ここは夜神家、自室のベッドにうつぶせてパラパラと漫画雑誌を見ている女の子。  
 
彼女の名前は夜神粧裕という。  
 
少し前まで心の傷に臥せっていたが、父と兄を次々に亡くして悲しむ母に  
これ以上の負担をかけるものかと夜神家にただ一人残った娘として懸命に努め、  
長い月日を越え今では以前と変わらぬ明るい笑顔を取り戻しつつあった。  
 
もともとがポジティブで天真爛漫という言葉がとっても似合うかわいい彼女だ。  
一時は付きっ切りで看病していた彼女の母親も今ではその笑顔に幾度となく救われていた。  
それでもやはりふと眠れぬ夜を過ごしてしまったり  
母が不在の時、いてもたってもいられず不安で泣いてしまうときもある。  
小さな背中に背負うものはとてもとても大きすぎて、また崩れてしまいそうになるのだ。  
大きく丸い目が涙で濡れるとき、これはただのガス抜きだと彼女は  
自分に言い聞かせ、下を向いてしまう眼を必死で前へと戻した。  
トラウマや悲劇なんて言葉で過去を片付けてしまうなんて  
私の半生はそんなしょうもないものじゃない。  
全ては私に必然で、非力で守られるばかりだった自分のための試練だったのだと  
涙で赤くなった目を閉じ、無理矢理にでも神に感謝をした。  
 
「白い靴下萌えってやはははは…」  
 
少しだけ兄に似た漫画のキャラクターがとんでもないことを言う。  
 
大丈夫、私は負けないよ。だから見守っててねお兄ちゃん。  
 
男のロマンに拳を交わしあうキャラクターたちが写る紙面なんかを  
ついつい感傷的になって撫でていると、いつの間にか黒い影がそこには落ちていた。  
どきりと上げていた口角が引きつる。  
それは丁度人の頭と同じぐらい。でもそれは粧裕のものではない。  
 
 
 
「よう。久しぶりだな。」  
 
何故か聞き覚えのある声に顔を上げると見覚えのない外人が片手を上げていた。  
 
「ぎゃー!!」  
「ちょっおまえ!静かにしろ静かに!!」  
 
自室でくつろぐ住人にかまわずどうどうと不法進入する男の姿を目にすれば  
そりゃあ思わず叫んでしまうだろう。  
ぴたりと肌に沿って皺を作る黒皮を身にまとったその男はひらりと素早く粧裕の口を塞いだ。  
やわらかくベッドに押付けられ思わずデジャブに身をすくめそうになったが  
逆にそれは彼女の憤怒に火をともし、負けるもんかと無我夢中で男の薄い胸板を叩いた。  
「おおおい!とにかく落ち着け痛っ馬鹿!このやろ!しーっ!しーっ!」  
悪くしねえから!と自分をいさめるその男の眼光や破壊型ロックミュージシャンのような外見に  
粧裕はどう見ても悪人です。ありがとうございました。と手にした雑誌の背表紙でチョーパンを決めた。  
「ふぎゃ!」  
「け、警察…!」  
脳天にまともにくらった男が痛みにのたうち怯んだ隙に、彼女は携帯を手にすると  
着信履歴に残る「松田」という件名へ通話ボタンを押した。  
が、電波の届かない場所か、電源が…というお決まりの無機質なアナウンスが流れると  
あまりの無常さに携帯をかなぐり捨て「松田ーーーーーーーーーーーー!!!!」と叫んだ。  
こんな時に!いつものボケじゃすまされないんだから!と、粧裕はベッドを飛び降り  
とにかく男から逃げようと部屋のドアノブに手をかける。  
が、それは何故か硬く鍵がかかったように微動だにしない。  
次々と閉ざされる逃げ道に泣きたくないのにパニックで目が涙にかすむ。  
「ちょ!何で…っ何で開かないのよぉ!!」  
男の呻く声とドアノブをひねるがちゃがちゃというかわいそうな音だけが部屋に響いた。  
恐怖に肩をわなつかせる背中に男はよろよろと上体を上げ頼むから落ち着いてくれと  
こちらもあまりの痛みで思わず飛び出てしまった涙を目にため懇願した。  
「お、落ち着けるわけないでしょ。何よ何なのよぉ…」  
ひっくひっくととうとう嗚咽をこぼす粧裕に、男は痛む頭をさすりながら  
「そこまで驚くと思わないだろう…常識的に考えて…」とバツが悪そうに頭を垂れた。  
 
「…なあ、いい加減泣き止もうとか思わないわけ?」  
涙のピークを超えてしまうとその後は割と簡単にぼやーっとした倦怠感で落ち着くもので  
粧裕は先ほどから顔を伏せた指の間からちらちらと不法侵入者を観察していた。  
その派手な外見は一度見たら絶対に忘れるはずがない。初対面だと言い切れる。  
が、しかしその男の声だけは確実に聞いたことがあった。  
「…あなた、一体誰ですか?」  
粧裕が泣くばかりだと途方にくれていた男はん?と少し驚いた顔をして  
「俺は別に怪しいもんじゃないぜ。メロってんだ。」  
と懐かしくもどこかで聞いたことのある語感で名を名乗った。  
ヘビメタルな妖怪人間を知人にした覚えは当然ない。  
「ベロさんは何故私を知ってるの?」  
まだ少し怯えながら首をかしげる粧裕の問に男はすかさずメロだと訂正しつつ顔に翳りを見せた。  
「お前…俺の事覚えてないんだな。」  
「う、うん…」  
声だけは何だか知ってるみたいだけど…と粧裕は言葉を濁す。  
やはり男は知人で、自分が忘れているだけなのだろうかと粧裕は申し訳なさに視線をさまよわせた。  
先ほどとは打って変わって弱弱しく移ろう彼女の仕草に、メロは  
声だけ、ね…と、少し思案顔になり  
「なら、選ばせてやるよ。」  
と、腰を下ろしていたベッドから立ち上がり粧裕へ近づいた。  
そして彼女の頬を両手で包み視線を交わす。  
「俺が誰だか知りたいなら、思い出させてやるが…どうする?」  
にやりと片頬を上げて意地悪く笑う男に粧裕は思わず息を飲んだ。  
簡単な警告だ。男の顔にはここでやめておくべきだという意味がありありと含まれていた。  
素直じゃない子供っぽいやり方に粧裕の警戒心はほろほろ解けていく。  
「うん、ありがとう。メロさんは優しいね。」  
場違いじゃないかその言葉はと見開くメロの目に粧裕は目を伏せ、  
頬にある男の手に自らの指を添えた。  
「でも駄目。知りたい。教えてよ、メロさん。」  
確かな意志を持ち、メロを見上げるその目に  
ゆっくりと重なろうとする唇から小さく馬鹿と聞こえた気がした。  
 
 
時は遡る。  
がたがたと震える体はコンクリートから伝わる外界の寒さからだけではなかった。  
ここは何処なんだろうか。何故私はここにいる。  
助けてと声を上げるたび心底愉快だとはやし立てる男たち。  
その男たちがひっきりなしで口にする言葉は自国のものではない。  
暴れれば暴れるほど手錠は細い手首を傷付けるだけで、  
視界はアイマスクのようなもので覆われている。  
なすすべがない。これから起こりうる事を考えれば考えるほど体中の震えは止まらなくなった。  
 
「お前の名前は?」  
今までの喧騒から聞こえる男たちの声に比べて少しだけ高い声音にびくりと反応する。  
例え何者であろうとも、日本語というだけで粧裕はいくらか安堵を覚えた。  
「や…夜、神…粧裕…」  
かちかちとかみ合わない唇で必死に自分の名前をなぞらえる年端かもいかない女の子。  
彼女のその様が滑稽なのだろうか。また口笛などを吹き合い男たちはやんややんやと騒ぎ立てた。  
「あーもう、お前らうるさい。騒ぐなら出てけ。」  
何となくそんな意味をはらんでいるのであろう言葉で周りにたむろっていた男たちは  
日本語をしゃべった男に一掃されているようだ。  
しんと静まってゆくその場の静寂に粧裕はまた身をちぢ込ませた。  
嵐の前の静けさという言葉が脳裏をかすめていく。  
「も…やだ、おと、お父さん…」  
喧騒を空間から追い出して、かつかつと再び自分に近づいてくる足音に泣きながら助けを請う。  
男は目隠しの上から彼女の涙をぬぐい、  
「はは…ま、そうびびんなよ。育ちが良くない奴ばっかだから勘弁な。」  
とぺちぺち軽く粧裕の頬を叩いた。  
「で、夜神月はお前の兄。だな?」  
男の声音が低くなると粧裕はもう口を開く事ができなくなり  
こくこくとただ首をうなずかせるばかりになった。  
「それだけ聞ければ十分だ」  
にやりと男は口角を上げ、彼女から身を離すと側にあるソファへ腰を落とした。  
「も、もう帰りた、い。家に帰して…」  
「駄目だ。」  
真っ青な顔色で懇願する粧裕をぴしゃりと冷たくはねつけ、手にした板チョコをかじる。  
「まあもう少しゆっくりしていけよ。何かあれば俺に…」  
と、言いかけたまま男は深く溜息をついた。  
ここでこの状況。彼女に何かないわけがない。  
 
びくびくと怯えたままの彼女にメロは一つ質問をした。  
「粧裕。お前、処女か?」  
あまりにも生生しい問いに粧裕はそれだけで気を失いそうになった。  
「な、なんで…」  
何故そんなことを聞くのか。怖い怖い怖い。その先は考えたくもなかった。  
 
「お前に選ばせてやるよ。俺か、さっきの奴らか。」  
 
「どうせやるならどっちがいい。」  
 
「ど…どっちも、嫌…!!」  
どうせって何だ。と粧裕は絶望する。  
彼女だって普通の女の子だ。初めてだとかそんなものは関係ない。  
体を重ねるのは自分の大好きな自分を愛してくれる男だけしか考えられない。  
「お、おかしいよ。そうゆうのは…、好きな人同士がする事でしょ?」  
そんな理屈が通用する相手ではないとわかっているが言わずにはいられなかった。  
 
「は、初めてがこんなのなんて嫌!!」  
 
やっぱり処女かと肩をすくめ、メロは粧裕を値踏みする。  
東洋の若い女、しかも処女となればえらい値がつくだろう。  
さすがに彼女自身を売り飛ばすわけにはいかないが、  
ビデオにしてレイプ、輪姦モノと加われば…  
 
「こ、怖いこと言わないでよ!!」  
 
思わず口に出ていたようだ。  
とうとう本格的に泣き出してしまった粧裕にメロは  
「もういい。俺にしとけ。」  
と、まったく解決にもなっていない非情な選択をし彼女の衣服を剥ぎにかかった。  
 
「い、いやあああああああああああああぁーーー!!!!!!!」  
ヒステリックに叫ぶ粧裕の口を強引に自らの口で塞ぎつける。  
されている乱暴な行為とはうらはらにメロの唇は甘いチョコの味がした。  
 
「ん…や…っ、…やだああぁー」  
ひっきりなく流れる涙のせいで目隠し付近の頬は濡れ、  
きめ細かい肌は煽情的に光を反射させている。  
「好きな奴同士でする行為なんだろ。ならおとなしくしてろ。」  
身をよじって抵抗する粧裕を羽交い絞めるようにぎゅっと抱きしめメロは耳元でささやいた。  
「す、好きな人同士じゃないもん…っ」  
き、きすも初めてだったのにぃ…とまたひんひん鼻を鳴らし始め嘆く粧裕に  
いきなり口にちんぽねじ込まれるよりは100倍マシだろうがなどと思ったが  
これ以上彼女の恐怖心を煽っても仕方がない。  
子供を宥めるようにメロは粧裕の背を叩くと  
「俺が粧裕の好きな相手だったとして、お前はどうされたいんだ。」  
と逆に問うた。女のキーキー吉がいみたく叫ぶ声は誰しも聞きたくないだろう。  
この組織に関しては一部を除いてだろうが「言ってみろ。考えてやらなくもない」と  
粧裕を抱えたままゆらゆらと体を揺らした。  
 
「…デートするの。」  
 
馬鹿かと思った。  
一瞬、目隠し+後ろ手手錠姿の粧裕とにこやかにホテルのレストランで  
乾杯している自分の姿が頭に浮かんだが  
何プレイだよと打ち払い「それで?」とメロは先を託す。  
「デートの帰りに、好きだよ、愛してるよって言われて」  
おとなしくなってきた粧裕の背からメロは衣服の中へ指を滑らしぷつりとブラのホックを外す。  
「私も好きだよ、愛してるよって言うの。」  
そのままその手を胸の方へ移動させやわやわとそれを揉み  
もう片方の手でブラウスのボタンを外していく。  
「それから…その、…」  
「なに?」  
粧裕が何やら言いよどんでいる間にボタンをすべて外し終え、  
小ぶりだがつんと上を向いた胸を外気にさらして楽しんだ。  
「き、キスするの!」  
ぎゃっ!言っちゃった!と言わんばかりの彼女だが、乳首放り出しといて  
今更キスもへったくれもあるかとメロは粧裕の首筋に唇を滑らせる。  
「…っ!聞いて…ます、か?」  
くすぐったそうに身をよじる粧裕に「うん」と髪を撫で耳を舐る。  
「でも聞きたいのはそうじゃなくてこっちの事なんだが。」  
つうと膝から太ももへ指を蛇行させ下着の上から爪で芽を弾く。  
「へや…っ!?」  
初めてのその刺激に驚き、大きく体をびくつかせ粧裕はメロから身を離す。  
「感じた?」  
にやとメロは猫のように笑うと粧裕の膝を自らの片足で割り更に刺激を与え続けた。  
「あ…っやだ!ちがうっちがうもん!」  
メロの指から逃れようとしてもコンクリートの壁に背を押付けるだけで  
粧裕に逃げ場なんて到底ない。  
「何が違う?ほら、足震えてるぞ。」  
「んっやぁ!だめなのっちがうのぉ!」  
「だから何が?」  
「き、キス!最初はキスからなのっ!」  
 
はあ?  
またわけのわからないことを、と鎖骨に這わせていた舌を乳首に沿わせ  
胸をまさぐっていた指を円を描くようにその頂点へと滑らせる。  
「…さっきしただろ。」  
「ふ、やぁ…ふつ、ぅの…っ」  
普通のがいいのと首を振る粧裕に「ん」と0.5秒ほどのキスをやる。  
するとぽぽぽと頬に赤みがかかり彼女は照れくさそうにへへと笑った。  
そういえば女ってキスすんの好きだったなと思い出す。  
たいして気持ちがいいわけでもない。何がいいのかわからないが  
それで粧裕がおとなしくしてるならと頬に額に鼻にそして唇にとキスを繰り返した。  
二つの手錠を十字にして配管につながれている粧裕を尻ポケットに入った鍵で開放する。  
さすがに二つともを外す事はできないから後ろ手のままの彼女をソファへと沈めた。  
「ん…」  
繰り返されるキスで赤く染まった唇を舌でわると彼女の小さな舌を追いかけ、からませる。  
体のラインを愛でるようになぞれば喉がくつくつと鳴った。  
ふはと荒く呼吸をする粧裕から唇を離し、  
「で?次は?」と注文を問う。  
キス一つなかなか言い出せない彼女の口にとんでもない事を言わせてやりたい。  
羞恥心てものがここまで男を興奮させるものだなんてメロは初めて知った。ヤマトナデシコ万歳。  
「つ、次は…服、脱ぐ…?」  
「今更か。…動くなよ。」  
ブラウスは手錠に巻きつけスカートはそのまま脱がす。  
下着類はどうにもならないのでナイフで切った。  
肌に触れる冷たいものに震える粧裕を見たさにメロは何度かこっそりと無意味にナイフを這わせた。  
「ん。次は?」  
「え、えーと…抱きしめる?」  
ぎゅっ。  
「次は。」  
「…き、キス…する…?」  
ちゅっ。  
「次。」  
「え。う、うーんと…抱きしめる??」  
ぎゅっ。  
「次。」  
「え、え、えーっとぉ…」  
 
まだるっこしい。なんか正直ナデシコ面倒くさい。とメロは一つ溜息をついた。  
「…俺に任せるか?」  
粧裕を胸に抱いたまま彼女の耳元に問いかける。  
戸惑いつつも「そ、そうします…」と小さく頷いた粧裕の唇に深く口付け、髪を撫でた。  
 
メロはまず粧裕を跪かせるとその口元に己の茎を突きつけた。  
「な、何?」おろおろと不思議がる彼女に「歯を立てずに咥えろ」と指示を出す。  
言われたとおりに口いっぱいで己を咥えた頬を両手で包むと  
そのまま舌這わせてろよ、とやわらかくストロークを繰り返す。  
「ン…ひゅ…っは…」  
じゅ、じゅ、という濁音を響かせて苦しそうに眉を寄せる粧裕は艶めかしく、  
粧裕の白い肌と赤い唇に己の物と目隠しは絶妙な色合いを飾っていた。  
「ん…粧裕、奇麗。」  
思わず出たメロの言葉にまたその色合いはくるくる変化する。  
頬から首筋へ、肩、背中へと手のひらを遊ばせて長い髪を一通り愛しみ  
もう少しそうしていたい気もしたが「もういい。」と粧裕の半身を離した。  
 
ぼうっと膝で立つ粧裕の顎から胸へと飲みきれなかった唾液が落ちる。  
それを指で頂点へ伸ばしきゅうと摘まむと粧裕は屈むようにメロに体を預けた。  
「ぁ…、んーっ…うやぁ…」  
「立てないほど気持ちいいか。」  
ふにゃと崩れそうになる粧裕の体を反転し、メロの胸を背もたれに彼女を自分の膝に跨せる。  
そしてついと膝を割るといやいやと粧裕は身をひねった。  
股座を大きく開かれた自分に恥ずかしさで耳にまで熱がこもる。  
やめて降ろしてと抗議をする彼女を無視して、メロは  
肩先にぐいと顔を乗せるとくいくいと割れたひだとその付け根の芽を弄んだ。  
くぷっと音を立てて人差し指を割れ目へ潜り込ませれば  
いよいよ粧裕は耐え切れないように体を震わせる。  
「や…っそれ…やだ、いやぁ…っ」  
初めてそこに感じる異物感に彼女の体は面白いほどにはね、背が反った。  
一本また一本と粧裕の胎内へメロの長い指が侵入し  
ぎちぎちと限界まで指を蠢かせ最奥を蜜をかきだす様に指先でなぜると  
粧裕は一際高く声を上げた。  
「も…、やめて…っ?なんっ…か変、なの…っ、怖、いよぅ…」  
イクか?と動きを早めるとあっあっと指に合わせて粧裕は鳴き  
最後にびくっと大きく体をしならせてメロの手には飛沫が飛んだ。  
は、は、と自分に身を預けだらしなく口元を開いた粧裕に飛沫のついた指をしゃぶらせると  
もう十分だよなとメロは粧裕をソファへ寝かせる。  
 
ろくに力の入っていない華奢な片足を持ち上げ肩に乗せようと膝裏を掴むと  
それはかたかたと小さく震えていた。  
「怖いか。」  
こく…と頷く粧裕の頬を撫でメロは「次は?」と問う。  
「まだ何かあるんだろう。聞いてやるから言え。」  
きっと今夜にでもメロの同胞たちは粧裕の元へしげしげしく通いだす。  
同情といえばそうかもしれないが、少しぐらい夢を見せてやるのもいいんじゃないかと思ったのだ。  
手ぐすね引いて待っているその近い夜を知ってか知らずか  
目隠し下の粧裕の目は涙に濡れ、彼女はすんと一つ鼻をすする。そして  
「名、前呼んで…好き、て言ってほし…い」  
と、小さな声でつぶやいた。  
「…わかった。」  
手錠を外してやることも目隠しを取ってやることもできないが  
それぐらいならしてやれる。オプションでキスも一つ付けてやろう。  
メロの肩に粧裕の片足が担がれ、その付け根にメロの茎があてがわれる。  
あらためて見る粧裕の体は真っ白で、穢れる前の体に一通り指を滑らすと  
メロは体を押し込めると共に華奢な肩に噛み付いた。  
「―っ…痛…、いっ…!!」  
縦に大きく裂かれた中心と肩口にちかちかとまぶしいほどの赤が滲む。  
「粧裕」  
苦痛にゆがむ眉と目隠しの向こうの眼を思いながら  
粧裕。と名前を呼ぶ。  
こつんと額と額をあわせ、やがてゆっくりと唇を重ねてやる。  
「好きだ。大好きだ。」  
とまた名前を呼べば  
「あり、がと…」と  
粧裕は小さく、また照れくさそうに笑った。  
 
「少し我慢な。」  
自分の肩に乗せた足にも小さくキスをして、バランスを取る為にメロは上体を起こす。  
「ん…!ィ、た…っ…!」  
少し動いただけで粧裕は痛みに身を強張らせるが  
きつく締まったそこはメロを咥え込んで離そうとしなかった。  
「…っ、力抜け、俺も少し痛い。」  
強すぎる締め付けにメロは眉をひそめながらゆっくりと半身を進退させる。  
「も…も、だめ…!」  
「早ぇよ。」  
黙って力抜いてろと、粧裕の言葉にかまわず、  
リズムのペースを上げ、進退する距離の幅を広げていく。  
「む、むりだよ、ぃッたぃ、も、くるし…」  
粧裕が悲鳴を上げる度に尚もそこはメロを締め上げ、ぎちぎちと赤い雫をこぼした。  
「…い、たいよ、た…ッ!ね、もうやめよ?、やめてよぉー…!」  
しくしくと泣き出した粧裕にメロはげんなりと彼女の髪を撫でてやる。  
これだから処女は嫌なんだ。いいって言ったりだめって言ったり。  
その度に男は絶望ビリーだ。勃起止まらない永久に、だ。  
「すぐに良くなる。俺に任せるんだろ。」  
悪くしないから落ち着け、辛いなら噛んどけと  
メロは愛用している皮手袋を粧裕の唇に押し込んだ。  
 
「ふ…ぅッ…ンッ、ン!・・・」  
粧裕が強張る自分を懸命に宥めようとも、  
彼女の小さな体は男を受け入れるにはあまりにも幼かった。  
「つ…!」  
初めに比べればいくらかはマシだがやはりまだちょっとそこはキツイ。  
腰を進めながら肩に上げていた粧裕の片足をまた大きく縦に広げると  
中心を濡らしていた赤色にわずかだが透明度が増していた。  
その蜜を親指で伸ばしその上の芽へ塗り潰しながら少しだけ腰をグラインドさせる。  
「ひゃふっ!」  
びくんと粧裕の体が波打ちメロはニィと口はしを上げた。  
ぐりぐりと親指の動きを強め、奥をかき回すように刺激を与えれば  
粧裕の眉が切なそうにひそめられ、くぐもった高い悲鳴を上げる。  
抱えた足のラインをべろりと舌でなぞり、進めた腰を一気に引きまた奥を突く。  
「ッ!ふぅぅー…ッ」  
ふいにメロは「辛そうだしもうやめるか?」と粧裕の芽をピンと一つ弾き問いかけた。  
「ふあ…ッ!?」  
思いやりのある言葉の割りに彼女を貪る体は休めずに  
「俺も痛いの嫌だし…」等と口ぶり、粧裕の腰に指を蛇行に這わせる。  
「んん…っ、んー、んーっ!」  
むがむがと必死に口を動かし、首を振るわせる粧裕の唇から手袋を抜きさると  
「粧裕も痛いの嫌だもんな。」とメロは彼女の奥に自らを沈めたまま腰を落ち着かせた。  
「い、意地悪!」  
「何が?」  
俺は優しいだろ。等とのたまい、自分を見下しているだろうメロに  
粧裕は荒い息を吐きながら真っ赤に頬を染めぽそと呟く。  
「…で…せて。」  
「聞こえない。」  
「もうやだ!変態!えっちスケベ!」  
「変た…!わかった、やめる。」  
ず、と言葉とともに己を引くメロに粧裕は身をよじって叫んだ。  
「や…っ、やめないでいかせて!ばかぁ!」  
 
根元まで一気に押し込み、抜けるぎりぎりまで腰を引く。  
「馬鹿は余計だ。」  
 
「きゃっあ…ぁ!いやぁッああぁあっあっ!」  
粧裕の望みどおり何度かそれを繰り返し続けてやり  
「変態に「いかせて」…か。淫乱。」  
と組み敷いていた方の片足を持ち上げメロは愉快そうに笑う。  
体をつなげたまま粧裕の腰を抱えてソファに座った自分と向き合うように跨らせると  
「イキたいなら自分で動け。」  
とメロは粧裕の小ぶりな尻を叩いて要求した。  
 
「そ…そんなの、できないよ…」  
ふるふる頭を振って粧裕は拒絶するが、  
メロは小馬鹿にナメた口ぶりで、俺馬鹿だからあいきゃんとすぴーくじゃぱにーず。と  
そ知らぬ顔で粧裕の赤い胸の突起を舌でべろりと舐めた。  
「…ぷ、…ぷりーずむーぶ…えと、あんだーざみー???」  
合ってるのか合ってないのかわからない英語で粧裕は対応してみるが  
勿論そんなものは通用しない。  
しばらく粧裕は戸惑ったまま微動だにせず  
ぴちゃというメロの舌が這う音だけが部屋に響いていたが、  
やがてその胸の甘い刺激に急かされたように  
粧裕は自らの芽をメロの茎へこすり付けるように、しずしずとメロを身に沈めていった。  
「ん、ふ…ッんん…」  
顔どころか耳、首筋、体中にまでその色が広がりそうなぐらい真っ赤になって  
ゆるゆると腰を振る粧裕に  
「変態、えっち、スケベ。」  
と、粧裕の言葉を復唱しながら軽く腰を打ちつけて手伝ってやる。  
「ッ!ゆ、ゆるしてよぅ…謝る、…ッあやまるから…」  
己の失言への懺悔か、繋がった体の中心から広がる快感からか  
粧裕の瞳にまた涙が染みる。  
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と  
何度もメロの茎にすがりつくようにして体を揺らし粧裕は許しを請うた。  
 
「全然イケそうにないな。」  
「も…や…っ、ごめ、ごめんなさ…ぃ、も、できないぃ…」  
ひくっとしゃくりあげながらきっと精一杯で体を繋げる粧裕に  
文字通り重い腰を上げ、粧裕の膝裏に腕を通して彼女を持ち上げる。  
そしてそのまま腕の力を抜き重力のままに粧裕を落とした。  
「あああぁッ!!!」  
一気に貫かれ粧裕は背を反らせて高く嬌声を上げる。  
彼女の細い腰を抱き自分勝手に焦らされていた分メロはたっぷりとその体を貪った。  
「ひぁッんやっあぁあ、んッ、ああぁぁ…」  
指で触れていたポイントを探り、カリでえぐる様にそこを刺激すれば粧裕の体は容易にはねる。  
そして離さないでと言わんばかりに蜜壺はメロを締め付けた。  
「んッ…ゆ、て…って!ふあぁっ…で…ッ」  
「何?」  
聞こえないと粧裕の小さな頭を片手で手繰り寄せ耳元に唇を這わせる。  
「さい、ご…にっ!なま…え…っやッも…っ!」  
最後か。  
粧裕の言葉にメロは何だか妙な気持ちになり、彼女の髪をなでる。  
あらためて言葉にされると少し彼女を手放すのが惜しい気もした。  
用が済み、邪魔になら勿論殺してしまうつもりだ。  
もしくは彼女に神が味方すれば家族の待つ家へと帰るのかもしれない。  
いずれにしても、再び会う事はないだろう。  
これでさよなら。うん、最後だ。後のことは知ったことではない。計画通り。  
がくがくとメロにもたれ掛かり、震える粧裕の体は限界に近い。  
自分を抱きしめたかもしれない両腕は後ろ手で、  
メロは変わりに彼女の細い腰を折れる程に抱きしめた。  
「…粧裕。」  
「も、と…!」  
「んッ粧裕…っ。」  
きっとたぶん一度きりであろう逢瀬の時間を二人で貪りあう。  
瞬間、びくんと大きく粧裕の背が震え、彼女は高く嬌声を上げた。  
「あ、やッ…だめ、あ、あ…ッ―…!」  
きゅうっと一層強く締め付けるそこに粧裕の腰を押さえ、深く深くへ己を沈めると  
メロはせめて「また、な」と唇だけで呟き快楽に目をふせた。  
 
「…粧裕。」  
あの頃よりいくらか低くなったメロの声音に  
粧裕は一筋の涙をこぼした。  
「思い、出した…。」  
粧裕はあの見知らぬ国で過ごした数日に全てを失ったと思っていた。  
プライドも幼さも普遍な日常や女としての喜びも  
何一つそこには残されていなくてぼろぼろの自分しかいなくて。  
だからもう怖いものなんてないと前を向いて粧裕は立ち上がったのだ。  
自分はあれを乗り越えたのだからもう何にだって耐えられると。  
父の死も兄の死も残されてしまった自分と母と眠れぬ夜も。  
あんなものに負けるものかと歯を食いしばって一人の夜闇に耐えた。  
だけど今、空だと思っていたパンドラの箱の底に希望を見たのだ。  
 
月明かりだけが光源の自室で粧裕はメロの頬に触れる。  
 
思い出して後悔したか。と今更バツが悪そうに自分を見下ろす男。  
自分を見下ろす彼を粧裕はぎゅうと抱きしめる。  
けして恋とは呼べない。友達という言葉にはあまりにも余計なものが多すぎる。  
彼に対するこの好意に名前をつけることができない。  
幼くも優しい彼の記憶と、知った素顔と名前を粧裕は抱きしめた。  
「メロ、久しぶり。」  
こつんと重ねられた額にメロは笑い、もう一度唇を合わせ…  
「あ、そうだ。ついでだから言ってもいい?」  
…ようとしたメロに、へへへと粧裕は悪戯っぽく笑う。  
どうも彼女を相手にするとメロは調子を狂わされてしまうようだ。こやつめ、ははは。  
「メロ、あの時一つ言い忘れがあるんだよ。」  
…まーだ何かあるのか。  
曲りなりとも誘拐犯に夢を見すぎてるんじゃないのか。  
彼女らしいといえばとても彼女らしくて、変わらない姿にメロはつい溜息をついた。  
「名前呼んだ、好きって言った、キスもした、後は何だ?」  
どうすればいい?と、しぶしぶ自分がうつる粧裕の眼を覗いてメロは問う。  
目隠し下にあった粧裕の瞳はチョコレート色で  
柔らかく半月にゆがんだその縁取りは好ましく  
ま、処女膜破った男の責任ってのも悪くないかもなと少しだけ思った。  
 
「愛してるって言ってない。」  
「メロ、世界で一番愛してる。」  
 
 
「なあ、もう一回言わないか。」  
「もー!!!!しつこい!」  
今更自己紹介し合ってお互いの年齢に驚き、またちょっといちゃいちゃして  
小腹がすいたと部屋にあったポテチとチョコで再会を祝って乾杯して。  
その間中ずっと。延々とメロは粧裕にもう一回、もう一回とせがむ。  
 
「 も う 一 回 !! 」  
 
はぁと思わず出た溜息に思う。やはり自分に男運は無いのかもと少しだけ神様が恨めしい。  
メロと粧裕をめぐり合わせた新世界の神様はきっと今頃泡吹いているだろうけれど。  
ベッドに寝転がりぽりりとポテチをつまみながら粧裕は面倒くさそうに唇を動かす。  
 
「メロ、世界で  い ち ば ん  愛してる。」  
 
立ち膝で両手を空にかざし、そこに照明でもあるかのように感動に打ちひしがれる男。  
なんか絶対自分には関係の無いことで喜んでるなと粧裕は思う。女のカン。  
 
ふいにガチャリと玄関の扉を開ける音が聞こえた。  
窓の外を見ればいつの間にかそこには真っ青な空が広がっている。  
am7:00。母が夜勤から帰ってきたのだろう。  
「粧裕ー!」と自分を呼ぶ声に粧裕は開かないドア越しに耳をそばだてた。  
「ど、どうしよう。階段あがってきてる!」  
しかしメロはひょうひょうと笑いながら両手を挙げ、すっと片手はドアノブを指差す。  
カチャリという金属音が響き、粧裕がノブに触れると昨晩とは打って変わってするりと素直に戸は開いた。  
「粧裕、愛してる。」  
その言葉にメロを振り返る。が、そこには何者もおらず粧裕はぺたりとフローリングにへたり込んだ。  
 
 
「…メロ…?」  
 
 
「どうしたの粧裕?ぼーっとしちゃって。」  
ただいま。と優しく微笑む母に今目の前で起きた事を話してもいいものだろうか。  
いや、過去をはらむ話でいらぬ心配はかけたくないと、粧裕は笑顔を作る。  
「なんでもないよ。」  
「…そう。」  
少しだけさみしそうな母の顔に驚いた。  
「何かあったのならお母さん話聞くからね?」  
「え、あ…うん。」  
一階へと踵をかえす母の背にもしかしていつもあんな顔させてたのかなと  
粧裕はぎゅっと胸が苦しくなる。  
「あ、あのね、昔の知り合いとお話したの!それだけ!」  
階下にいるその背中に粧裕は叫ぶと、自室の戸を逃げるように閉めた。  
ぱちぱちと目をしばたかせ驚く母親は久しぶりに聞いた  
娘の幼い口ぶりにやがて目を細め笑った。  
 
何だかどきどきと高鳴っている胸を押さえ、粧裕はぱさりと上着を脱ぎ捨てる。  
ドレッサーの鏡で見る肩口に、ちゃんと残る丸い傷跡。  
 
「メロ。」  
 
何かがまた見えた気がしたよ。  
 
妖怪でも何でもいいから、どうかまた眠れぬ夜は会いましょう。  
今度はもう忘れないからね。と鏡にうつる傷に指を滑らせる。  
どこからか「ありがと。」と聞こえた気がした。  
 
 
 

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