長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル06)  
 
案内された霊安室に、無言で横たわる男が独り。  
その冷たい肉の塊は、かつてレイ・ペンバーと呼ばれていた。  
「残された手帳からの情報しかなかったので、あなたに連絡が届くのが  
遅くなって申し訳ありませんでした。検死はすでに終わっております。  
ご遺体はまもなく、アメリカへ送還される予定です」  
「・・・・はあ」  
「あなたも以前はFBIに勤務されていたそうですが、彼から何か  
聞いていませんでしたか?たとえば来日した目的とか・・・」  
「・・・・はあ」  
気の抜けた返事しかしない女に、警察官たちは顔を見合わせた。  
「えー、ともかくアメリカ大使館のほうからも誰か行くと思いますが、  
何か思い出したことがありましたら、警察の方にも連絡をお願いします」  
「・・・・はあ」  
南空ナオミは、まるで悪い夢でも見ているかのように、呆然としながら  
言葉を搾り出した。  
 
南空ナオミはレイの遺体をろくに見ることも、触ることもしなかった。  
事務的に手続きを終わらせると、フラフラとよろめくように、  
宿泊しているホテルへと向かった。  
かつてナオミとレイが、同じ時を過ごしていた部屋に入ると、  
すでに無神経な先客たちがいた。  
「南空ナオミだな」  
レイの荷物をせっせと運び出している作業員たちの中から、眼つきの  
鋭いスーツ姿の男が声をかけてきた。  
差し出した身分証明書には、アメリカ大使館の関係者であることが  
記されていたが、その常人離れした物腰から、特殊な訓練を受けた  
人間であることが判る。  
おそらくCIA(米中央情報局)のエージェントだろう。  
「レイ・ペンバー捜査官の荷物は、本日中にすべて本国へ送還される」  
ナオミの傍を大きな日本人形を抱えた作業員たちが通り過ぎた。  
「あっ、荷物はすべてご家族の元に送られますので、ご了承ください」  
今度はメガネをかけた小男が喋りかけてくる。  
その風体からして、弁護士であることは明白だった。  
 
「ご家族、というかお母様からのご依頼でして・・・息子さんの遺品や  
形見といった、日本滞在中に購入したものも含め、すべての返還要求を  
なされています。  
またあなたには一切のモノを渡してはならない、と・・・」  
やはり弁護士だったその小男は、なにやら難しい専門用語を並べて  
説明しているが、ナオミは聞いているのかいないのか、椅子に座ると  
ただ、ぼうっとしている。  
ナオミの持ち物も検査された。  
極秘資料が紛れ込んでないか、旅行カバンやポシェットの中を  
無造作に引っ掻き回され、洋服や下着が部屋中にばら撒かれた。  
検査が終わったのか、放り出されたナオミの荷物を放置したまま  
作業員はいなくなり、CIAらしき男だけが部屋に残った。  
「日本に潜入したFBIの捜査チームは、すべて壊滅した」  
その言葉には、嘲笑と侮蔑が入り混じっていた。  
「FBIはこの件から手を引くことになった。それと今のところ  
大統領もキラに対し、示威的行動をするつもりはないそうだ。  
・・・この意味が判るな、南空ナオミ」  
「・・・・・・」  
抜け殻のように椅子に座り込んでいるナオミに、ちっと舌打ちすると、  
その男も部屋から出て行った。  
静寂が訪れた。  
 
 
それからどれだけ時間が経ったのだろうか。  
部屋の中は、すっかり暗くなっている。  
ふと電話が鳴っていることに気が付いた。  
さっきから何度も鳴っていたような気もする。  
よろよろと立ち上がると、受話器を持ち上げた。  
実家からの電話だった。  
母親はどこかでレイが亡くなったことを聞いたようで、  
心配しているようだ。  
「とにかく一度、こっちに戻ってらっしゃい。  
お父さんも心配しているから」  
「・・・・」  
「ナオミ、大丈夫?」  
「・・・お父・・・さんは・・・」  
「えっ?」  
「・・・お父さんのこと・・・レイが・・・ずっと、気にしていたから・・・  
・・・夏に会ったとき、怒鳴られたから・・・」  
 
「・・・お父さんね」  
「・・・・」  
「ペンバーさんを連れてきた日の夜にね。  
お父さん、英会話教室のチラシをこっそり、古新聞の束から  
探してたのよ。  
わたしがちゃんと調べておいてあげるからって言ったら、  
怒って逃げちゃったけど。  
でもふたりに会ってから、機嫌が良かったのよ。  
口ではああだけど、本当はふたりが結婚することが  
嬉しかったみたい」  
「・・・えっ、そうなの?」  
自分の父親が結婚に反対していると思っていたナオミは、驚いた  
ように尋ねた。  
それはレイが亡くなってから見せる、初めての人間らしい反応だった。  
「・・・なんで・・・お母さんに、そんなことが判るの?」  
「そりゃあ、だって夫婦だもの」  
レイの面影が、ナオミの心を通り過ぎていく。  
 
 
電話を終えたナオミは、薄暗い部屋を振り返った。  
部屋に灯りを入れる気にはなれなかった。  
灯りをつければ、レイがいないことをいやでも思い知らされるからだ。  
再び椅子に腰掛けると、先ほどまでの放心状態とは打って変わって、  
険しい顔つきになった。  
街の灯りで浮かび上がった表情は、レイには決して見せなかった顔。  
人知れず、凶悪犯罪者を機械的に抹殺してきた、ナオミの顔だった。  
が、そのとき一筋の涙が頬を伝わった。  
「・・・・私はあのヒトを、守れなかった」  
ナオミが日本についてきたのは、レイを守りたいという気持ちが  
あったからだ。もちろんそれを言えば、レイは怒っただろう。  
だから実際には、ホテルの部屋でじっと彼の帰りを待つこと  
しかできなかった。  
しかしナオミは、人間らしい扱いをしてくれた、たった独りの  
恋人を失いたくはなかった。  
レイがいるかぎり、彼女は幸せになれるはずだったのだ。  
 
(自分だけ幸せになれると思っていたのか?)  
片眼を銃で射抜かれた髭面の男が囁いた。  
半年前に殺したテロ組織のリーダーだった。  
(キミはわたしたちと一緒に、地獄に行くことが決まっているのだよ)  
(そうとも!オレたちにだって家族はいたんだ!)  
(ざまあみろ!あたしたちの呪いで、あんたを永久に苦しめてやる!)  
ナオミの椅子の周りに、手足をなくしたり、脳を砕かれた男女が  
次々と現れ、忌まわしい言葉を彼女に投げつけてくる。  
かつてナオミが、無慈悲にも抹殺してきた悪人たちだった。  
「それでも・・・わたしは幸せになりたかった・・・  
あのヒトとささやかな家庭を作りたかった・・・  
あのヒトの子供が、すごく欲しかった・・・  
そんな夢をずっと、見ていたかったの・・・」  
ナオミは左眼から涙を、右眼から憎しみの炎を燃え上がらせた。  
「死んだ・・・レイが・・・いいえ、キラに殺された・・・・・・」  
亡霊たちは爆笑した。  
「許せない・・・よくもわたしの大切なオトコを・・・!」  
すさまじい形相をしたナオミの迫力に、亡霊たちは悲鳴を上げて  
消え去った。  
ナオミは暗闇で独りぼっちになった。  
レイはもう、この部屋には帰って来ないのだ。  
 
 
(2〜3日後に続く)  
 

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