高田清美は恋人の夜神月と肩を並べて講義を受けていた。  
教授の説明を細かな字でノートに書き留めていく。  
清美はそっと月の顔を盗み見た。  
トップの成績で入学、端正で知的な顔立ちに運動神経も抜群とまさに完璧な人間。  
そんな彼が自分の恋人であることに誇りを覚える。  
じっと前の黒板に目を向けていた月が視線を清美に移した。  
清美は慌てて見ていたことを隠すようにノートを取る作業に戻る。  
月はそんな清美をしばらく見つめていたが、口元に笑みが浮かばせると  
そっと清美の耳元に顔を寄せ囁いた。  
「今日家に来ないか?」  
「……!」  
驚いて清美は月の方を再び見たが、彼は素知らぬふりで教授の話を聴いている。  
ドキドキと胸が高鳴る。  
家に誘われたのは付き合うようになってから初めてのことだった。  
(ご家族に紹介してくれるつもりかしら。  
それなら前もって言ってくれたら服装や化粧もっと気を遣ったのに…。  
心の準備だってすぐには出来ないわ)  
それでも月が家に呼んでくれたのは嬉しい。  
清美は彼女らしくもなく心を弾ませ、  
講義よりも月の家族への挨拶をどうするかで頭がいっぱいになってしまった。  
 
しかし月の家の近くまで来てから  
「今日母さんは親戚に用事があって帰りが夜遅いんだ。  
妹も友達の家で泊まり込みでテスト勉強するらしい。  
僕らだけだから気楽にしてくれて構わないよ」  
と言われ清美は二度目の驚きを受けた。  
つまりもう日も暮れようという時間に一つ屋根の下月と二人きりになるわけだ。  
今まで月とはキスまでしかしたことがなかった。  
(もしかしたら今日はそれ以上…。  
家の人がいないのを知っていて私を呼んだってことは  
夜神君は最初からそのつもりだったのかしら)  
そっと月の様子を窺うが彼はいつもと変わらない。  
もちろん二人きりになったからといってそうなるとは限らないし、  
仮になったとしても恋人同士何の問題もないのだが――。  
「ここだよ」  
月が家の前で足を止めた。  
ドアを開けて清美が入るのを待っている。  
「……」  
清美は家へ上がるのにためらいを感じていた。  
月にも誰にも言っていないが彼女はまだ未経験なのだ。  
「どうかした高田さん?」  
「い、いえ…」  
(ここまで来て今更帰るなんて失礼よね。夜神君はそんなつもりないのかもしれないし…)  
玄関に上がりそのままリビングへ通された。  
 
月がいれてくれた紅茶を飲みながら話をしているうちに  
だんだんと清美の緊張は解れていった。  
「キラの力は確かに驚異だわ。でも私は使い方を間違っているとは思わない。  
悪人が粛清されることで実際に犯罪は減っているのだから」  
話題は世間を最も騒がせているキラのことだ。  
清美はキラに強く共感している。  
犯罪者を裁く力を持った正義の神。  
人々はその存在を畏れるより敬うべきとさえ思っている。  
月は黙って清美の話に耳を傾けている。  
清美はふと先ほどから自分ばかり喋っていることに気付いて咳払いした。  
「ごめんなさい、つい興奮して…」  
「いや、とても興味深かったよ」  
「夜神君が初めてだわ。キラについて自分の気持ちを正直に話せたのは」  
「嬉しいよ。僕の前ではいつでも本音を話してほしい。  
高田さんのこと、もっと知っていきたいから。恋人として」  
意味ありげな微笑とともに甘い言葉を言われて清美は頬を染めた。  
月の顔が近付き目を閉じる。  
今までのキスは触れる程度の優しいものだったが、今日の月は情熱的に何度も唇を重ねてくる。  
舌を入れられ口腔を犯される。  
「んっ…」  
戸惑いながらも清美はそれに懸命に応えた。  
 
解放された時には清美の唇は唾液で濡れていた。  
清美は荒い息を吐きながら月を見つめた。  
月は優しい笑みをたたえたまま手を差し延べる。  
一瞬躊躇したものの清美はその手に自分の手を重ねた。  
 
場所を月の部屋に移して二人は再び唇を重ねていた。  
月はそっと清美の体をベッドに横たえた。  
抱きしめると腕の中の清美が緊張するのが分かる。  
「高田さん、このまま…いい?」  
清美は月を見上げた。  
その表情にはわずかな怯え、そして決意が滲んでいる。  
「いいわ。夜神君は私が認めた唯一の人だもの…」  
本心だった。  
『清美、これからの女性は外見だけではなく内面も磨かなくてはいけないのよ』  
幼い頃から母に言い聞かされてきた言葉。  
結婚して清美が生まれてからも家事と仕事を両立させている母の姿は  
小さな清美の目にも輝いて見えた。  
自分も母のような女性になりたい。  
清美は勉学に励み料理や裁縫など家庭的なことも身につけた。  
そうやってスキルを積み上げていくことが自分を高めるのだ。  
才色兼備の清美は周囲から羨望の目で見られるようになった。  
その視線は清美にとって心地良いものだった。  
自分はそれだけ努力して成果を上げたのだから。  
 
しかし清美の美しさと優れた頭脳は男達との間に壁を作っていた。  
澄ましていて近寄り難い。  
そんなレッテルを貼られても清美は自分の姿勢を崩さなかった。  
自分はそこらの頭も尻も軽い女達とは違うのだ。  
(私は自分を安売りなんて絶対にしないわ)  
そう自分に言い聞かせてきた。  
それでも周りの仲睦まじい恋人達を羨ましいと思わないではなかった。  
自分にもあんなふうに肩を並べて歩いたり話をしたり出来る相手がいたら――。  
もちろんその相手は自分に相応しいレベルの男でなくてはいけない。  
妥協して平凡な男と付き合うなど今までの努力が無駄になるような気がした。  
清美はプライドと恋への憧れの狭間で揺れ動いていた。  
そんな時出会ったのが月だったのだ。  
「あなたを見て確信したわ。この人が私の待ち望んでいた相手…運命の人だって。  
初めてだったのよ、私が自分から告白したのは…」  
清美はすっかり少女のような甘い幻想に浸っていた。  
目の前の男が自分の思っているような優しい誠実な男でないなどとは微塵も考えていない。  
もちろん月に敢えてそれを教えてやるつもりなどなかったが。  
 
「高田さんのような女性にそう言ってもらえるなんて光栄だよ」  
心にもない言葉を平気で紡ぎながら月は清美のブラウスに手をかけた。  
ボタンを外されながら清美はベッドの上で体を硬直させていた。  
覚悟を決めたとはいえやはり未知への恐怖は拭えない。  
それを察して月は声をかけた。  
「大丈夫だから、僕に任せて」  
「え、ええ…」  
(夜神君は経験あるのかしら…。高校の時から彼女がいたようだし)  
月に経験があった方が安心して全て委ねられるのだが、  
自分の前にいた恋人のことを考えるとあまり愉快ではない。  
まさか月が今も自分と同時進行でミサや他の女性と付き合っているとは知らない清美だった。  
そんなことを考えているうちに手際よく脱がせられ、清美は生まれたままの姿になった。  
豊かな胸と引き締まった腰、肉づきのよい太腿。  
今まで一度も男に触れられたことのない清らかな裸体に流石の月も感心した。  
「綺麗だよ高田さん」  
首筋から鎖骨にかけて吸い付いていく。  
白い肌に赤い印が次々と刻まれる度に清美は吐息を漏らした。  
月の唇が胸の先端を含み舌先でつつかれ、  
もう片方は手のひらで捏ねるように揉まれる。  
清美の乳房は月の手の中でくにゅりと形を変えた。  
 
「あっ…はぁ…ん」  
自分の口から出る喘ぎ声に清美は戸惑っていた。  
性行為など初めてなのに驚くほど感じてしまう。  
そんな清美を観察するように月は愛撫を強くしていった。  
乳首を指で押しつぶすように刺激し太腿に手を這わせる。  
清美は下腹部が疼くのを感じた。  
自慰さえしたことのない彼女にとってそれは初めての感覚で、  
脚をもじもじさせているとそれに気付いた月が秘所に触れる。  
そこはわずかに濡れていた。  
触れられて初めて自分がそこを濡らしていたことに気付いた清美は動揺した。  
経験はないが知識として性行為で女性はそこが濡れることは知っている。  
しかし実際に自分がそうなって、おまけに月に触られるのはたまらなく恥ずかしい。  
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか月は割れ目をなぞり淫核を摘む。  
「あぁんっ!」  
思わず切ない悲鳴を上げてしまい清美は慌てて口を手で塞いだ。  
(やだ、初めてでこんなはしたない声を出してしまうなんて…)  
恥ずかしいやら情けないならで何だか泣きたいような心境になる。  
 
しかしちゅぷ、と指が一本差し込まれ清美はそれどころではなくなった。  
「ひっ…!」  
グリグリと内壁を擦られ頭の中に霞がかかっていく。  
月は清美の様子を見ながら指をもう一本増やし、中を掻き回した。  
溢れる蜜が彼の手とシーツを濡らす。  
もういいだろうと指を引き抜き月は自分も服を脱いだ。  
彼の均整の取れた上半身に見とれた清美は、  
しかしその下の凶悪に勃ち上がった男の欲望に目を奪われてしまった。  
(こ、こんなのが私の中に…?)  
快楽でほてった体が急激に冷めていく。  
どう考えても無理だ。  
こんなモノ入れたら絶対に裂けてしまう。  
もしかしたら死んでしまうのでは?とさえ思う。  
世の恋人や夫婦は本当にこんなことをしているのだろうか。  
自分にはとても無理だ…。  
思考が逃避の方向へ向かっている清美に構わず  
月はゴムを被せるとぬるつく入口に自身の先端を押し当てた。  
その感触に清美は我に返った。  
「夜神君、待っ――」  
しかし月は聞こえなかった振りをして自身を清美の中へ沈めていった。  
新世界の神といえども男の本能には抗えない。  
 
「――っ!!」  
ずぶずぶと奥へと性器が埋められ、声にならない悲鳴が清美の口から飛び出る。  
指とは比べものにならない痛みと圧迫感に、  
いつも取り澄ましている顔が苦痛で歪み涙がこぼれた。  
「あっ…いや…いや抜いてぇっ!」  
プライドも何もかもかなぐり捨てて清美は懇願した。  
そんな清美を幼子をあやすように月は宥める。  
「大丈夫だよ清美。血は出たけど少しだけだから」  
耳たぶを舐め上げ、軽いキスを繰り返す。  
「んっ…」  
くすぐったそうに身をよじりながら清美は次第に落ち着きを取り戻した。  
確かに痛いが裂けてはいないようだ。  
もちろん死んでもいない。  
月を見上げると優しい視線が返される。  
「……」  
取り乱したことが恥ずかしくなって清美は咳払いでごまかした。  
「このまま続けても大丈夫?」  
「…ええ」  
本当はまだ怖かったが清美は頷いた。  
「僕につかまっていいから」  
そう言って月は清美の腕を自分の背に回した。  
そして唇を重ねると腰をゆっくりと動かす。  
 
「ひぅっ…」  
最初は痛みに耐えていた清美だったが、  
挿入を繰り返すうちにだんだんと別の感覚が生まれてくるのが分かった。  
擦れ合う部分からじわじわと湧き上がる熱。  
それは痛みや苦しみよりも激しく、荒波のように清美の心を翻弄する。  
清美はいつしか自分からも月を求めるように動いていた。  
月の唇が冷たい笑みを浮かべているのにも気付かないほど夢中になっている。  
月の方でも緩急をつけながら攻め立てて清美の反応を楽しんでいた。  
動く度に絡みついてくる内部の感触がたまらない。  
何より清楚高田などと言われている彼女を  
こんなにも乱れさせることが出来るのは自分だけという優越感が彼を興奮させていた。  
淫核を擦ると清美は体をくねらせて悶え一層締め付けが激しくなる。  
乳房が揺れ汗が白い肌の上を飛び散る光景が美しい。  
「くっ…」  
限界を感じ始めた月は清美の体を抱えると乱暴に突き上げた。  
「や、あぁー!」  
頭の中が真っ白になり清美は意識を手放した。  
 
目を覚ますと体は綺麗に拭われていた。  
ふと横を見るとちゃんと服を着た月が寝息を立てている。  
先ほどの痴態を思い出し頬が熱くなる。  
時計を見るともう家に帰らなければいけない時間だった。  
清美は月を起こさないようベッドを降りると脱ぎ捨ててあった服を着た。  
動くと腰やさっきまで月のモノを受け入れていた箇所が痛んだ。  
寝ているので起こさずに帰ることを簡単にメモに書いて月の枕元に置く。  
「夜神君、あなたは私に初めて愛し合うことの素晴らしさを教えてくれた。  
体を繋げることがあんなに気持ちいいことだなんて初めて知ったわ。  
やっぱりあなたは私が認めた運命の人だった…」  
熱に浮かされたようにうっとりと呟くと清美は夜神家を後にした。  
 
月はこの後Lに拘束されることになり清美と彼の関係は自然消滅するのだが、  
満ち足りた想いで帰途につく清美はまだそのことを知らない。  
そして彼女が自分が愛した男の正体を知るのは更に先のことになる。  
 
(終)  
 
 

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