その日は月にとっても海砂にとっても待ちに待った引越しの前日であった。  
現人神を目指す月にとって邪魔な邪魔な存在だった  
世界一の探偵『L』亡き今、もはや月をキラだと疑う者は誰も居なくなった。  
ようやく自分の家に数ヶ月ぶりに戻った月だったが、十日を待たずに  
引越しを決めてしまったのだ。  
折角帰って来たのに、と母親には反対されたが、  
そうは言っても月のバイブルとも言えるデスノート、母が居て妹が居て、  
万が一触れられる事があろうものなら、  
たちまち死神リュークの姿を目撃されて、ノートに名前を書くまでもなく  
心臓麻痺で死なれてしまっては困る。  
やはり、新世界の神を目指すなら、この家は出た方がいいと考えたのだ。  
そうすれば誰にも気兼ねなく裁きが出来る……クールに振る舞いながらも  
その表情は心なしか嬉しそうに見えた。  
ミサはミサで、いよいよ明日からは愛しい月との同棲生活が待っているのだ。  
同棲……つまり月との新婚さながらの、めくるめく甘い甘い生活が約束されている。  
そう思うとミサは嬉しさを隠し切れず(いやもともと隠そうとも思っていない)、  
いつも以上のハイテンションぶりである。  
「ね〜月、この卒業アルバムって月の中学生の時のだよね?!可愛い〜!」  
「月ってこんな難しい本ばっかり読んでるんだ。すっごーい」  
「あ、これって月が描いた絵?上手〜!」  
引越しの手伝いだと無理矢理家に上がりこんだミサだったが、  
その大部分の時間を月の持ち物検査に費やしていた。  
結局段ボールに荷物を詰め込む作業もほとんど月一人頑張っている状態である。  
最初はそんなミサを放置していた月だったが、一時間もすると流石に  
話しかけられること自体も億劫になり、次第に苛々が募っていく有様で。  
 
「ミサ……手伝う気が無いなら少し黙っていてくれないか?  
気が散って仕方が無いんだが……」  
「あ、ごめんごめん月!私手伝いに来てたのについ。  
今からは真面目に手伝うからぁ!」  
注意されて、てへっと苦笑いながら可愛らしく舌を出す彼女に、  
月はやれやれと言った面持ちで再び作業を再開する。  
「じゃあ、私はこの引き出しの中片付けるね〜」  
「ん?…ちょっと待て!そこはっ…!!」  
…………遅かった。  
「あ……これって…」  
そこは月の下着類を入れた引き出しで、中にはトランクスやらシャツやらが  
几帳面な月らしく綺麗に整頓された状態で並べられていた。  
「…勝手に人の引き出しを開けるなと教育されなかったのか、お前は…」  
流石に女性に自分の下着を見られるのが恥ずかしい年頃である。  
「ごめーん!でも明日からは私たち一緒に住むんだから、  
これからはミサが月の下着とか服とかお洗濯するんだよ?  
別に今見たって変わらないじゃん!」  
「そういう問題か!?」  
「あ〜月照れてるんだ!可愛い〜!」  
全く反省の色を見せないミサに、いい加減キレ気味の月だったが、  
ここでキレたところで作業が進むわけでも無い。  
我慢だ、我慢。  
「…とにかく、ここは僕が片付けるから、ミサはあの本棚の本を  
段ボールに詰めておいてくれ……もう遊ぶなよ?」  
「まっかせて!ミサ頑張って月の役に立ってみせるから!」  
 
ざっと計算すると、おそらくミサが手伝い改め邪魔をしに来た事で約三十分程  
作業時間のロスが生じているはずである。  
自分一人だけで作業するならばもう少し手早く出来ただろうに……心の中で嘆いた。  
それでもようやくミサも真面目に手伝う気になったらしく、今までと比べて  
倍以上のスピードで作業がはかどっていく。  
遅れた時間を取り戻す事が出来ると、安堵した矢先である。  
「月、この本おも〜い!月ってこんなのばっかり読んでるのね。  
何書いてるのかさっぱりわかんない。」  
……またか。  
「建築の本かな?月って本当に何でも興味あるんだね〜尊敬しちゃう!  
漫画とか読まないんだ〜」  
…どうやら彼女の集中力は三十分持たないらしい。  
あんまりうるさいようなら追い出そう。そう考えていた時、  
彼女の言葉に、忘れていた何かを思い出しそうになった。  
『建築の本』?そう言えば……  
「ん?何これ、カバーの中に薄い本がいっぱい……え?」  
 
ドサドサドサ……  
 
月は明らかに何冊もの本らしき物体が床に落ちたのであろう音を聞いて、  
はっきりと思い出したのである。  
顔が一気に青ざめていった。  
「み、ミサ、ダメだそれは…!!」  
「やだ…月、これって…!」  
ミサよりも先に取り上げようと慌てて手を伸ばすが、残念な事に  
一瞬早くミサがその本を拾い上げる。  
「ミサ、返せ!」  
「きゃー、これって、もしかしてえっちな本!?月ってこんなの読んでるの!?」  
 
表紙はどこかで見た事あるようなグラビアアイドル、  
中には裸の女性が魅惑的なポーズで写った写真や官能小説等……  
その他の本も似たり寄ったりの内容で、中には最近活躍中の  
アイドル特集などが載っている。  
「うわー…すっごい……月もやっぱりこんなのに興味あったのね…  
その上意外とミーハー……?」  
顔を赤らめエロ本を凝視するミサ。  
「ミサ…断じて違う。いいか、よく聞いてくれ。それは以前Lに監視されていた時に  
部屋に誰も入れないのはそんな本を隠している自分を知られたくなかった  
という、言わばカムフラージュのようなもので……」  
「月……言い訳なんてしなくていいのよ?私はそんな事で月を嫌ったり  
しないから安心して?」  
「だから違うんだ!人の話をちゃんと聞いているのか!?」  
「もう、月ったら…こんなのに興味があるんなら、いつでもミサが  
見せてあげたのに……本当に照れ屋さんなんだから」  
「……」  
ダメだ、人の話を聞く娘じゃない……。月は確信した。  
確かに普通の高校生や大学生ならば、そんな本の一冊二冊隠し持ってて当たり前なのだろう。  
しかし、何と言っても彼は新世界の神を目指す崇高なる人間なのだ。  
そんな自分が、部屋にエロ本……なんというイメージダウン。  
「ミサ……僕は本当にそんなものに興味は……」  
「○○は××に獣のようにまたがり、下着を脱がし…」  
「そんなもの真剣に声に出して読むなぁぁ!!」  
あああああもう、何だかどうでもよくなってきた。エロ本を持ってて何が悪い。  
僕だって一応17歳の男だ、エロ本の数冊位普通に持ってて当たり前なんだ。  
そう自分に言い聞かせ、ミサに背を向けて作業に戻る。  
それに僕は何もやましい事なんてしていないのだ、これはあくまで疑いから  
逃れる為の一つのカムフラージュだったのだ。  
間違っても他の奴らのように性欲の為に購入したわけでは無い。  
乱暴に荷物を段ボールに詰めながら、自分自身を納得させる月。  
 
そんな月を尻目にミサは官能小説を読みふけっている。  
ようやく読み終わり、ぱたんと本を閉じると、そこには顔を真っ赤に染めたミサが居た。  
後ろの月をちらりと一瞥し、何事かを考えている。  
「ねー、月?」  
「…何だ?」  
「…ミサとこの小説とおんなじ事、しない?」  
 
……バサッ  
 
思わず持っていたテキストを落とす月。  
「お前……今度は何を…!?」  
「えいっ!」  
「うわっ!!?」  
 
ドサッ  
 
振り向いた月は、次の瞬間ミサに押し倒され、カーペットの上に倒れこむ。  
「ちょっと待て!おい、ミサ!?」  
「月、いいでしょ!?ね!?」  
「何そんな本に影響受けてるんだ!?」  
「いいじゃない、明日からはどうせ一緒に暮らすんだし。予行演習しよ?」  
一度思い込んだら激しいミサである。今まで何度彼女の一途さ(?)に  
手を焼かされてきた事だろう。  
必死にミサの説得を試みた月だったが、やはりと言うか人の話を聞かない。  
月は考える。確かに、ここで拒む理由と言うのも特には見当たらないのだ。  
むしろ、男の本能としては喜ぶべきところなのだろう。  
おあつらえ向きに今家族は全員留守である。  
据え膳食わねば、という格言もあるではないか。  
ならば、いっその事……と考えたのだが、一つ問題がある。  
 
僕は、果たして上手なのだろうか?  
 
そんな疑問が浮かぶ。  
自慢では無いが、これまで女の子と付き合ってきた経験は両の手の指では足りない程だ。  
その女の子たちは揃いも揃って月にメロメロで、キスだけなら誰にも負けない自信がある。  
……しかしいつもそこまでだったのだ。  
つまりまだ女性経験はゼロである。  
しかも、やり方もよくわからないときた。  
優等生として、本当にエロ本などはカムフラージュ的なもので止まり、  
アダルトビデオ等は一切見た事が無い。  
さっきミサが読んでいた官能小説なども一通り目を通して見ただけで、  
具体的な内容までは覚えていない。  
今となっては何故もっと真剣に読んでおかなかったのかと後悔が募る。  
ミサが初めてなのか経験があるのか等は聞いた事無いが、仮に  
彼女を抱いてみて、『下手』だと思われるのは彼のプライドが許さなかった。  
しかし自分の人生において、一生童貞というのはもっと許せないものもある。  
これは、いつかは乗り越えなければいけない壁なのだ。  
以前リュークに手先が器用だ、女にモテるだろうと言われたのを思い出す。  
確かに自分でも手先は器用な方だと自負している。  
そうだ。大丈夫だ、僕なら…………多分。いやいや、絶対に。  
「ミサ……」  
「月……」  
頬を染め、うっとりと目を閉じるミサ。月は上半身を起こし、ミサの小さな唇  
に口付けた。  
 
「ん……」  
ぷっくりと弾力を持った唇は、僅かに月の唇を押し返した後、更に深く彼を  
受け入れようと追いすがる。  
半開きの唇に、そっと月の舌が差し込まれた。  
ミサも積極的に月に舌を絡ませた。ざらざらとした感触が互いの  
結合を更に濃密なものにする。  
くちゅ、くちゅと唾液が混ざり合い、とろっと生暖かいものがミサの開いた  
唇の端から流れ落ちる。  
溜まった唾液がミサの口内に逆流し、こくり、とそれを飲み干した。  
「ぷは……」  
月が唇を離すと、ミサははぁはぁと乱れた呼吸を繰り返す。  
「月って……すっごくキス、上手……気持ちいい……」  
恍惚の表情で月を見上げるミサに、月は僅かに気をよくする。  
何しろキスには自信があった。…キスには。  
「ミサ……一つ聞いていいかい?」  
「ん…?何?月」  
とろんとした目のミサに、月は是非ともここで聞いておいた方がいいと思ったのだ。  
「ミサは……他の男とこんな事した事があるのか?」  
「え?無いよ……月が初めてだよ…?」  
「そうか……」  
――良かった…これで他の男と比べられる心配だけは無さそうである。  
月は思わずほっとしたような表情を見せた。  
まさかそんな心配を月がしていると思わないミサは。  
「嬉しい、月…!嫉妬してくれるなんて……幸せだよ、こんなに月に愛されて…  
心配しないで…ミサには月だけだもん…!」  
目に涙を浮かべて喜ぶミサに、内心複雑な思いを抱える月だったが。  
「じゃあ……ミサも聞いていい?月は……どうなの?」  
「―――…すまない、ミサ……僕は…君が初めてじゃないんだ……」  
さらりと出た大嘘に、自分自身にプレッシャーがかかる。  
 
「そんな…!誰なの!?この前東大で一緒に歩いてた人…!?」  
哀しげに聞くミサに、月は取り合えず真実と嘘を混ぜ込みながら言い聞かせる。  
「いや、彼女じゃないよ。ミサの知らない人だ。名前を教えるわけにもいかない。  
ミサの事だ、デスノートに名前を書き込まれても困る…それに、一人や二人ってわけじゃないから…」  
一体この口はどこまで嘘をつけば気が済むのだろうか。  
「ええ!?そんなの、ミサ……嫌だよ…!」  
とうとうぐずり始めたミサの唇にもう一度ちゅ、と口付けた。今度はほんの数秒触れただけで、  
すぐに彼女から離れる。  
「安心しろ、ミサ……もうその女の子達には何の未練も持っていないんだ。  
今は……君だけだよ、ミサ…」  
「本当?月…」  
「ああ、もちろんだ…」  
そう囁いて、ミサの小さな身体を抱きしめる。  
「嬉しい…月……でも、だったら月って経験豊富なんだね……  
本当はミサ、初めてでちょっと怖かったの……ちょっと心強いな…優しくしてね?月…」  
 
 
…………………………。  
 
自業自得――月が初めて思い知った瞬間であった。  
 
 
「ミサ…大丈夫だ、僕に任せて…」  
もはや嘘が日常となっている月にとって、真実を伝える事の方が難しいようである。  
動揺を隠すのも得意な月は、うっとりと目を閉じるミサを押し倒す。  
僅かに力を込めただけで、待っていたましたと言わんばかりにミサがころんと  
仰向けに倒れこんだ。  
 
取り合えず、自分の持っている全ての知識をフル動員させる。  
確か、あの小説では……。  
「っ、あ……!」  
ミサのほっそりとした首筋に、唇を落とす。  
ちゅ、と音を立てて吸うと、ミサの肩がびくりと震え、顎を仰け反らせる。  
白い首筋に紅く鬱血した痣が浮かびあがった。  
それを見て取り、顎下から左の鎖骨まで、ゆっくりと舌で舐め上げていく。  
鎖骨の窪んだ部分を何度も何度も舌でなぞると、  
焦れるような感覚に、ミサはもどかしげに声を上げる。  
「はっ…、月…!」  
甘い響きを含んだ声が自分の耳に届き、ミサ自身が驚いた。  
(やだ……ほんとにこんな声…出ちゃうんだ…)  
さっきの小説を読んでいた間は、少しオーバーなんじゃないのかとか、  
そんな事を思っていたのだが。  
実際に好きな人にこんな風に触れられてしまうと、  
こんなにも切なくて甘美なものであるのだとミサは初めて知った。  
「ん、く……月…」  
「ミサ……」  
月の手はミサのキャミソールを胸元までたくし上げ、滑らかな素肌に触れる。  
「月、恥ずかしい……」  
頬を今まで以上に赤らめて、ミサが目を伏せる。  
キャミソールとブラジャーの黒と対照的な白い肌が現れて、そのコントラストが  
月の欲をそそった。  
吸い寄せられるかのように、月は黒いブラジャーを上に押し上げると、  
ミサの形のよい胸がふるりと現れる。  
 
「や、やぁっ……」  
恥ずかしげに身を揺するミサのピンク色の突起に、月は舌を這わせた。  
もはや小説云々、知識がどうとかよりも、彼自身がそうしたいと思ったのだ。  
「あ、あっ……月……」  
月の生暖かいぬめった感覚に、ミサは痺れた。  
金縛りにでもあったかのように身体が強張り、自らの胸を弄る月の姿に目が釘付けになる。  
(月が……私に……)  
身体の芯が、仄かに疼く。それはとても甘い感覚だった。  
疼く内部から生暖かい液体が溢れ始め、下着が濡れていく感触が少し気持ち悪かったけれど。  
しかし。  
「月ぉ……っ……!」  
 
――気持ちいい……  
 
甘い声が、月の次の行動を誘う。  
初めて触れる女性の身体は、あまりにしなやかで、艶やかで、甘くて、柔らかで。  
ミサの艶めいた声が頭に響き、月の欲望をそそった。  
(くそっ……!だめだ……この僕が…!)  
プライドなんて捨ててしまえとばかりに、月はミサの短いスカートの中に  
手を差し入れる。  
「やっ…!?月っ……ぁ…っ…」  
つい先程までの月の計画では、あくまでクールに、大人っぽく、  
冷静に……と思っていたのだが、初めて味わう女性の身体に、甘い声に、  
たちまち理性が崩れていく。  
スカートの中のミサの谷間に手を触れると、そこは温かく、しっとりと  
湿り気を帯びていた。  
「ミサ…!」  
(これが……濡れているっていう事か……)  
確かに、ミサは感じているのだ。自分の愛撫に。  
上手なのか、下手なのか。それさえもわからないけれど、でも確かに。  
 
「…気持ち、いいのか?ミサ……」  
聞くと、ミサの頬がぼっと赤くなる。恥ずかしげに目を伏せて、眉根を顰める様が  
愛らしい。しかし月の問いかけに、ミサは再び目を開けて小さく答えた。  
「…気持ち、いいよ…月……」  
頭が、真っ白になる。  
「や、ぁっ…!?んぁ……っ」  
ミサの言葉に、月はもう自分の衝動を止められそうになかった。  
下着に手を掛け取り払うと、ミサの陰唇から下着にかけて、  
透明な粘い糸がつう、と伸びて途切れる。  
既に濡れそぼった秘所が、月の目の前に現われた。  
「月……!」  
掌で目を覆い、自らの痴態に悩ましげな溜め息が漏れる。  
見られている羞恥に、思わずじり、と身をよじる。  
「ミサ……」  
其処は想像以上に生々しく、厭らしい女の匂いが辺りに充満していく。  
薄い恥毛が秘所を隠すように包み、それでもその下の割れ目からひっそりと  
息づく桃色の突起が、その存在を主張する。  
生々しく、けれどどこか神聖なもののように思えて、導かれるように  
その突起に触れる。  
「ひぁん!」  
びく、とミサの身体が反応する。とびきり甘い啼き声を聞いて、  
月は一瞬戸惑ったが、もっとその声を聞きたいと思った。  
くにゅ  
「あああん…!」  
その小さい粒を指で押しつぶすように力を込めると、ミサの身体がびくんと痙攣する。  
 
甘く切なげな声に、月は魅入られたように其処を弄る。  
「あ、あぅ……月、だめぇ…!」  
触れられた部分が強烈な快感を訴える。ぐりぐりと指を押し付けられ、  
電流が走るように身体が震え、身体の奥までも熱くなっていく。  
「ふぁ、だめ……そこ、や、だぁ……!」  
「ミサ、どうした…?」  
拒絶の言葉に、月は心臓がどきっとした。  
何かやり方に問題でもあったか?痛いのか?!そうなのか!?僕はやっぱり下手なのか!?  
「月…あ、あっ…!気持ち…いいよぉ……」  
「……そうなのか?」  
ミサの言葉に、月はほっとしたと同時に、自身の熱を感じ始めた。  
(やばい……!)  
ずくん、ずくんと疼く感覚が、月を襲う。  
「月……もっと、して?お願い…っ…」  
あられないミサの姿に、恥ずかしそうにねだるミサの声に、  
月は自分の欲望が一気に膨れ上がるのを感じた。  
ぴったりとしたジーンズの中で、それは痛い位に張り詰めていく。  
(まだ大した時間も経っていないぞ……まだ、我慢だ…!)  
早く解放したい自身の衝動をぐっと抑え、ミサの膨れたクリトリスの下の、  
濡れて蜜が溢れるスリットに指を這わせる。  
「ひぁん!」  
割れ目をなぞられて、ミサの身体が仰け反る。ぞくぞくっと快感が脊髄を伝った。  
「ここも、いいか?ミサ…」  
「あうぅ……ふぁ…あっ!」  
指に蜜を絡ませて、月が割れ目の中心にその指を差し込む。  
初めて感じる、熱。  
(――熱い……)  
指一本入るのが精一杯のように思えるミサの熱くて狭い、膣内。  
ミサは一際甘い声で啼き、腰をくねらせる。  
 
(…本当に入るのか?…これ…)  
自分の張り詰めた性器が、本当にこんな狭い中に収まるのだろうか。  
指でもこんなにキツイというのに。  
「あ、ああぅ…は、ああっ…!」  
ミサの肉襞が月の指にきつく絡まる。圧迫感を感じるのか、ミサが眉を顰めて  
それに耐える。  
痛いのか、快感に浸っているのか、どっちともつかぬ表情で。  
膣内で指をく、と僅かに折り曲げ、くに、と内部の壁を押さえつけた。  
「あぁぁぁあっ……月ぉ……ああっ…!」  
其処はちょうど彼女の感じやすい部分だったらしく、ぶるりと震え、  
蜜壷から更に大量の液体が溢れ出した。  
透明な液体は月の手をしとど濡らし、ぬるぬるとした感触に内部を擦る指の動きが  
より滑らかになっていく。  
それを見て取り、月は指をもう一本差し込む。  
ちゅく、と音を立てて飲み込まれていく指先が、まるで食われているように見えて、  
月はごくり、と生唾を飲んだ。  
ズクン、と張り詰めた自身が疼いた。  
……大丈夫なのか、僕は。我慢できるのか、僕は。  
「ふぁ、やだ、やぁぁ……」  
否定の言葉と裏腹にミサの声は甘い。月の指先が内部を優しく擦る度、  
感じた事の無い快感ともどかしい疼きがミサを支配した。  
足りない。こんなのでは、とても足りない。  
月が、欲しい。もっと、もっと。  
「ラ、イトっ……も、だめ、おねが……あっ…」  
ミサの言葉に伴うように、肉襞が月の指に吸い付くように絡まる。  
「み、ミサ……?」  
引きちぎられそうになる指先を引き抜いて、ミサをまじまじと見る。  
「お願い、月っ……もう、ダメ…ダメなの…!月が欲しい……欲しいよぉ…!」  
目に薄っすらと涙を溜めて、羞恥に頬を染めながらも、扇情的に、挑発的に、月を求める。  
その魅惑的な表情にたじろぎ、戸惑う月。  
 
「もう…って、ミサ、お前まだ……」  
「いいの……酷くしても、いいから……早くミサ、月のものになりたいの……  
だから、お願い…」  
「ミサ……」  
まだ男を受け入れるには早すぎるように思われる、ミサの奥。  
しかし、自分もかなりきつい。  
もしかして僕は早いのか?いや、決してそうじゃないはずだ……と信じたい。  
いやいや、今はそんな事を考えている場合じゃない。  
ミサが早く、と言っているのだ。  
多少ミサにはきついかもしれないが、僕はそれを叶えてあげなくてはいけない。  
…決して僕が我慢出来なかったわけじゃないんだこれは。  
そんな葛藤を繰り返す間も、ミサは熱っぽくて荒い吐息を漏らし、  
月の行動を急かす様な眼差しを向けた。  
月は思わず息を呑んで、覚悟を決めたように上着を脱いだ。  
「…ミサ、まだキツイかもしれないけど…いいのか?」  
「うん…月の好きにして……ミサ、大丈夫だから…」  
「ミサ…」  
ミサの言葉を受け取り、月はジーンズのジッパーを下げ、そそり立った  
自身を取り出した。  
「あ……!」  
初めて見た男の凶器に、ミサが僅かに脅えたような表情を見せる。  
けれど、それを上回る好奇心に、ミサはまじまじと月のそれを見詰めた。  
「ミサ……あんまり見ないでくれ…」  
「あ…ごめん…月……」  
初めて女性に自分の性器を見られる羞恥に、月の顔が熱くなる。  
逆に謝りはしたものの、月だってミサの見てる癖に、と内心で舌を出すミサと。  
互いのちぐはぐな思いはやがて同調し、一つの行動に繋がっていく。  
 
「ミサ……いくぞ…?」  
「きて……月……」  
ミサの細腰をぐっと掴み、月は昂ぶった自身をミサの濡れたスリットにあてがう。  
ミサはびくりと身体を強張らせたが、月の熱が篭った吐息を首筋に感じ、  
溶けるようにうっとりと目を伏せた。  
それを合図に、月はミサの内部に自身を沈めていく。  
「っ…!!あ、ああ、…く…ぅ…!!」  
「っ、ミ…サ……」  
其処は月の想像通りきつく、自身の先端を飲み込ませると、  
一つ息をついて動きを止める。  
苦痛に顔を歪め、涙をぽろぽろと零すミサが痛々しかった。  
「く、んっ…!」  
「ミサ…力、もう少し抜いて……」  
「あ、あ、…月っ…!」  
「息、吐いて……」  
月の言葉にほだされて、ミサは息を吸い込んで、大きく吐いた。  
「っあ…!!」  
ずる、と月のものが下腹部に入り込んでくる。  
押し込まれる圧迫感に、ミサは息を詰めて耐える。  
「っ、は…!」  
ミサの奥に進むにつれ、自身を温かくてぬるぬるとした襞が  
ぴたりと包み込み、その快感に月は震えた。  
「ミサ…っ…!」  
「うぁっ…!」  
ようやく全てを収めきったとき、ミサはあくせくと肩で息をしていた。  
目には涙が溜まり、眉を顰めて痛みに耐えていた。  
 
「ミサ……大丈夫、か…?」  
「ぅ、ん……っ…月…」  
痛みを堪えながら、月に微笑みかける。  
「幸せ、だよ、月……私、月と一つになってるんだよ……、  
もう、大丈夫……」  
「ミサ……」  
ミサの言葉に、月は息を呑んで、腰をゆっくりと動かしてみた。  
「あぅっ…!!」  
「っ、ぅ…!」  
一度動いてしまえば、もうミサを思いやる余裕なんて彼方へと飛んでいってしまった。  
我武者羅に腰を動かして、ミサの奥を突いた。  
「あっ、ひぁぁっ…くぅ!」  
高い高い声でミサが啼いた。最初は痛みに顔を歪ませていたが、  
段々と結合部に絡む蜜の量が増えていくにつれ、ミサの声が甘い声へと  
変化していく。  
愛しい男と交わる喜びに、月の熱に、ミサは溶けてしまいそうになる。  
「あ、あんっ…は、ぁ、好きっ…月、ラ、ィトっ…!」  
痛みは微かに残っているが、それを超える快感に酔いしれながら、  
ミサは愛しい男の名を何度も呼んだ。  
繋がった其処は、ますます滑らかになっていき、  
ぐちゅ、ぐちゅと粘る水音が、互いの耳を掠める。  
「あ、あ、あ、月っ…、気持ち、いいっ…もぅ、ダメっ…あ、ああぁ…!」  
「ぅ、ぁ…ミサ、僕も、もう…!」  
ミサの腰を引き寄せ、折り曲げながら覆いかぶさった。  
上から突き下ろされるような体勢になり、より深い結合に、ミサはびくびくと  
身体を震わせ始める。  
「あっ…!?や、やぁぁっ…!ダメ、だめぇっ…あああん!」  
「く…ミサ、うぁ…っ!」  
ミサが一際高い嬌声を上げたと同時に、月は収縮を繰り返す胎内に  
全てを注ぎ込んでいった。  
真っ白になった頭の中で、ほんの微かに事の終わりに安堵しながら。  
 
*****  
 
「月……幸せだよ、ミサ…」  
 
既に乱れた服を直し、引越しの作業に取り掛かっている月に、  
今度は後ろからべたべたと抱き付いてくるミサに、月は僅かに苛つきは  
したものの、怒る気にはならなかった。  
とにもかくにも、嘘もばれずに無事に事を終えられた安心感、  
そしてようやく一人前の男になることが出来た達成感とで胸が一杯だった。  
ただ一つ残念だったのが、行為の間の記憶がほとんど無いのだ。  
まさに無我夢中だったのだろう、ただひたすら快感に浸っていた覚えしかない。  
時間間隔もわからなかったので、自分のタイムが早いのかどうなのかとか、  
まぁそんな反省もするどころじゃない。  
これこそが最大の反省点である。何と言う因果な性……。完璧を目指すが故に…!  
等と一人無意味な葛藤している月の耳元で。  
「月、明日から楽しみだね!ミサ達、これでずっと一緒にいられるんだよ?  
ミサ、月のためなら毎日でも頑張っちゃう♪色んなこと教えてね、月〜」  
その言葉に、作業を進める月の手が一瞬止まったことは言うまでもない。  
………今度本屋に行ってこよう。  
月の脳裏に、そんな思いが過ぎった。  
彼がどんな本を選んでくるのかは、死神のみが知るところである。  
 
 
その頃、目のやり場に困った哀れな死神は。  
 
「……あいつら…俺がいること忘れてるだろ……?」  
 
屋根裏で寂しく一人、そうぼやいていた。  
 
END.  
 
 

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