち切ってはおらず、こうして度々人目を気にしては  
メールや電話をする姿をジェバンニは見ていた。  
 
――あぁ……憎き相手に愛しい彼女を弄ばれても僕には何も出来ないなんて……  
ぼんやりと考え込み自分の不甲斐なさに項垂れていると、突然びゅっと顔面付近に  
水をかけられた。  
ジェバンニは突然の事に驚きはっとして顔を上げる。  
視線を下にずらすとそこには水鉄砲を持って怪訝そうな顔をしながら  
見上げてくるニアがいた。  
水鉄砲を持っている当たり、彼がジェバンニ目掛けて水鉄砲を発射したようである。  
「何サボってるんですか?」  
ニアは髪の毛を指で弄りながら淡々と冷徹に言った。  
「すみません、少し考え事をしてしまい……」  
ジェバンニは少しはにかんで答えた。  
 
そんな二人のやり取りを傍のデスクで見ていた女性――ハルは椅子から立ち上がり、  
濡れたままのジェバンニに近づくとそっと刺繍の入ったハンカチを差し出した。  
「はいこれ。風邪引くわよ」  
ハルは少し眉尻をさげながらやんわりとした口調で彼に話しかけた。  
憧れのハルが自分を気にかけてくれている……。  
「リ、リドナー……すまない、ありがとう」  
声が上擦り心臓が一気に跳ね上がる。  
ハルのその優しさが堪らなく嬉しくてジェバンニは濡れた顔を少し  
紅潮させ嬉しそうに笑みを浮かべた。  
 
彼女の付けている香水の香りがふわっとする。それだけで頭が  
くらくらしてしまいそうだった。  
――いい香りだ……柑橘系の匂いだろうか?  
強い香りの香水は鼻が?げそうになるのだが、このぐらいさり気なくて  
爽やかな香りの方が女性はよっぽど自然で魅力的に見えるものだ。  
さすがリドナーはその辺も良く分かっている……とジェバンニは  
濡れた顔を拭きながら一人感心して彼女を見た。  
すると彼女もジェバンニの方に視線を向けやれやれと言った  
表情で肩を竦め微笑んだ。  
 
「リドナー、ジェバンニ、丁度良い。あなた方にはやって頂きたい事があります。」  
ニアはその様子を横目で見ながら相変わらずの無機質な声質で言った。  
「二人とも日本に行きますか?」  
「えっ?」  
「はい?」  
急の申し出にジェバンニとハルは同時にニアの顔を見て呆気に取られた。  
ニアは床に寝転びながらお気に入りの玩具で遊び、二人の表情を伺っている。  
ニアの思いつき……と言うかやり方はいつも唐突なのだ。  
その度に愚痴を言いたくなる衝動に駆られるが今回は違った。  
ジェバンニの心に引っかかる”二人で日本に行く”と言うフレーズ。  
――二人とも日本に行くという事はリドナーと二人で一緒に日本に行けと  
言う事なのだろうか。  
ジェバンニの心拍数が上がる。  
 
もしかしてこれは人生最大のチャンスではないか。  
あろう事か理不尽極まりないこの年下の上司が彼の恋を成就させるきっかけを  
提供してくれている。  
折角のチャンスを断るはずがない。否、どちらにしてもニアの性格上  
どうせ断れない事は確かであろうが。  
「僕は行きますよ」  
ジェバンニは迷わずニアの質問に即答した。  
 
先程とは打って変わったジェバンニの明るめの口調。  
ニアはそれに表情を一瞬顰めた。  
しかしそれも一瞬ですぐにまた元の人形のような顔に戻ると、  
今度は視線をまだ返答していないハルに移した。  
大きな眼で彼女の返答を催促する様にじっと見つめる。  
「……私も行きます」  
その眼力に返答すべき答えは一つであると悟ったハルは少し間を置いてから答えた。  
「では決まりです。事はなるべく早いほうが良い。明日の東京行きの便で日本へ向かってください。」  
そう言うと二アはおもむろにポケットから東京行きの便のチケットを二枚を差し出した。  
「あちらに着いた際のホテル等も全て予約済みですので心配しないで下さい。」  
「さすが二ア。事が早いですね」  
ジェバンニは笑みを浮かべいつになく嬉々した様子だ。  
 
「……随分機嫌が良いじゃないですか」  
意気揚々と自分を褒めるジェバンニの姿などこれまで一度だって見たことも無い。  
二アは不振そうにジェバンニの顔を見上げた。  
「!……捜査の為とは言え日本は私の好きな国ですから行ける事が嬉しいんです」  
本当はハルと二人っきりで日本に行ける事に喜びを感じているのだが、本心は心中にぎゅっと閉じ込め  
ジェバンニは咄嗟の嘘で本心を隠した。  
 
翌日アメリカを出発して日本のホテルに到着した二人はチェックインを済ませ二アに連絡を入れる。  
画面上に移った二アは相変わらずこちらに興味が無さそうに愛用の玩具で一人遊んでいた。  
「二ア無事にホテルには着きましたが……」  
ハルは何か言いたげにその先の言葉を詰まらせた。  
二アはハルからの連絡を確認すると感情も無く機械的に『はい』と答える。  
『案外早く着いたんですね。で、何か問題でも?』  
「あの……何故ホテルの部屋が一部屋しか予約されていないのですか?」  
チェックイン時に何かの間違いでは無いかと思い良く調べてもらったのだが、  
やはり部屋は一つしか予約されていなかった。  
日本に来て早々の予想外の展開にハルは少々困惑していた。  
『その日は生憎部屋がそちらの一部屋しか空いていなかったようなので仕方なくです』  
二アは他人事のようにハルの質問に答え、モニターを直視せず玩具に夢中になっている。  
「ですけど……」  
『それに心配はいりません。あくまでも仮ですので数日経ったら他の場所へ移って頂きます』  
二アは面倒くさそうに言い、仕事の報告やまた何かありましたら連絡を入れてくださいとだけ  
付け足すとモニター画面から姿を消した。  
 
「もう!だったら他のホテルを予約すれば良かったじゃない」  
二アからの連絡を絶つとあまりにも彼の他人事で理不尽な言い方に  
ハルは憤りを感じていた。  
いくら同僚とは言え恋人でもない男女が同じホテルのおまけに同室で  
数日過ごさねばならないのだ。  
これでは仕事に支障が出てしまうかもしれないのにと  
ハルは軽く溜息をつきながら思った。  
 
一方でジェバンニはこの想定外の展開をとても快く思っていた。  
 
――二ア……  
あなたは天使……  
まさかここまでナイスセッティングしてくれるとは  
  日頃優秀な働きを見せる僕へのお礼ですか……  
 
いつもは散々こき使ってくれている年下の上司が今のジェバンニに  
とっては救世主にさえ思える。  
ジェバンニはこの時初めて二アに感謝した。  
いつもはその小さな身体を蹴飛ばしてやりたくなる程憎らしく  
理不尽な彼ではあるが。  
過程はどうであれ、ハルとこうして二人っきりになれた。  
それだけでも今までの理不尽な二アの態度を水に流しても良いと思える。  
普段職場では積極的にいけない彼にとっては願っても無いチャンスだ。  
二人っきりならそれなりの雰囲気を作れば自分からだってアプローチ出来る……。  
幸いここは中々グレードの良いホテルだ。後は自分の努力のみ。  
 
「本当二アったらどうかしてるわ。あなただって私と同室だったら何かとやりずらいわよね」  
ハルが溜息混じりに息を漏らし、苦笑いしながらジェバンニを見た。  
「僕は別に。むしろ二アには感謝したいぐらいだよ」  
「えっ……?」  
表を突いて思っていた事が咄嗟に出てしまった。  
不思議なぐらい自然と出てきた言葉にジェバンニは戸惑う。  
今までこんな素直な言葉を面と向かって彼女に言えた事はない。  
ジェバンニは慌てて言葉を言い換えた。  
いきなりこれでは不自然すぎる。  
「あっ、いや、君が僕と同室で嫌だと感じるなら僕は他のホテルに移ったっていいんだ」  
ここはあえて謙遜した態度を取って紳士的な自分をアピールして見る。  
もちろん本心の部分もあるが、少し引いて様子を見る……と言う  
駆け引き的な部分もこの言葉の中の意味にはあった。  
 
「ふふっ、あなたって相変わらず紳士的なのね。良いわよ別に。お金かかるしね」  
控えめなジェバンニの態度にハルは少し苦笑いしたが、自分を思って  
言ってくれた彼の紳士的な態度を素直に嬉しく思った。  
「そうか良かった」  
ジェバンニは爽やかに笑い綺麗な笑顔を作った。  
しかしその笑顔の裏では発狂しそうな程の嬉しさが彼の中を駆け巡る。  
「そうだ、そろそろ夕食時だしルームサービス頼まない?せっかくこうしてあなたと居るんだし、  
夜景も綺麗だわ。シャンパンでも飲みながら……ね?」  
ハルはそう言って笑うと窓辺に近づいて眼前一面に広がる夜景を見つめた。  
「そうだね。じゃあ僕が頼んでおくよ」  
お願い、とハルの声を確認すると、ジェバンニはルームサービスを頼むため  
電話の受話器を取った。  
 
 
――数十分後  
 
 
用意された豪華なディナーを目の前に、ハルは二つのグラスに良く冷えた  
シャンパンを注いだ。  
透明なシャンパンが部屋の淡い光を反射して黄金色に輝いている。  
シャンパンのグラスの一つをジェバンニに手渡すと、ハルは顔の前まで  
そのグラスを持ち上げにこっと微笑む。  
 
「それじゃ、これからの捜査の進展を祈って……乾杯」  
「乾杯」  
 
そう言うと二人はシャンパンのグラスをそっと合わせた。  
重なり合ったグラスから透明な音色が響き渡る。  
それを一口飲めば、甘くてちょっとほろ苦い大人の味が口いっぱいに広がる。  
テーブルの傍にある窓からは大都会の夜景が一面に広がっている。  
多彩な色に輝くネオンと赤く聳え立つタワーは自国の夜景に負けるとも劣らない。  
美味しい料理に、素晴らしい夜景、そして何よりも目の前に座る美しい彼女。  
まるで用意されたかの様な現実にジェバンニは酔いしれた。  
料理を口に運びながら暫く二人っきりで他愛も無い会話に笑いあう。  
「ん……ふふっジェバンニ、あなた二アの事そんな風に思ってたの?」  
「二アは理不尽にも程があるよ。君もそう思わないか?」  
「そうねあんなに可愛い顔してるのに……羊の皮を被った狼みたい」  
「はは、二アの背中にはチャックでも付いていそうだな。今度良く見て見るよ」  
ジェバンニの笑いにハルもつられる様に笑う。  
二人は時間を忘れて二アの愚痴や普段思っていることなどを絶え間なく話し合う。  
それと同時に会話の共をしているシャンパンを口に運ぶ回数も徐々に増えていった。  
ハルもジェバンニも比較的酒には強い方であるのだが、話で盛り上がっている内に  
既にシャンパンを三本も開けていた。  
 
「リドナー、大丈夫かい?」  
少々飲みすぎて頬を紅くしているハルの顔をジェバンニは心配そうに見つめる。  
「大丈夫よ……私お酒は強いの。まだまだいけるわ」  
先程からハルの呂律は少し覚束なくなり、シャンパンのグラスを飲み干す喉の動きは  
止むどころか増す一方だ。  
どうやら久しぶりの和やかな酒に羽目を外してしまっているらしい。  
この辺で止めさせないと翌日の任務に支障が出ると感じたジェバンニは3本目のボトルを  
飲み干した彼女にやんわりと忠告をした。  
「明日は任務もあるしもうその辺でやめておいた方が良いよ。」  
「ん……そうね、丁度良いし……」  
そう言ってハルが椅子から立ち上がろうとすると、彼女の足元がふわっと揺れた。  
「危ない!」  
ジェバンニは咄嗟にハルの肩を支え、自らの胸に彼女を抱き寄せた。  
初めて触れたハルの身体は驚くほど柔らかでその感触がジェバンニの身体中に伝わる。  
鼓動が高まっていくのが分かる。  
 
「失礼……ありがとう」  
ジェバンニの胸から抜け出し一人で歩こうとするハルではあるが、酒のせいか焦点が定まらず  
身体はまた倒れようとする。  
それを賺さずジェバンニが受け止めると、彼女の耳元で囁く様に言った。  
「無理しない方が良い。ベッドまで一緒に行こうか」  
「そうね……お願い」  
ハルの肩を支えながらベッドのある場所まで向かうと、ジェバンニは優しく彼女を  
そのベッドの上に寝かしつけた。  
「ありがとう……優しいのね」  
酒に酔って上気した眼で自分を見上げてくる彼女。  
思わず生唾を飲み込む。  
そんな色香漂う表情で見つめられたら今にも理性がおかしくなってしまいそうだ。  
おまけに目の前に居るのは自分が思いを寄せている憧れの女性。  
尚且つ今部屋には二人っきりでおまけにベッドの上だ。  
高鳴る鼓動と共にもっと彼女に触れたいと言う本能が自分の中から垣間見える。  
しかし彼女は今酔っていて意識も正常であるかは分からない。  
酔った相手に好きな事をするのは容易い物だが、同意も無くそんな事は出来ない。  
男として最低の上、彼女の心を深く傷つけてしまう事になりかねない。  
 
理性と欲望の狭間で葛藤する自分を抑えつけ、ジェバンニはハルに背を向けた。  
「それじゃあ僕はソファで寝るから……お休みリドナー」  
欲望を振り払いその場を立ち去ろうとジェバンニはベッドから立ち上がった。  
すると後ろから柔らかな感触で背中を包まれて彼は思わず動けなくなる。  
「行かないで……ジェバンニ」  
ハルは鳴くような声で彼を引き止め、彼の広い背中に覆いかぶさる様に  
ぴったりと抱きついている。  
ジェバンニは背中から身体全体が熱くなっていくのを感じた。  
「リドナーそんな事をされるともう歯止めがつかなく……」  
「良いの。良いのよ。ジェバンニ……あなたを助けたい」  
そう言うとハルはジェバンニの背中を捕らえている左手を下にずらすと、  
ズボン越しに彼の股間に手を添えた。  
そこからゆっくりと彼の自身を優しく触りだす。  
彼女の予想外の行動にジェバンニは驚き、自身を弄るハルの左手を押さえて  
彼女の方を振り返った。  
 
「リ……リドナー、何を……」  
「だからあなたを助けたいの。あなた自身、もうどうしようも無い状態でしょう?」  
ハルは妖艶に笑いジェバンニの頬に手を添えた。  
本当は今すぐにでも彼女を抱き寄せて繋がりたい。  
しかしそれは彼女を傷つけてしまう行動にはならないのだろうか。  
ハルの申し出にジェバンニは一瞬と惑うも、顔を赤らませて頬に添えられた  
彼女の柔らかな手をそっと握り返した。  
「リドナー、その……」  
「こう言う時ぐらいハルって呼んで……ステファン」  
ハルはにっこりと艶っぽく笑う。  
「ハル……その、僕なんかで良いのかい?」  
「やだわ、謙遜してるの?」  
「いや……」  
「ステファン、あなたって本当固いのね。嫌なら私から誘ったりしないでしょ?」  
虚ろながらも怪しげな流し目でハルはジェバンニを見据えた。  
酔っているとは言えハルにはちゃんと意識があった。  
これは自らの意思でそう意思表示していると言う意味だ。  
彼女の同意がある……。  
ジェバンニにはもう己を抑える理由が無かった。  
 
「――――っ!」  
ジェバンニは息つく間もなくハルの柔らかな唇を塞いだ。  
ハルをぎゅっと抱きしめると、彼女の口内に舌を差し出す。  
ハルは差し出されたジェバンニの舌を優しく絡め取る。  
角度を変え何度も何度も深いキスを交わしながらジェバンニはベッドの上に  
ハルを押し倒した。  
仰向けに倒れた彼女に覆いかぶさるように跨りながら首筋に唇を落とす。  
舌で首筋から鎖骨辺りを丁寧になぞり彼女の白い首筋に少し強く吸い付くと  
紅い印が浮かびあがった。  
その少し強い刺激にハルは短くあっと声を上げ顎を仰け反らせた。  
彼女の雪のように白い顔に紅潮した頬が良く映える。  
「綺麗だ……ハル」  
ハルのサラサラの髪を撫でながらジェバンニはうっとりとハルを見つめる。  
普段は見せないハルの溢れる色香に自身の興奮は更に高まっていく。  
ハル自身から漂う甘い香りと、彼女の上気した熱い吐息が彼の五感を刺激する。  
もっと、もっと彼女の事が知りたくなった。  
「君の事、もっと良く知りたい」  
「えぇ。全部見せてあげる……来て」  
ハルはジェバンニの胸に両腕を埋めとろんとした眼差しで彼を見つめ返した。  
そしてゆっくりとした動きで彼のシャツのボタンを一つずつ外していく。  
全てボタンを外し終えシャツを脱がすと、彼の引き締まった逞しい身体が露になった。  
ハルは妖艶に微笑するとジェバンニの厚い胸板に自らの舌を這わせた。  
ジェバンニの顔を見つめながらわざとちゅぱちゅぱと音を立てて彼の乳首の周りを舐め上げる。  
中心の乳首に一瞬ちゅっと吸い付くいたかと思えば、またその周りを舐めあげ  
ジェバンニを焦らせる。  
その痺れそうな絶妙な舌使いにジェバンニは顔を歪め酔いしれた。  
「くっ……ハル…!」  
我慢出来ずにハルの動きを制すると、今度はジェバンニがハルの上着に手をかける。  
ボタンを丁寧にゆっくりと外していくと、白いレースの下着に包まれた乳白色で  
豊かな女性の象徴が顔を表す。  
下着越しにそれを優しく揉みながら、その感触を確かめる。  
暖かくて柔らかな二つの丘はジェバンニの手の形に合わせるように形を変える。  
ハルの胸を優しく撫で上げる度にハルは上気した甘い声を上げた。  
気持ち良いのだろうか……彼女の反応を確認しながらジェバンニは  
胸への愛撫を続ける。  
 
白い乳房を弄んでいると上端に自分がつけた印とは違う印が  
ある事にジェバンニは気が付いた。  
ふとその赤い印に指を落とす。  
――これはまさか……あいつとの?  
おそらくそうであろう現実に一気に目が覚める様な感じがした。  
よりによって憎き相手は自分より逸早く彼女の身体を知っていた。  
強い嫉妬の念がジェバンニの心を襲う。  
激しい感情に苛まれた彼は力まかせにハルの豊かなバストを覆う  
下着を完全に剥がし取った。  
ふるんとハルの大きな胸がその衝動で揺れた。  
そしてその乳房を両手で掴み少し強めに揉みながら先端で存在を主張している  
桃色の乳首を強く吸い上げた。  
吸い上げては周りの乳綸を舌で舐め、また指でも乳首を摘みながら刺激する。  
ハルはその強めの刺激に身体を反らせた。  
先程の優しく柔らかな彼の動きが打って変わって本能任せな動きに変わっている。  
上気した眼で彼を見ると少し余裕を失っているジェバンニの姿が映った。  
 
そんな彼にハルは顔を傾けた。  
「はっ……ん、ステファン……どうしたの?」  
ハルの問いかけに動かす舌と手を止めたジェバンニははっとしてハルの顔を見つめた。  
今の自分の行動はいかにも自分らしからぬ性急な行動だった。  
「すまない……ちょっと興奮しすぎたみたいだ」  
ははっとジェバンニはおどけてはにかんだ。  
 
――何を僕はそこまで気にしているのだろう。  
  それこそ僕が変にあいつを意識しているみたいじゃないか。  
 
ようやく叶ったこの幸せのひと時をおかしな嫉妬で台無しには出来ない。  
今は愛するハルとこの甘くて貴重な時間を共有する事だけを考えればいいと  
ジェバンニは強く自分に言い聞かせた。  
 
「ステファン……ねぇ……」  
ハルは甘えた声でジェバンニの首に腕を回して来た。  
その仕草はとても可愛らしく、自分に何かを訴えたいようである。  
「ん…?なんだいハル」  
「もう……焦らさないでよ。分かるでしょ?」  
ハルは顔を少し俯け眼だけをこちらに向けて微笑している。  
その表情と先程から彼女の白い大腿の落ち着きが無いことに気が付いていたジェバンニは  
ふと口角を上がらせた。  
「あぁ、わかったよ。焦らさせてすまなかった」  
彼女の下半身に下着越しから触れる。  
そこはもうじっとりと湿っていて彼女の下着をたっぷりと濡らしていた。  
指でハルの筋をなぞるように素早く手を動かす。  
「やっ……あぁっ、気持ち良いわ……」  
ハルは腰をくねらせて感じている。  
堪らなくなってハルの下着を脱がすと既にそこはハルの愛液で溢れていて、  
透明で粘りのある液体が糸を作っていた。  
ゆっくりとその場所に触れると指先に暖かくぬるっとした感触が伝わり女の匂いが空に漂う。  
ジェバンニの優しく細やかな指使いにハルは眼を瞑り身体全体で感じている。  
ちゃんと自分の行為に興奮してくれているハルをジェバンニはこの上なく愛しく感じた。  
 
「ハル、気持ち良いかい……?」  
ハルの秘所を指の腹全体を使って上下に掻き回してやるとハルは悩ましげな甘い吐息を漏らした。  
白い身体は全体的にピンクに染まっていき熱を帯びているようである。  
「もちろん気持ち良いわ……この上なく、ね……あっぁ!」  
ハルの秘所からは止め処なく愛液が溢れ続けジェバンニの指にねっとりと絡み付いていた。  
彼女の瞳を覆う長い睫毛は自分の方を捉えて離さない。  
その流し目にジェバンニ自身もそろそろ限界に来ていた。  
「ハル……」  
秘所を愛撫しながらジェバンニはハルの耳元で囁く。  
「そろそろ、良いかな……?」  
彼の熱い吐息がハルの耳元に吹きかかる。  
ジェバンニの願いをハルが断る理由はもちろん無い。  
彼女はこくっと小さく頷き艶かしく笑うと、足をM字に広げてジェバンニを  
受け入れる体制を取った。  
ジェバンニの目の前にハルの秘所全体が露になる。  
彼は既に興奮してガチガチに固くなった自身を取り出した。  
それをハルの性器の入り口近くに先端だけ押し当てる。  
一気に挿入するのを我慢して入り口付近でくちゅくちゅとそれを動かしてハルを焦らせる。  
焦らして中々挿入してこないジェバンニにハルはなんだかおかしくなってくすりと笑った。  
「もっ……我慢しちゃって……」  
「君だって……欲しいかい?」  
「あなたは?挿れたいの?」  
「あぁ、もちろんだよ」  
「だったら早く挿れてよ……」  
ハルは細くて長い足をジェバンニの腰に絡めつけ腰を僅かに動かして挿入を催促した。  
 
焦らしたジェバンニももうこれ以上は男の本能に抗えず自身を彼女の中に  
ゆっくりと沈めていく。  
かなり大きめの肉棒がずぶずぶと自分の中に入っていく異物感にハルは思わず声を上げた。  
ハルの中を圧迫するジェバンニ自身は驚く程熱を帯びている。  
また覆いかぶさるジェバンニもハルの中の熱さと滑りけに顔を歪ませた。  
全てが入り終わるのに時間は掛からなかったが、ジェバンニは愛しい彼女と初めて  
繋がった喜びの余韻に暫く浸っていた。  
ハルもそんな彼を慈しむ様な眼で見つめ、彼の背中に手を回し手の平全体で優しく摩った。  
 
「ハル……動くよ」  
そう言うとジェバンニは緩やかな動きで腰を動かし始めた。  
腰を動かす度にハルの中はぎゅうぎゅうと彼自身を締め付ける。  
「あっ、はぁ、あんっ……ステファン…!」  
あまりの快感にハルは高い嬌声を上げ自らも腰を突き上げてジェバンニを求めた。  
お互いに腰を動かし合う事でハルのより深い所までも刺激される。  
柔らかで上質なベッドが二人の動きに合わせて上下に揺れている。  
そのシーツは既にハルの愛液で濡れたシミを作っていた。  
心も身体も深く求め合っている快感にジェバンニの気分は最高に高揚した。  
「はっ、あぁっ、やん……あっ……」  
またハルも深くて愛のあるセックスに興奮し、潤んだ瞳でジェバンニを見上げる。  
見上げられたハルの艶やかな表情に男の本能が擽られる。  
 
ジェバンニは耐え切れずそれまでしていた理性的で緩やかに突き動かしていた  
腰の動きを改め性急な物に変えた。  
そして尚も激しくのハルの中を弄る。  
「ひゃっ、あっ……いっ、良いわ……んんっ、気持ち良い……」  
「ハル……やっぱり君は綺麗だ……今の君も最高に美しい」  
腰を激しく動かしながらジェバンニはハルの唇に深い口付けを落とした。  
深くキスをし合いながらも全身で相手の熱を鼓動を感じる。  
 
「あぁっ、ステファン……もっ、ダメッ……あっ、あぁぁイクッ――!」  
ハルはジェバンニの背中に爪をたてると、自身を襲ってくる絶頂の波を待ち受けた。  
きゅっとより一層ハルの中が締め付けられた瞬間彼女は絶頂に達した。  
「うっ……あぁ…!ハル……!!」  
またジェバンニの射精感もそれを機にピークに達し、彼女の中に精を出し尽くした。  
 
 
暫く二人は抱き合ったまま興奮しきった身体を落ち着かせる。  
ジェバンニはハルの髪を梳きながらお互いの鼓動が徐々に収まってきたのを感じた。  
そう言えば最近はもうずっと女性を抱いていなかった。  
随分と久しぶりのセックスでハルの中に精を出してしまった事にジェバンニは  
自分を不甲斐なく思った。  
「すまない……中に出してしまったね」  
ジェバンニは申し訳なさそうにハルを見ながら謝罪した。  
 
「あら、大丈夫よ。今日は危険日じゃ無いし」  
ハルは優しく言って彼の不安を取り払ってやる。  
しかし中出ししてしまった事への申し訳なさで眉尻を下げ情けない顔をしている彼。  
そんなジェバンニにハルはどこまで律儀で真面目なのよ……と  
半分心の中で笑いながら思った。  
「それに……」  
ハルは少し話しに間を置くと、くるっと身体を捩りジェバンニに背を向けた。  
「もし万が一子供が出来てても私堕ろさないわ。あなたの子ならあなたの子として育てたい」  
ハルは緩やかに身体を丸め照れを隠すように少し明るめの口調で話した。  
 
その言葉を聞いたジェバンニは背後から彼女の柔らかな肉体をより一層強い力で抱き寄せた。  
その暖かく包まれる逞しい身体の感触にハルは安らぎと安堵感を覚え、  
回されたジェバンニの腕にそっと手を添えた。  
「必ずキラを捕まえて共に生き残ろう」  
ジェバンニの素直な思いにハルも頭を小さく縦に振って頷いた。  
背中から感じるジェバンニがなんだかくすぐったい。  
今までどんな女性にも感じたことの無い本当の愛をジェバンニはようやく  
見つけた気がした。  
そしてずっと言えなかった自分の本当の気持ちをハルの耳元でそっと囁いた。  
 
「ハル……僕は心から君を愛してる」  
 
 
                                       
                                   ――fin――  
 
 

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