長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル32)  
 
少女が初めて体験したのは、いつのことだったのだろうか。  
あまりにも多くのオトコたちが、自分のカラダを通り過ぎていった  
ので、はっきりとは覚えていない。  
(・・・小学四年生の頃には、もう犯られていたっけ・・・)  
その少女、惣流明日香は思う。  
子供の頃からヌード撮影会と称して、いろんなところを弄繰り回され  
てきた。大手のロリコン雑誌には出ていなかったが、会員制でメンバー  
を募り、マニアの間ではかなり有名らしい。  
大きなランドセルをハダカで背負う感触や、ニコニコと笑うおじさん  
たち、そしてカメラの冷たいシャッター音が、彼女の原風景である。  
いつも怖かった母親は、そのときだけは優しく微笑んでくれた。  
それが嬉しくて、撮影会の日が待ち遠しかった。  
カメラを持ったおじさんたちも、なにかとちやほやしてくれた。  
アメ玉やアイスクリームを買って貰い、撮影会のあとみんなで食べた。  
父親のいない彼女にとって、それもまた嬉しかった。  
だから幼稚園の友達に、そのことを話した。  
何日かして鬼のような顔をした母親に、顔面を何度も殴りつけられた。  
 
赤みを帯びた自分の髪は好きになれない。  
父親の遺伝なのかもしれないが、定かではない。  
ヌード撮影会では写真撮影だけではなく、そのうちカラダの  
あちこちを触られるようになった。  
みんながみんな弄れるわけではなく、母親に新たにお金を払った人  
だけができた。それでかなりの札束が舞い込んできたようだったが、  
家はあいかわらずの貧乏だった。  
小学校に入ってからは、客を取らされた。  
たいていのオトコたちは、アソコに入れることができず、悔し紛れ  
なのか、白い精液を性器に擦りつけて出て行った。  
そのうちオトコたちに組み敷かれ、よがる自分の姿があった。  
学校に行くのが好きだった。  
だから勉強も運動も一番になった。  
なのに、あいかわらず母親はまったくの無関心だ。  
一度、馴染みの客がこう言った。  
「キミのママは昔、すごく綺麗だったんだよ。  
なんでも一番だったから、明日香ちゃんはママに似ているんだね」  
酒びたりで、いつも理由なく殴る母親でも、惣流は彼女のことが  
とても好きだったし、心から愛していた。  
だからその言葉が誇らしかった。  
 
惣流は小学校では人気者だった。  
クラスのムードメーカーであり、ときには大人顔負けのリーダー  
シップを発揮し、情に厚く面倒見もいいので、友達がたくさんいた。  
先生たちからは、勉強ができるので将来は医者か弁護士、または  
一流企業に入れると期待されていたし、学校の部活動も運動神経が  
良かったので、3つのサークルを掛け持ちで所属していた。  
クラスメイトたちには、芸能人になれそうな人NO.1と  
羨ましがられた。  
周囲の期待を裏切るまいと、彼女自身もただ才能に溺れることなく、  
一生懸命に自分を磨く努力をした。  
そんな自分が、ヌード写真で金を稼いでいることも、売春婦として  
働いていることも秘密だった。  
絶対に知られてはいけない、ナイショの話。  
それは少女にとって、夢の世界の話なのだ。  
少女アリスが迷い込んだ、不思議の国のようなものだ。  
あれは現実の世界ではない。  
夢のお話なのだ、と。  
「義務教育が終わったら、働いてもらうからね」  
ろれつが回らない口調で母親が言った。  
「知り合いのところで、あんたは働くんだからさ」  
酒臭い息でそう言われた。  
不思議の国は、学校生活の方だった・・・  
 
「小学校で一番だからって、なんだっていうんだよぉ!?」  
せめて高校までは行かせてほしい、と土下座をしながら頼み  
込んでいた惣流の頭をかすめ、酒瓶が飛んできた。  
当たっていたら、ただでは済まなかったかもしれない。  
視線を外すのが怖くて、上目遣いで再び頼み込む。  
「中学校でも必ず、トップの成績をとりますから・・・」  
「ダメだって言ってんだろうがっ!!」  
腹を思い切り蹴られた。  
胃液を吐きながら、絶対トップを維持してやろうと誓う。  
だが中学校では、惣流はトップをとれなかった。  
勉強はおろか、スポーツも、音楽も、美術もすべて2番だった。  
学年トップは、長い黒髪を持つ美しい少女のものだった。  
前髪を眉毛のところで切りそろえ、白い肌と赤い唇が、まるで  
人形のような印象を惣流に与えた。  
(あの子が・・・南空ナオミ・・・さん・・・?)  
 
美しいが、どこか陰気な少女はクラスで浮いていた。  
誰が始めたのか、ちょっとしたイジメが密かに流行っていく。  
リスクの高いイジメは誰もやらない。  
無抵抗な相手への、安全なイジメだからこそ、楽しい。  
そして共犯意識から連帯感も生まれてくる。  
それは個が集団としてやっていくための必要悪だった。  
ナオミをゴミ扱いすることで、クラスがまとまっていった。  
だが惣流明日香は、この共同作業には無関心を貫く。  
母親との拙い絆を繋ぐために必死だった。  
母親は言ったのだ。  
「あんたなによ、一番じゃないじゃない!あんた、バカなの?」  
「次のテストでは、必ず・・・」  
「バカじゃ高校なんて行かせられないねぇ・・・!  
一番じゃなきゃ、行く意味ないんだよ!一番じゃなきゃあ!!」  
「じゃあ、トッ、トップをとったら・・・!」  
「・・・ふんっ!まあっ、考えておいてあげてもいいわよ・・・」  
ただの気紛れだろうし、なんの保証もない言葉だった。  
しかし母親が、自分のことを見てくれた初めての出来事だった。  
そこに夢と希望が待っているのかもしれない。  
自分の存在を問われている気がして、寝る間を惜しんで努力する。  
 
休み時間のわずかな合間でも、参考書と辞書を広げて勉強をした。  
もともと惣流は人気者だったから、それでも彼女の周りに自然と  
人が集まってくる。  
器用な惣流は、辞書を引きながら会話を上手に盛り上げ、嫌味に  
ならないよう控えめに、参考書のページをスッとめくる。  
「でもよく休み時間中に、勉強する気になれるわね?」  
「ふふふ・・・こっちにもいろいろと事情があるのよ」  
「あっ、でもねぇ・・・明日香でもこの学校で一番は、無理だと思うわ」  
「・・・えっ?」  
「職員室で聞いた話だけど、あの南空の奴、IQが200以上あるんだって」  
惣流の顔が真っ青になる。  
「IQって、160ぐらいが最高じゃなかったっけ?」  
「200ってなによ、200ってw」  
「記憶力がコンピューター並みで、生まれてからの記憶が、ずっと  
あるかもしれないんだってさ」  
「げぇええっ!マジでバケモノじゃん、あいつw」  
「記憶が薄れないなんて、反則技だよねぇ・・・ムカつくぅ〜w」  
震える手のせいで、シャーペンの芯が折れる。  
(なんでそんな子が、この学校に・・・)  
未来が閉じていくかのように、目の前が闇に覆われた。  
全国統一学力テストの結果は、やはり2位だった。  
 
自分の未来を潰した、あのオンナが憎い。  
顔を見るだけで憎しみが湧いてくる。  
クラスのイジメをより陰湿に、激しくしてやった。  
無表情だった人形が、一年も経つ頃にはオドオドと怯え、顔を歪めて  
泣きだすのを見ると、心の中のストレスが消えていく。  
それを思い出し笑いする自分の顔を鏡で見る。  
母親と同じ顔つきだった。  
(・・・そっか、わたしがママの人生を台無しにしたのね。  
わたしは、生まれてきてはいけない人間だったんだ・・・)  
家に来ていた暴力団員みたいな中年男を、母親から紹介される。  
春から働く風俗店のオーナーは、惣流を見て厭らしそうに笑う。  
母親との約束を守れなかった代償だった。  
お金がなくても奨学金制度で高校へ行ける、と学校側から  
説得されたが、惣流はそれを丁重に断り、高校進学を諦めた。  
お金の問題ではなかったからだ。  
ただ表向きは、高校に受かり進学することにしてもらった。  
こんな現実世界なんていらない。  
こんな運命なんて欲しくない。  
母親との絆を切れない少女は、死ぬことを選択する。  
死んで自由になることで、この歪んだ世界に勝つことができる、  
と思ったのだ。  
 
この世界と袂を分かつ前に、やらなければならないことがあった。  
南空ナオミを自分と同じ立場に堕とすことだ。  
実のところナオミを憎む気持ちは、以前より薄れていた。  
むしろ親近感のほうが、強くなってきたといってもいい。  
あれだけイジメられても成績が変わらないということは、ナオミが  
そうしなければならない、なにか特別なものを背負っているのだろう  
ということを、聡明な惣流はとっくに見抜いていた。  
それはおそらく肉親に対する愛情にちがいない。  
薄幸で孤独な子供は、みんなそうやって心の飢えを凌いでいるのだ。  
(お互い親には苦労するわね・・・)  
惣流明日香は思う。  
(・・・人の死は、みんなから忘れられた瞬間に訪れる。  
だからわたしのことをずっと忘れないでいてくれる人がいたら、  
たとえわたしが死んでも、その人の中で、生き続けることが  
できるのかもしれない・・・)  
誰に自分のことを覚えていてもらいたいのか。  
思い浮かぶのは、寂しげに佇む南空ナオミの姿だった。  
あの子を汚して、その憎しみの力でわたしは生き続けたい。  
母親譲りの歪んだ愛情に気がつき、渇いた笑い声を漏らす。  
 

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