体の一部と言ってもいい眼鏡を粉々にされ、ようやっとお縄をとかれたマットが  
煙管をふかしたまま、ぱたりと仰向けに昇天した  
そんな三日三晩目のまた別のある日の話である。  
 
(暗転:春の日差し爽やかな宿場、天高くぴーひょろろと鳴く鳶)  
 
「よくもまあ……飽きないものね…」  
暇つぶしがてら、半刻ほど観察してみたが  
目の前の少年は延々と花札を三角に積み続け、いくつもの塔を作り上げていた。  
塔っていうよりもう壁だ。どんなけ積むのだ、何を目指しているのだ。  
「……。」  
巻き毛をくるんとさせ、一瞬その手が止まったかと思えばまた花札を積み上げる。  
自分と彼との間にあるその壁は、物理的にも精神的にも強大なようだ。  
まったく何が面白いのやら理解しかねるわね。と、おハルは肩をすくませた。  
件の花札少年の名前は、ニア。  
おハルとの初対面時には、まだ彼を青年とも呼べたのだが、金銭感覚なしの玩具趣味や  
こちらに有無を言わせない無茶を言うあたりから、段々と幼さが垣間見え  
近頃ではもっぱら、知ったその内面と相まって外見も退化して見えてくる次第だ。  
Lやメロが四方八方に足を伸ばし、吉良の背中を追っている間彼はお宿で花札塔。  
何が怖いから出ませんだ。このおぼっちゃまくんめ。とおハルは唇をとがらせた。  
そのうちぽっくんとかレロレロしちくり〜とか言い出すんじゃないのか。  
「……言いませんよそんな事」  
「あらやだ、失礼」  
口が滑ったと同時に、つきたくもないため息がおハルの唇から出た。  
「とは言っても、吉良は尻尾を出さないし…」  
どうしたものかしらね…と、豊満な胸を床に押付けごろり悩ましげにうつぶせる。  
また一つ塔を作り上げたところでニアが手を止めた。  
「…尻尾……」  
吉良。吉良シンセカイノカミ。  
その憎き罪人の正体が何者であるのかを、Lもメロも勿論ニアも当に知っていた。  
だが、公式で彼をお縄にかけるのにはこれといった裏づけがなく  
その穴を見つけることがニアの役割、その穴を作り出すことがメロの役割だった。  
例えひとり宿に残って花札を玩ぼうとも、彼はちゃんとお役目を全うし  
頭の中では常にその切り札を探っている。でもやはり札は揃わず、カスばかりが手中に集まるのだ。  
策には策で返されるイタチごっこ、尻尾のないイタチは罠へ。吉良をどうおびき寄せるべきか…  
「ニア…」  
くしゃと前髪からおハルの指が覗く。  
「ごめんなさい、失言だったわ」  
そんな顔しないで。とおハルに言われ、ニアは自分の頬に指を滑らせた。  
そんな顔。自分は今、どんな顔なのだろうか。  
「勘違いしないで下さいリドナー。あなたの言葉で私が」  
ちゅ、と音を立てその先の言葉はおハルに遮られた。慰め、だろうか。  
目の前には長い睫。ゆっくりと開く瞼からおハルの瞳に映った自分が顔を出す。  
ああ、こんな顔。  
「リドナー」  
少年のような、青年のような、ただの男のような、その表情をおハルは胸に抱きしめた。  
柔らかいそのぬくもりに、ニアの硬くなった頭が一瞬ふわっと溶けそうになる。  
レロレロしちくり〜…  
…いやいやいや、脳みそお前どうした。歩く身代金と言えばそうかもしれないが。  
おハルの胸についついほだされた脳みそのパズルをニアが瞬時に解いたとき。  
 
ガラガラガラ。  
開いた襖へ二人同時に視線を上げる。  
「………おい」  
「…………あら」  
「……………メロメロ」  
ふざけんな!と、部屋の戸口から開口一番に怒鳴りつけてくる男。メロだ。  
「何がメロメロだ!馬鹿にしてんのか!」  
「間男だわ間男」  
「そうですね、その言葉は正しい」  
抱き合ったまま二人で冷静な判断を下してみる。  
「だいたい何してんだよハル!お前はどっちの味方なんだ!」  
やいやい牙を剥くメロに、味方もくそもないわよ。とぶった切っておハルはメロを手招いた。  
「文句があるならあなたもいらっしゃいな」  
勝手な独占欲と闘争心、ぽつんと戸口に立つ疎外感でメロは舌打ちしながらも  
足取り荒くおハルに向かい、ニアを邪魔だと押付けつつその背中に腕を回した。  
「はいはい、喧嘩はやめて」  
二人をー止めてー♪などと続く懐メロを何となく脳裏に浮かべ  
おハルはニアと共にまた甘い匂いのする彼をぎゅっと胸に抱いた。  
彼は一番という位に執着しすぎるところがあるのだ。  
過去に何があったかなどおハルは知らないが、彼はニアを目の仇にしている。そう言ってもいい。  
ニアの机上で策をまとめる論理的な知恵とメロの経験から得た生きる知恵。  
発想力と行動力。そんなもの競い合っても勝敗がつくわけがない。  
それなのにいつも勝手に比べて意固地になってニアをつっぱね続ける、困った坊やだ。  
おハルの胸中で何の因果か頬を合わせ、それぞれ心底嫌そうに眉を寄せる少年たち。  
「あら、そっくりな顔して」  
くすくすとおハルが大人の笑みをこぼせば、  
ギザギザハートの少年たちは途端にカチンと反抗心を燃やす。  
「ニア。」  
「メロ。」  
互いを呼び合う声に、何事?と思わずおハルは首をかしげた。  
「どっちが先にハルにまいったと言わせるか―――」  
「競争ですね………」  
ニヤリと同時に二人の口角が上がったと思えば、  
おハルの着物の合わせ目と帯に伸びるは二人の手。  
 
「え、ちょ、あーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」  
 
くるくるさっさと身包みを剥がされ、御無体な!とおハルは叫んだ。  
こんな時ばかり無駄に足並みそろえやがって、吉良はどうしたんだ吉良は。  
「ば、馬鹿なこと考えてないで吉良を…」  
むぐとおハルの唇がメロにふさがれた。あんたこれニアと間接キスよ間接キス。  
そんなことを知る由もなく、メロは薄い舌でおハルの唇を割ってそれをからませた。  
一方ニアは、おハルの背後から先ほどまで顔を埋めていた胸に手を伸ばした。  
その尖りを器用な指でまさぐればメロと合わさったおハルの唇から甘い吐息がもれる。  
「ん…ッちょ…っと!」  
細切れに上がるおハルの声に、その薄暗い視線をメロに向けフフ…と不敵な笑みをこぼすニア。  
てめぇこの野郎とメロはおハルの茂みに指を這わせ、その先にある芽を摘んだ。  
「は…ッ!あ、やめ…!」  
びくんとおハルの体がしなりふるふると小さく震えだす。  
ほれ見たことか先手必勝だ、と剣呑に目を細めニヤリと視線を合わせあう。  
自分を合間にバチバチと火花を散らす少年たち。人の体で喧嘩はやめて二人を止めて。  
「あ!は…ッん、ちょ、と…」  
メロの指がおハルの胎内へ侵入し、粘着質な音を立ててかき回された。  
探すは一点。おハルの声に耳をそばだてながらメロは二本指をうごめかせる。  
「そんな縦横無尽に指を動かしても無駄だと思いますが」  
おハルの首筋を舐るニアの言葉で、むっかぁと眉間に皺を作り  
また意固地になってメロはぐいぐいと指を増やした。  
「い…ッ、やめて…!メ、ロ痛…いッ!」  
メロ、お前はいつも感情的になりすぎて大事な事をおろそかにしてしまうんだ…  
そんな事を思い、神妙に一つ溜息をついた唇をニアが開く。  
「上です。位置と指の角度からリドナーはきっと上付き、というものなのでしょう。」  
…一体何処で何を覚えてくるんだろうか。ロジャーかロジャーなのか。  
教壇を前に行き過ぎた性教育をする老いぼれを思い、いやいやないないと頭からそれを打ち払う。  
メロはしばし思案顔になるが、おハルにこれ以上痛い思いをさせるのは偲びない。  
くっと指を折り、モノは試せとざらついた粘膜を指の腹でかいてみた。  
「あッ!やぁあ、やめ…ッ!」  
「!…へぇ」  
「無駄な知識は明日を救う…です」  
にやと笑うニアに、お前が目指すものは金の脳か。と呆れかえる。  
だがしかし、ニアの桃色トリビアを使っておハルを攻め立てるだけでは癪だ。  
フンと一つ鼻を鳴らして、メロはおハルの胸をさまよっていたニアの手を取ると  
ぐりんとおハルの体を回転させ、溢れた蜜に濡れた付け根をニアの指に触れさせた。  
「俺はおまえのパズルを解く為の道具じゃない」  
そういうお前は人の体をパズル呼ばわりか馬鹿野郎。  
おハルはそう憤るが、散々弄くり回された体には、情けなくも力が入らない。  
はふはふ荒い息を吐いてニアを濡れた目で見つめるしかなかった。  
「ニア…」  
少年、青年、男。どれでもない、雄という顔がおハルの瞳に揺れる。  
胎内にまた違う指の形を感じればおハルの粘膜がひくりと脈打った。  
 
零れる蜜を指に絡めメロが後肛へ塗りたくるとおハルは慌てて身をよじった。  
「こっちは慣れてないみたいだな」  
腕の見せ所だ、と嬉しそうに指を進めるメロにニアが目を丸くする。  
「メロ、何を?」  
楽しげに排泄器官を弄る様に眉を顰め、じたばたと抵抗するおハルをとりあえず羽交い絞めた。  
「は、離しなさい!ニア!」  
何でそうなるんだ。言ってる事とやってる事むちゃくちゃじゃないか。  
細い腰にニアの腕が周り、むちっとしたおハルの双丘が据え膳よろしくメロの前に突き出される。  
「こっちも使えるんだよ」  
にやりと得意そうに笑い、男二人に穴一つじゃ足りないだろと、くぷり音を立てて指を埋ずめた。  
「何を…ッ馬、鹿なこと…を…!」  
メロの言い草に信じられないとふるふる首を振るおハルを、丸い目のまましばし見つめた後  
「穴を作る…なる程、懸命です」  
とニアはあっさり肩をすかし、また自分の役目とばかりにおハルの胎内にある指をうごめかした。  
 
嬲るという漢字が頭に浮かび、おハルの体にかあっと熱が篭る。  
 
「ま、まいった!まいったから許して…!」  
「これからだろうが」  
「これからです」  
 
 
知識と手管、どちらに軍配が上がったかはこれもまた甲乙付けがたし。  
本日も一件落着である。  
 

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